ASEAN6か国が行っているESGへの取り組みと開示方法の違いを解説!

現在、金融業界では環境問題に取り組む企業をより評価するESGの考え方が広がっています。ASEAN諸国でも取り組みは進み、企業でのESG関連情報の開示を進める仕組みづくりが進んでいます。日本と繋がりの深いASEANで行われるESGの開示や評価がどのようにされているかへの理解は、今後ますます重要なものとなっていくことでしょう。

この記事では、ASEAN諸国が行っているESGの取り組みと抱える課題、今後の展望についてまとめています。

目次

  1. ESGの概要

  2. ASEAN諸国の取り組み

  3. ESG政策を進める際の課題

  4. まとめ:ESGの取り組みを進めるASEANの動向に注目しよう!

1. ESGの概要

ESGの概要とその背景について解説しています。

(1)ESGとは

ESGとは、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の頭文字を合わせた言葉です。持続可能な社会を実現するために、企業活動が環境保全に配慮したものであるか、社会に貢献する事業を行っているか、そして社内の経営は不正なく健全に行われているか、という視点を示しています。

現在はこのESGの考えが広まっており、事業の選定や投資判断などさまざまなところに使われています。

ESGについてさらに詳しく知りたい方はこちら:ESGとは?意味やメリット、企業運営に取り入れ方を解説

出典:内閣府『2.2.1 ESGとは何か』

(2)金融においてESGが重視される背景

金融においてESGが重要視されるようになったのは、2005年のPRI(責任投資原則)策定が関連しています。PRIは持続可能性を考慮した投資家の行動は、気候変動や所得の不平等といった、環境・社会・企業統治における課題を改善することができると考えており、投資家にESGを考慮した責任ある投資をすることを求めています。PRIはさらに、この責任を持った投資は環境や社会全体に利益をもたらすと考えています。

責任投資原則(PRI)についてはこちら:PRI(責任投資原則)とは?意味や活動目的、ESGとの関係性

出典:PRI『責任投資原則』p.3,6

2. ASEAN諸国の取り組み

ASEANの主要な6か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の取り組みについて解説します。

(1)インドネシア

インドネシアでは金融サービス庁(OJK)が中心となって金融政策指針を制定し、2014年に公表されたサステナブルファイナンス・ロードマップを軸とした政策が多く制定されています。ESGの枠組みとしては特に4P(成長促進、業務促進、貧困促進、環境促進)の観点を挙げており、企業活動の監査・情報開示の場においては実行されているか、かつ継続されているかという点に基づき定期的にサステナブル・レポートを提出することを求められています。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.45-47

(2)マレーシア

マレーシアではKWAP(退職基金公社、公務員の退職金の管理機関)が中心となってESGの取り組みを進めており、2015年から本格的にその取り組みを開始しています。方針としてはCO2削減など環境保全の取り組みを行う企業に対する積極的な投資と、ESGの観点から不適切な事業を扱う企業に対する投資控えという2つの施策があり、ESGの枠組みを投資の判断材料として活用していると言えます。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.36-38

(3)フィリピン

フィリピンでは、ESG投資の枠組みはサステナブルファイナンス・フレームワークとして実践されています。このフレームワークは2020年にフィリピン中央銀行(BSP)によって制定されたもので、持続可能な企業経営が出来ているか、という点を分析できるよう、銀行に対しても情報開示要件が課されています。要件としては

  •  サステナビリティ戦略目標とリスク選好度 

  •  環境・社会(E&S)リスクマネジメントシステムの概要 

  •  国際的に認められた持続可能性の基準や慣行に沿った製品/サービス 

  •  銀行の E&S リスク・エクスポージャーの業種別内訳 

  •  既存及び新規の E&S リスクとその銀行への影響に関する情報 

  •  国際的に認められている持続可能性要件

があり、銀行はこれに基づいて業務や企業対応を行っています。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.54-59

(4)シンガポール

シンガポールは金融政策が整理されており、通貨監督庁(MAS)を中心としてESGに関する諸政策が進められています。ESGの枠組みも整備がされており、民間企業を中心として利用されてきました。

シンガポールの金融政策としては特にグリーンローンやグリーンボンド、サステナビリティボンド(環境問題・持続可能性を持った事業に対して発行する債権)が大きくなっており、累計発行額は約 103 億米ドルとなっています。以前は民間企業中心だったESGの枠組みが政府の政策にも使われるようになっており、海外企業、投資家から動向が注目されています。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.15-23

(5)タイ

タイでは民間の金融機関と国の金融監査機関が協力して金融政策を進めており、国としての方向性を発信しながら環境整備を行っています。ESG枠組みの利用に関しては2021〜2030年の期間で定められた温室効果ガス排出削減目標ロードマップを利用してサステナブルファイナンスが進められています。

特徴的なのはタイ証券取引所のステップの設定と援助です。ESGの取り組みが出来ているか・継続的に、全社的に行われているかという判断基準であり、取り組みが実行されているかをより詳細に分析できるようになっています。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.28-29

(6)ベトナム

ベトナムでは金融市場があまり発達しておらず、ESGに関する統一的な政策枠組みはまだ形成できていません。グリーンボンド等サステナブルファイナンスに関連した取り組みに置いても、民間企業が中心となって取り組んでいます。

一方、民間でのESGへの注目は高まっています。企業サービスの利用意欲と企業自体のESGの取り組みの関係性を調査した結果では、ベトナムでは約47%の消費者がESGを重視する企業のサービスを使いたいと回答しており、消費行動に大きな影響を与えていると考えられます。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.62-65

出典:Báo Dân trí『Người tiêu dùng thiện cảm hơn với những doanh nghiệp đầu tư ESG』(2023年7月3日)

3. ESG政策を進める際の課題

(1)地域経済との乖離

マレーシア、インドネシアのようなASEAN諸国では発電を化石燃料で行っている地域が多く、ESGのうち特にEの観点からエネルギーの代替が必要となっています。一方で、気候状況や地形の特徴から太陽光・風力などの再生可能エネルギーによる発電方法を使えない地域も多く、世界的な基準に沿うのみでは有効な運用ができない可能性があります。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.37,45,46

(2)地域投資家の理解促進

タイでは主要な金融機関との連携が進んでいる一方で、地域投資家・銀行への浸透が充分ではないという課題も生まれています。これは金融機関での専門性の不足というだけではなく、ESG以外の投資判断の基準も存在するためです。タイではESGだけではなく、TCFDをはじめとする各種基準も用いられています。

出典:金融庁『ASEAN 諸国のサステナブルファイナンスに関する委託調査』p.29

4. まとめ:ESGの取り組みを進めるASEANの動向に注目しよう!

ESGの取り組みは投資をする際の判断基準だけではなく、海外で事業を進める際に必要な情報も定めています。事業を行う際の取引先を得るためにも、自分たちがESGを意識できているか、それを示す情報を持っているかは重要な観点となるでしょう。

ASEAN諸国でも取り組みの進度はさまざまで、国ごとに求められるものも変わっています。また国の規制に加え、各国投資家もまたESGに基づいて行動し各国トレンドを動かす要素になっており、複雑な環境になっています。しかし、ESGが重視されているのはどの国にも共通しています。

これからの事業を進めるために、ASEANの今後の取り組みにも注目してみましょう。

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