CO2排出量が原因で、どれくらい温暖化が起こっているのか? 気候変動の実態とこれから

最新の研究結果から、IPCC執筆者江守正多氏がわかりやすく解説!CO2排出量の増加と気候変動の現状と見通しを明らかにします。

ビジネスで気候変動対策としてCO2排出量の見える化や削減、サステナビリティに取り組んでいる方も、そもそも気候変動とはという話にあまり触れたことがないケースもあるのではないでしょうか。

2024年2月20日に行われた、アスエネ株式会社の顧問で、東京大学 未来ビジョン研究センター教授であり、国立環境研究所 上級主席研究員を務める江守正多氏とアスエネ株式会社のCo-Founder&取締役COOの岩田圭弘による「IPCC執筆者江守正多氏が解説する気候変動危機の実態 〜ネットゼロ実現のための企業の方策〜」のなかでは、最新の研究からCO2排出量と気候変動の関係について解説がされました。

「今までに受けたセミナーの中で図解などが一番分かりやすく、危機感を肌で感じられる内容でした」といった参加者の声が聞かれ、好評だった本セミナーの内容の一部をアフターレポートとして、ご紹介します。

目次

  1. 過去最高で暑かった、2023年の夏

  2. CO2排出量が原因で、どれくらい温暖化しているのか?

  3. 気候変動が進むと、これから起こること

  4. 気候変動について語るときの大事な視点

  5. 気候変動対策に必要な、エネルギー源転換

  6. まとめ・ネットゼロ実現のための企業ができること

1. 過去最高で暑かった、2023年の夏

上記のグラフは、世界平均気温の季節変化の推移を表したものです。江守氏は「2023年の夏は世界各地で過去最高気温が観測され、日本でも記録的な猛暑になりました。グラフを見ると分かるように、1850年から今まで、一昨年、去年と比べても、2023年は過去最高で段違いに暑い夏だったことがわかる」と指摘します。エルニーニョ現象の影響があったとはいえ、それだけでは説明がつかない暑さであり、専門家でも驚くような高温がいま、世界で続いているのです。

「(記録的な暑さの)原因はいくるか指摘されており、今後明らかになっていくと思いますが、“地球沸騰”という言葉が誕生したように、私たちがびっくりするような温度を目撃する時代に生きていることは間違いないといえるでしょう」(江守氏)。

2. CO2排出量が原因で、どれくらい温暖化しているのか?

このグラフ(左)は世界平均気温の変化とその要因を分解したものです。

「1850年から過去170年ほどを見てみると、ここ約50年ほどでの世界平均気温がはっきりと上昇していることがわかるでしょう。温暖化していますよね」(江守氏)。

物理の法則に則り、コンピューターで気候を再現しシミュレーションをおこなった結果、太陽活動や火山の活動など自然要因のみで人間の活動要因を排除した場合、グラフの青緑の部分のように気温の上昇は見られないことがわかります。一方、自然要因に人間活動を加味したシミュレーション結果がオレンジの部分です。黒線で示される実際の平均気温上昇の動きと連動しているのがわかります。

オレンジの部分をさらに分解したグラフ(右)もまた、気温上昇は人間活動で説明ができることが示されています。「観測された気温上昇は1.1℃。気温上昇の要因として、太陽活動の変動や火山の噴火、気候の内部変動などの影響は非常に小さく、人間の影響による温暖化には疑う余地がないことが最新のIPCCの結論になっています」(江守氏)

さらに、「Event Attribution」という研究方法で、個々の異常気象、たとえば特定の年、特定の地域の、記録的な高温、大雨などに温暖化がどれくらい影響しているかもわかるようになってきていると江守氏は解説しました。

3. 気候変動が進むと、これから起こること

江守氏は人間活動によって引き起こされた気候変動によってこれから起こることについて、2点の指摘しました。

「気候変動によって起こることの1つとして生物種の損失リスク、2つめに海面上昇の話をします」(江守氏)。

生物種の損失リスクは、上記の図を見れば一目瞭然です。気温1.5℃、2℃、4℃と上がったときに陸上も海中も生物種の存続が危うくなるリスクが高まることがわかります。

人間も同じくリスクを抱えます。「熱中症になるような高温高湿の日数が増えれば増えるほど、人間の生存に適さない気候になります」と江守氏は解説しました。

2つ目の海面上昇は、陸上における氷の減少や海水の熱膨張によって起こります。すでに現在、1900年に比べて、世界平均の海面は約20センチ上昇していると江守氏は指摘しました。

「もし今後、気候変動対策がうまく進み、今世紀半ばに温度上昇が1.5度程度で止まったとしても、しばらくの間海面上昇は続いていくことがわかってます。しばらくといっても、数百年、1000年といった長いスパンです。たとえ温度上昇が止まっても海面上昇は止まらない。先ほどのグラフで、世界の平均気温は1.1℃上がっていると申し上げました。さらにそこから年月が経って、もう1.5℃目前です」(江守氏)

4. 気候変動について語るときの大事な視点

「いつも申し上げているんですけれども、気候変動について考えるとき、その原因に責任がない人たちが深刻な影響を受けることを忘れてはいけません」と江守氏は解説します。

このグラフは横軸が国ごとの1人当たりの温室効果ガス排出量で、縦軸が国ごとの異常気象などに対する脆弱性の指標です。縦軸上に行くほど大きな被害を受けやすい国になるわけですが、その多くが温室効果ガスをほとんど出していない。それなのに非常に深刻な被害を受けることがわかります。

「そしてもう一つ、将来世代ほど、より温暖化が進み大きな被害が出る地球の上で生きなくてはなりません。これも大切な視点です」(江守氏)。

5. 気候変動対策に必要な、エネルギー源転換

2023年にドバイで開催されたCOP28における「グローバル・ストックテイク(Global Stocktake:GST)」で5年に一度の気候変動対策の現在地確認が行われました。

「IPCCの報告書ですでに伝えられてきたことですが、1.5℃で温暖化を止めるためにどれくらいのペースで温室効果ガスを減らしていかなくてはならないかが、COPでも改めて各国に突きつけられたといってもいいと思います」(江守氏)。

爆発的なスピードで増えつづけてきたCO2排出量を今世紀中に“実質0”にするために、各国はNDCで削減の約束をしており、その実現に向けて取り組むことが求められています。

しかしその一方で、世界のエネルギー源はグラフを見るとわかるように、石油、天然ガスともに増加傾向のままです。「CO2を出さないエネルギー源である原子力は横這い、水力発電と水力以外の再エネ(おもに風力や太陽光)が増えてはいるものの、まだまだ足りません。COPの宣言では再エネを3倍に増やすという目標に合意しています」(江守氏)。

ちなみに、日本のエネルギー源のグラフは上記のようになっています

「石油の消費が格段に減っている点は非常に特徴的だと言えます。この点はとてもいい進捗だと思います。ただ再エネも増えてはいるものの、少し伸び悩んでいる印象もある。この先もCO2を排出するエネルギー源をどれくらい減らせるのかは非常に不透明だと感じています(江守氏)

6. まとめ・ネットゼロ実現のための企業ができること

深刻な気候変動の現状をふまえ、企業はなにをすべきなのでしょうか。

環境先進国欧州の規則やさまざまな環境イニシアチブのルールが日々生まれ、更新される中で、業がまずやるべきこととしてスエネ株式会社のCo-Founder&取締役COOの岩田圭弘

①まずはCO2排出量の見える化 ②省エネやオフセットを含めた削減(リムーブ) ③炭素除去 ④報告の4つのステップを挙げました。

「②の削減についてはさらに5つの段階①エネルギー転換 ②短中期の省エネ ③再エネの調達 ④自治体などとの連携 ⑤取りまとめといった流れを踏むことをおすすめしています」(岩田)。

とはいえ、これらのステップを踏み企業が気候変動への取り組みを進めるにはさまざまな課題があります。CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービスなどを活用することで、さまざまな課題を乗り越え、企業が足元からできることを取り組むことで、気候変動にストップをかけていきましょう。

 

(本記事は、2024年2月20日にアスエネ主催で行われた、「IPCC執筆者江守正多氏が解説する気候変動危機の実態 〜ネットゼロ実現のための企業の方策〜」の内容の一部を抜粋し、加筆修正したものです)

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