持続可能な社会のための「グリーンボンド」とは? メリット・発行額も解説
- 2022年06月15日
- SDGs・ESG
2015年に国際連合でSDGsが採択されました。これをきっかけに、企業の環境・社会・ガバナンスへの取り組みを投資の判断基準に組み込んだESG投資が2018年には30.7兆ドルに増大、世界の投資残高の3分の1を占める規模になりました。
このSDGsの目標達成に向けた大きな流れの中で、グリーン投資、グリーンボンド、グリーンウォッシュといった「グリーン」をキーワードとした話題が注目されています。「グリーン」という言葉からおおよその見当がつきますが、今回はこの中からグリーンボンドについて解説します。
目次
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グリーンボンドとは
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これまでのグリーンボンド発展の流れ
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グリーンボンドのメリット
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グリーンボンド発行額の実績
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まとめ:グリーンボンド拡大で脱炭素を後押し
1. グリーンボンドとは
グリーンボンドとは、企業や地方自治体が、国内外のグリーンプロジェクトに必要な資金を調達するために発行する債権です。
グリーンプロジェクトは地球温暖化など環境問題の解決に取り組む事業のことで、持続可能な社会を目指した省エネルギー化、再生可能エネルギー、廃棄物処理、土地利用、水の管理、生物多様性の保全、環境への負担の少ない交通、気候変動への対応などが挙げられます。
グリーンボンドの特徴
グリーンボンドの特徴は、調達資金の使い道がグリーンプロジェクトに限定されることです。グリーンボンドで調達された資金は確実に追跡調査され、発効後は情報開示・報告によりその利用目的の透明性が確保されます。
グリーンボンドの発行では、発行体と投資家、アレンジャー、環境性に関する外部のレビュー機関が関与します。
アレンジャー:グリーンボンドを発行する際に、発行条件(利率・償還期間など)を提案したり調整したりする組織や機関で、主に証券会社です。発行されたグリーンボンドの引受け、投資家への販売も行います。
外部レビュー機関:グリーンボンドにより調達した資金の使い道が適正かを評価する機関で、監査法人や認証機関などです。グリーンプロジェクトによる環境改善効果などを客観的に評価します。
グリーンボンドの種類
ICMA(International Capital Market Association:国際資本市場協会)が発行するグリーンボンド原則では、グリーンボンドの種類として4つが示されています。それぞれ、償還に充てる原資の違いがあります。
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Standard Green Use of Proceeds Bond
特定の財源に頼らず、発行体全体のキャッシュフローを原資として償還を行います。 -
Green Revenue Bond
調達資金の充当対象となる公的なグリーンプロジェクトのキャッシュフローや、それに係る公共施設の利用料、特別税などを原資として償還を行います。 -
Green Project Bond
調達資金の充当対象となる単一または複数のグリーンプロジェクトのキャッシュフローを原資として償還を行います。 -
Green Securitized Bond
グリーンプロジェクトに係る通常は複数の資産(融資債権、リース債権、信託受益権などを含む)を担保として、これらの資産から生まれるキャッシュフローを原資として償還を行います。
2. これまでのグリーンボンド発展の流れ
世界のグリーンボンド発展の沿革
2007年に欧州投資銀行(EIB)が「Climate Awareness Bond」として債券を発行したのが世界で初めてのグリーンボンドです。2014年以降、国際的なグリーンボンドの市場規模は急速に拡大しました。
2014年にはグリーンボンド原則が策定されました。これに基づき、世界各国や地域でもグリーンボンドに関するガイドラインが策定されています。
グリーンボンドの市場規模拡大により、発行体の属性や地域も多様化し、欧米諸国だけでなくアジア地域などでの発行も増加しています。
日本のグリーンボンド発展の沿革
日本では2010年から2012年にかけて国内の機関投資家による私募SRI債投資が増加していました。SRIとはSocially Responsible Investment の略で、企業の社会的責任を判断基準に取り入れた投資です。
2014年には日本政策投資銀行が国内初のグリーンボンドを発行しました。これに続き、2015年には都市銀行、2017年には東京都がグリーンボンドを発行し、発行額は増加しています。
環境省は「グリーンボンド発行モデル創出事業」や「グリーンボンドの発行に要する追加的コストの補助制度」などの政策を打ち出し、日本国内のグリーンボンドのさらなる発行を促進しています。
3. グリーンボンドのメリット
発行体には資金用途が限定され、認証や報告などに手間とコストがかかるグリーンボンドですが、他方で発行体・投資家・環境への様々なメリットがあります。グリーンボンドの拡大は循環型経済・脱炭素社会への移行のための推進力となります。
発行のメリット
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サスティナビリティ経営の高度化
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グリーンプロジェクト推進による社会的支持の獲得
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新たな投資家との関係構築による資金調達基盤の強化
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比較的好条件での資金調達の可能性
投資のメリット
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ESG投資の一つとしての投資
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投資を通じた投資利益と環境面からのメリットの両立
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グリーンプロジェクトへの直接投資
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オルタナティブ投資(新しい投資対象や投資手法)によるリスクへの対応・備え
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目的を持った対話の実施による信頼関係の構築
環境のメリット
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地球環境保全への貢献
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グリーン投資に関する個人の啓発・関心向上
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グリーンプロジェクト推進を通じた社会や経済の問題解決への貢献
4. グリーンボンド発行額の実績
グリーンボンドは世界的に金額・件数ともに拡大しています。世界的には再生可能エネルギーを中心としたエネルギー分野、建物、交通の分野で全体の8割を占め、産業からの発行はまだ少ない状況です。
出典:経済産業省『トランジション・ファイナンスを巡る動向』p.5(2021年1月)
日本のグリーンボンド発行額
日本でもグリーンボンドの発行・投資事例は増加しています。2017年には発行総額が2,000億円を突破しました。
発行は増えていますが、海外と比較すると日本のグリーンボンドの規模や発行件数はまだ少ない状況です。日本国内・世界のどちらの動向にも気を配り、さらに多くの民間資金をグリーンプロジェクトへ誘導することは、SDGsの目標や「2050年カーボンニュートラル」の達成のために重要となります。
出典:環境省『国内におけるグリーンボンド発行・投資への期待』(2021年8月)
世界のグリーンボンド発行額
世界的なESG投資の増加により、グリーンボンドは国際的に急速に普及しています。CBI(Climate Bonds Initiative)が公表している世界のグリーンボンド発行実績によると、2012年に31億ドルであったのに対し、2019年には2,575億ドル規模の発行実績となっています。
出典:環境省『国内におけるグリーンボンド発行・投資への期待』(2021年8月)
5. まとめ:グリーンボンド拡大で脱炭素を後押し
グリーンボンドは明確な環境改善事業への投資
グリーンボンドにより調達される資金は、明確な環境改善効果をもたらすと判断されたグリーンプロジェクトに充当されます。明確な環境改善効果とは、例えば太陽光発電施設を設置する際に大規模な土地造成を行い、景観や生態系を損ねるなどの環境面からのネガティブな効果が本来の環境改善効果と比べ過大にならないことも含みます。
近年、ESG銘柄の中には「グリーンウォッシュ」と呼ばれる、市場での評価を上げるためにESGに取り組んでいるかのように見せておきながら、実際はESGに積極的に取り組んでいない企業が問題になっています。金融庁は東京証券取引所と連携して、投資家が安心してグリーンボンドに投資できる仕組みを作り、金融面から脱炭素社会への移行を後押しする方針です。
出典:日本経済新聞『「偽装グリーン」排除へ 金融庁、脱炭素へ市場整備』(2021年7月)
見せかけのESG活動は暴き出される
TCFDの提言を支持する企業800社の開示情報を解析するために、スイスとドイツの研究者が共同で作り上げた自然言語処理モデル「ClimateBert」(AI)による調査から、「TCFDの提言を支持する表明の大半は表面的なものに過ぎない」という結果が発表されました。国際的にも多くの企業が「自分たちに都合の良い、実際には大して重要でもない気候関連の情報を開示している」とAIにより判断されたのです。
しかしESGや環境活動を一時的な流行に終わらせないためには、このような批判的な視点や監視の目も大切です。技術の進歩により、実際の事実に伴わない情報は通用しなくなる時代が目前に迫っています。
出典:日経ビジネス『AIが暴き出す「見せかけのESG」』(2021年3月)
グリーンボンド普及で脱炭素社会への移行促進
環境省はグリーンボンドの環境改善効果への信頼性確保と発行体のコストや事務的負担軽減の両立のため、グリーンボンドガイドライン(2020年版)を作成しています。投資する側としても、企業の情報をしっかりと分析し、信頼できる銘柄選出を心がけましょう。
グリーンボンドの普及はSDGsの目標達成や循環型・脱炭素社会への移行の推進力となります。資産運用に安定した投資の一つである債券を選択する際は、グリーンボンドも検討してみてはいかがでしょうか。