不動産業界におけるカーボンニュートラルの取り組みとは?

不動産業界におけるカーボンニュートラルの取組みについて、わかりやすく解説します。建設産業や住宅産業などの不動産業も、カーボンニュートラルと決して無縁ではありません。

脱炭素実現のために、省エネルギーへの対応などさまざまな取り組みが求められています。本記事ではカーボンニュートラルと不動産の関係、不動産業界におけるカーボンニュートラルへの取り組みの方向性、業界団体や企業における実際の事例などをご紹介します。

目次

  1. カーボンニュートラルとは

  2. 不動産業界におけるカーボンニュートラル

  3. 不動産業界のカーボンニュートラルへの取り組み事例

  4. まとめ:不動産関連産業でもカーボンニュートラルを実現しよう!

1. カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルは、温室効果ガスの削減にあたって肝となる概念です。カーボンニュートラルの意味や不動産業界との関係について解説します。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、人為的な活動によって発生する温室効果ガスの排出量から、植林や森林管理などによる二酸化炭素などの吸収量を差し引いて、排出量を実質的に「0」とすることです。日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを目指すことを宣言しており、温室効果ガス排出量の削減と吸収作用の保全や強化を進めていく必要があります。

出典:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」

不動産業とカーボンニュートラルの関係

CO2削減には、家庭や事業用建物からの排出削減も重要です。このため、不動産建築における脱炭素の取組は、カーボンニュートラル実現には欠かせません。しかし日本においては、住宅断熱による省エネルギー対策が十分に普及していません。

このため国土交通省では、2025年以降全ての新築住宅に対して省エネ基準への適合化を目指しています。省エネ基準とは、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準のことです。日本では既存住宅の9割において断熱性能が現行の省エネ基準に適合しておらず、カーボンニュートラル達成上も課題となっています。

出典:国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」p18-19(2021/8)
出典:エネルギー庁「エネルギー白書2020」
出典:国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター「民生家庭部門の断熱改修普及分析に基づく家庭の脱炭素化に向けた提言」p.1(2022/4)
出典:国土交通省「省エネ基準の概要」p1

2. 不動産業界におけるカーボンニュートラル

不動産業界においては、省エネ対策をはじめとしてカーボンニュートラルへ寄与するさまざまな対策が考えられます。不動産業界におけるカーボンニュートラルの方法について解説します。

省エネ基準について

不動産に対する環境政策の中でも重要なのが、省エネ基準です。省エネ基準は住宅・建築物ともに適用される「一次エネルギー消費量基準 」と、住宅のみに適用される「外皮基準」で構成されています。それぞれの概要は以下の通りです。

一次エネルギー消費基準

空調・換気・照明・給湯などの消費エネルギー量から太陽光発電などによる創エネルギー量を差し引いた値が基準値以下であること

外皮基準

外皮(外壁、窓等)の表面積あたりの熱の損失量が基準値以下となること

すなわち実質的なエネルギー消費量が少なく、外気温の影響を受けにくい建物であることが、省エネ基準適合の条件となっています。

出典:国土交通省「省エネ基準の概要」p1

省エネルギー対策

日本の不動産業界におけるカーボンニュートラル対策では、住宅や建物の省エネルギー対策が非常に重要です。そのため省エネ基準適合の義務化や省エネ基準の引き上げ、省エネ性能表示の義務付け、既存住宅の省エネ改修促進などが進められています。

さらに省エネ基準を、今後ZEH(ゼッチ)レベルへ引き上げることが検討されています。ZEHとは「net Zero Energy House」の略語で、使用するエネルギーと太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする住宅のことです。さらにZEHの要件に加え、建設や廃棄時のCO2削減にも配慮した「LCCM住宅」の普及を推進することなども予定されています。

出典:国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要」p2(2021/8)
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~新しい省エネの家『ZEH』」(2017/10/10)
出典:国土交通省「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅関連事業(補助金)について」(2024/2/17)

再生エネルギーの導入拡大

不動産分野においても、太陽光発電や太陽熱、地中熱、バイオマスなど再生可能エネルギーの利用拡大を図ることが重要であると考えられています。特に太陽光発電については、設置義務化も視野に普及策が検討されており、国や地方自治体の新築物における導入の率先や、建築主に対する情報発信などが行われています。

出典:国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要」p2(2021/8)

木材の利用拡大

木材は樹木が取り込んだ大気中のCO2を炭素として貯蔵するため、建材などに木材を多く利用すれば、その分だけ大気中の二酸化炭素を固定化することができます。また木材はコンクリートや鉄などと比較し製造過程におけるCO2排出が少なくて済みます。

例えば住宅一戸につき材料製造時におけるCO2排出量は鉄骨プレハブでは14.7炭素t、鉄筋コンクリート造りでは21.8炭素tであるのに対し、木造ではわずか5.1炭素tです。

さらに木材については伐採後の植林・育林で、環境負荷のないサイクルを持続することができます。これらのメリットから木材の利用拡大は、不動産業界における重要なポイントとなっています。

出典:国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要」p2(2021/8)
出典:林野庁「平成29年度 森林・林業白書」

3. 不動産業界のカーボンニュートラルへの取組み事例

不動産分野では、、カーボンニュートラルへのさまざまな試みが行われています。不動産業界における取組み事例をご紹介します。

一般社団法人 不動産協会 ・ 一般社団法人 日本ビルヂング協会連合会

一般社団法人 不動産協会と一般社団法人 日本ビルヂング協会連合会は、2021年に「不動産業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」を発表しました。不動産業におけるカーボンニュートラルへの貢献手段が、「設計・企画」「施工」「運用」「解体」とサプライチェーンごとに整理されています

。さらにそれぞれを「建物単体の脱炭素化」「まち全体の脱炭素化」に分け、省エネ・再エネを中心とした多くの具体例が示されています。

出典:一般社団法人 不動産協会 ・ 一般社団法人 日本ビルヂング協会連合会「不動産業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」p15-17(2021/4)

ミサワホーム株式会社

ミサワホーム株式会社はZEHおよびLCCM住宅の普及をはじめとするさまざまな事業活動を通じて「CO₂排出量削減」を推進し、2030年CO₂排出量50%削減(2020年度比)と2050年カーボンニュートラル実現を目指しています。そのために新築戸建におけるZEH率90%、共同住宅におけるZEH率50%、エコリフォームの推進によるCO2削減貢献量+30%という目標が掲げられています。

出典:ミサワホーム株式会社「2050年 カーボンニュートラルの実現に向けて」

東急不動産ホールディングス株式会社

東急不動産ホールディングス株式会社は、環境経営の柱として「クリーンエネルギー普及など、すべての事業を通じた環境負荷低減」「環境に寄与する快適な街と暮らしの創造」を掲げ、自社のCO2排出については、2025年「カーボンマイナス」への貢献を実現するとしています。具体的には再生可能エネルギー事業によるCO2削減量で、自社のCO2排出量を上回ることを目指しています。

出典:東急不動産ホールディングス株式会社「全社方針|環境経営」

三井不動産株式会社

三井不動産株式会社は、グループ全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに40%削減し(2019年度比)、2050年度までにネットゼロとすることを目標にしています。そのため「新築・既存物件における環境性能の向上」「再生可能エネルギーの安定的な確保」「建築時のCO2排出量削減に向けた取組み」などを掲げ、メガソーラーの拡大や洋上風力活用などにも取り組んでいます。

出典:三井不動産株式会社「脱炭素社会実現への取り組み」

4. まとめ:不動産関連産業でもカーボンニュートラルを実現しよう!

カーボンニュートラル実現のため、不動産業界での取組みにも注目が集まっています。特に日本では住宅の断熱性能の劣後が課題となっており、今後はZEHなどの普及による省エネ対策が期待されます。

さらに再生可能エネルギーの活用や木材の利用推進も、不動産業界における取組みの重要ポイントとなります。既に業界団体がサプライチェーンごとの取組み事項を整理・提示したり、不動産業界の企業による意欲的なCO2削減目標の公表といった動向が見られます。

不動産関連産業の各企業においても、建設・運用・廃棄という不動産のライフサイクル全体を再点検して、カーボンニュートラルを実現しましょう。

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