企業によるカーボンリサイクル事業で脱炭素社会へ前進!

二酸化炭素(CO2)は地球温暖化の原因であり、世界中で排出を抑制することが課題となっています。そこでさまざまな企業が取り組みはじめたのが、CO2を炭素資源と捉えてリサイクルをし、効率的に利用するという考え方の「カーボンリサイクル」です。世界で目指すCO2排出抑制に、日本の企業はどのように参入しているのか、ご紹介していきます。

目次

  1. 企業におけるカーボンリサイクルの重要性

  2. 企業によるカーボンリサイクル事業

  3. 続々実用化!カーボンリサイクル製品

  4. カーボンリサイクル技術促進のための課題

  5. まとめ:通常化していくカーボンリサイクル。私たちにできること

1.企業におけるカーボンリサイクルの重要性

2050年を見据えた政策と見通し

パリ協定に定める目標(世界全体の気温上昇を1.5℃までに制限する努力を継続すること)などを踏まえて、日本では2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2021年3月に政府は「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、2050年までのカーボンニュートラルの実現を法律に明記しました。

出典:環境省『地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について』(令和3年3月2日)

カーボンニュートラル実現に必要な「カーボンリサイクル」:カーボンリサイクルは、CO2を資源として捉え、これを分離・回収し、化学品・燃料・鉱物などに再利用して大気中へのCO2排出を抑制することをいいます。CO2の利用について研究開発を進め、持続的な技術革新を進める取り組みとして注目されていて、省エネルギー・再生可能エネルギー・CCSなどとともにカーボンニュートラルに向けたキーテクノロジーとして扱われています。

カーボンリサイクルについて

出典:経済産業省『カーボンリサイクル技術ロードマップ』(令和元年6月(令和3年7月改訂))

カーボンリサイクルの見通し:カーボンリサイクル技術ロードマップでは現在から2030年までを【フェーズ1】、2030年から2040年以降までを【フェーズ2】、2040年以降を【フェーズ3】として見通しを示しています。

【フェーズ1】

現在、カーボンリサイクルを拡大していくために重点をおいていることは、カーボンリサイクルに資する研究・技術開発・実証に着手することです。特に2030年頃から普及が期待できる、水素が不要な技術や高付加価値製品を製造する技術に注力しています。

【フェーズ2】

2030年以降、それまでに培った技術を低コスト化することを目指します。安価な水素供給を前提とした2040年以降に普及する技術のうち、需要の多い汎用品の製造技術に重点を置く予定です。

【フェーズ3】

2040年以降、それまでに培った技術に対し、更なる低コスト化をすることを目指します。具体的には、現状の1/4以下とする予定です。

カーボンリサイクルを拡大していく絵姿

出典:経済産業省『カーボンリサイクル技術ロードマップ』(令和元年6月(令和3年7月改訂))

2.企業によるカーボンリサイクル事業

カーボンリサイクル技術開発について、2020年に資源エネルギー庁が産業界及び研究機関等の取り組みをとりまとめました。ここではそこの中からいくつかの取り組みをご紹介します。

二酸化炭素からウレタン樹脂を製造する技術開発

産業技術総合研究所が取り組む「二酸化炭素からウレタン樹脂を製造する技術開発」は、ポリウレタン樹脂の原料を、CO2から直接的・効率的に製造する方法を構築することを目的としています。将来的には、CO2から製造されたポリウレタン樹脂製品が市場に出回るかもしれません。

廃棄物資源化技術開発

積水化学工業株式会社が取り組む「廃棄物資源化技術開発」は、化石資源代替の有力候補でありながら、現状焼却処分されている廃棄物を資源化することを目的としています。

石炭火力から回収したCO₂によるトマト菜園への施肥効果の実証

電源開発株式会社は、「石炭火力から回収したCO₂によるトマト菜園への施肥効果の実証」に取り組んでいます。実証されることにより、カーボンリサイクル製品のCO₂施肥を使用した農作物の栽培が期待できます。

出典:資源エネルギー庁『カーボンリサイクル技術事例集』(2020年1月7日)

3.続々実用化!カーボンリサイクル製品

ユーグレナバイオ燃料

株式会社ユーグレナは、再生可能な生物資源(バイオマス)を原料にした代替燃料である、『バイオ燃料』の事業を展開しています。使用済み食用油と微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の油脂等を原料に使用したバイオ燃料です。2020年3月からバイオディーゼル燃料が供給開始となり、これまでに路線バスや配送車、消防車などの車両やジェット機に導入され、さらにフェリーやタグボートといった船舶にも導入が進んでいます。

ユーグレナバイオ燃料のフロー図

出典:株式会社ユーグレナHP『脱炭素社会へ向けて活用が期待される「バイオ燃料」とは?』

環境配慮コンクリート「T-eConcrete®」

大成建設株式会社の環境配慮コンクリート「T-eConcrete®」は、セメントの使用量を抑制し、通常コンクリートと同等の強度、施工性を保持しながら、CO2排出量の削減が可能です。この技術は、実際にさまざまな建築物やシールドトンネルに既に適用されています。

T-eConcrete®のバリエーション(CO2排出割合、展開状況)

出典:大成建設株式会社HP『大成建設のカーボンリサイクル・コンクリート(T-eConcrete®/ Carbon-Recycle)』

DDR型ゼオライト膜によるCO2分離・回収

日揮ホールディングス株式会社と日本ガイシが開発した「DDR型ゼオライト膜を用いたCO2分離・回収技術」は、従来の方法と比較し、効率的・経済的にCO2を分離、回収することが可能となる技術です。20回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 奨励賞を受賞しました。DDR型ゼオライト膜は、原油のほか天然ガス精製時のCO2除去用途も想定されています。現在は商業化に向けて実証試験に取り組んでいます。

DDR型ゼオライト膜イメージ

出典:資源エネルギー庁『カーボンリサイクル技術事例集』(2020年1月7日)p22

出典:日揮ホールディングス株式会社HP『「DDR型ゼオライト膜を用いたCO2分離・回収技術の開発」が 第20回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 「奨励賞」を受賞』(2021/06/09)

4.カーボンリサイクル技術促進のための課題

低コスト化

カーボンリサイクル技術は、革新的な技術である分多大なコストがかかりますが、将来的な普及を考えたとき、コスト削減は必須と言えます。ロードマップ上でもコストを低くしていくことが大きな課題となっています。

環境価値の「見える化」

カーボンリサイクル技術を使用した製品を既存のものから切り替えるためには、環境価値が適正に評価される仕組みが必要です。価格が既存のものより高くても、それだけの環境価値があるものと理解したうえで消費者が手を取れるようにする必要があります。

実質的なCO2の収支

カーボンリサイクルにはたくさんのエネルギー投資が必要です。化石燃料を用いたエネルギーを使う場合は、カーボンリサイクルを行うために追加的なCO2の排出が生じるため、その排出分は、カーボンリサイクルによる排出削減分から差し引き、実質的なCO2の収支で有効的かを判断しなければなりません。

5.まとめ:通常化していくカーボンリサイクル。私たちにできること

カーボンニュートラルの実現に向けて、カーボンリサイクル事業も促進されていくことが予想されます。まずはカーボンリサイクルの製品について興味を持つことから始めましょう。その価値を知ることで、環境配慮商品を選ぶ選択肢を増やすことができます。

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