脱炭素の手段として検討されている小型原子炉とは?

パリ協定の発効後、世界的に脱炭素の潮流が強まっています。再生可能エネルギーと共に脱炭素の有力な手段として検討されているのが小型原子炉です。小型原子炉とはいったいどのようなものなのでしょうか。

今回は小型原子炉とは何か、小型原子炉と脱炭素の関連、世界の原子力市場と利用状況、現在開発中の小型モジュール炉、小型原子炉のリスクなどについて総合的に検証します。

目次

  1. 小型原子炉とは何か

  2. 小型原子炉と脱炭素の関連

  3. 世界の原子力市場予測と利用状況

  4. 現在開発中の小型モジュール炉

  5. 小型原子炉のリスク

  6. まとめ:小型原子炉はメリットとリスクの双方の検証が必要である

1. 小型原子炉とは何か

原子炉というと日本各地にある原子力発電所をイメージする人が多いのではないでしょうか。それ以外にも小型モジュール炉(SMR)とよばれる小型の原子炉が存在します。

小型モジュール炉は現行の原子力発電所のような大型の原子炉ではなく、かなり小型の原子炉と考えてよいでしょう。小型でシンプルな構造の小型モジュール炉が完成すれば、冷却水を使わず空気だけでも原子炉を冷却できると考えられています。

モジュールとはプレハブのような組み立て式であることをしめし、これまでの原子力発電所よりも短い工期で簡単に設置できることを意味します。

こういった小型モジュール炉は発電だけではなく燃料電池や合成メタンの原料となる水素の生産、医療分野での利用、遠隔地でのエネルギー確保など多目的に利用可能です。

出典:資源エネルギー庁『原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?』

2. 小型原子炉と脱炭素の関連

小型原子炉の活用が模索されるようになったのは脱炭素推進の必要性が以前より高まったからです。

(1)各国に脱炭素政策実施を求めるパリ協定の締結

2015年に開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)でパリ協定が採択されました。この協定は先進国だけに二酸化炭素排出削減を義務付けた京都議定書と異なり、参加するすべての国が削減目標を提出する点で画期的なものです。

参加国は長期的に気温上昇を1.5℃〜2℃に納めるよう努力する義務を負い、5年ごとに二酸化炭素排出削減量を報告しなければなりません。また、先進国は発展途上国に資金援助することも定められました。

出典:外務省『2020年以降の枠組み:パリ協定』

(2)2050年までに達成するとしたカーボンニュートラルとは

パリ協定で定められた二酸化炭素排出削減を達成するため、各国はカーボンニュートラルを目指しています。

カーボンニュートラルの考え方

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』

カーボンニュートラルとは二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出削減を進め、二酸化炭素排出量と吸収・除去量を等しくし、全体としてゼロとする考え方です。

2021年1月20日時点でカーボンニュートラルを表明した国と地域は124カ国・1地域です。これは全世界の国の3分の2であり、脱炭素・カーボンニュートラルの流れが世界的な潮流であることを端的に示しています。

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』

(3)火力発電脱却の必要性

東日本大震災後、日本では原子力発電所の大半が停止し火力発電への依存が高まっています。2019年度の電源構成では石炭・石油・LNG(液化天然ガス)の火力発電への依存度は76%に達しています。

しかし、脱炭素に向けた世界的潮流が強まっている現状を踏まえると、化石燃料を使用する火力発電への依存度を減らさなければなりません。

日本政府は2030年度までに原子力発電と再生可能エネルギーの割合を上げ、化石燃料依存を41%に下げ、非化石のエネルギーを59%まで増やそうと考えています。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」』

3. 世界の原子力市場予測と利用状況

(1)世界の原子力市場予測

世界の原子力市場予測

出典:資源エネルギー庁『今後の原子力政策について』(2022/2/24)(p15)

NEI(米国原子エネルギー協会)は2050年に原子力の市場規模は40兆円に達すると分析しています。特に、アジア・オセアニア地域で原子力発電所の需要が拡大すると予測しています。また、小型原子炉を含む非従来型炉の市場は2050年までに全体の25%を占める可能性があるとも予測しています。

(2)世界の原発利用国の状況

世界の原発利用国

出典:資源エネルギー庁『今後の原子力政策について』(2022/2/24)(p16)

世界全体を見ると、現在原発を使用していないのはイタリアなど4カ国、将来的に廃止を考えている国は5カ国あります。その一方で、原発を利用している国で将来的にも利用するとしている国が25カ国、現在原発を稼働させていないが、将来的に導入を検討している国は14カ国あります。

(3)中露による原発市場の席捲

欧米諸国で原発利用を再検討する動きがみられる一方、中国やロシアは積極的に原発を活用し外国に売り込んでいます。現在、世界で建設中の軽水炉のうち60%がロシアや中国型です。高速炉やSMR(小型モジュール炉)においても中国やロシアの存在感が際立っています。

出典:資源エネルギー庁『今後の原子力政策について』(2022/2/24)(p22)

4. 現在進行中の小型原子炉プロジェクト

(1)NuScale SMR

NuScale社はSMRの先駆的事業者で米国エネルギー省の支援を受けてSMRを開発しています。1モジュールあたり5〜7.7万kWの出力を出せ、12モール合わせると60〜92万kWの電力を生み出せます。

米国エネルギー省の支援額は530億円で2020年に今後10年間で13.55億ドルの追加支援を行うと発表しました。

出典:資源エネルギー庁『今後の原子力政策について』(2022/2/24)(p47)

(2)BWRX-300

BWRX-300は日立GEニュークリア社と米国GE Hitachi Nuclear Energy社が開発を目指しているSMRです。従来よりもシンプルな構造で、低コストな小型原子炉として注目を集めています。

出典:資源エネルギー庁『今後の原子力政策について』(2022/2/24)(p48)

5. 小型原子炉のリスク

様々なメリットがあるとされる小型原子炉ですが、リスクは全くないのでしょうか。まず、「核のゴミ」の問題があります。原子炉をいくら小型化しても核燃料使用後の高レベルの放射性廃棄物が発生します。

また、過去におきた原子力発電所の事故などから小型原子炉においても自己リスクはあるという懸念は払拭しきれません。

6. まとめ:小型原子炉はメリットとリスクの双方の検証が必要である

今回は小型原子炉と脱炭素の関係についてまとめました。地球温暖化の進行は待ったなしの状況であり、各国は温暖化対策を進めてきました。しかし、ウクライナでの戦争など地政学的リスクの高まりを受け、エネルギーに関する考え方に変化がみられます。こうした中、注目を集めたのが小型原子炉でした。

小型原子炉は経済性の面や安全性の面で既存の原発よりも優れている点があり、脱炭素の切り札として注目されています。その一方、核のゴミの処分問題や小型原子炉の安全性について未解決の問題が多いのも確かです。小型原子炉についてはメリットとリスクの双方をしっかり検証し、議論を深めることが重要なのではないでしょうか。

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