GHGプロトコル改定に注目!変わる企業の電力使用の考え方

GHGプロトコルの改定がまとめられ、これまでの考え方を見直す必要性が出てきました。特に、電力使用に関係のあるScope2についての要件が厳格化されることから、企業の電力使用の考え方が変わるものとなります。ここでは、GHGプロトコルの基礎知識を振り返ると共に、今回の改定の軸となるScope2について、また、GHGプロトコル改定によって今後、日本の企業が注目するべき点についてわかりやすくご紹介します。

目次

  1. GHGプロトコルについて

  2. GHGプロトコルに関わるサプライチェーン

  3. GHGプロトコルの改定「Scope2」に注目

  4. 今後、日本の企業が注目するべきことは?

  5. まとめ:GHGプロトコル改定に注目し企業の取り組みを見直そう

1. GHGプロトコルについて

ここでは、GHGプロトコルについてご紹介します。

GHGプロトコルとは

GHGプロトコルとは、事業者の温室効果ガス(GHG)排出量の算定と報告の基準となる国際的な枠組みのことです。この枠組みは、1998年に世界環境経済人協議会と世界資源研究所によって共同設立されたもので、政府機関やNGO、事業者など複数の協力によって作成されているのが特徴です。

出典:環境省『温室効果ガス(GHG)プロトコル』p,4.(2001/11/14)

GHGプロトコルの目的

GHGプロトコルの目的は、国際的に受け入れられるGHG排出量の算定と報告の基準を開発し、その利用を促進させることにあります。これまで、事業者のGHG排出量に関しては、一般的に定められているGHG排出量算定方法や報告要件はなく、政府や環境団体などのプログラムを事業者が選定しそれぞれの基準に沿って算定・報告を行っていました。しかし、それぞれガイドラインが違うことから、一貫性に欠けることやGHG排出量の報告の必要性に疑問がありました。そこで、世界のさまざまなGHG排出量のプログラムをまとめ、世界的に共通の基準を設定し誰もが理解できるGHG排出量の算定や報告のために作成されました。

出典:環境省『温室効果ガス(GHG)プロトコル』p,4.p,14.(2001/11/14)

2. GHGプロトコルに関わるサプライチェーン

GHGプロトコルを考える際に重要な要素となるサプライチェーン排出量についてご紹介します。

サプライチェーン排出量算定とは

サプライチェーン排出量とは、原材料の調達・製造・物流・販売・廃棄などの事業活動全てから排出されるGHG排出量のことです。このサプライチェーン排出量は、「Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量」で算出することができます。

出典:環境省『サプライチェーン排出量とは︖』p,1.(2023/03/09)

Scopeのカテゴリー

Scopeのカテゴリーは、自社で発生するGHG排出量のうち製造などにかかる燃料の燃焼や工業プロセスによって自社から直接排出された排出量を「Scope1」、自社が他社から供給された電気や熱などを、自社で利用することで間接的に排出された排出量を「Scope2」としています。また、原材料の調達や消費者による製品の使用など自社の事業活動のサプライチェーンにおいて自社以外の分野から排出されるGHG排出量を「Scope3」としています。

Scopeのカテゴリ

出典:環境省『サプライチェーン排出量とは︖』p,1.(2023/03/09)

サプライチェーン排出量算定の効果

サプライチェーン排出量は、サプライチェーン全体で考えるため、ひとつの事業者がGHG排出量を削減すると、サプライチェーン上で関わりのある他の事業者もサプライチェーン排出量を削減したことになります。また、サプライチェーン排出量を算定することで、優先的に削除すべき箇所が明確になり、GHG排出量を削減するための効果的な方法となります。そして、環境に積極的な企業と投資家にアピールすることで、自社への投資意欲を高めることも期待できます。

出典:環境省『サプライチェーン排出量とは︖』p,3.p,4.p,5.(2023/03/09)

3. GHGプロトコルの改定「Scope2」に注目

2023年11月に、GHGプロトコル改定の最終的なとりまとめが公表されました。その内容は、マーケット基準の要件の厳格化や加盟企業に求める技術要件などScope2に焦点を当てたものとなっています。

なぜGHGプロトコルが改定されるのか?

従来のGHGプロトコルでは、Scope2を算定する方法として「ロケーション基準」と「マーケット基準」のふたつが併用されています。ロケーション基準とは、企業がある地域(ロケーション)全体の平均排出係数を基準に算出する考え方です。一方、マーケット基準とは、使用した電力の種類ごとの排出係数を基準とする考え方で、例えば、自然エネルギー由来の電力は排出係数ゼロとして算出することができます。

しかし、マーケット基準は、購入した電力の生産時にかかるGHG排出量のみを評価し電力の消費による排出量を反映していない点や、自然エネルギー由来の電力は調達方法よって削減効果に違いがあるにも関わらず全て排出系数ゼロとして扱われるなどの問題点も指摘されています。そこで、マーケット基準に焦点を当ててGHGプログラムを改定する運びとなりました。

出典: 自然エネルギー財団『GHGプロトコル改定へ、注目のScope2の論点まとまる | 連載コラム 』(2023/11/15)

出典:GHG Protocol『GHG Protocol Scope 2 Guidance』p,25.p,26.(2020/02/06)

マーケット基準の要件を厳格化

従来のGHGプロトコルによる排出量の算定は、年単位で考えられており、自然エネルギー由来の電力を年間の電力使用量と同量分を調達した場合、その調達量と使用量を日時などを照らし合わせて一致させる必要がありませんでした。

しかし、太陽光発電での調達の場合は、夜間は調達ができず結果的に化石燃料由来の燃料を調達していることから、電力でのGHG排出量削減を阻んでいるという指摘があります。そのため、GHGプロトコル改定では、自然エネルギー由来の電力調達に関して、時間と場所の要件を厳しくし、使用量と調達量を一致させることとしています。

出典: 自然エネルギー財団『GHGプロトコル改定へ、注目のScope2の論点まとまる | 連載コラム 』(2023/11/15)

加盟企業に求める技術要件

効果的な気候変動緩和には、GHG排出量削減の効果が十分に得られる電力の調達が必要であり、そのためにはGHGプロトコルでも企業の技術的な課題を、他の気候変動関連の機関の要件と足並みを揃えてより効果的にすることが重要となります。例えば、国際イニシアティブのRE100では、運転開始15年以内の発電設備から調達した電力に制限しています。また、気候変動の取り組みを評価するCDPは、効果のある調達方法を評価する質問を設けています。そこで、GHGプロトコルにおいても、このような技術要件を加盟企業に求めるべきとされています。

出典: 自然エネルギー財団『GHGプロトコル改定へ、注目のScope2の論点まとまる | 連載コラム 』(2023/11/15)

4. 今後、日本の企業が注目するべきことは?

GHGプロトコルは、国際的な枠組みとして多くの国際イニシアチブ機関で採用されており、日本でも今後、GHGプロトコルを視野に入れた算定が求められる可能性があります。ここでは、現在の日本のGHG排出量算定とGHGプロトコルの関係性をご紹介します。

日本のGHG排出量に関する制度「SHK制度」

SHK制度とは、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づいた、日本のGHG排出量算定・報告・公表を行う制度で、前年度のGHG排出量の「基礎排出量」と「調整後排出量」を算定し報告・公表するものです。基礎排出量とは、自社の事業活動によって直接的または間接的に排出された排出量のことで、調整後排出量とは、基礎排出量を排出削減クレジットなどの無効化量を調整し算出した排出量のことを指します。

出典:環境省『GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)』p,3.(2022/09/09)

GHGプロトコルとSHK制度のScopeでの共通点と相違点

GHGプロトコルとSHK制度のScope1・2の共通点として、①対象となるGHGの種類、②算定の基準がScope1とScope2の範囲、③活動量×排出係数が基本の算定方法、④Scope2において電力・熱証明書の利用が可能、⑤バイオマス由来の排出量は含まないことが挙げられます。

しかし、②では対象地域や組織、活動、算定の対象となる排出量が異なる、④では種類によって算定の方法が異なる、⑤ではGHGプロトコルでは別にバイオマス由来の排出量の報告の義務があるなど、それぞれの項目で細かい違いがあります。

出典:環境省『GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)』p,9.p,10.p,11.(2022/09/09)

SHK制度の算定方法をGHGプロトコルに合わせるためには

SHK制度の算定方法を用いている場合、GHGプロトコルの基準に合わせるためには、双方の相違点において整合させる必要があります。

具体的には、GHGプロトコルの算定方法で改めて算定しなおしたり、対象とならない排出量を差し引く、または、必要な排出量をプラスすることでGHGプロトコルと一貫性を持たせることが可能となります。国では、企業がGHGプロトコルを活用しやすいように、ガイドラインやGHGプロトコルに換算するための機能を導入する案が提案されています。

出典:環境省『GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)』p,12.p,13.(2022/09/09)

5. まとめ:GHGプロトコル改定に注目し企業の取り組みを見直そう

GHGプロトコルの改定についてご紹介しました。GHGプロトコルとは、事業者のGHG排出量の算定と報告の基準となる国際的な枠組みのことで、算定にはサプライチェーン排出量算定が使用されます。しかし、Scope2においては、ロケーション基準とマーケット基準が用いられていることで双方の考え方のズレやマーケット基準の不透明さが問題視されていました。マーケット基準の廃止は現実的には難しく、そこで、マーケット基準の要件を厳格化させるためにGHGプロトコルの改定が決定しました。

企業は、GHGプロトコルの内容を改めて理解し、自社のGHG排出量算定の考え方を見直す必要があります。ぜひ今後のGHGプロトコルに注目し、要件に沿った取り組みを進めましょう。

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サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説