【法人向け解説】再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)とは?

再生可能エネルギーの話題になった時、時折出てくる固定価格買取制度(FIT)。さまざまな情報がありますが、企業にとってどのような影響があるのかは分かりにくいもの。今回は「法人にとっての固定価格買取制度とは?」という疑問にお答えします。制度の目的は? 売電価格が下がっている? 購入側にも負担が生まれている? ——経営にも関わる固定価格買取制度。その概要を整理していきましょう。

目次

  1. 再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)とは
  2. FIT制度のメリットとデメリット
  3. FIT価格は下がり続けている、固定買取価格の推移
  4. FIP制度とは?FIP&FIT制度の今後と対策

1. 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)とは?

まずは、制度の基本情報を整理していきましょう。再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)とは、その名の通り国が発電された再エネの電力を固定価格で買い取る制度です。基本情報は下記となります。

【FIT = Feed-in Tariff 制度の概要】

  • 再生可能エネルギー特別措置法(再エネ特措法、FIT法)に基づき制定
  • 買取期間は発電量により変化、一般に家庭規模で10年間、企業規模だと20年間
  • 買取にかかる費用は、再エネ賦課金として全電力購入者が一律の単価で負担する
  • FIT価格は毎年5月に経産省が決定、一般の市場価格より割増で買い取られる

という制度です。一般の方ならこの理解で充分ですが、法人の方は目的や背景まで抑えておきましょう。

この制度の最大の目的は、日本での再生可能エネルギーの導入を促すためです。制度の施行は2012年7月ですが、この頃の背景として「元々の日本の電力自給率の低さ」「東日本大震災による火力発電増加」の2つがありました。

元々、1900年代末から電力自給率の低さは日本で大きな課題となっており、2010年ごろまでは高い年でも20%程度の自給率で推移してきました。そして2011年東日本大震災の影響で、国内の電力自給率を支えていた原子力発電の稼働が低下。日本は輸入が必要な海外産の石油・石炭を用いた火力発電で電力を賄うことになりました。結果、電力自給率はその後6%台まで下がってしまったのです。

日本は「電力自給率の低下」「火力発電増加に伴うCO2排出増加」「石油・石炭の価格高騰」が発生し、これらを解決する手段として、政府は再エネによる国産発電を増やそうと、FIT制度を含む再エネ特措法を策定したのです。

【FIT制度の歴史】

  • 2003年:RPS法←FIT制度の前身
  • 2012年7月:FIT制度施行←再エネ普及施策を強化
  • 2017年4月:改正←未稼働案件への対応
  • 2022年:FIP制度導入予定←高出力発電に対する制度を市場連動型に改正

2. FIT制度のメリットとデメリット

さまざまな事情から生まれたFIT制度ですが、実際にどのようなメリット・デメリットがあったのでしょうか。今回は法人の方にも分かりやすいように「政府視点」「経営視点」のそれぞれで整理してみましょう

FIT制度の影響 メリット デメリット

政府視点

国内の再エネ増加により
電力自給率の向上、CO2排出量の削減
  • 太陽光発電に偏重
  • 未稼働案件の増加
  • 輸入品の太陽光電池増加

経営視点

投資として高い利回りの享受(発電事業者)

電力代(再エネ賦課金)
負担が急増

政府視点【メリット】

  • 国内の再生可能エネルギー、特に太陽光発電が非常に増えた

エネルギー白書2020年によると、2012-2018年の間、太陽光発電導入量は911→5,337万kWに増加。稼働設備は約2.3倍になりました。また、産業として発達することで、低コスト化、発電効率の上昇など、再エネ関連の開発も大きく進み、日本の電力自給率の向上やCO2排出削減量の増加に繋がりました。


出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2020年『第3節2(2)再生可能エネルギー①全般』

政府視点【デメリット】

  • 太陽光発電に導入が偏重

国内電力が太陽光発電に偏ってしまうと、電力の出力が不安定になります。それは国内の天候に発電量が左右されるため、電力不足の時期、時間帯が集中してしまうためです。出力不安定が停電の一因や送配電事業者の需給管理の難易度を上げることに繋がります。
電力業界の原則として「同時同量」(発電量と消費量を同じ時に同じ量にすること)があり、これを満たせないと停電が発生する

  • 未稼働滞留案件の増加

FIT制度適用を申請し、認定されたにもかかわらず、設備のコスト低下をまって事業の利益率を上げるために発電設備を稼働しない企業が増加しました。これにより、①国民負担の増大への懸念、②新規開発・コストダウンが進まない、③系統容量が押さえられてしまう等の課題が顕在化している状況です。このため、2017年にFIT法は改定され、一定期間未稼働の場合はFIT認定を失効するなどの対策が取られました。

  • 外国産の低コスト太陽光パネルの輸入が増加

利益率を上げるために、今までは品質が高い国内産パネルが使用されていましたが、低コストの外国産の太陽電池で制度を利用する企業が増え、太陽光パネルの国内出荷量のうち海外産の使用比率は2011年28%→2019年83%に急増しました。


年度別FIT認定の稼働状況。2012年~18年の未稼働案件は、6,528万kW分の2,685万kWと4割近くに上る。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2020年『第1節3(2)既認定の未稼働案件がもたらす問題と対応』

経営視点【メリット】

  • 発電事業者にとって投資案件として高い利回りが享受された

一度認定されれば、当時のFIT価格で20年安定的に買い取ってもらえるため、損益分岐点・将来利益が可視化・固定化され、リスクも限られているため、企業にとっては優良な投資案件となりました。

経営視点【デメリット】

  • 再エネ賦課金が急増し、毎月の電力代の負担が増加(全法人および家庭)

急増する買取価格を賄うため、国民負担である再エネ賦課金が急増し、電力代を支払うすべての法人、家庭で負担が増加しています。
(尚、詳しくは別の記事の『「再生可能エネルギー発電促進賦課金は上がり続けるのか?企業負担の推移』にて解説していますので、ご参照ください。)

3. FIT価格は下がり続けている、固定買取価格の推移

政府・経営視点のデメリットにある国民負担の軽減するため、また発電設備のコスト減少などを受けて、固定買取価格(FIT価格)は年々減少しています。制度開始から現在にかけての推移を見てみましょう。

発電方法や発電出力によってFIT価格は変更される。発電出力による価格基準も年度ごとに変更されている。
2020年現在、50kW~250kWが12円/kWh、250kW以上は入札方式で買い取られる。
出典:以下を元にアスエネが作成
経済産業省『FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化』
資源エネルギー庁『買取価格・期間等(2020年度)』『買取価格・期間等(2012年度~2018年度)』
日経BP『FIP移行は「メガ」以上、2021・22年度の買取価格は11円・10円が濃厚』

FIT価格の推移を見ると、法人の発電規模(太陽光パネル約30畳分以上)の価格は、制度開始から2020年にかけて、40円/㎾h⇒12-13円/㎾hと3分の1以下に大幅に減額されていることがわかります。

また、経産省が検討中の資料によると、2025年までにFIT価格を7円/㎾hにする目標があり、これを受けて日経BP総合研究所は、2021~22年はさらに減少して10~11円/㎾hになるのではという予測をしています。

経営的な視点で見ると、制度導入初期に太陽光発電事業に参画した方が、高い売電価格で20年間電力を売ることができたということになります。しかし、現在も売電価格は下がり続けていますが、発電事業を行う企業は増えています。

その理由は、

  • 設備コストである太陽光パネルや蓄電池などの費用が毎年減少し続けていること
  • 2050年のカーボン・ニュートラル実現に向け、再エネ発電のようなESG活動を評価するお客さまが増えていること
  • 電力小売自由化に伴い、再エネ電力のお客さまが多様化し、FITを活用しない非FITで相対契約を結んで電力を売電するという選択肢ができたこと(今後増加予定)

などがあります。つまり今からでも再エネ発電に取り組むことは、環境に良い影響を与えるのはもちろん「事業としての収益性」「本来の事業の受注増加」「企業のイメージアップ」など、さまざまなメリットに繋がります。

4. FIP制度とは?FIP&FIT制度の今後と対策

最後に、今後の制度の変更についても整理しておきましょう。記事冒頭の【FIT制度の歴史】にある通り、2022年度からは市場連動型のFIP制度が導入されます。

Feed-in Premium制度(「FIP制度」)は、発電規模が小さい家庭発電には適用されない制度ですが、50kW以上の高圧の法人規模の発電所には大きな影響を与えます。2021年1月現在、まだ制度として詳細は確定していませんが、経産省では以下のような方針で検討されています。

【FIP = Feed-in Premium 制度の概要】

  • 2022年度から、発電出力の大きい電力供給者の電力は、市場連動型の価格で任意に売却ができる
  • 市場連動型とは、FIPによる売却価格=市場価格+一定額のインセンティブという形
  • 「連系出力1,000kW以上」はFIPに移行。「50kW以上1,000kW未満」はFITとFIPを選択できる
  • 「地域活用要件を満たす10kW以上50kW未満」、「10kW未満の住宅太陽光」は、引き続きFITによる買取を続行する


参考:
資源エネルギー庁「FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化」

これにより、経営視点ではあらたなメリット・デメリットが生まれます。

【メリット】

  • 市場価格により買取価格が変更されるため、適切な運用次第ではFIT制度よりも投資効果を上げれる可能性がある
  • 再エネ賦課金上昇が抑制され、経営支出となる全国の電力代が軽減

【デメリット】

  • 固定価格ではなくなるため、投資案件として安定性が減少。事業収益の将来性の見通しが不透明に
  • 発電量管理・売電時のオペレーションコストが増加

つまり、電力売却時に発電者同士の競い合いが起こるため、適切に運用が可能であれば、大きなメリットを得ることができます。しかし、中小企業など再エネの活動に取り組みたくとも運用できるほど余裕がないという法人も少なくないでしょう。

そのような企業では、再エネを「販売」するのではなく、「購入」することで再エネ活動・ESG活動に取り組むという事例が増えています。2020年に日本で掲げられた2050年カーボンニュートラルという目標の影響で、環境へ取り組む姿勢の評価はより大きくなっていきます。今後の経営に脱炭素に向けた環境活動は必須となってくるので、自らの事業規模にあった方法を模索し、積極的に検討してみましょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024