再生可能エネルギーの「普及」の前に立ちはだかる「課題」とは?

日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を実現すると発表し、温室効果ガス削減に有効な再生可能エネルギーの普及に取り組んでいます。

しかし、再生可能エネルギーの普及には様々な課題も残されています。ここでは再生可能エネルギーの普及に向けた取り組みと、今後の課題について解説していきます。企業が環境問題について取り組むうえで再生可能エネルギーの問題は大きな要素となるので、今後の展開を予測するためにもしっかり理解しておきましょう。

目次

  1. 再生可能エネルギーとは

  2. 再生可能エネルギーの普及に向けた取り組み

  3. 再生可能エネルギー普及への課題

  4. 【まとめ】再生可能エネルギー普及への課題はコストダウンと事業環境の整備!

1.再生可能エネルギーとは

化石燃料に頼らない発電方法

現在の日本では、エネルギー供給の約8割を石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料によっておこなわれています。再生可能エネルギーとは、「太陽光」・「風力」・「水力」・「地熱」・「バイオマス」の力により発電をおこなう温室効果ガスを排出しないエネルギー源のことです。

なぜ再生可能エネルギーの普及が必要なのか?

  • 温室効果ガスの排出量削減

日本の温室効果ガスの排出量は2019年度で12億1200万トンとなっており、そのうちの84.9%はエネルギー起源の排出となっています。2015年に締結された「パリ協定」では、全世界の国々が温室効果ガスの排出削減に向けた目標を掲げ、日本も2030年までに2013年比で26%の削減目標を発表しています(2021年4月に菅義偉総理は46%削減に修正目標を発表)。

この目標からわかることは、今後排出量の削減に取り組むうえで、エネルギーの供給方法が重要視されていることです。再生可能エネルギーの普及は温室効果ガス排出削減に効果のある方策と考えられています。

出典:環境省『2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について』(p2)

出典:環境省『2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について』(p2)

  • エネルギー自給率の向上

再生可能エネルギーは国内で生産できることから、エネルギー自給率の向上にも寄与します。現在、日本のエネルギー源である化石燃料はそのほとんどを海外に依存しています。東日本大震災以降の日本のエネルギー自給率は10%以下となっており、今後のエネルギーの安定供給の観点からも再生可能エネルギーは大きな切り札となるでしょう。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『再生可能エネルギーとは』

このことから日本でもすでに再生可能エネルギーの普及に向けた取り組みがすすめられています。ここからはその内容についてご紹介しましょう。

2.再生可能エネルギーの普及に向けた取り組み

  • FIT(固定価格買取)制度

再生可能エネルギーの普及に向け、2012年にFIT制度がスタートしました。これは再エネ発電をおこなう事業者を増やし、再エネ市場の拡大を目的に再エネ設備から発電された電気をあらかじめ決められた価格で電力会社が買い取るよう義務づける制度です。

また、FIT制度の問題点であった再エネ電気を買い取るコストの一部を電気料金に上乗せし、利用者に負担してもらう「賦課金」による電気料金のコストアップの問題や、買取による需要と供給のバランスが不安定になるなどの問題を改善するため、2022年4月より「FIP(フィードインプレミアム)制度」もスタートすることが決定しています。

  • 導入促進に向けた補助金制度

経済産業省では、「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業」の予算として令和3年度で46.8億円の概算要求をおこなっています。これは更なる再エネの導入拡大には、地域の利益になるような地域共生型の事業が求められていると考え、地域マイクログリッドの先例モデルの構築による自立的普及と拡大を目指すものです。

出典:経済産業省『令和3年度予算「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業」に係る補助事業者の公募について』(2021年1月27日)

  • 企業に向けた導入支援事業

その他にも経済産業省では、再エネ導入を検討している企業に向けて様々な融資・税制優遇などの制度の導入をすすめています。初期投資のかかる再エネ導入についての支援はさらに拡大していくでしょう。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『再生可能エネルギー事業支援ガイドブック』(p99~)
出典:経済産業省資源エネルギー庁『各種支援制度事業者向け省エネ関連情報』

3.再生可能エネルギー普及への課題

再生可能エネルギー普及に向けた取り組みにより、日本の再エネ導入容量は2018年度に世界6位で、太陽光発電量は世界3位となっています。

出典:経済産業省『今後の再生可能エネルギー政策について』(2021年3月1日)(p20)

しかし、今後さらなる再エネの普及拡大についてはいくつか課題があります。これから考えていかなければならない問題とはどのようなものなのでしょうか。

電力の安定供給を維持できるか

まず再エネを主力電源化する上で一番重要なことが、電力供給の「安定化」でしょう。FIT制度などにより、再エネ電力事業者も増加し、市場規模の拡大はすすんでいますが、供給量が天候によって左右される太陽光発電への偏重が問題となっています。

電力供給には同時同量という、短時間内での需要と供給を一致させなければならない原則があるため、再エネの主力電源化には供給量が調整しやすい水力・バイオマス発電や、蓄電池の普及が必要となります。

FITの制度下では、安価で費用対効果が高く、参入障壁が低い太陽光発電に事業者が集中してしまったため、「安定化」と「事業として取り組むメリット」を両立させる対策が必要です。

発電コストを削減できるか

海外の主要国では、大規模な普及により再エネの発電コストは大きく低下しており、他の電源と比べてコスト面でも競争力のある電源となっています。しかし、日本は国際水準と比較し、再エネの発電コストはいまだに割高傾向にあります。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『再エネのコストを考える』(2017年09月14日)

日本の再エネの発電コストが下がりにくい背景に、日本の地理条件があります。温暖湿潤気候による日照時間の不安定さ、平地など発電条件に合う土地の少なさ、大陸の東側で偏西風などの安定した風況の恩恵が小さいなど、日本は太陽光・風力などの費用対効果が上がりにくいという課題があります。

出典:資源エネルギー庁『資源エネルギー庁がお答えします!~再エネについてよくある3つの質問』(2018年03月16日)

地理条件は解決が難しく、別の分野でコストダウンをする必要があります。現在の日本では発電機メーカーや発電事業者の価格競争を促す「入札制度」などの取り組みが進められています。しかし、主力電源化を目指すとなると、水素エネルギーのような地理条件に左右されない発電方法など、新たな技術開発・普及が必要になることが予想されます。

出典:資源エネルギー庁『「水素エネルギー」は何がどのようにすごいのか?』(2018年01月23日)

国民の負担を軽減できるか

FIT制度により再エネ電気は固定価格により電力会社が買い取っていますが、そのコストの一部は「賦課金」として利用者が負担しています。2030年のエネルギーミックスを達成した場合、買取費用総額は年間3.7兆円~4兆円と考えられていました。しかし、2018年ですでに3.1兆円に達し、もしこの高コストのまま導入の拡大がすすむと、利用者の負担は想定以上になってしまいます。今後のコストダウンについての対策が必要となるでしょう。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『再エネの主力電源化を実現するために』(2018年05月15日)

電力バランスの系統制約

日本の電力系統は、従来の電力会社が設置した発電所と需要地を結ぶ形で形成されています。しかし、関東・中部・関西圏のような大規模需要地と、現在の大規模電源が立地している地域、そして将来的に再エネで持続的に大量の電気をつくることができる地域は一致するわけではありません。

そのため、再エネの大量導入をすすめるためには新しい電力系統の建設や増設が必要になります。日本では、既存の系統を最大限活用する「日本版コネクト&マネージ」が検討されています。しかし、それだけでは足りず、地方エリアを超えて電力を融通する連系線の増強など、設備コストの大きな対策も必要になります。

※地域間連系線の増強計画
出典:経済産業省資源エネルギー庁『再エネの大量導入に向けて~「系統制約」問題と対策』(2017年10月05日)

4.【まとめ】再生可能エネルギー普及への課題はコストダウンと事業環境の整備!

  • 再生可能エネルギーとは、「太陽光」・「風力」・「水力」・「地熱」・「バイオマス」の力により発電をおこなう温室効果ガスを排出しないエネルギー源のことで、日本では2030年までに温室効果ガスの排出を2013年度比で46%削減という目標達成のために再生可能エネルギーの主力電源化をすすめている。また自国資源で発電できるため、エネルギー自給率の向上も見込める。

  • 再生可能エネルギー普及に向け日本政府は、再エネ発電をおこなう事業者を増やし、再エネ市場の拡大を目的に再エネ設備から発電された電気をあらかじめ決められた価格で電力会社が買い取るよう義務づける制度「FIT(固定価格買取)」や、「地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業」などの補助金制度、各種支援制度をスタートしている。

  • 日本の再エネ導入容量は2018年に世界6位、太陽光発電量は世界3位となっているが、今後の課題として、「電力の安定供給」「割高な発電コスト」「電力バランスの系統制約」などの課題もあがっている。

再生可能エネルギーの普及は、今後の地球環境を考えるうえで非常に重要な問題で、企業としても持続可能な社会の実現にむけ、取り組んでいかなければいけません。今後の日本の課題への対策と、普及に向けた動向に注目していきましょう。

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