電気自動車を支える資源の問題とは?世界や日本が実施する対策を紹介

電気自動車は、二酸化炭素排出が少なく環境に優しいエコな車だと言われており、SDGsを目指す近年において、電気自動車の普及はとても重要です。しかし、その一方で普及率は低く、その原因の一つが生産に必要な資源問題だとされています。この記事では、そんな資源問題についてや、資源問題への対策などを解説していきます。

目次

  1. 電気自動車による環境への配慮

  2. 電気自動車が抱える資源問題とは

  3. 資源問題への対策

  4. 電気自動車が抱える資源問題以外の課題

  5. まとめ:資源問題を解決するために、私生活で出来ることから取り組もう!

1. 電気自動車による環境への配慮

電気自動車が世界的に注目される理由は、走行時の二酸化炭素排出量を極限まで減らせるためです。従来の自動車は、ガソリンを燃焼させると共に二酸化炭素を排出していましたが、電気自動車のエネルギーは電気であり、二酸化炭素を排出せずに走行が可能となります。

また、電気の発電を再生可能エネルギーで行なうことで、二酸化炭素の排出量はさらに削減されます。水力発電・太陽光発電・風力発電などの「ゼロエミッション電源」だけで発電できれば、二酸化炭素の排出量をゼロにする(カーボンニュートラル)ことも夢ではありません。

ゼロエミッション電源比率は年々増えてきており、日本政府は2030年時点での電気供給量の目安として、約44%(再エネ:22〜24%、原子力20〜22%)を見通しています。地球温暖化対策は世界的にも取り組まれ、日本はもちろん、世界中で電気自動車の有用性に注目されているのです。

電気自動車についてさらに詳しく知りたい方はこちら

  1. 電気自動車は本当にエコ?二酸化炭素排出量はどのくらい?

  2. 環境問題解決策の一環として、電気自動車を導入しよう!

  3. 電気自動車(EV)の普及率と今後の動向は?世界と日本の現状も解説

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!』(2017/10/12)

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018) HTML版> 第1部 エネルギーをめぐる状況と主な対策 / 第3章 エネルギーをめぐる内外の情勢と課題変化 / はじめに』

2. 電気自動車が抱える資源問題と原材料

電気自動車が抱える資源問題と実際にどのような原材料が使用されているのか?について、解説します。

(1)電気自動車が抱える資源問題とは?

将来性が期待される電気自動車ですが、バッテリーに使われる資源が足りないといった問題があります。電気自動車のバッテリーにはリチウムやコバルトなどが使用されますが、採掘できる国は限られており供給が間に合っていません。

また、それに伴い原材料の輸入価格も高騰しています。テスラ社の最高経営責任者であるイーロン・マスク氏は、「リチウム価格は一時期、完全に常軌を逸していた」と発言し、価格の高騰に不満を漏らしていました。

ですが、近年は価格が下落しており値段が落ち着いている状態です。リチウム相場の指標となる炭酸リチウムが、中国市場ではピーク時から半値に下がっています。同様にニッケルやコバルトなどの資源も低下しており、ピーク時よりも安く生産できるようになりました。

とはいえ、今後も金利上昇が続けば電気自動車の値下げは続くともイーロン・マスク氏は述べており、電気自動車の普及に資源問題は大きくかかわってきます。

出典:東洋経済 ONLINE『EV電池に必須の「リチウム」の確保は大丈夫か』

出典:Bloomberag『イーロン・マスク氏安堵、常軌逸したリチウム価格にデフレ圧力』

(2)電気自動車で使用されるバッテリーメタルとは?

バッテリーメタルとは、主にリチウムイオン電池の製造に使用される金属のことです。代表的なものとしては、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、グラファイト(C)があります。これらの金属は、大容量の電力を蓄え、充電によって繰り返し使用でき、リチウムイオン電池の製造に不可欠なものです。

各材料の調達方法

  • リチウム

鉱石と塩湖から採掘されます。鉱石由来のリチウムは主に豪州で、塩湖由来のリチウムは主にチリやアルゼンチンで採掘されます。

  • グラファイト

天然と人工の二種類があり、EV用のバッテリーにはどちらも使用されます。

  • ニッケル

鉱石と土壌(ラテライト)から採掘されます。土壌由来のものは技術の進展で高純度のニッケルも製造可能になっています。

  • コバルト

主に銅やニッケルの副産物として採取され、大部分がコンゴ民主共和国で生産されています。

出典:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構『[カーボンニュートラル社会実現のカギを握る]バッテリーメタルの教科書(1)』

3. 資源問題への対策

資源問題として以下のような対策が研究・開発されています。

(1)資源量を減らしたバッテリー(リチウムイオン電池)の改良

電気自動車(EV)の普及にはレアメタル(鉱物資源)が必要であり、その供給が課題となっています。EVの車体価格の約3分の1はバッテリーによって占められ、そのバッテリーにはリチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトなどのレアメタルが使用されています。これらのレアメタルは、価格が高騰する可能性があり、また供給国には政治的リスクも存在します。

そのため、以下の3点が懸念されており、改良が必要とされています。

  • コスト削減

バッテリーがEVの車体価格の大部分を占めているため、コスト削減が必要です。

  • 供給安定

レアメタルの供給が不安定であり、特定の国に依存している場合が多いため、供給を安定させる必要があります。

  • 性能向上

現在のバッテリー技術では、充電時間や走行距離に制限があります。これを改良することで、EVの普及がさらに進むでしょう。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『EV普及のカギをにぎるレアメタル』(2018年4月20日)

(2)製造拠点の増設

価格高騰による問題対策として、製造拠点の増設が挙げられます。採掘されるリチウムは一旦中国などで炭酸リチウムに精製されますが、他国で精製を挟むことでその分のコストが増加してしまいます。コスト削減を考えるなら、精製を挟まなくても済むよう、採掘拠点である国か、もしくは自国に精製拠点を用意することが大切です。

リチウム価格の高騰によって悩んでいたイーロン・マスク氏も、価格を安定化させるため、アメリカのテキサス州にリチウム精製所の着工を開始しています。電気自動車の増産を考えるなら、新しい生産形態が必要になってくるでしょう。

ただ、日本国内での精製は現状難しいといえます。リチウムの精製には大量の廃棄物が発生し、日本国内だけでは処理しきれないからです。リチウムの精製を主に中国が行っているのも、国土の広さと環境規制の緩さが理由といえるでしょう。

最近では採掘国であるオーストラリアでリチウムの精製も行なわれていますが、リチウムはほかの国も必要としており、日本が都合よく調達できるとは限りません。

日本では国内精製が難しいことから他国へ依存する必要があり、国内での電気自動車の生産は安定しないのが現状です。

出典:X Tesla Japan『世界最大級のリチウム精製施設をアメリカテキサス州で着工』

出典:東洋経済『EV電池に必須の「リチウム」の確保は大丈夫か

(3)新しい次世代電池の開発

リチウムやコバルトなどを必要としない方法として、資源を必要としない次世代電池の開発も進められています。代表的な技術として、水素技術が挙げられます。ガスや水などから水素を作りエネルギーとする技術であり、生産にリチウムを必要としないため、再生可能エネルギーから作ることも可能であり、注目されています。

出典:東京新聞『次世代電池の大本命 全固体電池、開発に期待 リチウムイオン電池の弱点改良』(2022年6月19日)

出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ『蓄電池技術はどこに向かうのか?(4/6)』

4. 電気自動車が抱える資源問題以外の課題

電気自動車についての課題は、資源問題だけではありません。鉱物資源を発掘する際に発生する環境汚染も問題視されています。電気自動車の生産、特にバッテリーの生産は多数の鉱物資源を必要としており、その鉱物資源を採掘し精製する過程で水質汚染や土壌汚染といった環境汚染が発生してしまうのです。

製造で二酸化炭素を排出することから、「電気自動車は環境問題に効果がない」と考える人は少なくありません。今後電気自動車の普及を促進させるためにも、生産過程における対策が必要となります。

出典:CIGS キャノングローバル戦略研究所『電気自動車(EV)は本当に環境にやさしいのか』(2021年11月8日)

5. まとめ:電気自動車による資源問題の理解と共に、他の資源問題にも目を向けましょう

資源問題の原因は、全体的な供給量の少なさです。採掘量よりも消費量の方が多く、需要と供給のバランスが合っていないことから、資源問題へと発展します。また、資源が少ないことで価格が高騰し、生産や普及の妨げになることも、資源問題の一端といえるでしょう。

企業単位でも新しく導入する資源について、環境問題に配慮出来ているのか?を確認してから導入しましょう。

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