気候変動・異常気象の対策に中小企業の取り組みが求められている理由

2021年8月西日本から東日本にかけて、広範囲で大雨が降りました。近年の気候変動による異常気象は私たちの生活に深刻な影響を与えています。

地球の気候に今何が起こっているのでしょうか。気候変動とそれにともなう異常気象の現状、そのための対策と産業経済への影響から、これからの企業の方向性を確認しましょう。

目次

  1. 気候変動の現状

  2. 気候変動が引き起こす異常気象

  3. 気候変動・異常気象抑制のための取り組み

  4. まとめ:異常気象への理解を深め、リスク管理を!

1. 気候変動の現状

人間の活動によるCO2などの温室効果ガスの増加やエーロゾル(大気中の微粒子)の増加、森林破壊などは気候変動に強い影響を与えていると考えられます。温室効果ガスの増加は地上の気温を上昇させ、森林破壊などの植生の変化は水の循環や地球表面の日射の反射量に影響を与えます。

出典:気象庁『気候変動』

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から2021年8月に発表された報告書によると、科学者たちによって世界のあらゆる地域で観測された気候の変化の多くは、地球の歴史を数千年単位で見ても前例のないものです。すでに起こっている海面上昇の継続など、いくつかの変化はもとに戻すことが困難で、その影響が数百年から数千年に及ぶ深刻なものです。

加速する温暖化

出典:環境省『令和3年版 環境白書 第2節 気候変動問題の影響』(2021年)

2021年8月のIPCCの報告書によると、1850年から1900年以降の約1.1℃の平均気温の上昇は、人間の活動による温室効果ガスの排出に起因し、今後20年間で世界の平均気温は1.5℃またはそれ以上に上昇すると予想されています。この報告書は、温室効果ガスの排出を急速かつ大規模に削減しない限り、地球の温暖化を1.5℃近くに抑えるどころか、2℃に抑えることさえできなくなることを明らかにしています。

気候変動の多くは地球温暖化の進行度に直接依存しています。しかし、多くの場合、人間社会への影響は地球の気候変動の平均値からは大きく異なります。

なぜなら陸地の温暖化は地球の平均より進行しているからです。例えば北極圏での温暖化は地球の平均の2倍を超えています。

気候変動により予測される変化

このIPCCの報告書は、今後数十年のうちにすべての地域で気候変動が増大すると予測しています。地球温暖化による気候変動は、さまざまな地域に多様な影響を与えています。

気候変動による影響は、例えば以下のような降水・乾燥・風・雪氷や沿岸地域と海洋の変化によってもたらされます。いずれの影響もさらなる温暖化により増加します。

  • 気候変動によって水循環が高まり、降雨とそれに伴う洪水が激しくなります。

  • 多くの地域で干ばつが深刻化します。

  • 気候変動が降雨パターンに影響を及ぼし、高緯度地域で降水量が増加し、亜熱帯地域の大部分では降水量が減少します。

  • 地域によっては雨期の降水量が変化します。

  • 沿岸地域での海面上昇が続き、低地では沿岸洪水と海岸侵食がさらに頻繁かつ深刻になります。

  • 従来は100年に1度の頻度で発生していた海面水位の異常な現象が毎年発生する可能性があります。

  • 永久凍土層が融解、季節的な積雪の減少、氷河と氷床の融解、夏季に北極圏の海氷の減少が進みます。

  • 水温上昇、海洋熱波の頻度増加、海洋の酸性化、酸素濃度の減少などの海洋の変化は、海洋生態系とそれに依存する人々の両方に影響を及ぼします。

  • 市街地では通常その周辺部よりも高温になるため、熱、豪雨による洪水、沿岸都市での海面上昇など、気候変動の一部の側面が増幅される可能性があります。

出典:国際連合広報センター『気候変動は拡大し、加速し、深刻化している 』(2021年9月)

出典:環境省『COOL CHOICE 地球温暖化の影響』

2. 気候変動が引き起こす異常気象

世界の気象災害

出典:環境省『令和3年版 環境白書 第2節 気候変動問題の影響』(2021年)

気象庁によれば、2020年の世界平均気温は2016年と並んで観測史上最高でした。世界気象機関(WMO)によれば、特にシベリアで高温が長期間続き、2020年6月ベルホヤンスクで北極圏の観測史上最高気温となる38.0℃が観測されました。

アメリカのカリフォルニア州デスバレーでも過去80年間で最高となる54.4℃が観測されました。この高温による乾燥の影響もあり、2020年の夏から秋にかけて、カリフォルニア州を含むアメリカ西部では大規模な森林火災が発生し、8,500棟以上の建物に被害をもたらし、41人が亡くなりました。

出典:環境省『令和3年版 環境白書 第2節 気候変動問題の影響』(2021年)

日本の異常気象

日本では2021年8月中旬から下旬にかけて、西日本から東日本の広い範囲で大雨が降り、多いところで総降水量が1,400㎜を超える記録的な大雨でした。特に8月12日から14日には九州北部地方と中国地方で線状降水帯が発生し、8月13日から15日には各地で特別警報が発表されました。

※線状降水帯:線状に伸びる大雨をともなう降水帯。発達した積乱雲が次々と発生して列をなし、組織化した積乱雲群となって、通過・停滞することにより強い降水をもたらす。

出典:気象庁『令和3年8月の記録的な大雨の特徴とその要因について』p.1,p.2(2021年9月)

2020年12月中旬には日本海側を中心に大雪となり、東北地方や北陸地方を中心に19地点で72時間降雪量が2019年冬までの記録を更新しました。この大雪は、西シベリアの高気圧や熱帯のラニーニャ現象が原因で日本付近の偏西風が南に蛇行し、寒気が流れ込みやすくなったことが要因と考えられます。

※ラニーニャ現象:太平洋の赤道付近東部の海水温が低下する現象。これに対し太平洋の赤道付近東部の海水温が上昇するのがエルニーニョ現象。

出典:気象庁『令和2年 12 月中旬以降の大雪と低温の要因と今後の見通し』p.1,p.2(2021年1月)

3. 気候変動・異常気象抑制のための取り組み

パリ協定による世界共通の気候変動対策

世界は今、この深刻な環境の問題に対応するために、脱炭素社会への歴史的な大転換期の中にあります。2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で合意されたパリ協定では、世界共通の気候変動対策として以下のことを目標としています。

  • 産業革命以降の世界の平均気温の上昇を2℃より下回るように抑え、1.5℃に制限する努力を継続する。

  • 21世紀後半にカーボンニュートラルを達成すること。

  • それぞれの国は温室効果ガス削減目標を達成するための国内対策をとり、削減目標を5年毎に提出・更新して従来より前進すること。

※カーボンニュートラル:人間の活動による温室効果ガス排出量が森林などによる吸収量と差し引いてゼロの状態。ネットゼロ。

出典:環境省『新たな成長のための環境行政 気候変動対策』p.10

ESG金融の主流化が進む

深刻化する気候変動・異常気象は人間社会にとって多くのリスクをもたらすことが予想されます。これに対応するため、今後は企業の環境への配慮・社会貢献・企業自身の管理体制の情報を分析したうえで長期的な視点で企業を評価し投資・融資するESG投資が主流化していきます。

ESG投資ではこれまで計上や評価が難しかった無形資産も重要視されます。この流れに乗り遅れないために、自社の無形資産も分析し、長期的にも持続可能な企業の経営と成長を考えましょう。

※無形資産:物理的な実態の存在しない、特許・商標権・著作権などの知的資産、社員の持つ技術や能力などの人的資産、企業文化・経営管理・社会貢献などの企業基盤。会計制度上は原則として計上できないため、無形資産の評価を得るためにはは各企業が情報をまとめ開示する必要がある。

産業・経済のSXに取り残されないために

アメリカではすでに市場に占める無形資産の割合は年々増加しており、2020年には時価総額の90%が無形資産でした。一方、2020年時点で日本では無形資産が32%であり、まだ市場に占める割合は有形資産の方が多い状況です。

出典:経済産業省『事務局資料 経済産業政策局 産業資金課・企業会計室』p.11(2021年8月)

これは日本市場においては、無形資産の価値がこれから評価・創造されるとも考えられます。気候変動による異常気象が深刻な影響をもたらしている今、企業には大きな経営の転換が求められているのです。

すでに産業・経済ではSX(サスティナビリティ・トランスミッション:持続可能な循環型社会への移行)が始まっています。

日本の脱炭素社会に向けた取り組み

日本は2050年カーボンニュートラル達成を目指しており、このためには家庭・産業部門での大幅なCO2削減が必要です。その取り組みの一つとして環境省が推進する「COOL CHOICE」があります。

気候変動への対策は国や自治体、大企業だけが取り組むことではなく、全ての家庭や中小企業も含めたすべての企業が、今できることから取り組む必要があります。COOL CHOICEは脱炭素社会づくりに貢献する製品への買い替え、サービスの利用、ライフスタイルの転換などあらゆる場面において気候変動に配慮した「賢い選択」を促す国民運動です。

出典:環境省『新たな成長のための環境行政 気候変動対策』p.15

日本企業の異常気象への取り組み事例

株式会社エコシステムは廃瓦・レンガを使った機能性舗装材で都市型洪水やヒートアイランド現象の抑制に貢献しています。気候変動により集中豪雨や台風・ハリケーンの頻度が増加し、地表がコンクリートやアスファルトで覆われている都市部では水の浸透・吸収が難しく都市型洪水が発生する頻度が高くなりました。

また、気温の上昇によりヒートアイランド現象が悪化し、熱中症などの健康被害や感染症を媒介する蚊が越冬するなどの生態系の変化が懸念されます。株式会社エコシステムの透水性・保水性の機能を持つ廃瓦・レンガで舗装することで都市型洪水やヒートアイランド現象を抑制します。

株式会社エコシステムでは、ベトナムで不法投棄されている建築廃材や瓦・レンガにも着目しています。これらを購入・再利用し、地域のごみ問題の解決にも貢献するビジネスモデルも予定しています。

出典:経済産業省『日本企業による 適応 グッド プラクティス 事例集』p.25,p.26(2021年3月) 

4. まとめ:異常気象への理解を深め、リスク管理を!

気候変動・異常気象への対応は長期的に見た経費削減や、新たなビジネスの機会・雇用を創出する成長戦略と考えるべきです。

中小企業も取り組みを始めたら進歩を確認し、情報をまとめて開示することが必要です。しっかりと過去のデータと現状を把握し、省エネや電化、再エネの利用など、できることから取り組みを始めましょう。

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