バーチャルPPA とは?概要やメリット、導入事例を解説

バーチャルPPAとはどのようなものか、わかりやすく解説します!バーチャルPPAは、再生可能エネルギーの普及を後押しする電力契約形態です。バーチャルPPAを活用することで、電力利用企業はクリーン電力を簡単に導入することができます。

この記事では、バーチャルPPAの基本的な概要・導入によるメリット・注意すべき点、そして現在の導入状況についてご紹介します。PPAの形態として「オンサイト/オフサイト」や「フィジカルPPA」についても取り上げます。

目次

  1. バーチャルPPAの概要

  2. バーチャルPPAを導入するメリット

  3. バーチャルPPAを導入する際の注意点

  4. 日本におけるバーチャルPPA導入事例

  5. まとめ:自然由来エネルギー発電への転換を図るため、バーチャルPPAの導入を検討しよう!

1. バーチャルPPAの概要

バーチャルPPAは、再生可能エネルギー由来の電力を電力契約を変えることなく導入する方法です。バーチャルPPAの概要について解説します。

(1)バーチャルPPAとは

バーチャルPPAとは日本においては、企業が自然エネルギー由来の電力を小売り電気事業者を通じて購入することです。小売電気事業者に支払う代金には、小売電気価格に加え環境価値(非化石証書:CO2削減量をクレジットとして購入し、自社におけるCO2削減量へ算入できる仕組み)が含まれます。市場価格とPPAで設定した固定価格の差額は、小売電気事業者と発電事業者の間で精算されます。
バーチャルPPAの契約形態(日本)

出典:自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA:契約形態、コスト、先進事例」p6-7(2021年11月)

(2)バーチャルPPAの特徴

PPA(Power Purchase Agreemen)とは、電力購入契約のことです。その中でも企業などの法人が、10~25年間という長期にわたって発電事業者から自然エネルギー由来の電力を購入する契約を、コーポレートPPAと言います。

コーポレートPPAには社有施設の屋上や敷地内などに太陽光発電などの設備を設置するオンサイトPPAと、敷地外からの送配電によるオフサイトPPAがあります。バーチャルPPAはオフサイトPPAのひとつであり、電力購入契約を変更する必要がない・発電設備の設置場所を柔軟に選べるなどの利点があります。

出典:自然エネルギー財団「コーポレートPPA 実践ガイドブック」p1,8,14(2020年9月)

(3)バーチャルPPAとフィジカルPPAの違い

コーポレートPPAにはバーチャルPPAとは別に、フィジカルPPAという方法もあります。非化石証書という環境価値のみを発電事業者から購入するバーチャルPPAに対し、フィジカルPPAでは環境価値と電力をセットで購入します。

またバーチャルPPAではオフサイトPPAしかないのに対し、フィジカルPPAにはオンサイト・オフサイトいずれのPPAもあります。フィジカルPPAの場合、発電事業者から調達した電力の全量を、購入企業で消費する必要があります。

出典:自然エネルギー財団「コーポレートPPA 実践ガイドブック」p11,13(2020年9月)

2. バーチャルPPAを導入するメリット

バーチャルPPAの利用にあたっては、導入方法によってはコスト固定や電力契約手続きの煩雑さ回避につながります。バーチャルPPAを導入するメリットについて解説します。

(1)コスト固定につながる

電力の市場価格は変動しますが、バーチャル PPAにおいては設定した固定価格と市場価格の差額を発電事業者と利用企業との間で精算する点が特徴です。すなわち市場価格が低い場合には利用企業から発電事業者へ、高い場合には発電事業者から利用企業へ、固定価格との差額を支払うこととなります。

小売電気事業を通す場合は、発電事業者と小売電気事業者のあいだで固定価格と市場価格の差額を精算して、利用企業は環境価値(非化石クレジット)のコストだけを支払う形となります。利用企業にとっては、バーチャル PPA のコストが固定され、面倒な差額精算の業務から解放されるというメリットが生まれます。

出典:自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA」p6-7(2021/11)

(2)直接電力取引しなくてよい

バーチャルPPAでは電力を利用する企業が、既存の電力の購入契約を継続したまま環境価値を取得して、自然エネルギーの電力を増やすことができます。このため電力利用企業が、自然由来電力の取引に直接関与しないで済む点もバーチャルPPAのメリットです。

米国ではコーポレート PPA が盛んですが、環境価値だけを取引するバーチャル PPA が主流です。日本では現行の法制度のもとでは、環境価値と実際の電力をセットで小売電気事業者を通して必要がある点が、環境価値(非化石クレジット)のみを発電業者から購入できる米国とは異なっています。

出典:自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA」p6(2021/11)

3. バーチャルPPAを導入する際の注意点

バーチャルPPAはフィジカルPPAと比べ、市場価格の状況によってコストが高くなる可能性がある点に、注意が必要です。バーチャルPPAを導入する際の注意点について解説します。

(1)固定価格が高くなる可能性がある

先述の通り日本の場合は、バーチャルPPAにも必ず小売電気事業者が介在します。バーチャルPPAで発生する固定価格と市場価格の差額については小売電気事業者が吸収して利用企業に差額の精算を求めない契約が原則です。

一方で小売電気事業者側では精算の手間と差額負担のリスクを考慮し、固定価格を高く設定する可能性があります。利用企業は、総コストと差額精算リスクのどちらを重視するかによってフィジカルPPAかバーチャルPPAかを選択する必要があります。

出典:自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA」p45(2021/11)

(2)コストを長期間抑制できない可能性がある

フィジカルPPA では、コストを低く抑えられる発電事業者との間で低価格でのフィジカル PPA契約を締結することが可能です。一方でバーチャル PPA では、介在する小売電気事業者の小売価格でコストが決まります。

実は環境価値(非化石クレジット)の価格は価格全体の中ではさほど影響しません。電力小売価格は変動するため、契約時点で安価だとしても将来値上げの可能性があり、フィジカル PPA のように長期間にわたってコストを抑制できる保証がない点に注意が必要です。

出典:自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA」p45(2021/11)

4. 日本におけるバーチャルPPA導入事例

米国では導入が進んでいるバーチャルPPAですが、日本での導入はまだこれからという段階です。日本におけるバーチャルPPA導入事例をご紹介します。

(1)村田製作所株式会社

株式会社村田製作所は、株式会社レノバとバーチャルPPAによる環境価値売買契約を締結しました。これにより村田製作所では、レノバが開発する太陽光発電所において発電された電力由来の環境価値(非化石証書)を買い取ることとなります。

この契約を通じてレノバが開発する太陽光発電所はすべて新設であり、既設の火力発電所などに対して代替性のある再生可能エネルギーを調達する形となります。

出典:村田製作所株式会社「追加性を重視したバーチャルPPAをレノバと締結」(2023/5/9)

(2)花王株式会社

花王株式会社と株式会社みずほ銀行、みずほリース株式会社は、バーチャルPPAを締結しました。花王は国内最大規模となる合計15.6MWの太陽光発電所から創出する環境価値(非化石証書)の全量を購入し、花王のすみだ事業場で使用する電力に活用しています。みずほ銀行は全体のコーディネートを実施、みずほリースグループは太陽光発電所を新設します。

出典:花王株式会社「国内最大規模のバーチャルPPAを締結」(2023/4/28)

(3)東京地下鉄株式会社

東京地下鉄株式会社と三菱HCキャピタルエナジー株式会社は、2023年3月にバーチャル PPAを締結しました。国内の鉄道業界では、初のバーチャル PPA の導入となります。東京メトロは、エナジー社が日本国内に新たに開発する太陽光発電所から25 年間にわたり、発電にともない生み出される年間約 90 万 kWh 分の非化石証書の提供を受けます。

出典:三菱HCキャピタル株式会社「東京メトロと三菱HCキャピタルエナジーがバーチャル PPA を締結」(20023/4/11)p1

5. まとめ:自然由来エネルギー発電への転換を図るため、バーチャルPPAの導入を検討しよう!

バーチャルPPAは自然エネルギーによる発電の環境価値(非化石証書)を、発電事業者から購入するという電力契約の形態です。企業が購入した非化石証書は自社のCO2削減量へ算入できます。バーチャルPPAは電力を使用する事業者にとって、実際に使用している電力とは別に環境価値のみを購入することができるため、利便性が高い仕組みです。

一方で電力の価格が変動することの影響も受けやすく、固定価格が高めに設定されることもあります。日本ではまだ導入事例は多くありませんが、米国ではコーポレートPPAの主流となっていることもあり、今後の普及が期待されます。

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