水素燃料船の実用化はいつ?現状と課題、今後の展望について

船舶の脱炭素化の鍵を握るとされる水素燃料船とは、どのような船舶なのでしょうか。世界各国が2050年までのカーボンニュートラルを宣言し、様々な業種の企業が脱炭素化に取り組んでいます。海上においても例外ではありません。海上における脱炭素化の取り組みの1つが、水素燃料船の実用化を目指す実証実験です。

この記事では、船舶の脱炭素化に関心がある法人の皆さまが知っておくべき、水素燃料船に関する以下の基本的な知識をご紹介します。

目次

  1. 水素燃料船とは?

  2. 水素燃料船の実用化を目指す実証実験事例

  3. 水素燃料船の実用化はいつ?課題と今後の展望

  4. まとめ:船舶の脱炭素化は実現する。企業も脱炭素への取り組みを始めよう。

1. 水素燃料船とは?

世界各国において2050年までのカーボンニュートラルを目指した脱炭素化への取り組みが加速する中、船舶においても脱炭素化の動きが出ています。ここでは水素燃料船とはどのような船舶なのか概念や、水素燃料船が注目される背景についてご紹介します。

水素燃料船とは?

水素燃料船は、水素燃料電池を用いて発電、または直接水素を燃焼することでエンジンを動かす船舶を指す用語です。水素燃料船は、気候変動の主な原因であると指摘されているGHG(温室効果ガス)を運航中に排出しないことから、次世代船舶の1つに位置づけられています。次世代船舶には水素燃料船の他に、超高効率LNG燃料船やアンモニア燃料船、排出CO2回収船などがあります。

出典:国土交通省『「次世代船舶の開発」プロジェクトの研究開発・社会実装計画(案)について』(2021/5/24)(p.7)

水素燃料船が注目される背景

水素燃料船が注目を集めている理由は、一般的な船舶が運航される時に排出されるCO2が問題視されているためです。船舶から排出されるCO2は、運輸部門からの排出量の中に含まれています。

2018年度における日本のCO2総排出量は11億3,800万トンでしたが、うち2億1,041万トンのCO2は運輸部門から排出されています。運輸部門を占める割合の内訳は多い順に以下のようになっています。

  • 自家用乗用車 46.1%

  • 営業用貨物車 20.2%

  • 自家用貨物車 16.4%

  • 航空機 5.0%

  • 船舶 4.9%

  • 鉄道 3.9%

  • バス 1.9%

  • 営業用車・タクシー 1.2%

  • 二輪車 0.4%

運輸部門におけるCO2排出量の内訳

出典:『運輸部門における温室効果ガス排出状況』(2021年3月)(p.2.3)

2. 水素燃料船の実用化を目指す実証実験事例

水素燃料船の実用化を目指し、国内においても様々な実証実験が実施されています。ここでは、日本で実施されている水素燃料船の実証実験の事例をご紹介します。

株式会社商船三井

商船三井は他企業や法人などとの共同の元で2020年11月からウインズ丸の実証実験を実施してきましたが、2021年12月に実証実験に成功したことを報告しています。実証実験で使用されたウインズ丸は風力と水素を動力とする船舶で、強風時には風力、風が弱い時は船に貯蔵している水素燃料電池で航行します。

出典:商船三井『風と水素で走る究極のゼロエミッション船「ウインドハンタープロジェクト」佐世保でのヨット“ウインズ丸”による実証実験に成功』(2021/12/9)

日本郵船ら5社による共同の実証実験

日本郵船は、川崎重工業株式会社などとの共同のもと、2020年9月から高出力燃料電池搭載船の実用化に向けた実証事業を開始しています。水素燃料を使用する中型船舶では国内初となる実証実験として注目を集めています。

出典:日本郵船株式会社『高出力燃料電池搭載船の実用化に向けた実証事業を開始』(2020/9/1)

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社

ヤンマーパワーテクノロジーは2025年までの実用化を目指し、2021年3月から舶用燃料電池システムの実証実験を開始しています。ヤンマーパワーテクノロジーが実証実験で使用した船舶は、国土交通省が定める「水素燃料電池船の安全ガイドライン」に準拠した国内初の船舶で、実用化に向けた課題の抽出や対策の評価も実施されます。

出典:YANMAR『舶用燃料電池システムの実証試験を開始』(2021/3/24)

3. 水素燃料船の実用化はいつ?課題と今後の展望

船舶の脱炭素化実現の鍵を握るとされる水素燃料船ですが、現時点においてはまだ実用化には至っていません。水素燃料船は現在どのような課題を抱えていて、いつ頃実用化される見通しなのでしょうか。ここでは、水素燃料船など脱炭素化の船舶が抱える課題や今後の展望などについてご紹介します。

船舶の脱炭素化が抱える課題

2020年12月25日に開催された第6回成長戦略会議で配布された資料によると、以下の項目が問題点として指摘されています。

  • 現在の水素燃料電池システムやバッテリー推進システムが近距離・小型船舶に限定されていること。

  • 遠距離・大型船向けの水素を直接燃焼できるエンジンがないこと。

今後は遠距離・大型船向けの技術開発と実用化が次世代船舶の課題とされています。

出典:国土交通省『「次世代船舶の開発」プロジェクトの研究開発・社会実装計画(案)について』(2021/5/24)(p.10)

船舶の脱炭素化は実現するのか?今後の展望について

国は船舶の脱炭素化を実現させることを目的とし、目標となる指標を示したロードマップを公表しています。水素燃料電池船については、以下のような展望が示されています。

  • 2028年までにゼロエミッション船の商業運航を実現させること。

  • 2050年を目標とし、船舶分野における水素・アンモニアなど代替燃料への転換を実現させること。

船舶産業の成長戦略「工程表」

出典:国土交通省『「次世代船舶の開発」プロジェクトの研究開発・社会実装計画(案)について』(2021/5/24)(p.11)

4.まとめ:船舶の脱炭素化は実現する。企業も脱炭素への取り組みを始めよう。

この記事では、水素燃料船に関する基本的な知識についてご紹介しました。2028年までのゼロエミッション船の商業運航の実現を目指し、水素燃料船の実用化に向けた取り組みが進んでいます。EV車への転換など自動車だけでなく、船舶に関しても脱炭素化は必ずやってくるものです。水素燃料船に関する理解を深め、企業でも脱炭素への取り組みを始めましょう。

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