炭素国境調整(CBAM)とは?日本企業への影響についても解説

炭素国境調整(CBAM)とはどういうものなのか、わかりやすく解説します。炭素国境調整(CBAM)はカーボンプライシングの一種で、気候変動対策と同時に自国の産業を守るという意味合いも持っています。炭素国境調整(CBAM)はEUで2023年5月に設置規則が施行され、今後の本格適用を前に、各国企業の対応や動向が注目されています。

本記事では炭素国境調整(CBAM)の概要、よくある疑問、日本企業への影響などについて説明します。

目次

  1. 炭素国境調整(CBAM)の概要

  2. 炭素国境調整(CBAM)に関するよくある疑問

  3. 炭素国境調整(CBAM)の日本企業への影響

  4. まとめ:炭素国境調整(CBAM)について理解し、今後の動向に注目しよう!

 1. 炭素国境調整(CBAM)の概要

炭素国境調整(CBAM)は、EUで暫定措置が始まっている課金制度です。炭素国境調整(CBAM)の概要について解説します。

炭素国境調整(CBAM)とはなにか?

CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism、炭素国境調整)とは、輸入品に対して国内と国外の炭素価格の差額分の支払いを課す措置のことです。炭素価格(カーボンプライシング)とは、炭素税などCO2排出量に応じて課される料金を指します。ある国が炭素価格の導入に積極的な場合、企業がコスト増を嫌って生産拠点を規制の緩い国へ移転させ、移転先の国でCO2排出量が増えるカーボンリーケージ(炭素漏洩)が起きてしまいます。

これを避けるための措置が炭素故郷調整(CBAM)で、EUで2023年から暫定適用がスタートし、2025年まではCO2排出量報告義務のみ、2026年からは実際に炭素価格の差額精算が課される予定です。

CBAMの仕組み(EU CBAMの場合)

出典:環境省「【有識者に聞く】EUによる炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」(2023/12/26)

EUが炭素国境調整(CBAM)開始にいたった背景

炭素国境調整(CBAM)はアメリカのカリフォルニア州などでも導入されており、EUオリジナルの仕組みではありません。EUは元々アメリカが京都議定書から離脱したことへの対抗措置として、炭素国境調整(CBAM)を検討していました。

その後、炭素価格を導入していないトルコ・ロシア・ウクライナなどのEU周辺国から安価な鉄鋼の輸入が増加するという問題がきっかけで、EUは炭素国境調整(CBAM)の導入を決定し、EUの気候変動政策パッケージ「Fit for 55」の一環として発表しました。EUによる炭素国境調整(CBAM)の導入は、カーボンリーケージの解決への試みであるのと同時に、国際的な産業競争力の平準化を促し結果的にEU域内の産業を保護することにもつながっています。

出典:環境省「【有識者に聞く】EUによる炭素国境調整措置(CBAM)から読み解くカーボンプライシング」(2023/12/26)
出典:EU「Carbon Border Adjustment Mechanism: Questions and Answers」(2021/7/14)

2. EUの炭素国境調整(CBAM)に関するよくある疑問

EUの炭素国境調整(CBAM)導入は、EUへ輸出を行っている国や企業にとって大きな関心事です。EUの炭素国境調整(CBAM)に関するよくある疑問について解説します。

排出量取引制度(ETS)との違い

カーボンリーケージに対してEUでは、既に排出量取引制度(ETS、Emissions Trading System)があります。これは特定分野の産業施設から排出されるCO2排出量に上限を定める一方で無償の排出枠を分配することで、EU域外への生産拠点ひいては炭素の流出を食い止めるものです。ETSは漏出リスクへの対処には効果的ですが、より環境に優しい生産に投資するインセンティブを弱めることにもなります。そこで無償排出枠は縮小し、段階的にCBAMへ移行していくこととされています。

出典:EU「Carbon Border Adjustment Mechanism: Questions and Answers」(2021/7/14)

EUの炭素国境調整(CBAM)における対象製品

EUの炭素国境調整(CBAM)は当初、セメント・鉄鋼・アルミニウム・肥料・電気の輸入に適用されます。これらの製品はカーボンリーケージのリスクが高く、またそもそもの炭素排出量も高いため、CBAMの対象とされています。

EUのCBAMは2025年12月末までが移行期間となっていて、その間は実際の調整金を支払うことはありませんが、EUへ持ち込まれる製品の生産におけるCO2排出量を報告しなければなりません。移行期間の終了までに、EUを運営する欧州委員会は CBAMの運用状況を評価し、その適用範囲をより多くの製品やサービスに拡大するかどうか検討する予定です。

出典:EU「Carbon Border Adjustment Mechanism: Questions and Answers」(2021/7/14)

EUの炭素国境調整(CBAM)による各国企業への影響は?

EUの炭素国境調整(CBAM)については、各国からさまざまな反応が寄せられています。たとえばEU域内のフランスの民間調査会社からは、CBAM導入に伴うETSの無償排出割当の廃止の影響で、フランス製造業の収益減と大規模な雇用削減につながると懸念する報告が出ています。

また、EU域外のインドネシア鉄鋼産業協会は、インドネシアからEU向け輸出の主な鉄鋼は生産時に原料として石炭を使用していることから、欧州の鉄鋼製品や炭素排出量の少ない国との競争で不利になることが確実との見解を示しています。

出典:Rexecode「The architecture of carbon adjustment at the border threatens the objective of re-industrialisation in Europe」(2023/6/7)

出典:THE INDONESIAN IRON & STEEL INDUSTRY ASSOCIATION「Dampak CBAM Terhadap Ekspor Produk Baja RI」(2024/1/17)

3. EUの炭素国境調整(CBAM)の日本企業への影響

EUの炭素国境調整(CBAM)導入は、日本に無縁の話ではありません。日本企業へのEU炭素国境調整(CBAM)の影響について解説します。

EUによる説明

2023年11月に開催された日本エネルギー経済研究所・EU代表部・日欧産業協力センター(EUJC)共催セミナー「EUのCBAM運用状況と日本企業の対応」において、EU側から炭素国境調整(CBAM)の日本への影響についての説明がありました。「日本でのCBAM対象はほぼ鉄鋼分野に限られ、それは日本の対EU輸出の3%にすぎず、日本の鉄鋼生産のうち対EU輸出は1.5%にすぎない」「CBAM制度が日本企業にとって(事務的に)最小限の負担になるよう透明性を確保していきたい」など、日本企業への配慮がうかがえる内容となっています。

出典:独立行政法人経済産業研究所「日本はEU・CBAMに建設的に協力せよ:CBAM セミナーに参加して」

日本側の見解

同セミナーでは日本側から、経済産業省産業技術環境局長の見解も披露されました。「2023年10月からの(CBAMの暫定措置開始に伴うCO2排出量の)報告義務は、報告頻度や製品べースでの細かい報告などEU域内企業にない大きな負担」などと述べ、炭素国境調整(CBAM)そのものへの理解は示しつつ、各企業の事務的な負担への懸念を表明しました。

出典:独立行政法人経済産業研究所「日本はEU・CBAMに建設的に協力せよ:CBAM セミナーに参加して」

今後の課題

・EUの炭素国境調整(CBAM)はまだEUへの輸出に伴うCO2排出量報告義務のみが求められている暫定期間ですが、既にいくつかの課題が見えてきています。

・CBAMで報告を求められるCO2排出量の算定方法が、国際的な標準と整合していないのではないか

・CBAM報告には企業秘密が含まれるが、その漏洩を防ぐための法的措置はないのか

・対象製品の炭素価格がEUよりも高い場合に、その差額は返還されないのか

このような疑問もEUの炭素国境調整(CBAM)に対して日本側から呈されており、EUとしては暫定適用期間中にデータを収集しつつ、議論を深めていくというスタンスです。

出典:独立行政法人経済産業研究所「日本はEU・CBAMに建設的に協力せよ:CBAM セミナーに参加して」

4. まとめ:炭素国境調整(CBAM)について理解し、今後の動向に注目しよう!

EUの炭素国境調整(CBAM)は2023年10月から暫定措置がスタートし、2025年まではCO2排出量報告義務のみ、2026年からは実際に炭素価格の差額精算が課される予定です。EU域外からEUへの輸出にあたっての煩雑さなどが懸念される一方、EU域内でもETS無償排出枠縮小に伴うコスト増などの影響を心配する声があります。解決しなければならない課題も多いですが、カーボンリーケージを防止しようというEUの決意の下に登場した炭素国境調整(CBAM)は、環境問題に投じられた大きな一石と言えるでしょう。

炭素国境調整(CBAM)について理解し、2026年の本格導入に向けて今後の動向に注目しましょう。

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