東京大学・今田由紀子さんが解説。猛暑、激甚化した台風……異常気象と気候変動の関係

東京大学の今田由紀子さん

テレビでお天気ニュースを見ていると、よく耳にするようになった「記録的な猛暑」という言葉。いま日本では、さまざまな異常気象を経験することが増えているように思います。

しかし、異常気象と気候変動の因果関係について、天気のニュースで触れられる機会はあまりありません。

異常気象と気候変動の関係について、東京大学・大気海洋研究所・気候システム研究系・気候変動現象研究部門・准教授を務める今田由紀子さんに聞きました。

目次

  1. なぜテレビのお天気コーナーで、気候変動が報じられないのか?

  2. 架空の100個の地球から見えてきた、気候変動と異常気象の関連性

  3. 企業のCO2排出量削減は、気候変動解決に寄与しているのか?

1. なぜテレビのお天気コーナーで、気候変動が報じられないのか?

――なぜ、お天気ニュースで異常気象が取り上げられる際に、気候変動について触れられることがあまりないのでしょうか?

昨年の記録的な猛暑、激甚化する台風とそれによる被害、ゲリラ豪雨など昨今、気象の歴史のなかで「異常」とされる現象が起きています。異常気象が発生するとマスメディアから連絡があって「これは気候変動の影響ですか?」と質問されることも多くなってきています。私はこれまで、そう問われると言葉を濁してきました。

なぜなら、個別の異常気象と気候変動の影響を関連付けるのは非常に難しかったからです。

例えば日本の場合、大雨が降るときは線状降水帯や梅雨前線の停滞、台風の発生などの影響が最も大きくなります。夏の暑さも同様です。太平洋高気圧がバーンと張り出して日本の上にとどまらないと、暑くならないわけですが、暑さに最も影響を及ぼしているのは高気圧なので、気候変動がそこにどれだけ影響しているかまでは報道されないんです。

もちろん、気候変動が異常気象を底上げしている可能性はあります。しかし特定の1つの異常気象、たとえば何月何日の記録的な暑さに気候変動がどれほど底上げしているかどうかまでは、サイエンスの力で実証するのがきわめて難しかったのです。個々の異常気象について、ここからここまでは気候変動の影響ですよと言及することができませんでした。

――「難しかった」と、いま、過去形でおっしゃいましたが……。

そうですね。たしかにこれまでは難しかったんです。気候変動の影響ですよとはっきりいうことはできませんでした。しかし最近では、「イベント・アトリビューション」という手法で異常気象と気候変動の関連について実証できることが少しずつ増えてきました。

――イベント・アトリビューションとはどのようなものなのでしょうか。

コンピュータ上にたくさんの温暖化した地球としていない地球を作ることで、どれくらい異常気象の発生確率が異なるかを比較検討することができます。大量のデータをとてつもない速度で計算できるスーパーコンピューターが不可欠で、2011年ごろから欧州の大学を中心に活発に行われるようになった研究です。

異常気象が起きている時間を切り取って、温暖化が進行している現在の地球を100個くらいつくってシミュレーションを実施し、どれくらいの確率で異常気象が起こるかを計測するんです。

2. 100個の地球から見えてきた、気候変動と異常気象の関連性

(キャプション)イベント・アトリビューションのイメージ図(今田由紀子さん提供)

(キャプション)イベント・アトリビューションのイメージ図(今田由紀子さん提供)

――100個も地球があるというのは、とても興味深いお話ですが、具体的にはどのように発生確率を計測するのでしょうか?

たとえば猛暑は、太平洋高気圧がバーンと張り出すことによって発生しますが、高気圧の張り出し方には、年によって差があります。また夏のどの時期に張り出すかも異なってくる。いろいろな条件と偶然が掛け合わさって暑くなるのです。

気象はさまざまな偶然が掛け合わさって起きるわけですが、同じ条件の下で、ほかにはどんな偶然が起こりえたのだろう、すべての偶然を見てみようというのがイベント・アトリビューションだと考えてみてください。

私はそれを、“パラレル・ワールド”と呼んでいますが、たくさんの地球でいろいろな偶然が起きて、猛暑になったり、ならなかったりするのを観察し、どれくらいの地球で猛暑になるのかを調べることができるのです。たくさんある地球のなかでどれくらいの地球で猛暑が起きたか、それがまさに発生確率ということになります。

産業革命前、つまり温暖化前の地球を作り出して、同じように猛暑の発生確率を計測することによって、気候変動が猛暑に影響を与えているか否かを導き出すことができます。

温暖化していない地球よりも、温暖化している地球で特定の異常気象の発生確率が上がっていた場合には、温暖化、つまり気候変動と異常気象の間には関連があるよね、といえるわけです。

ーー温暖化以外の条件は同じ地球をたくさんつくり、猛暑が起きる発生確率はどのように違うのですか?

明らかに、温暖化している地球のほうが猛暑が起きる確率は高くなるという結果が出ています。

もちろん、温暖化していない地球でも偶然が重なれば猛暑が起きることはあります。ただ、温暖化している地球と比べるとその確率が低くなるということです。

ーー実際に、先生がイベント・アトリビューションを用いて、気候変動と異常気象の関連性について研究した例があれば、教えてください。

ひとつが、2022年6月下旬から7月初めの記録的な高温を対象としてイベント・アトリビューションを実施した結果、地球温暖化の影響が大きく寄与していたことの検出に成功した研究があります。温暖化が進む実際の地球と、産業革命前を想定した温暖化していない地球で2022年のような猛暑が発生する確率を計算したところ、温暖化している地球では約20%だったのに対し、温暖化がない地球ではほぼゼロとなりました。

このようにして、気候変動と異常気象には関連があると証明できるようになります。

また、イベント・アトリビューションで用いているシミュレーションを応用すると、さらに温暖化が進んだ時に何が起こるかを推測することができます。その結果、パリ協定で決められた2度目標を達成できない場合、過去に経験したことがないような猛暑の発生に見舞われることがわかりました。

たとえば猛暑地点数の研究でいうと、産業革命以降の世界の気温上昇がパリ協定の目標である2度に抑えられたとしても、日本で最高気温が35度以上となる猛暑日が発生する頻度が現在の約1.8倍に増えるとの予測結果がでました。1.5度昇温でも延べ3000地点以上と約1.4倍となる見込みです。

3. 企業のCO2排出量削減は、気候変動解決に寄与しているのか?

ーー猛暑以外にはどのような研究があるのでしょうか?

豪雨と気候変動の関係を調べるイベント・アトリビューションもたくさんあります。また、それらの結果と河川モデルを組み合わせる発展的な研究もあります。一例として、環境省が実施した台風による浸水面積の比較、つまり台風による被害の大きさを比較する研究について紹介します、

地球温暖化が進行した将来における台風の影響を評価するため、文部科学省の統合的気候モデル高度化研究プログラム(統合プログラム)並びに気象庁気象研究所の協力・指導を受け、気象モデルを用いた研究です。温暖化が進行した条件において2019年に日本で甚大な被害が出た令和元年東日本台風が発生した場合の気象の状態をコンピュータ上にて計算(シミュレーション)しました。

この研究は発生確率ではなく、一つ一つの現象の強さを比較するイベント・アトリビューションの一種になります。

その結果、当時の地球と将来のさらに温暖化が進んだ地球で比較した場合、浸水地域が拡大するという結果が出ました。これはどういうことかといいますと、気温が高くなると大気中の水蒸気の量が増加するので、台風が発生した場合降水量が増えることを示しています。

同じ台風でも温暖化した地球では、被害が深刻化することがわかりました。

――ニュースなどで気候変動が取り上げられることが少なく、自分たちのCO2削減お取組みがどれだけ意味があるのか体感できないという方も多いと思います。

ここまでお話ししてきた通り、2度目標が達成されたとしても気候変動の影響で異常気象の発生確率はあがり、温暖化が進めば豪雨をもたらす台風による被害も深刻なものになるという結果が出ています。

もし、猛暑の影響で原材料が調達できなくなる、工場や営業所が台風の被害を受けて運営できなくなるなどの事態になったら、企業の事業活動に大きな影響が出ることもあるでしょうか。

しかも、これは日本国内だけの話ではありません。地球規模の話です。海外で事業を展開している企業にとっては、異常気象の影響を受ける範囲も広くなるということです。

もちろん業界によってはCO2排出量を削減することで立ち行かなくなってしまう業界もあるとは思いますが、気候変動は企業にも大きな影響を与えます。だからこそ、全世界で取り組むべき問題だということができます。

ーーこのままだと地球はどうなっていくのでしょうか?

イベント・アトリビューションは近年始まった手法なので、これからも様々な研究結果が出ると思います。

ただひとつ言えることは、1,5℃、2℃の目標をなんとか達成したとしても、異常気象の発生確率が上がることは前述の通りです。

それに向けた社会の体制作りもこれからは必要になってくるのかもしれませんね。

例えば、私には小学生の子どもがいますが、暑さ対策として運動会の時期をずらすといったことも行われています。一方で、新たな問題も生まれています。昨年の夏は熱中症アラートが出るとプールに入れず、結局1度しかプールの授業がありませんでした。このように、異常気象への対策を重んじることで教育の機会が失われてしまうのは大変残念なことです。

学校単位の対策に比べると、社会全体、国全体としての対策はもっと難しい課題です。

異常気象の発生確率があがった世界でどのような対策ができるのか、対症療法ではなく、社会の在り方そのものの転換期が迫ってきているといえるのかもしれません。

(取材・執筆 アスエネ編集部 榊原すずみ)

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