【循環型経済の電力】 地域の産業を循環させるバイオマス発電とは

バイオ(bio)は生物、マス(mass)は質量を表します。エネルギー分野ではバイオマスと言えば生物由来の資源を指します。

日本には各地域に多種多様な資源として活用できるバイオマスが存在していますが、その多くはごみとして廃棄されたり森林に放置されたりしているのが現状です。このバイオマスを有効利用できれば、ごみの削減、森林整備、農山漁村など地方の活性化が期待できます。

世界的に環境への関心が高まる中、日本政府も積極的に開発・導入を推進するバイオマス発電とは、どのようなものなのでしょうか。

目次

  1. バイオマス発電とは

  2. 廃棄物系バイオマス発電

  3. 未利用バイオマス発電

  4. 資源作物バイオマス発電

  5. これから「バイオマス産業都市」が増える

  6. まとめ:地域のバイオマス発電への取り組みに注目

1.バイオマス発電とは

バイオマスとは生物由来の資源です。森林の間伐材、家畜の排泄物、食品廃棄物など、様々な種類のバイオマスがあります。

これらのバイオマスを燃料にして発電したり、熱を利用したりします。バイオマスは燃やせばCO2を発生しますが、成長する過程でCO2を吸収していたり、もともと廃棄されるものを有効活用していることから、全体で見れば大気中のCO2濃度に影響を与えないカーボンニュートラルなものとされています。

※バイオマスの活用状況

出典:資源エネルギー庁『知っておきたいエネルギーの基礎用語~地域のさまざまなモノが資源になる「バイオマス・エネルギー」』(2017年11月)

バイオマス発電の特長

石油のような化石燃料は一度利用すれば再利用が難しいのに対し、バイオマスは再生可能な資源です。バイオマス発電には課題も残されていますが、以下のような多くのメリットがあります。

  1. 地球温暖化対策
    間伐材や資源作物などの光合成により成長するバイオマスを燃料とした発電はCO2を成長の過程でCO2を吸収しているため、燃料として燃される時にCO2を排出しても差し引きでゼロとみなし、カーボンニュートラルな資源であるとされています。

  2. 循環型社会の構築
    廃棄物を燃料としたバイオマス発電は、廃棄物の再利用や減少につながり、循環型社会の構築にあたって重要な要素です。

  3. 農山漁村の活性化
    家畜の排泄物、稲ワラ、建築用材から出る残材などの活用は、国内の農山漁村の自然循環の環境機能を増進し、持続的な農山漁村の発展と活性化が期待できます。

  4. 地域環境の改善
    家畜の排泄物や生ゴミなど、廃棄していたものを有効活用することで、地域の環境改善に役立ちます。

出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギーとは バイオマス発電』

バイオマス発電の分類

バイオマスにはさまざまな種類が存在しますが、大きく分けて廃棄物系バイオマス、未利用バイオマス、資源作物の3つに分類されます。また、バイオマスは得られる場所により木質系、農業・畜産・水産系、建築廃材系、食品産業系、製紙工場系、建築廃材系、生活系に分けられ、さらにその状態から乾燥系、湿潤系、その他に分類されています。

出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギーとは バイオマス発電』

バイオマス産業の市場規模

バイオマス産業の市場規模は、2010年の旧基本計画策定当時は経済波及効果を含めて約1,200億円規模でした。その5年後の2015年には固定価格買取制度を活用した取り組みを中心に拡大し、約3,500億円規模に成長しました。

2015年時点で2025年のバイオマス産業の市場規模の目標を5,000億円としていましたが、すでに2020年4月の日本経済新聞が、2019年のバイオマス産業の市場規模は4,968億円と見込まれていると報道しています。

出典:日本経済新聞『矢野経済研究所、国内のバイオマスエネルギー市場調査結果を発表』(2020年4月)

出典:農林水産省『バイオマスの活用をめぐる状況』14(2021年3月)

2.廃棄物系バイオマス発電

廃棄物系バイオマス発電の特徴

廃棄物系バイオマスは、資源のそれぞれの性質によって利用用途に違いがあります。廃棄物系バイオマスは食品廃棄物、家畜の排泄物、下水汚泥、農産物生産時に発生する茎葉や野菜くず(農業残渣)、木質系廃棄物に分けられます。

家畜の排泄物と下水汚泥の用途は堆肥化とバイオガス化の2つが主な用途です。その他のバイオマスは飼料化、堆肥化、バイオガス化、バイオエタノール化、バイオディーゼル化、熱分解ガス化、炭化、固形燃料、燃焼など多様な用途からそれぞれの性質によって選択され利用されています。

出典:環境省『廃棄物系バイオマスの種類と利用用途』

廃棄物系バイオマス発電の課題

廃棄物系バイオマス利用では、事業所それぞれから排出される廃棄物の回収や分別に手間やコストがかかります。また、食品廃棄物を飼料メーカーに原材料として提供する場合などは、カビの発生や腐敗を防ぐために脱水・乾燥することが求められます。

水分の多い廃棄物や生ごみを含む一般廃棄物は、コストやエネルギーがかかってしまうため、バイオマスとして活用できるものであっても、ほとんどが焼却されているのが現状です。

出典:経済産業省『【インタビュー】「バイオマスエネルギーで循環型社会の形成を」—牛久保 明邦氏(後編)』(2019年7月)

3.未利用バイオマス発電

未利用バイオマス発電の特徴

未利用バイオマスとは、林業や農業で発生する間伐材・剪定枝・稲わら・もみ殻などを指します。未利用バイオマスの利用は森林整備・林業活性化などを促進し、地域経済や雇用への波及効果が期待できます。

出典:日本木質バイオマスエネルギー協会『木質バイオマス発電における課題と要望』16(2017年10月)

製材工場の残材や建設から発生する木材は、すでにほとんどがバイオマスとして利用されています。しかし、間伐材などの林地残材はまだ利用率が低く、これらを活用していくことがバイオマス発電を進めるために不可欠です。

出典:林野庁『木質バイオマスのエネルギー利用の現状と 今後の展開について』12(2020年7月)

未利用バイオマス発電の課題

未利用バイオマスはその特性上、収集・運搬に手間を要することから、労働者の確保・林道、作業道の整備・機械化の推進、貯蔵などの課題があります。また発生個所が地域に広く分布し、収集・運搬・管理にコストがかかるため、効率化と低コスト化が必要です。

出典:林野庁『木質バイオマスのエネルギー利用の現状と 今後の展開について』9,.10(2020年7月)

木質バイオマスは木材を建材などの資源として利用した後、ボードや紙などに利用し、最終段階で燃料として利用されています。これをカスケード利用と呼びます。木質バイオマスのさらなる普及のためにはバイオマスボイラーや家庭用ストーブの導入、発電の際に発生する熱を地域に供給するシステムの構築なども必要です。

出典:林野庁『木質バイオマスのエネルギー利用の現状と 今後の展開について』7,.8(2020年7月)

4.資源作物バイオマス発電

資源作物バイオマス発電の特徴

出典:農林水産省『バイオマス産業都市について』1(2021年7月)

資源作物バイオマスとは、最初からバイオマスとしての利用を目的として栽培や培養を行うものです。トウモロコシ、サトウキビ、てんさい、ミドリムシなど単細胞生物の「微細藻類」などが代表的です。

資源作物によるバイオマス発電は、未利用バイオマスに比べ資源が分散せず、収集・運搬のコストが低く抑えやすい利点があります。また、生産計画が立てやすく品質を一定水準に保てるので、資源の安定供給が期待できます。

出典:農畜産業振興機構『エネルギー資源としてのてん菜』(2010年3月)

資源作物バイオマス発電の課題

生物資源の価値は食用、飼料、肥料、エネルギー用の順で低くなるため、資源作物をエネルギー用として生産するためには生産コストを引き下げる必要があります。

出典:農畜産業振興機構『エネルギー資源としてのてん菜』(2010年3月)

資源作物は種類によっては食料供給や他の既存用途との競合の可能性もあります。また、微細藻類などによるバイオ燃料の技術革新の推進と実用化、高付加価値化も必要です。

出典:農林水産省『バイオマスをめぐる現状と課題』6(2012年2月)
出典:農林水産省『バイオマスの活用をめぐる状況』9(2021年3月)

5.これから「バイオマス産業都市」が増える

バイオマス発電は資源の回収・分別・管理などに手間やコストがかかるなど、課題もありますが、環境にやさしく、新たな雇用の創出が期待できるなど多くのメリットもある発電方法です。政府は内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省によって構成される「バイオマス活用推進会議」を設置し、連携してバイオマス活用を推進しています。

出典:農林水産省『バイオマス産業都市について』2(2021年7月)

地域によって、どのようなバイオマスが発生し、どのような活用ができるかについて各市町村が検討し、その構想が政府の定めた基準を満たすと「バイオマス産業都市」として選定されます。バイオマス産業都市の定義は「経済性が確保された一貫システムを構築し、地域の特色を生かしたバイオマス産業を軸とした環境に優しく災害に強いまち、むらづくりを目指す地域」です。

バイオマス産業都市に選定された市町村は関係7府省が連携して支援します。

出典:経済産業省『【インタビュー】「バイオマスエネルギーで循環型社会の形成を」—牛久保 明邦氏(後編)』(2019年7月)

※バイオマス産業都市の選定地域(94市町村)

出典:農林水産省『バイオマス産業都市について』4(2021年3月)

まとめ:地域のバイオマス発電への取り組みに注目

バイオマス発電は循環型社会の構築に必須

再生可能エネルギーの中では資源の収集・運搬・管理などに手間のかかるバイオマス発電は、日本各地にバイオマスとして活用可能な資源はあるものの、まだ開発や普及が遅れているのが現状です。しかし限りある資源の有効活用とごみの削減が両立できるバイオマス発電は資源の乏しい日本がエネルギー自給率を上げ、2050年カーボンニュートラルを達成するために必須の発電方法です。

それぞれの地域によって、発生するバイオマスは多様であるため、それぞれの地域の特色を生かした地域密着型の施設が一般的です。地域の資源を利用した発電は、大規模な発電所からのエネルギー供給に比べ災害に強く、地域のエネルギー供給の安定にも貢献します。

手間のかかるバイオマス発電には中小企業の参入の機会あり

バイオマス発電はこれからの循環型社会への構築にあたって普及が必要不可欠であるため、政府は積極的に開発・導入を推進します。収集・運搬・管理に手間がかかり地域に密着したバイオマス発電施設の導入にあたっては、この手間の部分を担う企業が必要となります。

バイオマス発電が生み出す新たな産業には、各地域の中小企業に新しいビジネスの機会をもたらします。この機会を逃さないためにも、自社の地域でバイオマスとして活用できる資源を把握し、各地域の取り組みに注意を向けておきましょう。

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