CO2を地中に埋める!?注目の「CCS」技術とは?

土の上に葉っぱがある

「CCS」というCO2を回収し、地下深くに貯留する技術をご存知でしょうか。世界では脱炭素社会に向けて多様な取り組みや技術開発が推し進められており、「CCS」もそのひとつです。産業プロセスにおいてどうしても排出されてしまう二酸化炭素を適切に対処する「CCS」は海外ではビジネスの一つとしても注目されており、日本でも実証実験が行われています。

この記事では、「CCS」の持つ可能性や課題、合わせて貯留したCO2を有効活用する方法も含めて様々な角度から「CCS」をわかりやすく解説します。

目次

  1. そもそもなぜCO2削減に取り組まなければならないのか

  2. CCSはCO2削減に向けて欠かせない技術

  3. CO2を削減するCCSの期待と課題

  4. 回収したCO2の有効活用とCCSの今後

  5. まとめ:CCS技術を知り、CO2削減の現状を認識する企業へ

1. そもそもなぜCO2削減に取り組まなければならないのか

温室効果ガスによって引き起こされる問題

CO2をはじめとする温室効果ガスはその濃度が高まり過ぎると温室効果が強まり、地表の温度が過度に上昇します。すると大気の流れが乱れ、地球温暖化とともに気候変動を誘発し、各地で異常気象や気温上昇を巻き起こすのです。人間の経済活動によって、非化石エネルギーに由来するCO2の排出量は20世紀に入り急速に増加しています。

世界のエネルギー起源CO2排出量と実質GDPの推移のグラフ

出典:環境省『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書第2章第2節「パリ協定を踏まえた世界の潮流」』

世界は脱炭素へと向かっている

持続可能な社会を構築するためにも、世界はいま脱炭素に向けて動き始めています。その内の一つに「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」が目的の「カーボンニュートラル」があり、これはCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという取り組みです。

日本は2050年までに温室効果ガス排出ゼロを目指し「2050年カーボンニュートラル宣言」をしました。今後世界の流れはますます脱炭素へと向かうでしょう。

2018年の各二酸化炭素排出量と2050年の排出量の目標を表した図

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021/02/16)

2. CCSはCO2削減に向けて欠かせない技術

「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)二酸化炭素回収・貯留」とはどんな技術か

それではCCSとはどのような技術なのでしょうか。CCSはCarbon dioxide Capture and Storageの略であり、日本語では「二酸化炭素の回収・貯留」になります。火力発電所や化学工場から排出するガスを使って回収し、CO2だけを分離して安定した地下深くに貯留、圧入(封じ込め)する技術です。

CO2回収には主に5つの方法があり、CO2の発生の規模や特性によりどれを使用するか選択されています。

  1. 「物理吸着法」CO2を固体吸着剤に吸着させる。

  2. 「化学吸収法」CO2を吸収液に溶解させる。

  3. 「物理吸収法」吸収液に高い圧をかけてCO2を物理的に吸着させる。

  4. 「膜分離法」特殊な膜でCO2だけを透過し分離する。

  5. 「深冷分離法」極低温状態で液化させ沸点の違いを利用し分離する。

また回収したCO2は以下の3つの方式で大気中に漏れないようにしっかりと貯蔵されているのです。

  1. 「地中貯留方式」CO2が漏れにくい地層を選び、その空間や帯水層に圧力をかけてCO2を封じ込める。

  2. 「海底貯留方式」海底深くでCO2は安定した状態で留まる性質を利用し貯蔵する。

  3. 「中層溶解方式」水深1000メートル以上の海中でCO2を炭酸水のように海水に溶かしてしまう。

出典:資源エネルギー庁『知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」』(2017.11.14)

CCSでどれだけの二酸化炭素を貯留できるのか

日本の沿岸地域には約1500億トン~2400億トンのCO2を貯留できる可能性があるといわれており、現在進められている調査から全国には数億から数十億トン級のCO2の貯留に適した地質条件を持つ地点が複数あるということが推定されています。

また、2005年に気候変動に関する政府間パネルが報告したCCSのレポートによると、世界全体のCO2の貯留可能量は少なく見積もっても2兆トンあり、これは2010年における世界のCO2総排出量の約100年分に相当するという試算が成されています。

出典:資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(後編)」(2020.12.25)

出典:地球環境研究センター「ココが知りたい地球温暖化 温暖化の対策]」(2013.8)

地中に埋めたCO2は安全なのか

地中に埋められたCO2は漏れ出したりすることなく安全は確保されるのでしょうか。CCSはCO2を貯留する空間のある地層(貯留層)があることが前提になります。そしてCO2を通さないためのフタの役目をする地層が(遮蔽層)がなくてはいけません。IPCCでは適切な地層を選び、さらに適正な管理を行えば貯留したCO2を1000年に渡り封じ込めることが可能であると報告されました。CO2を地層のどの部分に埋めるのかを表した図

出典:資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)」(2020.11.27

3. CO2を削減するCCSの期待と課題

日本のCCS実証実験

日本初のCCSとして、2012年から北海道苫小牧市の沿岸部にプラントを建設し、大規模な実証実験が行われました。CO2を分離して回収、貯留までの技術は既に確立されていましたが、それらを統合し一貫したシステムとして機能するかの確認が行われたのです。この実験では2016年から2019年の間に海底下の地中に目標の累計圧入量30万トンのCO2の貯留を達成しました。

苫小牧市のプラントでは製油所の水素製造設備から排出されるガスをパイプラインで輸送し、その後ガスの中からCO2だけを分離・回収し貯留層に封じ込め貯留しました。その後はきちんと監視が続けられています。この実験ではCCSがCO2削減のための一貫したシステムであることが実証され、さらに地域の住民の理解を得ながら安心安全に操業できた世界初の例となったのです。

苫小牧市のCCS技術を表した図

出典:資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)」(2020.11.27

CCSに掛かるコスト問題

CCSにも課題がないわけではありません。他気体からCO2を分離させ、回収する時にかかるコストの問題があります。CO2の分離や回収方法は化学的手段や特殊な膜を使用する方法などがとられていますが、それぞれにコストがかかります。そのためにコストを現在の半分以下にする実用的な技術の研究や開発が積極的に進められているのです。

世界で活用が進むCCS

2008年のG8北海道洞爺湖サミットでは「2010年までに世界的に20の大規模なCCSの実証プロジェクトが開始されることを強く支持する」ことの重要性が説かれました。またグローバルCCSインスティチュートの報告によれば、世界では約70件の大規模プロジェクトがありそのうちの9件が稼働中となっており、各国ではCCS推進に向けた様々な取り組みが行われ、また注目されています。

左:世界のCCS大規模プロジェクト数の円グラフ、右:稼働中プロジェクトの貯留層の円グラフ

出典:経済産業省「CCSのあり方に向けた有識者懇談会(第1回)CCSの現状について」(p.2)(2018.11.6)

4. 回収したCO2の有効活用とCCSの今後

CO2が役立つ「カーボンリサイクル」

CCSで回収し貯留したCO2を有効活用しようという動きも高まっています。そのひとつが「カーボンリサイクル」です。カーボンリサイクルとはCO2を炭素資源(カーボン)として捉えて、さまざまな炭素化合物として再利用(リサイクル)するという考え方です。カーボンリサイクルを行うことで

  • CO2の回収コストの低減

  • CO2を素材・資源に転換する技術の開発(化学品、燃料、鉱物等)

  • 炭素由来の化学品・資源等の用途開発

これらを推し進め、新たなエコシステムを構築する目的があります。

出典:資源エネルギー庁「カーボンリサイクルについて」

CCSを産業化するに当たっての事業環境整備

日本にはCCSを進めるために特化した法令がありません。そのため今後はCO2を海底下に地下貯留し、さらにはそれを産業化するための法整備が必要になります。

またCO2を排出する工業地帯が太平洋側に多数存在するのに対して、CO2を貯留するのに適した地域は日本海側に多いという事実もあり、船舶などを利用した長距離輸送が必要になっていきます。今後は長距離輸送が可能かの検証を実証する計画も進んでいく予定です。

CCSが世界ビジネスとして成立の可能性

CO2削減やカーボンニュートラルの実現のために、CCSは欠かせない技術となっています。CCSは技術としては既に確立されているため、各国のエンジニアリング会社はコスト削減に向けての技術を競い合って開発しており、ビジネスとしてのさらなる拡大を図るために動いています。例えば、ノルウェーのノーザンライツと呼ばれる事業には政府が総事業費の8割に当たる16億ユーロ(約2085億円)を投じるまでになっているのです。

出典:日経ビジネス「CO2を地下に閉じ込める「CCS」、世界で70億tの削減担う」

5. まとめ:CCS技術を知り、CO2削減の現状を認識する企業へ

CCS技術について様々な角度から解説しました。脱炭素社会に向けてCO2削減の技術は今後もますます開発されていくでしょう。日本でも実証実験が進められているCCSの技術は、今後も促進され社会の注目を集めることは間違いないのです。

このように世界で推し進められているCO2削減のための技術は企業にとっても無関係ではありません。社会的に注目される技術に関心を持つことは企業としての未来を描くことにもつながるのです。

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