化学肥料と温室効果ガス排出の関係と企業の対策について

作物を育てる上で欠かせない化学肥料ですが、製造過程や使用は環境に大きな悪影響を及ぼしています。そのため、世界各国の企業が肥料の生成における研究や新たな肥料の開発を行っています。また、化学肥料の基本的な情報から、環境への影響、そしてそれを軽減するための最新の技術や研究動向についても触れています。

本記事では、化学肥料の概要と抱える課題、新たな技術や企業の取り組みについてまとめています。

目次

  1. 化学肥料の概要

  2. 化学肥料における課題と環境負荷低減技術

  3. ピボットバイオ社の肥料に対する取り組み

  4. まとめ:化学肥料の使い方に注意しよう!

1. 化学肥料の概要

化学肥料の概要とその背景、日本における取り組みについて解説しています。

(1)化学肥料とは

化学肥料とは、鉱石などの資源を原料にし、化学合成や化学処理を施した肥料のことです。肥料は他にも家畜のふんから作られる「堆肥」や、動植物性油脂から作られる「有機質肥料」、食品残渣等から作られる「副産系肥料」、し尿から作られる「汚泥肥料」などがあります。

食料生産において窒素は非常に重要な元素であり、化学肥料の多くは原料に窒素を含んでいます。現在、世界で生産されているアンモニアは約1.7億トンと言われており、そこから生産された化学肥料がなければ世界人口の3分の1が生きていけないとも言われています。2050年にはおよそ100億人ともなる人口増加に対応するため、食料生産を支えるためには化学肥料がますます重要になってきます。
一方で、化学肥料が環境への負荷となっているという懸念もあり、地球温暖化対策や脱炭素社会に向けて対策を講じることが必要です。

出典:三井物産戦略研究所『持続可能な農業に向け、重要性が増す化学肥料の環境負荷低減―新たなビジネス創出に向けた動きも―』(2022/10)p.1
出典:農林水産省:『肥料制度をめぐる事情と課題』(2018/11)p.5

出典:公益社団法人新化学技術推進協会『人類の生産を支えるアンモニア合成』p.1-2

(2)化学肥料の背景

化学肥料の生産から使用において、温室効果ガスが発生しており、そのうち、生産過程と使用時の排出量が多いのが特徴です。肥料を使ったとしても、作物の成長に寄与するのは使用料の半分程度といわれており、残りは温室効果ガスなどに変化するため、環境への悪影響が懸念されます。

このような現状を受け、EUでは持続可能な農業を目指し、2030年までに化学肥料の使用量を20%削減するという目標を掲げています。

出典:三井物産戦略研究所『持続可能な農業に向け、重要性が増す化学肥料の環境負荷低減―新たなビジネス創出に向けた動きも―』(2022/10)p.1-2

(3)化学肥料に対する日本の取り組み

日本は2050年までに農林水産分野の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。その対応策のひとつとして、政府は化石燃料を原料とする化学肥料の使用量を2016年時点の90万トンから2030年には20%減の72万トン、2050年には30%減の63万トンまで低減する意向を示しました。

化学肥料を巡っては、原料主産国の中国が輸出規制をしたり、ウクライナ戦争に伴いロシアからの調達が滞ったりするなど、肥料の価格が高騰しているため、化学肥料に頼らない農業への転換が不可欠になってきました。今後、土壌診断を通じた肥料量の削減や、堆肥や汚泥肥料などの国内資源の活用をするよう促しています。

出典:日本経済新聞『化学肥料20%削減、政府が30年目標 農業の脱炭素促す』(20226/21)

2. 化学肥料における課題と環境負荷低減技術

化学肥料における課題と環境負荷軽減技術について解説しています。

(1)化学肥料における課題

化学肥料の脱炭素化

化学肥料の主な原料であるアンモニアの製造には、天然ガスなどの化石燃料を原料として水素を取り出し、空気中の窒素と反応させる「ハーバー・ボッシュ法」が採用されています。この方法によって窒素を効率よくアンモニアに変換できるため、食料生産はハーバー・ボッシュ法に依存しているといっても過言ではありません。

ハーバー・ボッシュ法もどんどん改良されていますが、脱炭素化に向けて化石燃料を使用しないアンモニアの製造方法を模索する必要があります。

肥料の使用における適正化

化学肥料は、土壌中の微生物の作用により最終的に硝酸イオンとなります。半分程度は作物に栄養として吸収されるものの、残りの硝酸イオンは土壌に残り、その大部分は雨水により河川へ流出します。硝酸イオンが河川へ流出するとプランクトンが増殖し、水中の酸素が欠乏するため、水中生物の生命を脅かすことが危惧されます。

つまり、化学肥料の過剰散布による環境への悪影響を未然に防ぐための対策が重要です。

出典:三井物産戦略研究所『持続可能な農業に向け、重要性が増す化学肥料の環境負荷低減―新たなビジネス創出に向けた動きも―』(2022/10)p2.3

(2)化学肥料における環境負荷軽減技術

化学肥料の生産における環境負荷軽減技術

ノルウェーの大手肥料会社であるYaraは、再生可能エネルギーを利用した水の電気分解による水素の製造に取り組んでいます。同社の従来製品に対し二酸化炭素の排出量をおよそ80〜90%削減できる見込みです。

ハーバー・ボッシュ法の改良についても研究が進められています。東京工業大学では、鉄と水酸化バリウム微粒子を用いることによって100℃であってもアンモニアを精製できる方法を研究しています。400℃もの高温とレアメタルを必要とする現在のアンモニア精製に比べ、エネルギーや鉱物資源の削減が可能です。

また、ハーバー・ボッシュ法の代替となる方法も研究されており、アイスランドのベンチャー企業であるアトモニア社は空気と水と電気を使い、直接アンモニアを製造する方法の研究を進めています。

化学肥料の使用における環境負荷軽減技術

化学肥料使用における取り組みとして、4R施肥推進運動が行われています。科学的な原理に基づき、作物に合った肥料を適切なタイミングで、適切な量を適切な位置に使うことを奨励する運動です。この取り組みにより、肥料使用による温室効果ガスの排出量を15〜25%削減できるとされています。

また、この運動にはデジタル技術を用いて土壌の状態を随時確認することが重要です。そのため、AIやロボットによって生産を効率化させるスマート農業の技術にも注目が集まります。

出典:三井物産戦略研究所『持続可能な農業に向け、重要性が増す化学肥料の環境負荷低減―新たなビジネス創出に向けた動きも―』(2022/10)p. 3-4

出典:東京工業大学『東工大ニュース 鉄はレアメタルより強し 100 ℃の低温でアンモニアを合成する鉄触媒の開発に成功 』(2023年4月18日)

3. ピボットバイオ社の肥料に対する取り組み

バイオテクノロジー企業であるピボットバイオ社の肥料に対する取り組みについて解説しています。

(1)肥料の概要

アメリカのピボットバイオ社は環境に悪影響を及ぼす化学肥料に代わる肥料を開発しました。自然に存在する微生物を活用して、その微生物が大気中の窒素を作物に供給することで、作物の生育を促進します。肥料は作物の成長度合いを確認して、その都度散布するのが一般的ですが、この肥料は種を植えるのと同時に散布するため、農家の労力コストも削減できます。

出典:ロイター『Pivot Bio, a startup using microbes to replace synthetic fertilizer, raises $430 mln』(2021/7/19)

(2)肥料における現状と今後に向けて

ピボットバイオ社の肥料は環境に配慮された仕様と手軽さから注目を集め、主にトウモロコシと小麦の肥料に利用され、肥料の散布面積は年々増加しています。今後は稲作の肥料に関する製品を開発するとともに、製品の効率化も進めていく方針です。

出典:ロイター『Pivot Bio, a startup using microbes to replace synthetic fertilizer, raises $430 mln』(2021/7/19)

4. まとめ:化学肥料の使い方に注意し、事業を推進しよう!

現在の生活では、化学肥料は作物の生育に必要不可欠であり、私たちの生活の支えとなっています。しかし、その製造や使用に伴い、温室効果ガスを中心とした環境への悪影響が指摘されています。

企業は化学肥料の環境負荷を低減するための技術や研究に投資することが求められています。投資することによって新しい肥料の開発や既存の肥料の効率的な使用方法を探索し、環境保護と食料生産の両立を目指すことができます。農業を行なっている企業や肥料と関わることのある企業はこのような最新情報を入手し、経営判断に活かしましょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024