IPCCとは?組織の概要や地球温暖化対策で果たす役割を解説

IPCCは「気候変動に関する政府間パネル」と訳されています。地球温暖化は、二酸化炭素等の温室効果ガスの増加が原因と言われ、すでに気候変動等世界にあらゆる影響をもたらしています。

このまま放置すれば世界の平均気温は2100年には最大で4.8℃上昇すると予測されています。世界各国が温室効果ガス削減等の取り組みをはじめています。IPCCはこうした政策決定の基礎となる知見を提供しています。

IPCCが地球温暖化対策に関しどのような役割を担っているのか、IPCCが提供する知見がどのように国際社会で役立てられるのかを解説いたします。

目次

  1. 地球温暖化とIPCC

  2. IPCCによる評価報告書

  3. IPCCが地球温暖化対策において果たす役割

  4. IPCCの提言による地球温暖化対策

1. 地球温暖化とIPCC

二酸化炭素、メタン、フロン、一酸化二窒素等の温室効果ガスは、産業革命以降化石燃料の使用や森林の減少により増え続けてきました。温室効果ガスには、太陽によりあたためられた地表の熱を吸収し、大気をあたためる効果があります。

しかし近年温室効果ガスの濃度が高まり、平均気温の上昇を招いています。世界の地上平均気温は産業革命前の1880年から100年あたりで0.72℃上昇しています。IPCCは、地球温暖化による気候変動について、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行っている機関です。

出典:気象庁「世界の年平均気温」(2021)

出典:環境省「日本の気候変動とその影響」(2018)

IPCCの成り立ちと構成

地球温暖化の主要な原因となっている温室効果ガスは、19世紀にすでに発見されていました。1980年代後半、地球温暖化が現実的な問題となり、この温暖化問題に取り組む必要性から、1988年国連の世界気象機関(WMO)と国際環境計画(UNEP)によってIPCCが設立されました。

IPCCは、3つの「作業部会」と「温室効果ガス目録に関するタスクフォース」により構成されています。自然科学的根拠について評価を行う第一作業部会(WG1)、影響、適応、脆弱性を評価する第二作業部会(WG2)、緩和策について評価する第三作業部会(WG3)の3つの作業部会が、評価した結果を報告書にまとめています。

温室効果ガス目録に関するタスクフォースは温室効果ガスの国別排出目録作成手法の策定、普及等を目的としています。

出典:気象庁「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」

誰がどんなことをしているのか

IPCCの各作業部会は、膨大な気候変動に関する学術論文を評価し、気候変動の科学的な根拠、将来のリスクや緩和策、適応策を、報告書に取りまとめて政策決定者に提供します。2014年に発表された第5次評価報告書は、世界80ヵ国以上の830人を超える科学者の著者チーム、1000人を超える寄稿者、2000人を超える査読専門家によって作成されました。

出典:国際連合広報センター「IPCC 第5次評価報告書が完結:気候変動は取り返しのつかない危険な影響を及ぼすおそれがある一方で、その影響を抑える選択肢も存在」(2014)

どのように活用されるのか

IPCCの報告書は、世界中の学術研究者の科学的根拠をもとに、世界平均気温等の観測値、温暖化の各種要因、温暖化によってもたらされた影響、将来予測、そして緩和策や適応策を提示するものです。政策決定者はその報告書を参考に、具体的な政策を講じていくことになります。

IPCCが政策決定に直接関与することはありませんが、「国連気候変動枠組条約」に選択肢を提供し、各国の温室効果ガスの削減目標等の政策の根拠となってきました。1997年の京都議定書、2015年のパリ協定も、国連気候変動枠組条約締約国会議においてIPCCが提示した証拠を元に採択されたものです。

出典:経済産業省「国連気候変動枠組条約 (UNFCCC)」
出典:気象庁「京都議定書の概要」
出典:気象庁「パリ協定の概要」

2. IPCCによる評価報告書

IPCCの英知の結晶である評価報告書は、世界各国の政策決定に影響を及ぼしています。およそ6年に1度程度、包括的な報告書が作成されます。2014年の第5次評価報告書、2022年に予定されている第6次評価報告書、その他特別報告書について解説いたします。

第5次評価報告書

第5次評価報告書では、人間活動に起因する温室効果ガスが地球温暖化の主因であることを明確にしています。地球温暖化がもたらす影響は、極端な気象・気候現象、海面水位の変化、生態系や食糧生産等多岐にわたります。すでにあらゆる地域で目に見える形で影響が増大していること、後発開発途上国や脆弱なコミュニティでは特に多くのリスクが課題となっていることを指摘しています。

温室効果ガスの削減によって温暖化を2℃未満に抑える「緩和」と、気候変動に応じて技術的、社会的な「適応」を実施していくことが、気候変動のリスクを低減し持続可能な開発に向け必要であるとしています。そして緩和への対応の遅れが、適応の選択肢を大幅に減らす可能性があることに言及しています。

出典:国際連合広報センター「IPCC 第5次評価報告書が完結:気候変動は取り返しのつかない危険な影響を及ぼす恐れがある一方で、その影響を抑える選択肢も存在」(2014)
出典:環境省「IPCC 第5次評価報告書の概要(統合報告書)」(2015)

第6次評価報告書

2015年国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことを受け、IPCCの活動はSDGsが掲げる持続可能な社会との関連性を重視するようになっています。現在、各作業部会によって、より最新の知見を備えた評価報告書が作成されており、2022年4月には統合報告書が公表される見通しです。

出典:環境省_環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 (AR6)サイクル」

 

出典:国連応報センター「2030アジェンダ」 | 国連広報センター 

特別報告書

IPCCは第5次評価報告書発表後にもいくつかの特別報告書を作成しています。2018年に発表した「1.5℃の地球温暖化特別報告書」は平均気温の上昇を1.5℃に抑えることによって、多くの気候変動による影響を軽減することが可能としています。そのために急速かつ広範囲に及ぶ温室効果ガスの排出経路とシステムの移行、つまりエネルギー政策の転換が必要ということを訴えています。

また、2019年「海洋・雪氷圏特別報告書」や「土地関係特別報告書」は気候変動によって観測された変化、影響や予測されるリスクを、海洋・雪氷圏、土地にわけて報告しています。

「2019年方法論報告書」は温室効果ガスの排出・吸収量を求めるための各国共通のガイドラインを提供したものです。

出典:国際連合広報センター「IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約を 締約国が承認」
出典:環境省「1.5℃特別報告書の要点 - [PDF 762KB]」(2020)
出典:環境省「IPCC 『海洋・雪氷圏特別報告書』の 要点(2020)
出典:環境省「IPCC 『土地関係特別報告書』の 要点」(2020)
出典:環境省「IPCC 2019年方法論報告書の概要」(2019))

3. IPCCが地球温暖化対策において果たす役割

地球温暖化による気候変動のリスクは、すでに各方面で形となって現れています。2015年に採択されたパリ協定では、世界平均気温が産業革命以前に比べ2℃より十分に低く保つとともに1.5℃以内に抑える努力をすることとし、すべての参加国が温室効果ガスの削減目標を提出することを定めました。

日本でもIPCCの報告をもとに、温室効果ガスの削減や気候変動への適応を、具体的な政策として行なっています。EUでは風力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギーが化石燃料による発電量を上回り、エネルギー政策の転換は確実に進展しています。

出典:国際連合広報センター「気候変動に具体的な対策を」

4. IPCCの提言による地球温暖化対策

現在までの約1℃の平均気温の上昇でさえ多くの影響を観測しています。何の策も講じないまま2100年までに4.8℃上昇したとしたら、そのリスクは計り知れません。今何も手を打たなければさらに多くの困難な課題に立ち向かうことになることになるでしょう。IPCCはSDGsの取り組みとも連携し、より包括的な温暖化対策としてさまざまな提言をしています。

地球温暖化抑制のための緩和策

IPCCは、地上の平均気温の上昇を抑えるために、主因となっている二酸化炭素等の温室効果ガスの排出を削減すること、すなわち、エネルギー消費の削減、脱炭素化、二酸化炭素除去あるいはカーボンリサイクルをあげています。具体的には、炭素回収・貯留付きバイオエネルギー、森林の再生、電気自動車の普及、そして再生可能エネルギーの普及等が考えられます。

※二酸化炭素除去:国立環境研究所「世界資源研究所、大気中から炭素を取り除く6つの方法を紹介」(2920)
※カーボンリサイクル;資源エネルギー庁「カーボンリサイクルについて」

地球温暖化影響に対する適応策

気温上昇によって既に現れている影響への適応について、農産物の品種改良、持続可能な養殖業、災害に強い都市計画、沿岸域の護岸、グリーンインフラ等があげられています。

※グリーンインフラ:国土交通省「環境:グリーンインフラ」 

地球温暖化対策としての脱炭素

産業革命は私たちの世界を変えました。そして今世界が取り組む地球温暖化対策も歴史の1ページになるのではないでしょうか。再生可能エネルギーが、大企業だけでなく、中小企業にいたるまで浸透し、当たり前の世の中になる日がきます。将来を見据え、未来の地球のために、今まさに再生可能エネルギーに転換して、脱炭素に取り組む経営が期待されます。

 

出典:環境省「IPCC1.5℃特別報告書の概要」(2019)

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