【直線経済から循環経済へ】環境省が推進するサーキュラーエコノミーとは?

産業革命以降、大量に資源を消費して産業・経済は大きな成長を遂げました。しかし、当時その経済活動が「持続可能かどうか」はほとんど考慮されていませんでした。

これまでの人間の活動による環境への影響、資源の枯渇、廃棄物など様々な課題を解決し、私たちがこの地球に住み続けるためには、社会を循環型に変え、地球の環境とよい関係を築くことが必要です。今、社会に求められているサーキュラーエコノミーについて理解しておきましょう。

目次

  1. サーキュラーエコノミーとは

  2. サーキュラーエコノミーとSDGs・SXとの関係

  3. 国際的な経済社会の変化

  4. まとめ:サーキュラーエコノミー実現へ

1. サーキュラーエコノミーとは

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、物や資源を最大限に大切にし、廃棄する部分を可能な限り少なくした経済のことです。あらゆる場面で資源の効率的で循環的な利用を追求して、持続可能な社会の構築を目指します。

サーキュラーエコノミーに対し、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄の一方通行で直線的な経済をリニアエコノミーと呼びます。これまでも私たちは3Rとして資源の有効活用や廃棄物の削減に取り組んで来ましたが、さらに収益性も両立した持続可能な経済活動が循環経済・サーキュラーエコノミーです。

出典:経済産業省『循環経済ビジョン2020(概要)』p.1

出典:環境省『環境ビジネスの先進事例集

出典:オランダ政府『From a linear to a circular economy』をもとにアスエネ制作

2. サーキュラーエコノミーとSDGs・SXとの関係

2015年に国連によってSDGsが採択されたことにより、世界はこれまでの産業・経済・生活の在り方を反省し、持続可能な地球を目指して急速に進み始めました。この世界的な流れを受け、日本では2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、経済と環境の好循環を目指した産業への移行が始まっています。

SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称で、2030年までの国際開発目標です。17の目標と169のターゲットの達成により、「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現に向け、世界中の全ての人が取り組むものです。

持続可能な循環型経済であるサーキュラーエコノミーはSDGsの目指す社会の在り方や経済の仕組みと重なります。

出典:外務省『持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組み』p.3
出典:国際連合広報センター『SDGsのアイコン

サーキュラーエコノミーとSX

これまでの日本は、大量生産・大量消費・大量廃棄で短期的な利益の獲得を追求した結果、経済においても「持続的低収益性のパラドックス」と呼ばれる、苦しい状況を招いてしまいました。

SDGs採択前の2014年、日本経済の問題点を指摘し、解決策としてSX(サスティナブル・トランスミッション、持続可能な産業経済への転換・移行)を提案した「伊藤レポート」が発表されました。もともとは経済においての深刻な問題を解決し、好循環へと転換する策として提唱されたSXですが、翌年のSDGs採択から加速したESG投資の拡大やSDGsの目標にも重なる事により、SDGsの目標達成とも同期化しました。

つまり、SXでサーキュラーエコノミーを目指すことがSDGsの目標の中でも大きな位置を占めているとも言えます。持続可能で循環型であるためには気候変動を抑えて環境の調和と安定が必要なので、ネットゼロ(カーボンニュートラル)な脱炭素社会も同時に目指して行くことになります。

出典:経済産業省METI jounal『企業経営に求められるサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)
出典:経済産業省『「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト (伊藤レポート)』 

3. 国際的な経済社会の変化

サーキュラーエコノミーへの転換が求められる背景には、様々な理由があります。これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄による資源の枯渇・気候変動なども原因ですが、医療・科学・制度の発達による人口増加・経済成長なども原因です。

ここでは、国際的な経済社会に影響を与えている変化について確認しましょう。サーキュラーエコノミーはこれらの問題を解決しつつ、産業・経済の中長期的な成長や持続可能な人間社会の構築、生物の生態系や汚染のない環境の維持などを実現します。

地球資源の限界

出典:環境省『平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書第1章第1節 1.持続可能な開発の歩み

地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)とは、地球の変化に関する各項目で人間が安全に活動できる範囲にとどまれば人間は今後も発展し繁栄できるが、安全に活動できる範囲を越えることがあれば、自然資源に回復不可能な変化が引き起こされるという研究です。この項目のうち、種の絶滅の速度と窒素・リンの循環については、高リスクの領域にあり、気候変動と土地利用の変化について、リスクが増大する危険な領域に達していると分析されています。

出典:環境省『環境白書 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流

深刻な気候変動

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、陸上と海上を合わせた世界平均地上気温は、1880年から2012年の期間に0.85℃上昇しました。気候システムの温暖化には疑う余地がなく、最近30年における10年ごとの平均気温は、1850年以降のどの平均気温よりも高くなっています。

気候変動は全ての大陸と海洋において、自然や人間社会に影響を与えています。IPCCは気候変動の証拠は自然システムに最も強くすべての要素において現れているとしています。

出典:環境省『環境白書 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流

世界的な人口増加と経済成長

1970年には37億人の世界人口が、2009年には68億人と急増しました。国連人口部の推計では、中国をはじめとする東アジア、インドをはじめとする中央・南アジアの人口増加が牽引して世界の人口増加が進むと予測されています。今後東アジアの人口増加は緩やかになりつつも中央・南アジアの人口増加は進み、さらにアフリカでの人口増加が加速するとされています。

出典:環境省『持続可能性の検証と豊かさの考察

1820年頃からイギリスで始まった産業革命による大幅な輸送コスト削減、飛躍的な技術の進歩と貿易の拡大によって、世界経済は大きく発展しました。コロナウイルス感染拡大の影響で2020年のGDPは大幅な減少が予測されたものの、世界全体のGDPは2017年時点で85.9兆ドルと、1960年と比較すると約60倍に成長を遂げています。

出典:経済産業省『グローバリゼーションによる世界経済の発展

 

出典:経済産業省『基礎資料 令和2年5月1日』p.13

ごみ・廃棄物の問題

海洋に流出する廃プラスチック類による海洋汚染が地球規模で広がり問題になっています。1950年以降に生産されたプラスチック類は83億トン以上で、そのうち63億トンがごみとして廃棄されたという報告もあります。このまま海洋プラスチックごみが増え続けると2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が、魚の重量を超えるという試算もあります。

海洋ごみは生態系を含めた海洋環境の悪化や海岸機能の低下、景観への悪影響、船舶航行への障害、漁業・観光への影響など様々な問題を引き起しています。海洋ごみの問題は開発途上国を含む世界全体の課題として対処する必要があります。

出典:環境省『プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて

また、日本ではアジア諸国の廃棄物輸入規制をきっかけに、これまで輸出してきた古紙や廃プラスチック、廃電線が国内に滞留し、国内の処理システムの余裕がほとんどない状況に追い込まれています。廃棄物を原料として受け入れているセメントなどの産業も国内の生産規模が縮小しており、現行の循環システムを中長期的に維持することは困難です。

出典:経済産業省・環境省『サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の 取組について』p.4

新興国・途上国では増加する産業廃棄物や都市ごみへの対応に追われています。しかし、制度や技術の面で対応に追いつかず、環境汚染が発生する事例もあります。

日本の廃棄物処理・リサイクルは法制度も整備され、優れた技術も開発されています。国際的な廃棄物処理・リサイクル市場は約3.5兆円とも予想される巨大な潜在的市場となっており、日本の廃棄物処理・リサイクル技術と制度を合わせて海外展開することで途上国を支援し、世界規模での環境保全やサーキュラー・エコノミーの形成に貢献すると同時にレアメタルの確保や日本の経済の活性化が期待できます。

出典:環境省『国際資源循環体制の構築 関連する国の取組』p.4

ESG投資の拡大

ESG投資とは、これまでの財務情報だけを判断基準にした投資ではなく、環境・社会・ガバナンス(Environmento Sociai Governance)の要素も考慮した投資のことです。経営企業のサスティナビリティが評価されるようになり、気候変動などを視野に入れた長期的なリスクへの対応や、企業の今後の収益創出の機会(オポチュニティ)を評価する指標として、SDGsと合わせて取り組みが拡大しています。

ESG投資の世界全体での総額は、2018年には30.7兆ドルで、投資市場の3分の1を占めました。日本はヨーロッパ、アメリカに次ぐ世界第3位のESG投資残高国です。

日本では、ESGの視点を組み入れた投資をすることを原則として掲げるPRI(国連責任投資原則)にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年に署名しました。PRIへの署名機関は日本でも世界でも増加しています。


※PRI署名機関数の推移

出典:経済産業省『ESG投資

4. まとめ:サーキュラーエコノミー実現へ

市場と社会からの適切な評価の獲得が必要

サーキュラーエコノミーは長期的な利益をもたらしますが、短期的な視点だけで見ると特に取り組み開始直後はリニアエコノミーと比較してコストがかかるように見える場合があります。しかし短期的な利益ばかりを追求してきた結果が現在の危機的な地球環境や日本経済の持続的低収益性のパラドックスを招いてしまいました。

この状況を脱出して持続可能な産業・経済の成長にはサーキュラーエコノミーへの転換は必要不可欠です。資源を循環させるために、ごみとして廃棄するより手間やコストがかかってもリユース・リサイクルする企業や商品が評価され、投資や商品購入の対象になれば、サーキュラーエコノミーへの好循環が生まれます。

循環型にビジネスモデルを転換する

日経ESGは「サーキュラーエコノミー」銘柄の株価が5年で5倍になったと報道しています。資源価格の高騰、消費者の意識の変化、技術の進歩などが互いに影響しあい、サーキュラーエコノミー市場は拡大しています。

出典:日経ESG『「プラごみゼロ」が生死を分ける

科学の進歩により「地球資源の限界」が知られるようになった今、資源の有効活用・廃棄物の削減・資源の再利用に関わるビジネスに資金が流れるようになってきました。反対の側面では、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたビジネスモデルでは近い将来、投資・融資の確保が難しくなったり、サプライチェーンから外れたりするリスクが生じます。

事業の規模に関わらず、産業・経済、社会全体でサーキュラーエコノミーへの理解と移行に取り組みましょう。私たちが今後も長く繁栄をつづけるための、大きな変革の時なのです。

 

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