カーボンインセットとは?カーボンオフセットとの違いやメリットを解説

カーボンインセットとは、企業のバリューチェーン全体でCO2排出量削減に取り組むもので、近年、世界でも高い注目を浴びています。カーボンインセットの最大の特徴は、自然を基盤とする取り組みでCO2排出量を削減することで、持続可能性を生み出すという点にあります。

持続可能な社会を構築する上でも、カーボンインセットの積極的な導入が望まれます。ここでは、カーボンインセットとの意味や必要とされる背景、取り組むことで得られる効果、また、混同しやすいカーボンオフセットとの違いなどをわかりやすくご紹介します。

目次

  1. カーボンインセットとは何か?

  2. カーボンオフセットとの違い

  3. カーボンインセット承認のプロセス

  4. カーボンインセットで得られるメリット

  5. まとめ:カーボンインセットの取り組みを理解しビジネスモデルとなる企業を目指そう!

1. カーボンインセットとは何か?

世界は気候変動の危機に立たされている状況であり、その状況を打破するための取り組みとしてカーボンインセットが注目を浴びています。ここでは、カーボンインセットについてご紹介します。

カーボンインセットとは

カーボンインセットとは、国際的なプラットフォーム「IPI」が提唱した、自社のバリューチェーンに関連するCO2排出量を削減していく取り組みのことです。バリューチェーン内の他企業の削減努力が望めない場合、結果的にCO2排出削減が期待できないため、バリューチェーン全体で事業に関わる分野の環境保全に取り組むことが重要となります。

具体的な方法として、土壌の生態系を回復させて農作物をつくるリジェネラティブ農業や植林などの森林保全、農業と林業、畜産を融合したアグロフォレストリーなどがあります。このカーボンインセットの実施は、企業が環境保全に投資することで持続可能な企業を構築する手立てとなります。

出典: IPI『Insetting Explained』

カーボンインセットが注目される背景

世界では「地球の気温の上昇を1.5℃未満に抑える」ことを目標として、気候変動緩和の取り組みが進められています。しかし、CO2の排出を削減するだけでは問題が解決できない状況となっており、CO2を回収することも併せて必要となります。そこで、自然そのものに直接アプローチし、自然環境や生態系を回復させ本来の姿を取り戻すことが重要となります。

出典: IPI『Insetting Explained』

バリューチェーンを通じたカーボンインセット

ひとつの製品やサービスを製造または提供する場合、そこには原材料の調達や流通、ユーザーによる使用、廃棄、リサイクルなどといった多くの要素が関係しています。この一連の流れをバリューチェーンと呼びます。気候変動緩和の対策は、製品やサービスのみに着目するだけでは効果を得ることが難しく、バリューチェーン全体でCO2排出量削減に取り組むことで大きな成果を得られるようになります。

また、バリューチェーンは生物多様性と大きく関係しており、例えば、原材料は自然資源の適正管理のもと調達した原材料を使用する、製造では再生可能エネルギーを利用など持続可能な方法を利用することで環境保全に大きな効果が得られます。このような持続可能な方法で作られた製品やサービスを多くの人が利用すれば、それだけCO2排出量削減の成果が生まれます。

出典:環境省『生物多様性地域戦略策定の手引き (令和5年度改定版)』p,61.(2023/05/28 )

出典:一般社団法人 日本経済団体連合会『グローバル・バリューチェーンを通じた削減貢献 — 民間企業による新たな気候変動対策の視点 — 第五版』p,7.(2023/03/28)

2. カーボンオフセットとの違い

CO2排出量削減の取り組みとしてカーボンオフセットというものがあります。言葉自体はカーボンインセットと似ていますが、意味は全く違うものとなります。ここでは、カーボンオフセットについてご紹介します。

カーボンオフセットとは

カーボンオフセットとは、自社のCO2排出量を認識した上で、対策を行ったにも関わらず削減できなかった排出量を、他者が創出したCO2排出削減量で埋め合わせることを指します。

埋め合わせの部分では、CO2排出量削減・吸収の取り組みをクレジット化し取引するカーボンクレジットが主な方法となっています。一方、カーボンインセットは、自社のバリューチェーン全体でCO2排出量を削減していく取り組みとなっているので、カーボンオフセットとは全く違った考え方となります。

出典:J-クレジット制度事務局『カーボン・オフセット  ガイドライン  Ver.2.0』p,8.(2021/03/26)

3. カーボンインセットの承認プロセス

カーボンインセットとして認められるには、いくつかの手順があります。ここでは、カーボンインセットの承認と不適合の定義についてご紹介します。

カーボンインセットの一般的なプロセス

カーボンインセットの承認を得るためには、まず、カーボンインセットの基準を満たすプロジェクトを選ぶことから始まります。次に、プロジェクトに沿って、バリューチェーン全体でCO2排出量削減の努力をし、カーボンインセットの取り組みを実施します。

そして、プロジェクトが完了した後、プロジェクトで削減されたCO2排出削減量を算出し、基準を満たしていればカーボンインセットの承認を受けることができます。IPIのガイドラインでは、最終的にカーボンインセットのプロジェクトの60%を達成していることが基準となっています。

出典:IPS『INSETTING PROGRAM STANDARD』p,27.(2017/01/07)

カーボンインセット不適合の定義

カーボンインセットのプロジェクトの結果で、軽度の不適合と判断された場合は1年以内に問題を解決する必要があります。この場合、取り組んでいるプロジェクトは非承認扱いやプロジェクト登録の除外とはなりません。

一方、重大な不適合と判断された場合は、このプロジェクトでのCO2排出量削減の成果を証明する必要があり、カーボンインセットの承認は保留扱いとなります。しかし、証明できない場合は、取り組んでいたプロジェクトそのものが、承認プロセスから自動的に除外となってしまいます。

出典:IPS『INSETTING PROGRAM STANDARD』p,27.(2017/01/07)

4. カーボンインセットで得られるメリット

気候変動対策に貢献

カーボンインセットの最大の目的は、自然環境に着目した気候変動対策によるCO2排出量削減です。農業、林業などを通じたカーボンインセットは、森林破壊や土地の放棄の解決にもつながり、自然環境の保全や回復は、結果的に大きなCO2排出量削減につながります。

IPIは、持続可能な方法を確立し長期的な気候変動対策に貢献することで、1.5℃未満の目標で削減するべきCO2排出削減量の3分の1の量を、カーボンインセットで担うことができると考えています。

出典: IPI『Insetting Explained』

企業の生産性向上

カーボンインセットには、企業の生産性を向上させる効果も期待できます。カーボンインセットで農地や森林など自然環境を管理し改善すると、安定した原材料調達が可能となり、企業の持続可能な生産性を生み出す効果があります。また、地元の生産者を支援することで生産性が向上し、気候変動に積極的に取り組むことができ、結果として企業の資金につながる効果も期待できます。

出典: IPI『Insetting Explained』

バリューチェーンを通じたパートナーシップ向上

カーボンインセットは、バリューチェーン全体で取り組むことを重要としています。そのため、バリューチェーンを通じたカーボンインセットは、お互いのパートナーシップの向上を図る効果が期待できます。具体的には、自社に関わるバリューチェーン全体で同じ目的に取り組むことを通じて、必然的にそれらの企業との関係が密なものとなり、資金だけの関係以上の信頼関係を築くことができます。

出典: IPI『Insetting Explained』

5. まとめ:カーボンインセットの取り組みを理解しビジネスモデルとなる企業を目指そう!

カーボンインセットは、企業がバリューチェーン全体でCO2排出量を削減していこうという取り組みです。その方法は、リジェネラブル農業や森林再生など、自然を基盤とする持続可能な方法でCO2排出量削減をするものです。

また、カーボンインセットは、バリューチェーンの関係先をビジネスパートナーとして信頼関係を築くことで、生産性の向上などプラスの相乗効果が期待できます。カーボンインセットの取り組みを理解し、ビジネスを新たに発展させるとともに、環境を常に考えるビジネスモデルとなる企業を目指しましょう。

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