経済産業省が打ち出す新しい電力買取制度「FIP制度」とは?

温室効果ガスの排出削減への取り組みとして、再生可能エネルギーへの転換が求められています。経済産業省では、その推進に向けて新しい電力買取制度である「FIP制度」の導入を決定しています。

では、この「FIP制度」とはいったいどのような内容で、現行制度との違いや、メリットとはどのようなものなのでしょうか。ここでは「FIP制度」について解説します。企業が環境問題に取り組むうえでも重要な内容となりますので、しっかり理解しておきましょう。

目次

  1. 経済産業省の新方策「FIP制度」とは

  2. 経済産業省が示す「FIP制度」のメリットとは

  3. 【まとめ】FIP制度は経済産業省が取り組む再生可能エネルギー産業の推進策!

1. 経済産業省の新方策「FIP制度」とは

日本は2050年の「カーボンニュートラル」達成に向けて様々な取り組みが行われていますが、その中のひとつとして、再生可能エネルギーの推進があります。2019年の日本の温室効果ガス排出量は12億1200万トンとなり、そのほとんどはエネルギー起源の排出となっています。

出典:環境省「2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」(p2)

温室効果ガスの排出削減には、再生可能エネルギーを利用した発電方法への切り替えが必須と言えるでしょう。その方策のひとつが「FIT(固定価格買取)制度」になります。

現行制度の「FIT」とは

2012年に導入された「FIT(固定価格買取)制度」は、当時普及がすすんでいなかった再生可能エネルギーの利用推進をうながすためのものです。これは、再エネ発電事業者を増やし、再エネの導入を拡大するため、「再エネ設備から発電された電気をあらかじめ決められた価格で買い取るように電力会社に義務付ける」制度です。これにより再エネ事業が活発化し、2016年には2012年比で約2.5倍の導入量に達し、急速に拡大することができたのです。

出典:経済産業省『FIT法改正で私たちの生活はどうなる?』(2017.8.8)

FITの問題点

しかし、FITの導入から問題点も生まれていました。ひとつは、「賦課金」についてです。これは、電力会社が再エネ電気を買い取ったコストの一部を電気料金に上乗せし、利用者に負担してもらうことになっています。この金額は2021年度には総額2.7兆円にもなり、今後再エネの導入をすすめていく上ではこうした負担は減らしていくべきであるでしょう。

出典:経済産業省『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート』(2021.8.3)

また、FIT認定を受けた事業者が発電を始めないケースも増えています。FITによる買取価格は、認定時の太陽光パネルなどの価格をもとに設定されており、認定を受けて買取価格を確定させたまま発電されないと、その間に太陽光パネルなどの価格が下がったとしても高い買取価格が維持されてしまい、結果的に利用者への負担が増えてしまうのです。

出典:経済産業省『FIT法改正で私たちの生活はどうなる?』(2017.8.8)

もうひとつは「需要と供給のバランス」についてです。FITは電気利用者のニーズや、事業者の競争によって価格がきまる従来の電力市場とは切り離された制度で、再エネ発電事業者はいつでも同じ価格で買い取ってもらえるので、需要と供給について意識する必要がありません。しかし、今後再エネを発電の主力として考えるうえでは電力市場の状況を踏まえたうえで発電をおこなう、自立した電源としていく必要があるのです。

出典:経済産業省『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート』(2021.8.3)

「FIT」から「FIP」へ

以上の問題点をうけて経済産業省は、2020年6月に新しい買取制度である「FIP<フィードインプレミアム(Feed-in Premium)>制度」の導入を決定し、2022年4月よりスタートさせることになっています。これは再エネの導入がすすむ欧州ではすでに実行されている制度で、「FITのように固定価格で買い取るのではなく、再エネ発電事業者が卸市場で売電する際、その価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進させる」という方法となっています。

出典:経済産業省『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート』(2021.8.3)

FIP制度では、FIT制度と同じく電力会社が再エネ電気を買い取る際の1kwhあたりの単価を「FIP価格(基準価格)」として定められます。FIP価格の基準としては、再エネ電気が効率的に供給される場合に必要な必要な費用をベースに設定され、開始当初はFIT制度の買取価格と同じ水準で設定することになります。

さらにFIP制度では、「卸電力市場の価格に連動して算定された価格+非化石価値取引市場の価格に連動して算定された価格-バランシングコスト」という計算式で算出された「参照価格」というものが定められ、この基準価格と参照価格の差を「プレミアム」として上乗せされた合計を再エネ発電事業者が収入として受け取れるのです。

出典:経済産業省『再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート』(2021.8.3)

2. 経済産業省が示す「FIP制度」のメリットとは

では、新しい方策となるFIP制度のメリットとはどのようなものなのでしょうか。経済産業省が示すメリットについてご紹介します。

再生可能エネルギーへの投資の拡大

FIP制度の利用により、再エネ発電事業者はプレミアムを受け取ることができ、投資へのインセンティブを得ることができます。さらに需要と供給のバランスによる変動は市場価格を意識することにより、発電量や、蓄電池の活用によって市場価格の高いタイミングで売電するなどの工夫でより大きな収益につなげることが可能となります。

また、市場が成熟することにより、発電技術の向上や、蓄電池技術への投資も促進され、より大きなマーケットへの投資拡大につながっていくと予測できます。

アグリゲーション・ビジネスの創出

小規模発電事業者が増えることにより、再エネ電源を束ねて蓄電池システムなどによる需給管理を行う「アグリゲーション・ビジネス」の創出も期待できます。市場取引を代行するビジネスの発展は今後の再エネ事業の新しい可能性を感じることができるでしょう。

出典:経済産業省『2019年、実績が見えてきた電力分野のデジタル化』(2019.11.1)

以上のことから、FIP制度の導入により、再エネ発電事業は今後取り組みが加速していくと考えられ、それにより、再エネ発電のローコスト化も図られ、企業も温室効果ガスの排出削減に向け、再エネ発電利用が一般化していくことでしょう。FIP制度がスタートする2022年に向けてこの分野の動向は注目しておく必要があります。

3. 【まとめ】FIP制度は経済産業省が取り組む再生可能エネルギー産業の推進策!

  • 日本の温室効果ガスの排出量は2019年度で12億1200万トンでそのほとんどがエネルギー起源の排出となっており、再生可能エネルギーの推進が必須となっている。

  • 経済産業省では、2012年より、電力のFIT(固定価格買取)制度を導入し、再エネ利用の推進を図っているが、賦課金による利用者への負担や、需要と供給のバランスの問題点があげられている。

  • 経済産業省ではFITの問題点を改善するため、欧州で採用されているFIP(フィードインプレミアム)制度の導入を決め、2022年4月よりスタートする。

  • FIP制度の導入により、再生可能エネルギー事業への投資の拡大・アグリゲーションビジネスの創出を図り、マーケットを拡大することにより、再エネ発電事業の推進を目指している。

環境問題への取り組みは企業としても重要な課題となっており、再エネ事業の今後の動向は企業の経営にも大きく影響していくことでしょう。国としての方策となるFIP制度の取り組みに注目していきましょう。

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