CO2排出のコストとCO2の価格付け「カーボンプライシング」とは

二酸化炭素を排出している

カーボンプライシングとは、CO2に価格をつけ、排出者の行動を変化させることを目指す経済的手法です。この記事ではカーボンプライシングの世界と日本における現状や今後の動向についてわかりやすく解説していきます。

目次

  1. CO2の価格付け「カーボンプライシング」とは

  2. CO2価格付けの種類

  3. CO2コストの水準|日本と世界

  4. CO2の排出コストとカーボンプライシングの今後

  5. まとめ:カーボンプライシングへの対応を早期に

1. CO2の価格付け「カーボンプライシング」とは

カーボンプライシングとは、CO2に価格をつけ、排出者の行動を変化させることを目指す経済的手法です。代表的な例は炭素税や排出量取引ですが、再生可能エネルギーの導入促進のために電気料金に上乗せされているFIT賦課金や民間セクターによるインターナル・カーボンプライシング、さらにボランタリークレジットの取引もカーボンプライシングに含まれます。

日本でも地球温暖化対策のための税(温対税)、化石燃料課税、FIT賦課金、J-クレジット制度、非化石証書など、すでにさまざまな経済的手法が導入されています。カーボンクレジットの購入など、民間での自主的な取り組みも広がっています。

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.10(2021年8月)

CO2の扱われ方の変化

これまで地球温暖化の主な原因とされるCO2は「迷惑財」として扱われ、対策が議論されてきました。民間では炭素の価格付けや市場取引が行われず、税や排出上限の設定や排出量取引などをはじめとした政府主体の価格付けによって、CO2排出量削減が目指されていました。

しかし、近年の企業活動においてのガバナンスルールの変化により、CO2を削減することは価値であるという認識が浸透してきました。これに伴い、民間ベースでの多様なCO2排出削減への取り組みが実施され、単なるCO2排出量削減にとどまらず、それに付随する削減方法・削減場所などに応じた、多様なCO2の価値付けがされるようになりました。

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.7(2021年8月)

また、CO2削減やCO2の回収・有効利用する技術(CCUS・CCSなど)の開発が進み、CO2を「迷惑財」ではなく、投入財として評価する動きもあります。このような技術にはCO2吸収型コンクリートやH2(水素)とCO2の合成燃料の開発、人工光合成によるプラスチックの原料の合成などがあります。

CO2の有効利用4例、図

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.8(2021年8月)

2. CO2価格付けの種類

炭素税

CO2の排出量に対して、その量に応じた課税を行うことで、炭素に価格をつける仕組みです。価格は政府が決定し、総排出量の削減はコスト負担者に依存します。

CO2の排出が多いほど高額の課税がされるので、この課税負荷により企業によりCO2の排出が少ない取り組みが選択される効果と、税による収入を有効活用することにより脱炭素投資促進効果(財源効果)が期待できます。

しかし、すぐにCO2を削減することが困難な企業にとっては負担が増加するほか、相対的に家計負担に及ぼす影響が高所得者と比較して低所得者に大きくなることなどの課題があります。環境省は炭素税導入に積極的な姿勢を示していますが、経済産業省は慎重な構えです。

各国の炭素税、財源、用途、表

出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて①』p.22(2021年3月)

排出量取引制度

排出量取引制度には大きく分けてキャップ&トレード型とベースラインクレジット型の2種類あります。ここではキャップ&トレード型を「排出量取引制度」として、ベースラインクレジット型を次の項で「クレジット取り引き」として説明します。

全体のCO2排出量を政府が定め、各企業に対して排出枠を設けてこの排出枠を上回るCO2の排出がある場合、企業間の排出枠の売買などにより割り当てられた排出枠を確保する仕組みです。

CO2の排出量をすぐに削減できない企業はCO2排出量の削減が比較的容易な企業から排出枠を調達して新たなCO2削減技術が社会実装されるまでの時間を稼ぎながら、社会全体としてのCO2削減効果が期待できます。

炭素税、排出量取引、比較表

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.20(2021年8月)

クレジット取り引き

クレジット取り引きとはCO2削減に価格をつけて、市場を通じて企業間で取り引きをする仕組みです。民間セクターの運営によるものは「ボランタリークレジット」と呼ばれます。

クレジット取り引きには企業が調達する電源の属性を示す「証書」(kWh単位)と、調達電源以外も含めたCO2削減価値を示す「クレジット」(t‐CO2単位)があります。前の項のキャップ&トレード型の排出量取引では、政府が企業にCO2の排出上限を課しますが、この項でクレジット取り引きとして扱うベースラインクレジット型では排出総量に上限を課さず、設備投資などの削減取り組みがなかった場合との差分を認証し、クレジットとして取り引きします。

事業活動とクレジット・証書の関係、概念図

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.21(2021年8月)

クレジットの比較、表

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.33(2021年8月)

炭素国境調整措置

炭素国境調整措置とは、輸入品に対しCO2排出量や炭素コストなどに応じて輸入の際に負担を求めるか、輸入品に対してCO2削減のための負担分を還付する、またはその両方を行う制度です。炭素国境調整措置は、国際的な貿易での悪影響を回避しつつ、新興国を含む世界各国が実効性のある気候変動対策に取り組むことを目指したものです。

この措置を導入することにより、国の気候変動対策を進めるにあたって、他国の気候変動対策との大きな差による競争上の不公平を防止し、カーボンリーケージが生じることを防止します。カーボンリーケージとは、先進国の温室効果ガス排出削減のための規制導入により、製品がそのような規制を受けていない海外からの輸入品に代替され、結果的に地球全体の温室効果ガスの排出が減らないという問題です。

炭素国境調整措置、概念図

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.6(2021年8月)

3. CO2コストの水準|日本と世界

日本では既に炭素税としては温対税(289円/t-CO2)がありますが、石油石炭税・揮発油税などもあり、全ての化石燃料に何らかのエネルギー税制が課せられています。これにFIT賦課金を加えると、2018年の実績では日本の人口1人あたりにかかる化石燃料などの税負担は53,318円となります。

日本の化石燃料税などの負担水準、表

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.12(2021年8月)

日本のエネルギーコスト

日本のエネルギーコストを各国と比較すると、世界でもドイツに次ぐ2位で既に高い水準にあります。しかし、下の表から見る日本のエネルギーコストは必ずしもCO2の排出量に比例しての負担になっておらず、諸外国から見てもCO2排出に対して適切なコストを支払っていないという指摘もあります。

電力価格水準、世界比較、グラフ

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.13(2021年8月)

世界各国の負担水準

世界各国では既に多くの国で炭素税が導入されていますが、税負担が全体として過度になりすぎないよう適切にバランスがとられています。スイスを例に見ると、道路運輸以外の部門においてOECD諸国の中で最も高い炭素税ですが、道路運輸部門に炭素税はありません。

また、スウェーデンの炭素税は日本よりも非常に高い一方で、燃料税は日本よりも低くなっています。このように世界各国の炭素税や燃料税の負担割合はそれぞれの国の事情を考慮してさまざまです。

炭素税・化石燃料諸税の負担水準比較、表

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.14(2021年8月)

4. CO2の排出コストとカーボンプライシングの今後

クレジット取引の活性化

国内のカーボンクレジット取引が活性化することにより民間主体のカーボンプライシングが進み、国全体としてもCO2削減への取り組みが加速することが期待できます。具体的には以下のような活動の促進に効果があります。

  • 証書を活用した調達エネルギーのカーボンニュートラル化

  • クレジットを活用した生産活動やサプライチェーンから排出されるCO2の低減

  • カーボンオフセットを利用した製品の高付加価値化

  • クレジットファイナンスによる国全体の省エネ・森林などのCO2吸収源・新技術への投資

炭素価格取引市場、概念図

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.25(2021年8月)

日本でもカーボン・クレジット市場創設へ

経済産業省は2021年8月5日に発表されたカーボンプライシングの本格導入についての中間整理案で、カーボン・クレジット市場(仮称)創設の方針を明らかにしました。日本のカーボン・クレジット市場は2022年に試験導入が計画されています。

出典:朝日新聞『カーボン・クレジット市場整備へ 炭素税は結論先送り』(2021年8月6日)

カーボンニュートラルトップリーグ、概念図

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.29(2021年8月)

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.30(2021年8月)

5. まとめ:カーボンプライシングへの対応を早期に

CO2排出には今後ますますコストがかかることが予想されます。世界のトレンドや産業界のニーズは脱炭素化に動いており、取引先やサプライチェーン全体にCO2削減の取り組みを求める企業も増えています。

カーボンプライシング市場が活性化すれば、その動きはますます広がります。すでにCO2削減のためにコストをかけることで競争において不利にならないような措置も世界的に広がっています。

世界のトレンドとニーズの変化、図

出典:経済産業省:『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.24(2021年8月)

企業経営にとって、CO2排出にかかるコストの計算は必須なったと言えます。温室効果ガス排出量管理クラウドサービスなどを利用し、効率的に自社のCO2排出量やエネルギーの利用状況を正確に把握するとともに、省エネや再エネなどによるCO2の排出量削減や、クレジットの取り引きの検討もしておきましょう。

今後の経済の流れを考えると、CO2排出に係るコスト削減をはじめ、CO2排出削減や森林管理などによるCO2吸収量をクレジットとして取り引きすることで利益を上げたり、クレジットの購入を含めたCO2排出量削減への取り組みで企業の価値を確保していくことは重要です。CO2のコストに関わる仕組みや今後の動きをしっかりと確認して、企業の長期的な成長につなげましょう。

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