トランジションファイナンスとは?基礎知識や事例をご紹介!

トランジションファイナンスとは、企業が脱炭素社会へ移行を進めるために有効な手立てとなる金融手法です。日本では「2050年カーボンニュートラル」達成に向けて、企業もCO2排出量削減の取り組みが促進されています。しかし、実際には脱炭素への移行には多くの資金が必要となることから、トランジションファイナンスが注目を浴びています。ここでは、トランジションファイナンスの基礎知識や重要となる4つの要素、そしてトランジションファイナンスの主な手法などをご紹介します。

目次

  1. トランジションファイナンスとは何か

  2. トランジションファイナンスの重要な4つの要素

  3. トランジションファイナンスの主な手法

  4. トランジションファイナンス活用の企業事例

  5. まとめ:トランジションファイナンスを活用して脱炭素経営のステップアップを目指そう!

1.トランジションファイナンスとは何か

トランジションファイナンスは、CO2削減の課題がある企業に有効な手法となります。ここでは、トランジションファイナンスの基礎知識についてご紹介します。

トランジションファイナンスとは

トランジションファイナンスとは、環境に配慮した持続可能な経済への移行(トランジション)を促進するための金融手法(ファイナンス)のことです。特に、ものづくりのプロセスで石炭やガスを使用する産業分野では、CO2排出量を削減するために工程そのものを変える必要があります。そして、このような企業が将来の脱炭素化を目指すためには、長期的な戦略に基づいて着実にCO2の削減に取り組む必要があります。そのためには資金のサポートが不可欠であり、途中で資金不足にならないように支援する新しい金融手法がトランジションファイナンスです。

トランジション(移行)概念図

出典:資源エネルギー庁『企業の脱炭素化をサポートする「トランジション・ファイナンス」とは?(前編)~注目される新しい金融手法』(2023/07/28)

トランジションファイナンスが生まれた背景

近年、世界では「脱炭素」の動きが加速しており、日本でも「2050年カーボンニュートラル宣言」達成に向けて、さまざまな取り組みが進められています。この目標を達成するためには、各分野で脱炭素を進める必要がありますが、産業分野では一部の工程でCO2が発生してしまうため、省エネや燃料転換などの対策が求められています。そこで、企業がこのような課題に取り組むための新しい金融の仕組みとして誕生したのがトランジションファイナンスです。また、2050年に向けて各産業での脱炭素技術の実用化を目指し、国際的な動向やパリ協定と調和したロードマップが策定されました。このロードマップは、鉄鋼、化学、電力、紙パルプ、セメントなど8つの分野で適用され、企業のトランジョン戦略の参考になるほか、金融機関の融資基準となっています。

出典:資源エネルギー庁『企業の脱炭素化をサポートする「トランジション・ファイナンス」とは?(前編)~注目される新しい金融手法』(2023/07/28)

2.トランジションファイナンスの重要な4つの要素

トランジションファイナンスには、長期的な計画と管理体制による「戦略とガバナンス」、重要な課題と課題による「マテリアリティ」、科学に基づいたデータや証拠による「科学的根拠」、情報公開と説明責任による「透明性」といった4つの重要な要素があります。ここでは、それぞれの要素について見ていきます。

戦略とガバナンス

企業は、化学的な根拠に基づいてパリ協定の目標と調和する長期的な目標を設定し、それに向けた適切な短期的および中期の目標を関連する地域、セクター、国際的な気候変動シナリオに基づいて策定することが重要です。また、企業がCO2排出量削減を目指すために、経営陣や取締役会が責任を持ち、具体的な資本支出計画や移行戦略を含む詳細な計画を公表することも重要となります。そして、公正な移行を考慮しSDGsへの貢献を含む広範なサステナビリティ戦略を採用して、関連する環境や社会に対する悪い影響を軽減することを示すべきとしています。

出典:金融庁『事務局資料』p,35.(2024/02/29 )

マテリアリティ(重要性)

トランジョンファイナンスでは、企業が気候変動に対する戦略やプロジェクトを報告書やマテリアリティ・マトリクスで開示することが求められています。マテリアリティ・マトリクスとは、社会的課題を含む企業価値に影響を与える重要な課題を特定する手法で、具体的には適格なプロジェクトや重要業績評価指標(KPI)が発行体の排出量プロファイルにどのように影響を与えるかを明示する必要があります。

出典:金融庁『事務局資料』p,35.(2024/02/29 )

科学的根拠

科学的根拠では、パリ協定に適合するためのCO2排出削減目標は、基準年と過去の排出量を考慮して短期、中期、長期で設定され、特定のシナリオと手法を使用します。そして、CO2排出削減目標は、すべての範囲と最も関連性の高いサブカテゴリ―をカバーしており、排出原単位および絶対値で設定された目標値を達成することを目指すものとします。また、CO2削減に対する相対的な貢献度合いを評価する際には、炭素回収技術やカーボンクレジットがどれだけ影響を与えるかを考慮します。

出典:金融庁『事務局資料』p,35.(2024/02/29 )

透明性

脱炭素技術が未確立の分野の企業を支援するトランジションファイナンスは、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)の批判もあります。そこで、気候変動対策に適さない事業や製品は段階的に廃止し、グリーンボンドのプロジェクトカテゴリーにおいては、具体的な設備投資の割合を把握することを求めています。また、それと同時に発行体が所有する主要な資産や製品から放出される潜在的なCO2排出量の量を把握することも重要です。そして、内部の炭素価格設定について企業がどのように取り組むかを説明し、具体的な影響を軽減するための戦略を構築し、信頼性の高いトランジション戦略を開示することが重要となります。

出典:金融庁『事務局資料』p,35.(2024/02/29 )

出典:金融庁『トランジション・ファイナンスにかかるフォローアップガイダンス 2023 年〇月 金融庁・経済産』p,4.(2023/04/26)

3.トランジションファイナンスの主な手法

トランジションファイナンスの主な手法として「GX経済移行債」と「クライメート・トランジョン・ボンド」があります。ここでは、2つの特徴をご紹介します。

GX経済移行債

GX経済移行債とは「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」に基づいた、脱炭素燃料の普及やCO2排出削減が難しい産業の脱炭素移行を支援するために使われる資金のことです。これは、脱炭素への移行を支援するプロジェクトに資金を提供することで、個人事業者や法人、団体などのトランジション投資を促進させると同時に金融機関のトランジションファイナンスを推進することを目的としています。そして、GX経済移行債の償還は2050年度までに、企業などに対する「化石燃料賦課金」や「特定事業者負担金」によって行われる予定です。

出典:経済産業省『クライメート・ トランジション・ボンド・ フレームワーク』p,9.(2023/11/30)

出典:財務省『GX経済移行債特集』p,1.(2024/05/14)

クライメート・トランジョン・ボンド

クライメート・トランジョン・ボンドとは、日本政府が発行する世界初のトランジョン・ボンドで、GX経済移行債を個別銘柄として発行するものです。具体的には、パリ協定に合致し2050年と2030年の目標を達成するための事業に充てられ、調達資金は将来の化石燃料賦課金と電力分野における特定事業者負担金を元に償還されます。そのため、受益と負担の観点を考慮しながら民間だけでは投資判断が難しい事業に優先的に投資され、CO2排出量削減と産業競争力強化、経済成長に貢献する分野に資金が使われます。

GX経済移行債の発行方式

出典:財務省『GX経済移行債特集』p,2.(2024/05/14)

出典:経済産業省『クライメート・ トランジション・ボンド・ フレームワーク』p,9.23.(2023/11/30)

4.トランジションファイナンス活用の企業事例

最後に、トランジションファイナンスを活用している企業の事例をご紹介します。

住友化学株式会社

化学品の製造や販売を行う住友化学株式会社は、2030年度までに2013年度比でScope1・2の排出量を50%削減し、2050年度にはネットゼロを目指すことを目標としてSBTイニシアチブの認定を取得しています。また、この目標はトランジションファイナンスに関する化学分野の技術ロードマップと一致しており、インターナルカーボンプライシングを考慮した投資計画のもと2030年までに1,200億円の投資を予定しています。今回の資金は、LNG火力発電設備の建設に使われ、2030年度の目標に向けた重要な施策の一環となっています。このLNG火力への切り替えは2050年の目標に効果的であり、また、将来的には水素などの転換も検討しています。

出典:グリーンファイナンスポータル『トランジションファイナンス|事例⑥:住友化学株式会社』p,1.5.(2022/03/22)

日本航空株式会社(JAL)

日本を代表する航空会社の日本航空株式会社(JAL)は、ネット・ゼロエミッションを実現するために2030年までに、SAF(持続可能な航空燃料)を全燃料搭載量の10%までに増やすことを目指しています。さらに、国内製造のSAFを使用した運航やSAF製造会社への出資などを行うことで、機体構造を追加的に変更せずにSAFを利用範囲を広げる効果があるとしています。また、環境への負荷を減らすために省燃費機材の更新を進めており、新しい機種は従来の航空機と比べて燃料効率が高く、15〜25%のCO2削減が期待されています。

出典:経済産業省『事例⑤:日本航空株式会社(JAL) - トランジションファイナンス』p,1.(2022/03/15)

5.まとめ:トランジションファイナンスを活用して脱炭素経営のステップアップを目指そう!

トランジションファイナンスとは、環境への影響を考慮しながら経済を持続可能な方向へと導く金融手法で、企業が脱炭素を目指す際に、長期的な戦略を立ててCO2削減に取り組むために資金面で支援するものです。特に産業分野では、一部の工程でCO2が発生するため省エネや燃料転換が必要とされ、このような課題に取り組むための新しい金融手法として注目されています。トランジションファイナンスには「GX経済移行債」と「クライメート・トランジョン・ボンド」があり、どちらも脱炭素移行のための支援として使われます。ぜひ、トランジションファイナンスの4つの要素に沿った取り組みでトランジションファイナンスを有効活用し、自社の脱炭素経営のステップアップを目指しましょう。

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