LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?企業の取り組みも解説!
- 2023年11月05日
- CO2算定
LCAという言葉をご存知でしょうか。LCAとは、企業が生産する製品が廃棄されるまでにどのような環境負荷を与えるかを数字にあらわす手法のことです。
近年は製品のライフサイクルで発生する二酸化炭素の排出がLCAの分析対象となっています。今回は、LCAとは何か、LCAで重視される環境負荷、各企業の実践例などについてまとめます。
目次
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LCAとは何か?
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LCAで重視される環境負荷とは
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LCAが必要とされる理由
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各企業が実践するLCAの事例
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まとめ:中小企業もLCA導入が不可避
1. LCAとは何か
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、Life Cycle Assessmentの頭文字をとった言葉で、製品やサービスの生産から消費、廃棄に至るまでのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に算出する手法のことです。
出典:環境省『再生可能エネルギー及び素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン』
製品のライフサイクルは、原料調達⇒製造⇒使用⇒廃棄の順に展開されますが、その過程で多くの資源やエネルギーを消費します。また、ライフサイクルの過程で環境に影響を及ぼす廃棄物も作り出します。
一方でLCAを行うことにより、こうした製品やサービスを生み出すことで発生する環境への影響を数値化し、生産に伴う環境負荷や消費に伴う環境負荷を分析し、それを減らすことが期待されています。
2. LCAで重視される環境負荷とは
LCAでは、製品・サービスの生産から廃棄に至るまでの環境負荷を数値化します。中でも、生産活動や消費活動に関する環境負荷はとても重要です。
以下、一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI)が公表している『LCAを考える「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例』に沿って、環境負荷について整理します。
(1)生産活動に伴う環境負荷
企業が何らかの製品やサービスを生み出すにあたり、原料調達や製造・加工は必要不可欠です。それらにより生み出される環境負荷を、生産活動に伴う環境負荷とします。
プラスチックを例にとると、プラスチックの原料は原油です。これを採掘するために、採掘プラントを建設します。その際、採掘プラントの資材や建設にあたって使用する動力(エネルギー)、採掘した原油の輸送に要するエネルギー、採掘現場に与える影響などは典型的な生産活動に伴う環境負荷です。
さらに、運ばれてきた原油を加工する際に使うエネルギーや他の資源も当然、生産活動に伴う環境負荷となります。
出典:一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI)『LCAを考える』(2019)(p5)
(2)消費活動に伴う環境負荷
今度は、消費の側面から環境負荷を考えてみましょう。
工場で生み出されたプラスチック製品は、消費者によって使用され、やがて廃棄されます。廃棄や処分の方法によって、環境に与える影響は異なります。
廃棄されたプラスチック類を焼却処分した場合、CO2、SOx、NOxなどの大気汚染物質を放出します。
出典:一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI)『LCAを考える』(2019)(p7)
また、焼却されず単に投棄された場合は、海洋プラスチックごみとなり、海洋汚染の原因となります。
出典:環境省『海洋プラスチック問題について』(2018/7)(p2)
近年、海洋プラスチックごみによる海洋汚染は深刻さの度合いを増しています。
海岸には漁具やポリタンク、洗剤容器などのプラスチック製の廃棄物が多数漂着しました。また、サイズが5mm以下のマイクロプラスチックが生態系に及ぼす影響についても懸念されます。
こうした廃棄物は消費に伴う環境負荷の代表例といえるでしょう。
3. LCAが必要とされる理由
LCAの考え方が必要な理由は、気候変動や環境汚染に対する関心が世界的に高まっているからです。2015年に開かれた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において採択された「パリ協定」では、以下の目標を掲げました。
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世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
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そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
出典:資源エネルギー庁『今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~』
そして、2020年10月26日の所信表明演説で菅前総理大臣が「日本が2050年までにカーボンニュートラル1を目指すことを宣言」しました。
出典:資源エネルギー庁『令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)』(2021)
こうした流れを受け、生産から廃棄までの製品のライフサイクルにおいて二酸化炭素排出量の削減が必須のものとなりました。以後、LCAは製品のライフサイクル全体における二酸化炭素排出量削減のための分析といった意味合いが強まります。
4. 各企業が実践するLCAの事例
(1)富士通
富士通グループでは、1998年から環境配慮設計の開発を強化するためLCAを導入しました。2019年度にはクラウドサービスとサーバやネットワーク機器を自社で保有するオンプレミスの比較をしました。
その結果、クラウドのデータサービスに集約することで、資源消費量と廃棄物量を低減できるという推定結果を得たとしています。
(2)日本ハム
日本ハムは自社製品の「森の薫り®」シリーズで、生産から消費の中でどのくらいの二酸化炭素を排出しているかを計算し、製品に使用した二酸化炭素量を明示し添付するカーボンフットプリント・マークを導入しました。
それと並行して、グループ全体での二酸化炭素排出状況を分析したところ、原材料調達の場面で二酸化炭素を多く排出していることがわかりました。これらを踏まえ、今後も二酸化炭素排出削減に努めるとしています。
(3)スズキ
スズキは材料調達から車両の製造、輸送、走行、廃棄までのライフサイクルで二酸化炭素をどの程度排出しているか測定しました。また、車種ごとでの二酸化炭素排出量もあわせて測定。製品開発に生かしています。
また、NOx、SOx、PM、NMHCといった二酸化炭素以外の大気汚染物質も計測し、走行時の排出削減に努めています。
出典:スズキ『LCA』
(4)キャノン
キャノンでは、LCAを活用した製品の環境配慮設計をしています。その際、国際基準に準拠した評価を行い、LCAによる評価結果の見えるかに努めました。そして、製品のライフサイクルで生じる温暖化ガス排出量に加え、エネルギー資源消費や鉱物資源消費、酸性化などの情報を公開しています。
また、技術的に削減困難な二酸化炭素については、カーボンオフセットの制度を利用することで実質的にゼロになるよう取り組んでいます。
出典:キャノン『キヤノンのLCA(ライフサイクルアセスメント) 』
5. まとめ:中小企業もLCA導入が不可避
LCAは、大企業を中心に導入が進められています。以前は、企業は生産責任を問われることはあっても、その後の製品の行く末まで見る義務はありませんでした。
しかし、地球環境問題に対する関心の高まりとともに、企業に対して製品のライフサイクル全般において二酸化炭素の排出をはじめとする環境への影響を問うようになりました。
この流れは大企業にとどまらず、大企業の下請け企業や規模が大きくない中小の事業者に対しても適用されていきます。
それを待っているよりは、むしろビジネスチャンスと捉え、積極的にLCAを導入し大企業では手が届かないようなニーズを見つけるメリットに目を向けるべきではないでしょうか。