生物多様性フットプリントとは?その重要性と対応策を解説

生物多様性フットプリントとは、地球上の生き物が共存する「生物多様性」と、私たちの活動が環境に与える影響を示す指標「フットプリント」をかけ合わせたものです。生物多様性フットプリントは、企業の経済活動が地球の生物多様性にどのような影響を与えているかを理解する上で重要な指標となります。そして、企業が生物多様性フットプリントを理解することは、持続可能な未来へのステップアップとなります。ここでは、生物多様性フットプリントの基本的な概念やその重要性、そしてそれを減らすための具体的な対応策を分かりやすくご紹介します。

目次

  1. 生物多様性とは何か

  2. フットプリントとは何か

  3. 生物多様性フットプリントとは何か

  4. 生物多様性フットプリントを減らす方法

  5. まとめ:生物多様性フットプリントについての理解を深め持続可能な社会に貢献できる企業を目指そう!

1.生物多様性とは何か

まずはじめに、生物多様性の意味と生物多様性がなぜ注目されているのかをご紹介します。

生物多様性とは

生物多様性とは、地球に存在するすべての生き物が、それぞれの個性を認め合い、つながり、支え合いながら共存することを指します。私たちが生活している地球には、ゾウやキリンのような大きな動物や人間、昆虫、植物、そして私たちの目には見えない細菌やバクテリアなど、実にさまざまな生き物が生活しています。その数は、約3000万種類とも言われており、これらの生き物は長い年月の中、それぞれ異なる環境に適応しながら進化してきました。このような全く別々の生き物が、今も地球で共存できているのは、生物多様性が上手く成り立っているからだと言えます。

出典:環境省『生物多様性とはなにか? | ecojin(エコジン)』(2023/07/19)

出典:環境省『30by30目標が目指すもの』p,1.(2023/09/19)

生物多様性が注目される背景

私たちの生活は、生物多様性と大きく依存しています。例えば、私たちが必要とする水や空気は、生物多様性によって保たれており、また、食べ物や薬、木材など多くの生き物から得られるものもあります。さらに、生物多様性は土砂崩れなどの災害などを防ぎ、安全な飲み水を確保するなど、私たちの生活を守る役割を果たしています。しかし、近年、日本では少子高齢化と人口減少が進んでおり、特に地方では農業や林業を担う人が減少しています。その結果、里山の管理が十分に行われず生物多様性が失われています。また、このような状況から海外の資源に頼ることで、海外の生物多様性にも損失の影響を与えています。資源の利用は、生物多様性の影響だけでなく気候変動や人権侵害のリスクを伴うことから、私たちは持続可能で責任ある方法で国内の資源を調達することが重要です。生物多様性は、地球の歴史や進化の過程を反映した大切なもので、私たちにはこれを守り次の世代に引き継ぐ責任があります。最近は、生物多様性の取り組みが増えており、これを広めることで持続可能な社会を実現することができます。

出典:岐阜県公式ホームページ(環境生活政策課)『生物多様性はなぜ必要なの? 』(2017/05/26)

出典:環境省『生物多様性国家戦略 2023-2030』p,7.8.(2023/03/31)

2.フットプリントとは何か

次に、フットプリントの意味とその重要性についてご紹介します。

フットプリントとは

フットプリントとは、日本語で「足跡」を意味する言葉で、足跡によってどのように進んできたかが分かるというイメージで、この足跡の概念を使って、環境負荷の評価に活用しています。この環境負荷の評価は、採掘するところから使い終わって廃棄するまでに、どのくらい環境に影響を与えたかを計算します。フットプリントには多くの種類があり、「生物多様性フットプリント」を初め、「カーボンフットプリント」や「ウォーターフットプリント」などがあります。

出典:特定非営利法人エコロジカル・フットプリント・ジャパン『よくある質問 - EFI Japan』(2022/04)

フットプリントが注目される背景

現在の世界的な環境問題は、企業の経済・社会活動に大きな影響を与えています。例えば、気候変動は洪水などの自然災害を引き起こし、人命に影響を与えるだけでなく、食料生産にも影響を及ぼします。また、大規模な土地開発や生物の採取による生物多様性の減少は、人々の消費活動やそれを支える世界的な経済活動と深く関わっています。そして、現在の経済・社会システムは、豊かな環境があってこそ成り立っており、気候変動などでこの環境が失われると経済活動はすぐ困難な状況となります。このような地球環境の危機に対応していくためにも、フットプリントは重要な要素となります。

出典:環境省『気候変動問題をはじめとした 地球環境の危機』p,1.2.(2020/06/02)

3.生物多様性フットプリントとは何か

生物多様性フットプリントは、私たちの生活が地球にどれだけ影響を与えているかを知る指標で、これを理解することで持続可能な未来を作る手助けとなります。ここでは、生物多様性フットプリントの意味とその重要性をご紹介します。

生物多様性フットプリントとは

生物多様性フットプリントとは、地球上の生き物たちが多様で豊かな状態を示す「生物多様性」と、人間の活動が環境に与える負担を表す「フットプリント」をかけ合わせた言葉で、人間の活動が地球上の生物多様性にどれだけ影響を与えているかを示す指標です。例えば、私たちの生活に欠かせない紙や木材、建築資材は木材から作られており、その木材を使うことで森林が減少し、その結果、生き物(生物多様性)に大きな影響が生じます。そして、消費した木材の量を、その木材を生産するために必要な森林の広さに置き換えることで、生物多様性にどれだけ影響を与えているかを数値で示すことを「生物多様性フットプリント」と言います。

出典:国立環境研究所『資源消費により地球規模で波及する生物多様性への影響』(2017/12/28)

生物多様性フットプリントの重要性

私たちが家具や紙を使用することは、自分たちの国の生物多様性フットプリントに影響を与えるだけではなく、他の国の生物多様性フットプリントに影響を与えている可能性があります。日本などの先進国は、家具や紙の原材料なる木材を生物多様性が豊かな熱帯地域から輸入しているケースが多く、その結果、先進国での木材消費が貿易や木材生産に伴う土地の使い方の変化を通じて、木材を生産する国の生物多様性に影響を与えています。実際に、現在のペースで全世界の森林が減少し続けると2100年までに525種類いる鳥のうち12%(62種)が絶滅すると予測されており、そのうちの31%(19種)は木材の貿易の影響だとされています。さらに、世界では多くの生き物が絶滅の危機にあり、その原因は木材生産だけでなく農業や鉱物採掘など人間の活動によるものです。自然環境や生き物に優しい方法で資源を手に入れ使うことが、生物多様性を守ることにつながり、そのためには生物多様性フットプリントをしっかりと把握することが重要です。

出典:国立環境研究所『資源消費により地球規模で波及する生物多様性への影響』(2017/12/28)

4.生物多様性フットプリントを減らす方法

生物多様性フットプリントを減らす方法として、「持続可能な資源を使うこと」「資源を無駄に使わないこと」「他の地域で生産すること」が効果的です。ここでは、これらの方法について詳しくご紹介します。。

持続可能な資源の調達

生物多様性フットプリントを減らすためには、持続可能な資源の調達を行うことが有効です。企業やサプライヤーは、資源を守り再生産できるための対策が取られていない資源に関しては注意が必要で、特に、絶滅危惧種の動植物に由来する原材料の使用をやめるべきです。また、企業やサプライヤーは、原材料の採取、栽培、製造・流通の過程で、生物多様性や生態系に悪影響を与えないようにする必要があります。さらに、希少な動植物を保護し、生物やその生息環境に配慮した方法で生産を行い、生物多様性や生態系への負荷を減らす努力が必要です。

出典:東京都『(仮称)社会的責任ある公共調達指針(案)』p,5.(2023/07/26)

資源の使い過ぎを抑制

先進国が木材の調達を依存している東南アジアの熱帯雨林では、多くの植物が数年に一度の「一斉開花現象」で花を咲かせ、種を残す特徴があります。つまり、木材が成長するまでに長い時間を要するということです。しかし、木材調達が原因で伐採の間隔が短かすぎたり、開花のタイミングを逃したり、親木を早く切りすぎてしまうと森林が再生できなくなってしまいます。また、親木が少なくなると交配相手が減り、遺伝的多様性(環境に適した子孫を残す)が低下する可能性があります。また、土地の利用に関しては、自然保護のためにもっと多くの土地の保全をすることが生物多様性を守ることにつながります。近年、私たちの食料システムは、食べ物を安く提供することに重点を置く傾向にあり、その結果、集中的な農業が土壌や生態系を傷つけ、土地の生産力を低下させています。生物多様性を守るためには、農業のために新しい土地の開発を控えることが重要です。

出典:国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター『239. フードシステムによる生物多様性喪失へのインパクト』(2021/02/23)

出典:国立環境研究所『森林伐採と多様性|環境儀 No.04』(2004/10/10)

他の地域での生産

今、生産を行っている地域とは別の地域で生産を行うことも生物多様性を守る方法となります。その方法のひとつに「生物多様性オフセット」というものがあり、人間の活動が生態系に与えた影響を、別の場所で新しい生態系を作ることで補う方法です。例えば、ある場所で森林伐採を行った際に、別の場所で新しい森林を植えることで、その影響を補う取り組みです。この生物多様性オフセットは、主に先進国で導入されており、生態系をつなげて将来の生息地の分断を防ぎ、大きな連続した地域を作ることで、生物多様性から得られる利益を最大化する目的があります。

出典:環境省『生物多様性オフセットに関連する取組について』p,6.(2009/11/18)

出典:環境省『環境影響評価における生物多様性保全に関する参考事例集』p,8.9.(2017/04/13)

5.生物多様性フットプリント削減に取り組む企業の事例

最後に、生物多様性フットプリントの削減に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

artience株式会社

日本の化学メーカーの「artience株式会社(旧東洋インキSCホールディングスか株式会社)」は、生物多様性の重要性を早くから理解し、2009年5月に「生物多様性に関する基本方針」を制定して、その方針に基づいた活動を行っています。川越製造所の周辺には広い森林があり、この森林は工場の所有する林ともつながっており、過去の調査で169種類の植物、24種類の鳥、3種類の動物が確認されています。その中には、保護が必要な「シュンラン」も含まれており、川越製造所では、シュンランの保護活動や所有する林の生態系を守る取り組みを行っています。

出典:環境省『artienceグループの製造所での生物多様性の保全』(2024/01/15)

イオン株式会社

大手流通のイオングループを統括する「イオン株式会社」は、お客様を大切にし、平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献することを基本理念とし、持続可能な社会を実現しながらグループの成長を目指しています。2014年には「イオン 持続可能な調達原則」を制定し、生物多様性を守り、自然資源の枯渇を防ぐための基準を設けて運用しています。また、再生できない資源の使用は最小限に抑え、重要な森林の破壊を防ぐことを掲げています。

出典:内閣府『持続可能性に配慮した調達』p,1.(2023/05/11 )

太平洋セメント株式会社

日本最大のセメントメーカーの「太平洋セメント株式会社」は、セメントの製造において生物多様性に一番影響があるのは鉱山と考えており、環境への影響を詳しく調べています。セメント工場近くにある石灰石鉱山については、生物多様性統合アセスメントツール「IBAT」を使ってその鉱山とIUCN(国際自然保護連合)が指定する自然保護地域との位置関係を調べています。また、世界を対象にした環境影響手法「LCA(LIME3)」を使って世界中で製造されるコンクリートが環境にどのような影響を与えるかを調べ、重要な環境問題を特定しています。

出典:環境省『生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)』p,77.(2023/04/07)

出典:環境展望台『国連環境計画、生態系保全を開発プロジェクトに生かす生物多様性情報ツールIBATを開発』(2010/08/03)

出典:環境省『ライフサイクル影響評価手法LIME 伊坪徳宏』p,4.(2024/01/31)

6.まとめ:生物多様性フットプリントについての理解を深め持続可能な社会に貢献できる企業を目指そう!

生物多様性フットプリントとは、人間の活動が地球上の生き物たちの多様性や豊かさにどれだけ影響を与えているかを示す指標です。今、世界では多くの生き物が絶滅の危機に瀕しており、その原因は木材の生産や農業、鉱物などの採掘など人間の活動によるものです。さらに、多くの場合、自分たちの国ではなく他の国で生産が行なわれており、その結果、自分たちの活動が他の国の生物多様性に影響を与えています。生物多様性フットプリントを減らすためには、持続可能な資源を使うこと、資源を無駄にしないこと、新たに別の場所で生態系をつくることが効果的で、自然環境や生き物に優しい方法で資源を手に入れ、使うことが生物多様性を守ることにつながります。そのために企業は、生物多様性フットプリントをしっかりと把握することが重要です。

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