環境問題に世界で取り組む!IPCCの第6次評価報告書(AR6)の概要とは?

IPCCは2021年8月に第6次となる評価報告書(AR6)を発表しました。地球温暖化が進み、世界各国は一丸となって対策に取り組んでいます。その中で指標として利用されるIPCCの評価報告書とは、一体どのようなものなのでしょうか。ここではIPCCがどんな団体で、どのような活動を行なっているのか、また発表された第6次評価報告書についてその概要を解説します。

CO2の排出削減を始めとする地球温暖化対策は企業にとっても大きな課題となっており、この課題に取り組むにはIPCC評価報告書を理解しておくことは重要なので、しっかり学んでおきましょう。

目次

  1. 第6次評価報告書(AR6)を発表!IPCCとは?

  2. 気候変動の未来とは?第6次評価報告書の概要

  3. 日本でも進む!IPCC評価報告書に基づく地球温暖化への取り組みは?

  4. 【まとめ】IPCC第6次評価報告書(AR6)は地球温暖化対策の重要な指標!

1. 第6次評価報告書(AR6)を発表!IPCCとは?

まず、IPCCとはどのような組織で、何を行っているのかという点から解説します。

IPCCとは?

IPCCは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の頭文字で、 「気候変動に関する政府間パネル」という意味です。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立された政府間組織であり、スイスのジュネーブに事務局をおいています。2021年8月には195の国と地域が参加し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的としています。

世界中の科学者の協力により、出版された文献(科学誌に掲載の論文など)に基づいて気候変動に関する科学的知見の評価を行い、定期的に報告書を作成しています。

出典:国土交通省気象庁『気候変動に関する政府間パネル』

2007年に発表された第4次評価報告書では、「我々を取り巻く気候システムの温暖化は決定的に明確であり、人類の活動が直接的に関与している」として、地球温暖化の原因が人類の活動にあることを指摘し、その後の世界的な温室効果ガスの排出削減への取り組みにつながっています。

出典:環境省『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書』(2007.2.2)

IPCC設立の背景

大気中のCO2の増加により、地球の平均気温が上昇することは100年以上前から科学的に指摘されていました。しかし現在では当たり前のようになっている地球温暖化の原因が、人間の活動によるものであるという認識は、1980年代ではまだ科学的に解明されていませんでした。

1985年にオーストリアのフィラッハで行われた科学者による国際会議で、「CO2を主とする温室効果ガスの影響で、21世紀前半には地球の平均気温は人類史上かつてないほど上昇する」という警告が発せられました。このような背景があったことで、各国協力のもと、3年後の1988年にIPCCの設立に至りました。

IPCCの構造

IPCCは、気候変動に関する様々な問題を科学的根拠に基づき評価・検討するために、専門分野の異なる3つの作業部会(Working Group)に分けて、それぞれの分野に必要なネットワークを形成しています。

  • 第1作業部会(wg1)

第1作業部会は、気候システムや気候変動に関する科学的知見の評価を担当しています。今後の気温の上昇率の予測や、海面上昇の推移などを科学的根拠で評価しています。

  • 第2作業部会(wg2)

第2作業部会では、気候変動に対する社会経済、自然システムの脆弱性や、気候変動による影響、適応オプションについての評価を行います。気候変動によって生態系はどのような影響を受けるのか、健康被害・災害発生に伴う経済的損失、また、その悪影響を抑えるための方策についての評価となります。

  • 第3作業部会(wg3)

第3作業部会は、温室効果ガスの排出削減などの気候変動対策への評価を行っています。各国の気候変動への取り組みについて、どのような実績に繋がったかなどの緩和策の評価を行なっています。

  • TFIインベントリタスクフォース

3つの作業部会とは別に設けられているグループで、温室効果ガスの排出量や吸収量などの標準的な算定方法の開発・普及に取り組んでいます。日本には、TFIの技術支援ユニット(TSU)と呼ばれる事務局機能が1999年に設置されています。

IPCC組織図

出典:国土交通省気象庁『気候変動に関する政府間パネル』

2. 気候変動の未来とは?第6次評価報告書(AR6)の概要

IPCCは2021年8月9日、第6次となる第1作業部会の評価報告書を発表しました。2013年に発表された第5次評価報告から8年が経ち、気候変動に関する評価はどのように進展しているのでしょうか。大きく4項目によって発表されているその概要をまとめてご紹介します。

現状の気候

現在の気候変動の状況がまとめられているこの項目でのポイントは、第5次評価報告では「20世紀半ば以降の温暖化の主な要因は、人間の影響の可能性が極めて高い」という表現から、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と一層の断定的な表現に変更されていることにあります。その根拠として、地球の地表温度が1850年から1900年の期間と比べ、2011年から2020年の間で1.09℃上昇していること、そのうち1.07℃が人為的要因であるという事実を挙げています。

将来の予測

世界の平均気温は、少なくとも今世紀半ばまでは上昇し続けます。しかし、向こう数十年の間に温室効果ガスの排出が大幅に減少しなければ、気温上昇の幅は大きくなり、21世紀中に地球の気温は1.5℃から2.0℃高くなると報告されています。

気温が1.5℃から2.0℃上昇した場合、「極端な高温」・「海洋熱波」・「大雨」・「干ばつの頻度、強度の割合」・「強い熱帯低気圧の割合」・「北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小」などを影響をもたらします、そのスケールは100年から1000年となると予測されています。

出典:環境省『IPCC AR6評価報告書の政策決定者向け要約』(p3)

出典:環境省『IPCC AR6評価報告書の政策決定者向け要約』(p4)

リスク評価と地域適応のための気候情報

AR6では、世界の各地域での気候変動がもたらすリスクに対して、科学的な知見から適応に向けた適切な取り組みを進めるための情報を提供しています。

その一つとして、もし、地球の平均気温が1.5℃上昇した場合、アフリカとアジアでは大雨と洪水による被害が激化、また頻度が上がると示されており、その備えの必要性を唱えています。このリスクに対応できない地域の被害は極めて深刻な状況となると考えられています。

将来の気候変動の抑制

この章は、ここまでまとめられた内容に対して、「どのようにして特定のレベルまで抑制するのか」を示した項目となります。

具体的には、「今世紀半ばまでにCO2排出量を正味ゼロにすることで、気温上昇を1.5度以下に抑える」ことなどが挙げられます。地球温暖化は今まで排出されたCO2の量とこれから排出されるCO2の合計(累積CO2排出量)に比例しており、少なくとも今世紀後半までには、実質ゼロにする必要があると述べられています。その他、温室効果ガスの一つであるメタンについても排出量を大幅に削減する必要性が言及されています。

出典:環境省『IPCC AR6評価報告書の政策決定者向け要約』

3. 日本でも進む!IPCC評価報告書に基づく地球温暖化への取り組みは?

日本でもIPCCの評価報告に基づき、様々な取り組みが行われています。その内容についてもご紹介します。

  • グリーン成長戦略

地球温暖化対策への目標として、政府は2050年でのカーボンニュートラルを掲げています。しかし、実現には大きな課題もあり、エネルギー・産業部門の構造転換・投資によるイノベーションの創出が必要となります。経済産業省が中心となり「グリーン成長戦略」を策定し、成長が期待される重要分野についての実行計画を策定、実現を目指す企業へのバックアップを行っています。

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』

  • 環境省における気候変動対策の取組

2019年に開催された「気候変動枠組条約25回締約国会議(COP25)では小泉環境大臣が日本での取組を発信しました。温室効果ガスの5年連続削減、経団連の「チャレンジ・ゼロ」、「RE100」の加盟企業3位などの企業の取組などをアピールし、日本の地球温暖化対策を世界に向けて発信しています。

2016年に閣議決定された「地球温暖化対策計画」に基づき、環境省では中長期的な目標の策定から、世界での温室効果ガス削減に向けた取り組みを行っています。2020年にまとめられた「環境省における気候変動対策の取組」では、エネルギー起源CO2の削減に向けた再生可能エネルギーへの転換、家庭での省エネ対策、運輸部門での電気自動車の推進などが盛り込まれています。

出典:環境省『環境省における気候変動対策の取組』(2020.9.1)

4. まとめ:IPCC第6次評価報告書(AR6)は地球温暖化対策の重要な指標!

IPCCの評価報告書は、1990年の第1次評価報告書から世界各国の地球温暖化対策の指標として利用され、5年から7年おきに更新されて今年の第6次評価報告(AR6)の発表へと続いています。今回の内容に新しい変化はありませんでしたが、地球温暖化の対策としてCO2の排出削減が行われれば気温の上昇の安定を図ることができると述べられています。今後の未来のためにも政府、企業とも気候変動への取組を進めていく必要があるでしょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024