Fit for 55 とは?概要や影響をわかりやすく解説
- 2023年10月23日
- CO2算定
EUの気候変動政策であるFit for 55について、わかりやすく解説します!Fit for 55はEUの政策ですが、EUでの事業活動やEUとの取り引きを行っている企業にとって、深く関係してきます。Fit for 55はEU内でも賛否両論ありますが、気候変動問題に関してEUがどのように対応しようとしているのかが、明確に表れています。
Fit for 55によりさまざまな制約が発生する一方で、ビジネス機会の創出につながる可能性もあります。そんなFit for 55の概要や影響についても取り上げます。
目次
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Fit for 55の概要
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Fit for 55の主な内容
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Fit for 55とビジネス機会
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まとめ:Fit for 55について理解し、ビジネス機会へつなげよう!
1. Fit for 55の概要
Fit for 55(フィット・フォー・55)はEUが打ち出した政策パッケージで、FF55などと略されます。環境問題に対するEUの強い姿勢を示したものとして、注目されています。
Fit for 55とは
「Fit for 55」とは、「2030 年までに温室効果ガスの排出量を少なくとも55%削減する」という目標を確実に実現するため、EUの法律を改正し新たな枠組みを導入するという一連の提案です。
Fit for 55の目的は、EUの気候変動に関する目標を達成するための「公正かつ社会的に公平な脱炭素社会への移行」や「第三国との平等な競争条件のうえでの、EU産業の技術革新と競争力の維持と強化」、「気候変動への対処において世界をリードするEUの立場の維持」といった枠組みを築くことです。
出典:European Council「Fit for 55」
Fit for 55の影響
2021年7月14日にEUの主要機関である欧州委員会がFit for 55を発表すると、EU内のさまざまな産業団体から賛意が示される一方、反発も見られるなど、Fit for 55の内容は波紋を呼びました。
たとえば欧州化学工業連盟は、同業界が積極的に取り組んでいるクリーン水素の利用推進がFit for 55において提案されていることを歓迎しました。一方でFit for 55の導入によってガソリン車からEV(電気自動車)への移行が進むことについて、欧州自動車部品工業会は「再生可能エネルギーの利用が考慮されていない」「中小企業が多い部品業界にとっては雇用への影響が大きい」などの意見を表明しています。
出典:日本貿易振興機構「欧州産業界、欧州委の気候変動対策パッケージに賛意や不満を表明」
2. Fit for 55の主な内容
Fit for 55には、気候問題に関連する幅広い分野の政策が含まれています。CO2排出量を直接制限するものだけでなく、カーボンニュートラルを推進する枠組みやそのコストをまかなう仕組みなども取り入れられています。Fit for 55の全体を大きく4つに分けて解説します。
(1)価格に関わるもの
EU内での商取引において価格に影響する以下の政策が、Fit for 55に含まれています。
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EU排出量取引制度
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カーボン国境調整機構
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エネルギー課税
たとえばエネルギー課税は、最も環境汚染が大きい化石燃料に最も高い税金を課すことにより、クリーンなエネルギーへの移行を促すものです。
出典:European Council「Fit for 55」
出典:European Council「Infographic - Fit for 55: how the EU plans to revise energy taxation」
(2)排出量に関するもの
温室効果ガスの排出量に関して、Fit for 55には以下の政策が盛り込まれています。
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各産業における排出削減目標
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土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)分野からのCO2排出量の減少と吸収量の増加
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乗用車・小型商用車の CO2 排出基準
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エネルギー部門におけるメタン排出量の削減
たとえば乗用車・小型商用車のCO2排出基準では、2035年以降にEUで市場に流通する全ての新車は、CO2を排出しないゼロエミッション車とすることを目指しています。
出典:European Council「Fit for 55」
(3)燃料やエネルギーに関するもの
Fit for 55には、燃料やエネルギーに関する多くの内容が並んでいます。
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航空機用燃料の持続可能化
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海上輸送用燃料の脱炭素化
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代替燃料インフラの整備
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再生可能エネルギー導入の促進
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エネルギー効率の向上
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建物のエネルギー性能の向上
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水素及び脱炭素ガスへの移行
たとえば建物のエネルギー性能の向上については、2028年には公共団体が所有する新しい建物、2030年には全ての新設される建物が、ゼロエミッションでなければなりません。2030 年以降新設される建物には、エネルギー性能証明書の取得が義務付けられます。
出典:European Council「Fit for 55」
出典:European Council「Infographic - Fit for 55: making buildings in the EU greener」
(4)社会気候基金
Fit for 55に含まれる政策のひとつである社会気候基金は、新しい排出量取引システムの導入によって大きな影響を受ける人々や企業を財政的に支援するための措置です。
炭素税や化石燃料の使用許可料から捻出された資金が、所得の低い世帯や零細企業、輸送業者などを対象に配布され、建物のエネルギー効率の向上や冷暖房の脱炭素化、温室効果ガスを排出しない乗用車や交通手段の導入などを支援します。
出典:European Council「Fit for 55」
3. Fit for 55とビジネス機会
Fit for 55はさまざまな規制を伴っているため、EU域内での事業活動は難易度が上がっています。一方でそこには多くのビジネスチャンスも含まれているのです。
エネルギー産業
Fit for 55では、エネルギーミックスにおける再エネの導入目標を40%としています。さらに2022年3月には、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー価格の高騰やロシア産エネルギーからの脱却を掲げた「REPowerEU計画」も発表され、再エネ導入目標は45%へ引き上げられました。
具体的には太陽光発電の強化や再エネ由来の水素増産などが推進されています。こうした再エネを取り扱うエネルギー産業や関連分野の企業にとっては、大きなビジネスチャンスであると言えるでしょう。
出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2023>第1部第3章第1節 脱炭素社会への移行に向けた世界の動向」
建設産業
Fit for 55では前述の通り、新築建物のエネルギー効率について2030年にはゼロエミッションでなければいけないとされています。また既築の建物についても省エネ改修投資を促すことで、経済成長と気候変動対策を両立させることを目指しています。
高いエネルギー効率や再エネを活用した建物についての技術を持つ企業は、EUの建設産業において大きな優位性を持つことができるでしょう。
出典:European Council「Infographic - Fit for 55: making buildings in the EU greener」
出典:資源エネルギー庁「カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」P3
自動車産業
Fit for 55では、2035年以降に新車として販売される乗用車・小型商用車はゼロエミッション車でなければならないとされています。今後EVなどの優れた技術を有する企業は、EUにおいて有利になっていくでしょう。
また自動車そのものだけでなく、充電や水素充填のための設備についても対応が必要です。EUでは、急速充電ポイントを主要高速道路上に60キロ間隔で、水素充填ステーションを150キロ間隔で、2025年までに設置することとしています。
4. まとめ:Fit for 55について理解し、ビジネス機会へつなげよう!
Fit for 55は、EUにおける気候変動政策パッケージです。Fit for 55には価格・排出量・燃料やエネルギーなどについて、幅広い内容が含まれています。規制強化となるものが多い一方、再エネなどゼロエミッションに関する技術を持つ企業にとっては、ビジネス機会にもなり得ます。
日本にはFit for 55のような包括的な政策パッケージはありませんが、Fit for 55に含まれている内容が今後波及して来る可能性もあります。Fit for 55について理解し、ビジネス機会へつなげましょう。