GX ETSとは?基礎知識と企業の取り組み事例をご紹介

GX ETSとは、GXリーグで構築された自主的な排出権取引制度のことで、世界的にも注目されている市場であり、CO2排出量・吸収量を取引するものです。

そして、参画企業は積極的に自社の環境貢献をアピールすることで、ビジネス拡大のチャンスが期待できることから、ぜひ活用したい制度です。ここでは、GXリーグをふり返るとともに、GX ETSの概要や現在進行中の第1フェーズについて、GX ETSを活用することで期待できる要素などをご紹介します。

目次

  1. GX ETSとは

  2. GX ETSの第1フェーズ(試行)概要

  3. GX ETSが企業に与える影響とは

  4. GXリーグ参加企業の取り組み事例

  5. まとめ:GX ETSの知識を深め環境貢献を企業のビジネスチャンスへ!

1.GX ETSとは

ここでは、GXリーグの概要やGX ETSについて、世界でGX ETSが注目されている理由をご紹介します。

GXリーグとは

GXリーグとは、企業が官公庁や学術機関と協力して、社会的な課題に取り組むプラットフォームであり、持続的な成長を実現するためのGX(グリーントランスフォーメーション)を推進するものです。GXとは、企業がカーボンニュートラルへの移行を実践しながら、これをビジネスチャンスと捉え、経済社会システム全体の変革につなげることを目的としたものです。

出典:GXリーグ事務局『GXリーグ活動概要 - ~What is the GX League』p,3.(2023/02/17)

出典:経済産業省『GXを実現するための政策イニシアティブ の具体化について』p,17.(2022/11/24)

GX ETS(GHG排出量取引制度)とは

GX ETSとは、GXリーグにおける排出権取引制度のことを指し、2021年度において直接排出量が10万トンCO2相当以上の参画企業を「Group G」、10万トンCO2相当未満の参画企業を「Group X」としています。ETSとは、カーボンニュートラルの手法として、企業のCO2排出上限を政府が設定し、設定量を超えてしまった企業は、下回る企業に自社の超過したCO2排出量を買い取ってもらう仕組みのことです。

GX ETSは、現在は、企業の自主性に重きを置いた考えとなっていますが、一方、諸外国では大企業はETSへの参加義務があり、政府による排出量の監視のもと違反した場合は罰則があるものとなっています。GX ETSは、2026年までを第1フェーズとし、企業が自主的に行う段階とし、2026年以降、排出量取引市場の本格稼働(第2フェーズ)を経て、GX ETSの更なる発展(第3フェーズ)に向けて進む予定です。

GX-ETSの段階的発展のイメージ出典:経済産業省『GXを実現するための政策イニシアティブ の具体化について』p,19.20.(2022/11/24)

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSの概要』p,4.(2023/02/14 )

GX ESTが注目される理由

日本の排出量取引は、2008年から2012年の京都議定書第1約束期間においてEUと共に国際排出量取引を利用していましたが、2023年4月にGX ETSがスタートしたことで、世界中でEX ETSのクレジット需要が本格的に広がることを期待しています。

GX ETSでは、J-クレジットとJCM(二国間クレジット)が主なクレジットとしており、特にJ-クレジットによる再エネ電力由来と省エネ由来の取引価格が高めとなっていることから、世界では海外企業が日本企業と協力してJCMに取り組む意欲が高まっています。

出典:経済産業省『GX市場創出に向けた考え⽅』p,16.(2024/03/25)

出典日本取引所グループ『カーボン・クレジット市場日報』(2024/04/25)

2.GX ETSの第1フェーズ(試行)概要

GX ETSは、現在第1フェーズを進行中で、参画企業には「プレッジ」「実績報告」「取引の実施」「GXダッシュボードでのレビュー」の4つのステップが求められています。ここでは、GX ETSの第1フェーズの概要についてご紹介します。

(1)プレッジ(GXダッシュボードにおける開示)

2030年度と2025年度の排出削減目標と第1フェーズの排出削減量総計の目標を、国内直接排出と国内間接排出それぞれ設定します。基準年度は、2013年度を選択することを推奨する一方、参画企業の状況や実績に応じて2014年度から2021年度の間で設定することも可能ですが、一度設定した基準年度は第1フェーズ中に変更ができません。

そして、排出量は、選択した年度によって異なり、2013年度を選択した場合は2013年度の排出量を単位とし、2013年以降を選択した場合は基準年度を含む連続3か年度の平均排出量を使用します。

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSにおける第1フェーズのルール』p,10.12.(2023/02/01)

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSの概要』p,5.(2023/02/14)

(2)実績報告

実績報告では、Group G企業において国内直接・間接排出の排出量の実績を算定し報告します。その中で、検証の種類が異なっており、超過削減枠を創出しようとしている企業は、「合理的保証」とし、算定データは、算定基準に適合し重要なすべての要素を適切に示しているものとします。

一方、超過削減枠の創出を申請しない企業については、「限定的保証」とし、実施した手続きと入手した証拠に基づいて、算定データが算定基準に準拠していないと信じさせる要素は、全ての重要な点で認められなかったものとします。また、Group X企業については、第三者の検証は任意としています。

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSにおける第1フェーズのルール』p,42.(2023/02/01)

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSの概要』p,6.(2023/02/14)

(3)取引の実施

直近の年度から、直接および間接排出量が減少し、なおかつ直接排出量が国別貢献目標(NDC)の基準を下回っている場合、その削減分を「超過削減枠」として売却できます。日本のNDCは、2030年度において2013年度と比較して46%削減することを目指す直線的な削減計画のことを指します。

また、フェーズ終了後、実際の排出量が自主目標の排出量を上回った場合は、その差分に応じて超過削減枠や適格カーボン・クレジット(J-クレジットおよびJCMクレジット)を調達することで自主達成したものと見なされます。それでも、目標が達成されなかった場合は、その理由を説明する必要があります。

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSにおける第1フェーズのルール』p,46.47..(2023/02/01)

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSの概要』p,7.(2023/02/14)

(4)GXダッシュボードでのレビュー

情報開示プラットフォーム「GXダッシュボード」上で、参画企業の目標達成状況と取引状況を公開します。GXダッシュボードでは、各社ごとに詳細な取り組み状況を示すページを作成することで、参画企業の情報を分かりやすく提供したり、多くの排出産業を中心に別の手段に向けた課題や国際競争の状況など、閲覧者向けに分かりやすい情報を提供し、さまざまな業種の特性を理解しやすくし、参画企業との対話を重ねていきます。

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSにおける第1フェーズのルール』p,61.62..(2023/02/01)

出典:GXリーグ事務局『GX-ETSの概要』p,9.(2023/02/14)

3.GX ETSが企業に与える影響とは

GX ETSに対応することで、企業は海外の規則に有利になる可能性やビジネス拡大チャンスの期待があります。ここでは、GX ETSが企業に与える影響をご紹介します。

海外の規則に有利となる可能性がある

欧州では、新たに炭素国境調整(CBAM)が進行中で、グローバル企業においては、CBAMを視野に入れた対応が必要となる可能性があります。CBAMとは、欧州から海外への製造拠点移転による温室効果ガス排出の域外流出を防ぐための制度で、対象部門の輸入品に炭素価格し、原産国で支払った炭素価格に関しては、その上乗せ分を差し引いても構いません。

現在のGX ETSでは、目標を達成できなかった企業は排出量取引の義務はありませんが、グローバルに展開する企業においては、CBAMに対してGX ETSを一種の盾として活用することが有利となることも考えられます。

出典:経済産業省『貿易と環境:炭素国境調整措置の概要と WTO ルール整合性』p,3.(2022/08/02)

ビジネス拡大のチャンス

GX ETSは、GXに関連する企業の取り組みを一覧できるプラットフォームとして、幅広く活用されることが期待されており、企業側から見るとGX ETSは効果的なコミュニケーションツールとして活用できます。

また、GX参画企業は、積極的にカーボンニュートラルを目指し、自主的な枠組みを超えて野心的な目標を掲げることが求められ、このような取り組みは、企業全体の成長に寄与することが期待されており、ビジネス拡大に必要な資金調達や優秀な人材の獲得に役立つと考えられています。

出典:内閣官房『GXを実現するための政策イニシアティブ の具体化について』p,13.( 2022/11/29)

国の支援策獲得に有効

GXリーグに参画している企業は、GXのリーダーシップを示す先駆的な企業のグループであり、国は「規則と支援を一体としたアプローチ」の基盤のもと、GXリーグにおいて実際の運用状況や段階的な進展に応じて、政策支援策を連動させることも検討しています。

2023年7月に閣議決定した「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」では、排出取引制度に参画する多排出企業を中心に、「GX経済移行債」を活用した支援策の連動を検討しており、このような支援を受けるためにも、GX ETSに対応し積極的なアプローチを広めることが重要となります。

出典:GXリーグ事務局『来年度から本格稼働する GXリーグにおける排出量取引の考え⽅について②』p,40.(2022/10/21)

出典:経済産業省『脱炭素成長型経済構造移行推進戦略』p,15.16.17.(2023/07/27)

4.GXリーグ参画企業の取り組み事例

最後に、GXリーグに参画している企業の取り組み事例をご紹介します。

住友商事株式会社

住友商事株式会社は、2050年カーボンニュートラルを達成するための中間目標として、2035年までに2019年のCO2排出量を50%以上削減することを目指しています。

そして、2023年4月にGX ETSに参画し、2050年に向けたカーボンニュートラル目標に合致する第1フェーズの排出削減量総計、2050年度および2030年度の温室効果ガス排出削減目標を設定して取り組んでいます。また、「経営促進WG」「適格カーボン・クレジットWG」などワーキンググループの参画を通じてGX関連のルール形成にも貢献しています。

出典:GXリーグ公式WEBサイト『参画企業のGX実現に向けた取組_住友商事株式会社』(2024/03/07)

株式会社商船三井

株式会社商船三井は、GXリーグ参画を契機に、内航海運による社会の環境負荷の低減に対する貢献を広く知ってもらい、自社の取り組みを紹介することで、内航海運全体のGHG削減を推進したいと考えています。

その理由として、内航海運業界では、多くの小規模事業者が環境投資に余裕がないため、燃料転換などの高額な施策があまり進んでいないことが挙げられます。その一方で、船舶による海上輸送は、他の貨物輸送と比べて環境への負荷が少なく、海上輸送自体がGHGの削減に貢献していると言えます。

出典:GXリーグ公式WEBサイト『株式会社商船三井』(2024/02/09)

大成建設株式会社

大成建設株式会社は、2050年に向けて企業独自の長期環境目標「TAISEI Green Target 2050」を定めています。GXリーグの活動では、2022年度は、GX未来像策定WGの中心メンバーとして「モノづくりを循環型にし、循環経済を実現する」ことを共同提案、GX経営促進WGでは、「気候関連の機会における開示・評価の基本指針」のもと削減貢献量を情報開示しています。また、2023年度は、グリーン商材付加価値WGに参画し、「グリーン商材の付加価値付けに関する提言書」を共同執筆しています。

出典:GXリーグ公式WEBサイト『大成建設株式会社』(2024/03/01)

5.まとめ:GX ETSの知識を深め環境貢献を企業のビジネスチャンスへ!

GX ETSとは、GXリーグ内で自主的に行われる排出量取引の市場で排出量の多い企業は排出量の少ない企業から排出権を購入したり、自社で排出量を削減したりすることで、排出量を削減する仕組みです。現在は、第1フェーズを進行中で、参画企業には、「プレッジ」「実績報告」「取引の実施」「GXダッシュボードでのレビュー」の4つのステップを進めています。

企業がGX ETSを活用することで、ビジネスの成長機会が広がり、国からの支援を受けるチャンスが増えるだけでなく、グローバル企業は、海外の規則に対しても有利となることが期待されます。ぜひ、GX ETSの知識を深め環境貢献をアピールしビジネス拡大のチャンスをつかみましょう。

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サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説