令和4年から導入の「特定卸供給事業制度」とは?電力価格が安定する理由

特定卸供給制度によりアグリゲーターが中小規模の再生可能エネルギー由来の電源を束ねて管理し、ひとつの発電所のような役目を果たすVPPの構築が進められています。

この記事では,特定卸供給(アグリゲーション)にまつわる重要語句を確認しながら、今後の日本の電力を支える一部となる特定卸供給事業(アグリゲーションビジネス)についての基本をご紹介します!

目次

  1. 電力の特定卸供給事業制度とは

  2. アグリゲーション・ビジネス

  3. 特定卸供給事業制度の今後

  4. 電気の価格の安定とアグリゲーション

  5. まとめ:エネルギー転換期を乗り切るために

1. 電力の特定卸供給事業制度とは

「特定卸売供給制度」とは、アグリゲーターと呼ばれる特定卸供給事業者が、発電事業者を除く電気の供給能力者に対し、発電または放電を指示します。そして、そこから集約した電気を小売電気事業・一般配電事業・特定拝承電事業などに供給する制度です。

アグリゲーターは小規模な電源を束ねて調整しながら、小売電気事業者・配電事業者に電気を供給する仲介の役目を果たします。

アグリゲーターの役割 図解

出典:資源エネルギー庁『アグリゲーター制度の詳細の設計』p.2(2020年12月)

特定卸供給事業者(アグリゲーター)とは

特定卸供給事業(アグリゲーション)を行う事業者(アグリゲーター)は、需要家側のエネルギーリソースや分散型エネルギーリソースを統合制御し、VPPやDRからエネルギーサービスを提供する者です。VPPとDRのついては次項「アグリゲーション・ビジネス」で解説します。

アグリゲーターには2種類の役割があります。

  • リソースアグリゲーター
    需要家とVPPサービスを直接締結してリソース制御を行う事業者

  • アグリゲーションコーディネーター
    リソースアグリゲーターが制御した電力量を束ね、一般配電事業者や小売電気事業者と直接電力取引を行う事業者

  • アグリゲーションビジネス 概念図

出典:資源エネルギー庁『エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス ハンドブック』p.3

出典:資源エネルギー庁『VPP・DRとは』

2. アグリゲーション・ビジネス

脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーの主力電源化のためには、発電事業者ではない中小規模で発電された電力も重要です。アグリゲーターはこれらの電力を集約して、蓄電池なども活用しながら、適切な需要と供給を管理します。そして、これらの電力を、従来の電源と比べても、競争力のあるものにすることがアグリゲーションビジネスです。

アグリゲーションビジネスの重要性

これまでFIT制度によって導入されてきた再生可能エネルギーは、一般配電事業者がインバランスリスク※を負っていることが多く、再生可能エネルギーの需給管理を行う有効な知識や方法を持つ再生可能エネルギー発電事業者や小売電気事業者は少ない状況でした。しかし、今後、卒FITや新たに導入されるFIP制度の導入増加にともない、再生可能エネルギー発電事業者も需給管理の責任を負う必要が出てくると予想されます。

大規模な事業者であれば、このような需給管理を自ら行うことも可能ですが、小規模な再生可能エネルギー発電事業者については、それらの電力を束ねて蓄電池などのリソースと組み合わせながら需給管理を代行するアグリゲーションが必要です。ヨーロッパなどの先進的な電力市場では、すでにアグリゲーターがこうした価値を提供し、再生可能エネルギーの主力電源化に貢献しています。

出典:資源エネルギー庁『FIP制度の詳細設計と アグリゲーションビジネスの更なる活性化④』p.15(2021年1月)

※インバランス:電力の需要量と供給量の差のこと。小売電力事業者などはあらかじめ一般送電事業者に電力の需要や発電量の計画値を提出します。この値と実際の発電量に差が生じると、インバランス料金が発生します。インバランス料金は電力の余剰・不足に応じて一般配電業者から請求・支払いが行われます。

 

アグリゲーターによるインバランス回避 概念図

出典:資源エネルギー庁『FIP制度の詳細設計と アグリゲーションビジネスの更なる活性化④』p.18(2021年1月)

出典:資源エネルギー庁『VPP・DRとは』

VPP(バーチャルパワープラント)

VPPはVirtual Power Plantの略です。太陽光発電などの再生可能エネルギー・蓄電池・電気自動車・ネガワット(節電した電力)など、多様なエネルギーリソースをloT(モノのインターネット)を活用した高度な管理技術によって遠隔・統合制御して、あたかも1つの発電所のような機能を提供する仕組みです。

VPPのイメージ画像

出典:資源エネルギー庁『バーチャルパワープラント』

DR(ディマンドリスポンス)

DRとはDemand Responseの略です。需要家側のエネルギーリソースを制御して、電力需要のパターンを変化させることです。

DRは需要制御のパターンによって需要を減らす「下げDR」と、需要を増やす「上げDR」に区別されます。つまりDRとは、アグリゲーターが契約者に指示を出して、全体の電力供給が足りないことが予想されれば蓄電池から放電したり照明の消灯・生産設備の稼働を減らすなどして電力の需要を抑え、全体の電力供給が過剰になることが予想されれば、その時を狙って蓄電池やEVの充電を行ったり、生産設備の稼働を増やしたりすることです。

DRの代表的な例

  • 空調・照明などの調整・停止

  • 生産設備などの生産計画の変更

  • 蓄電池などによる放電

  • 蓄電池・EVなどに充電

DRの代表的な例 4種 図解

出典:資源エネルギー庁『バーチャルパワープラント』

3. 特定卸供給事業制度の今後

ACの育成 図解

出典:資源エネルギー庁『アグリゲーションに係る実証事業等の 概要と進め方について』p.8(2021年7月)

令和4年(2022年)導入開始

令和4年(2022年)から、特定卸供給制度(アグリゲーターライセンス制度)の導入が始まります。また、2024年度からは一次・二次調整力(需給調整市場)の開始が予定されています。

それに向けたアグリゲーションコーディネーター(AC)となる事業者の拡大・育成やリソースの高度制御に関する実態調査が現在進められています。

需給調整市場

現在は一般配電事業者がそれぞれに条件を設定して電力需給の調整力を募集しています。2024年からは需給調整市場を設置することにより、市場取引によって電力の調整力が調達されるようになります。

既にVPPとDRを活用したビジネスとしてネガワット取引が始まっています。ネガワット取引はアグリゲーターなどとの契約により、電気の需要がピークのなる時節電を行う「下げDR」です。このようなアグリゲーターとの契約により、事業者だけでなく一般家庭でもVPP・DRに参加し、収入を得ることも可能になります。

出典:資源エネルギー庁『VPP・DRの活用』

特定卸供給事業(アグリゲーター)に期待されること

FIP対象となる再生可能エネルギー電力や家庭などの小規模な太陽光発電・EV・エネファーム(家庭用燃料電池システム)など、分散して存在するさまざまな電源を活用して、束ねた電力を供給する特定卸供給事業(アグリゲーションビジネス)の普及拡大により、再生可能エネルギーのさらなる導入推進が期待されています。アグリゲーションビジネスは工場などの大規模な需要家の電力消費をアグリゲーターなどの事業者を通じて制御するサービス(DR)がすでに実用化されています。

アグリゲーションビジネスのイメージ 図解

出典:資源エネルギー庁『アグリゲーター制度の設計』p.13(2020年10月)

4. 電気の価格の安定とアグリゲーション

2020年12月中旬以降、電力スポット市場価格が高騰しました。電力スポット市場とは長期契約によらない電力の取引で、翌日に発電または販売する電気を前日までに入札して取り引きする市場です。

下のグラフからも、2021年1月の急激なスポット価格の高騰がわかります。それまでの最高値は2018年7月の26.2円/kWhでしたが、2021年1月には154.6円/kWhという近年例を見ない高い水準となりました。

スポット市場 システムプライスの長期推移 グラフ、表

出典:資源エネルギー庁『市場価格高騰を踏まえた FIT制度上の制度的対応』p.4(2021年2月)

電力スポット市場価格高騰の原因

この2021年度冬の電力スポット価格高騰の原因は、厳しい寒波による電力需要の増加や燃料在庫の減少による液化天然ガス火力の出力低下などが主な原因として考えられます。しかし一方で、このような急激な高騰は市場設計の不備と指摘する声も上がっています。

出典:日経XTECH『「高騰の原因は市場設計の不備」 規制改革相チームが卸電力市場改革を提言』(2021年2月)

アグリゲーターの制御により価格の安定を

このような電力市場価格の高騰により、FIT制度では小売電気事業者が特定の再エネ事業者からFIT電気を買い取る際に高額な料金の支払いを余儀なくされ、困難な状況に陥りました。特にFIT電気を積極的に買い取り、電力の地産地消に取り組んでいる地域の新電力の多くが影響を受け、苦しい状況に追い込まれました。

出典:日経BP『電力市場高騰で地域新電力が苦境、資金支援は見送り』

このような急激な電力価格の高騰を避けるため、VPP・DRを活用したアグリゲーターによる調整力が注目されています。AIによる電力需給の予測と「上げDR」「下げDR」を駆使することにより、2021年度の冬に発生したような価格の高騰を防ぐことが期待されています。

5. まとめ:エネルギー転換期を乗り切るために

今、世界が脱炭素社会へのエネルギー転換期の中にあります。地球温暖化を抑制することは急務ですが、既存のエネルギーシステムをすぐにGHG(温室効果ガス)排出のない手段に変えることは困難です。

太陽光・風力などの大規模な再生可能エネルギー設備や水素エネルギーの計画・実証・建設は着々と進んでいますが、脱炭素社会の構築には、災害や系統のトラブルへの耐性の観点からも、発電事業者以外の中小規模再生可能エネルギーの導入拡大が必要です。

中小企業でも電気代の削減停電時に貴重な資産であるデータを守るためなどの非常電源として、自家発電設備を取り入れる企業が増えています。このような自家発電設備を取り入れる際には、余剰電力をアグリゲーターを介して売電し、収入につなげることも視野に入れるべきです。

各種化石燃料をはじめ資源の価格や電気代は今後も高くなっていくことが予想されます。中小企業にとっても、省エネによるネガワットの創出や自家発電設備の導入は長期的に見てとてもメリットが多いと考えられます。

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