2050年までに脱炭素社会の実現が必要な理由と、私たちにできること

「脱炭素」という言葉、ご存知ですか?世界的問題、地球温暖化の原因の一つとして知られ、近年より注目されているワードの一つです。

「エコ」や「リサイクル」といった言葉は個人レベルのアクションはイメージしやすいと思いますが、「脱炭素」「脱炭素社会」に向けて何ができるのか、何をしたら良いのかはいまいち分からない方が多いのではないでしょうか?

今回は、脱炭素社会に向けて企業、個人ができることを解説していきます。

目次

  1. 地球温暖化の原因=温室効果ガス?脱炭素が必要な理由とは

  2. 脱炭素社会はどうしたら実現できるのか?実際、実現可能なのか?

  3. 脱炭素社会に向けた取り組みの実例と、企業と個人ができること

  4. まとめ

1. 地球温暖化の原因=温室効果ガス?脱炭素が必要な理由とは

まず、地球温暖化のメカニズムを簡潔に解説します。

地球は太陽の熱で暖められ、その熱は地球から宇宙に放出されています。その放出される熱(赤外線)の一部を吸収し、地球から熱が逃げすぎないようにしているのが、「温室効果ガス」です。

もし温室効果ガスが無いと、太陽の熱が全て宇宙に逃げてしまうため、地球の気温は氷点下19℃まで下がってしまいます。つまり、温室効果ガスは地球を暖かく保ち、生きものにとって適切な環境を作る役割を果たしています。(温室効果)

しかし、人間活動によって温室効果ガスの濃度が上がり、バランスが崩れてこれまで以上に赤外線が温室効果ガスに吸収されるようになります。それにより地表の温度が上昇し、温暖化が進みます。これが地球温暖化のメカニズムです。

出典:気象庁『温室効果とは』

(1)脱炭素社会=温室効果ガスの排出量ゼロを目指す社会

温室効果ガスは地球の温度を保つ上で重要なものですが、問題は、温室効果ガスがあまりに増え、地球の温度が高くなりすぎていることです。気象庁によると、世界の年平均気温は、変動を繰り返しながら、この100年あたりで0.72℃の割合で上昇しています。

出典:気象庁『世界の年平均気温』(2021/5/18)

その対策として、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの実質的な排出量ゼロを実現する社会こそが、「脱炭素社会」です。日本政府は、2050年までに地球温暖化の要因である二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという方針を発表しました。

(2)地球温暖化を放置してはいけない理由

地球温暖化が進むことによる悪影響の例として、

  • 海面上昇による陸地の減少

  • 異常気象の発生、気候の変動

  • 伝染病の増加

  • 食糧不足

などが挙げられます。

例えば、世界平均海面水位は、過去約100年で世界の平均海水面は17センチ上昇していることや、猛暑日や短時間強雨の増加など、さまざまな気候変動が起こっています。

出典:環境省『地球規模の温暖化の影響 現在生じている影響 - 環境省』

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』

これにより、生息できなくなる植物や生物があり、世界の食糧が足りなくなることや、気温が上がることで「マラリア」などの感染病が流行するリスクが増えるとも予想されています。

そういったケースが進行し、最悪の場合、現在の当たり前の暮らしの根本が崩壊することも十分にあり得るのが、地球温暖化なのです。

(3)低炭素社会との違いは?

そんな地球温暖化への対策として日本、世界が掲げている「脱炭素社会」ですが、「低炭素社会」とはどう違うのでしょうか?

まず低炭素社会は、「パリ協定」以前の世界の主流政策目標です。1997年に「京都議定書」(気候変動への国際的な取り組みを定めた条約)の中で、現状からどれだけの割合の炭素を減らすかを目標として定めました。

日本は2008年、「2050年までに60~80%の削減で低炭素社会を目指す」と表明しました。

出典:環境省『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』

その後2015年、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合うためにパリ協定が開かれました。そこでは、産業革命前からの平均気温の上昇を1.5~2℃未満に抑制すること(2℃目標)が決まりました。

そこで、それまでの「低炭素化」では平均気温の上昇1.5~2℃未満という目標が達成できないため、日本は2019年6月「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定し、「脱炭素社会」が掲げられました。

出典:外務省『2020年以降の枠組み:パリ協定』

2. 脱炭素社会はどうしたら実現できるのか?実際、実現可能なのか?

2021年4月に開催された気候変動サミットにおいて、菅首相は脱炭素に関する日本の目標として、

  1. 2030年までに、2013年の温室効果ガスの排出量比で46%削減

  2. 2050年までに、脱炭素社会の実現

を掲げています。

出典:外務省『菅総理大臣の米国主催気候サミットへの出席について(結果概要)』

地球温暖化を食い止める必要性は多くの企業・国民が理解していますが、実際にこの数字を達成し脱炭素を実現させるために、日本はどのような課題を解決する必要があるのでしょうか?

(1)エネルギーの化石燃料依存度を下げる

まず、日本の部門別CO2排出量においてもっとも多いのは、エネルギー部門の39.1%(2019年確報値)です。

出典:国立環境研究所『2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について(p.6)』

日本の一次エネルギーは、石油や石炭、液化天然ガス(LNG)など、CO2排出量の多い化石エネルギーが85%以上を占めています。原子力発電の普及によりその割合は一度下がりました。しかし2011年の東日本大震災後、原子力発電はリスクが問題となり、現在化石エネルギーへの依存は再び増えています。

出典:経済産業省『令和元年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2020) HTML版』

CO2排出量の多い化石エネルギーへの依存は脱炭素の大きな課題の一つなので、再生可能エネルギーへの転換が求められています。しかし供給量や、安定性において現在の技術では他の選択肢は中々難しいのが現状です。

CO2排出量が比較的少なく、安定した供給が可能な発電方法として原子力発電がありますが、災害時のリスクや放射性廃棄物の処理など、稼働において解決できていない問題があります。

出典:経済産業省『放射性廃棄物の適切な処分の実現に向けて』

(2)鉄鋼業は脱炭素化可能なのか?

CO2排出量が25.2%と2番目に多い産業部門の中でも、鉄鋼業はその中の約4割を占めています。

出典:環境省『二酸化炭素排出量全体』(p.8) 

鉄を作るための高炉では石炭を原料にするため、多くのCO2を排出します。鉄鋼業界は脱炭素実現のため、鉄スクラップを溶かして再生する電炉の拡充や、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)などに取り組んでいます。

出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシング について』

しかし、それらの手法でもCO2排出量の削減には限界があります。そこで必要とされる新技術が、石炭の代わりに水素を使う、水素還元製鉄です。日本製鉄株式会社では2050年にカーボンニュートラルを目指すと発表しており、CCUSに加え水素還元製鉄の技術を完成させることを掲げています。

出典:日本製鉄『カーボンニュートラルビジョン2050』

しかし、水素還元製鉄は、新しい製法のため技術開発の難度が極めて高く、巨額な設備投資が必要となります。そのため業界をあげての取り組みや資金調達、政府の支援など、様々な方面からの総力を集結してのチャレンジとなります。

(3)物流産業の脱炭素化

産業部門に次ぐCO2排出源は運輸業 (17.9%)です。飛行機や自動車などの運搬手段の燃料は化石燃料が多く使われています。CO2排出量を減らすためには、ガソリン車の代わりとなる電気自動車など次世代自動車の利用や、物流の効率化が必要です。

政府は環境省と国土交通省が連携し、次世代自動車の補助金交付や、先端技術を活用した省人化・省エネ化を図る自立型ゼロエネルギー倉庫、トラック輸送高効率化支援事業などを2020年からスタートし、物流産業の脱炭素化を進めています。

出典:環境省『物流分野におけるCO2削減対策促進事業』

3. 脱炭素社会に向けた取り組みの実例と、企業と個人ができること

上記のような課題を抱えた上で、私たちは2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする脱炭素社会に向け、個人として、また企業として何ができるのか、何をするべきなのでしょうか?

(1)企業・個人でも省エネは基本

まずは基本の部分になりますが、企業でも、個人においても省エネは重要なアクションとなります。

具体的な方法としては住居断熱化がおすすめです。冬は窓に断熱シートを貼ったり、二重窓にしたりすることで熱を逃しにくくできます。夏はブラインドで遮熱するなどで、熱を部屋に入れないような工夫ができますので、自宅やオフィスにそういった設備を設置してみてはいかがでしょうか。冷暖房代の節約としても活躍するアイテムとなります。

また、自動車の利用もCO2排出の項目の一つとなります。ガソリン車を持っている方や、頻繁に車に乗る方はエコカーに乗り換えることがおすすめです。それにより、二酸化炭素排出量削減に貢献することができます。政府から補助金をもらうことができる場合があるので、タイミングや車種などを検討しての買い替えがおすすめです。

(2)ゴミの削減、不要なコスト削減を促す商品やサービス開発

企業にできることとしては、業務におけるゴミの削減や不要なコストを削減した商品や、それを可能にするサービスの開発です。

例えば、最近はよく見かけるようになったラベルレスボトルのような​​パッケージのエコ化や、リサイクルペットボトルの採用。運送関連では、過剰な包装や、段ボールの削減、配送コストの削減など、様々な業界、職種における不要コストの削減が行われています。

(3)3Rの促進と注目が集まるアップサイクル

リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3つを総称し「3R(スリーアール)」と言われています。

リデュースはゴミの削減。買物でのエコバッグの使用や、マイボトルの使用、食材を使い切るといった、廃棄物の発生を少なくする取り組みのことです。企業においては、製品を作る際の資源の量を少なくすることや、耐久性の高い製品の提供、製品寿命延長のためのメンテナンス体制の確立などもリデュースの取り組みに含まれます。

リユースは再利用。詰め替え商品を購入したり、不要になったものを譲り合ったりすることです。企業においてはリユースできる製品の提供、修理技術の開発、リマニュファクチャリングなども取組のひとつです。

リサイクルは再資源化。ゴミを分別し、再生して作られた製品を利用することで、新たな二酸化炭素の排出を抑えることができます。

さらに、近年注目を集めているのが、「アップサイクル」です。本来、捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアなど、新たな付加価値を持たせ、別の新しい製品やサービスに生まれ変わらせることを言います。

例えば、建設業界において、既存の躯体を活かし新しいコンセプトを設計する「リノベーション」もアップサイクルの一つです。ファッション業界においては、売れ残った洋服の在庫に再度加工をし、需要に合った商品にするなどが行われています。

4. まとめ:脱炭素への取り組みを新たな成長機会、ビジネスチャンスにしよう

脱炭素社会の実現がなぜ必要なのか、そのために何ができるのかについてご紹介しました。

今現在まで送ってきた「普通の生活」を今後も維持するためには脱炭素社会の実現が必要であること、そして今後は社会全体がその方向に向いて進んでいきます。

それを一つのチャンスとして捉え、個人の生活においてもより環境に優しい選択を増やすことや、企業においても、新たなビジネスチャンスや、社会貢献として脱炭素のために何ができるのかを定期的に検討してみましょう。

それぞれのアクションの積み重ねが、脱炭素社会の実現に必ず役立つはずです。

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