DACとは!?注目の二酸化炭素を回収する技術の動向から取り組み事例まで解説!

DACとは、大気中の二酸化炭素を回収する技術で、世界でもネットゼロの取り組みや事業として導入する企業が増えています。DACはネガティブエミッション技術としても注目されており、回収した二酸化炭素は、資源として有効利用するなど、持続可能性に大きな価値を生み出す可能性を秘めています。

ここでは、DACの基礎知識をはじめ、期待される効果や今度の動向などを、DACの技術を既に導入している企業の取り組み事例とあわせてご紹介します。

目次

  1. DACとは

  2. DACに期待される効果とは

  3. DACの気になる今後の動向

  4. DAC技術を導入している企業の取り組み事例

  5. まとめ:DACによる二酸化炭素を有効活用し環境に寄り添った企業を目指そう!

1. DACとは

地球温暖化への早急な対応として、DACに大きな期待が寄せられています。ここでは、DACの基礎知識についてご紹介します。

DACとは?

DAC(Direct Air Capture)とは、大気中の二酸化炭素を直接回収する直接空気回収技術のことです。DACによって回収した二酸化炭素は、地中に貯留(CCS)したり、化学製品の原料として利用(CCU)したりする技術と組み合わせることができます。

また、二酸化炭素を固定する力(とじ込める力)が、同じ面積で考えたときに森林よりも数千倍の能力があるので、二酸化炭素排出量削減に大きく貢献することができます。DACは、空気がある場所ならどこでも二酸化炭素の回収ができる利点がある一方で、技術にかかるコストが高く、また稼働時に多くのエネルギーを必要とするため、導入に向けてこれらの課題をクリアする必要があります。

DAC技術の概念図出典:資源エネルギー庁『カーボンリサイクル技術事例集』p,23.(2019/12/18)

出典:経済産業省『DAC(Direct Air Capture)研究会 からのご説明』p,3.(2023/03/28)

出典:IEA『Direct Air Capture - Energy System 』(2023/11)

DACが必要とされる背景

気候変動に関する政府間パネル「IPCC」の報告書では、温室効果ガス(GHG)排出量の過去30年間のデータで、人為的なGHG排出量が増加の一途を辿っていることを指摘しています。

人為活動によって排出されるGHGは、二酸化炭素やメタン、フロンガスなどさまざまですが、特に化石燃料の燃焼や産業プロセスによる二酸化炭素が多くの割合を占めています。

このままでは、温暖化は進み続け、現在の温暖化対策だけでは解決が難しく、さらなる対策が必要だと考えられています。DACの導入は、二酸化炭素を回収するだけでなく貯留や利用が可能となることから、この先の二酸化炭素排出量削減に不可欠な技術と考えられています。

世界全体の正味の人為的GHG排出量(1990-2019)

出典:資源エネルギー庁『温暖化は今どうなっている?目標は達成できそう?「IPCC」の最新報告書』(2022/11/10)

出典:経済産業省『DAC(Direct Air Capture)研究会 からのご説明』p,3.(2023/03/28)

出典:IEA『Direct Air Capture - Energy System 』(2023/11)

出典:IEA『Tracking Clean Energy Progress 2023 – Analysis 』(2023/07)

CCSとの違い

二酸化炭素を回収・貯留する技術に「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」があります。DACとCCSは、二酸化炭素回収・貯留技術という点で同じですが、二酸化炭素を回収する場所に違いがあります。

その違いとして、DACは低濃度での回収が可能なため、大気があるすべての場所で行うことを目的としているのに対し、CCSは発電所や製鉄所などで使用した化石燃料から排出された高濃度の二酸化炭素を回収し貯留することを目的としています。回収後の二酸化炭素は、どちらの技術も離れた場所に貯留する点では同じ考え方となります。

出典:環境展望台『CO2回収・貯留(CCS) - 環境技術解説』(2016/09/12)

2. DACに期待される効果とは

DACは、二酸化炭素排出量削減につながるさまざまな効果が期待できます。ここでは、DACの効果に注目してご紹介します。

二酸化炭素排出量ゼロ燃料の創出

DACは、燃料製造時に二酸化炭素を排出しない「二酸化炭素排出量ゼロ燃料」を生み出すことができます。例えば、水素と二酸化炭素で作る「E-Fuel」は、EUや航空業界で注目されている排出ゼロ燃料です。

DACで回収した二酸化炭素と再生可能エネルギー電力で水を電気分解した水素を使うことで、二酸化炭素を排出することなく燃料を作ることができます。また、E-Fuelの成分は、化石燃料とほとんど同じ成分のため、既存のインフラや設備で使用が可能という大きな利点もあります。

出典:日本経済新聞『CO2を大気から直接回収「DAC」、脱炭素切り札なるか』(2023/07/17)

ネットゼロ達成の実現

GHG排出量を削減・吸収して全体で実質ゼロとする「ネットゼロ」の実現を、DACは可能にする期待があります。世界では、2050年までにネットゼロにすることを目標としていますが、GHG排出量が増加し続けている現状において、DACの技術はネットゼロに不可欠な技術となります。国際エネルギー機関(IEA)は、DACの導入で2030年の二酸化炭素排出削減目標をクリアできるとしています。

出典:日本経済新聞『CO2を大気から直接回収「DAC」、脱炭素切り札なるか』(2023/07/17)

出典:IEA『Direct Air Capture - Energy System 』(2023/11)

炭素クレジット市場の活性化

DACは、カーボンオフセットによる炭素クレジットを生み出すことができます。カーボンオフセットとは、自社の二酸化炭素排出量を認識した上で、対策を行ったにも関わらず削減できなかった排出量を、他者が創出した二酸化炭素排出削減量で埋め合わせることです。

埋め合わせの部分では、二酸化炭素排出量削減・吸収の取り組みをクレジット化し取引するカーボンクレジットが主な方法となっています。DACでより多くの二酸化炭素排出量を回収できれば、炭素クレジット市場を活性化させる原動力につながります。

出典:日本経済新聞『CO2を大気から直接回収「DAC」、脱炭素切り札なるか』(2023/07/17)

出典:J-クレジット制度事務局『カーボン・オフセット  ガイドライン  Ver.2.0』p,8.(2021/03/26)

3. DACの気になる今後の動向

DACは未だ発展段階にありますが、世界では急速に導入が加速しています。ここでは、DACの今後の動向に注目します。

世界における現在のDAC稼働状況

DACは現在、日本、欧州、北米、中東で27基の小規模設備で稼働していますが、この中にはテスト段階も含まれています。大規模設備においては、稼働している設備はなく、今後、米国や英国、ノルウェー、アイスランドでのプロジェクトが準備されています。

このようにDACの導入はまだ初期段階であり、設備の建設場所の確保や、高額の設備・運用コストなど、安定した稼働には大きな課題があります。全てのプロジェクトがスムーズに進めば、2030年の二酸化炭素排出量削減目標を達成できる見込みとなっています。

出典:IEA『Direct Air Capture - Energy System 』(2023/11)

海外でのDAC導入が加速

世界では、米国やアイスランドでDACの建設が急速に拡大しています。

米国の「プロジェクト・バイソン」は、段階的に二酸化炭素回収量を増やしていき、2030年には500万トンの回収を目標としています。回収された二酸化炭素は、カーボンオフセットとしてさまざまな企業が購入しており、企業の収入源ともなっています。

また、アイスランドの「オルカ」は、年間4000トンを回収しており、独自の技術によって回収した二酸化炭素は水で溶かして地中で石化(DACM)されています。またアイスランドでは、年間3万6000トン回収可能な「マンモス」の建設が進んでいます。

出典:日本経済新聞『CO2を大気から直接回収「DAC」、脱炭素切り札なるか』(2023/07/17)

出典:Newsweek日本版『温暖化対策で注目のCO2回収テクノロジー「DAC」 世界最大規模のプラントが続々と稼働するワケ』(2023/03/07)

ネガティブエミッション技術「DACCS」

ネットゼロの有効な取り組みとしてネガティブエミッション技術があります。これは、大気中の二酸化炭素を回収・吸収し、貯留・固定化させることで二酸化炭素を除去する技術の総称で、DAC(回収)とCCS(貯留)を併せた「DACCS」と呼ばれています。

DACだけでは二酸化炭素を回収することに留まるため、二酸化炭素を除去するにはCCSと組み合わせることが基本と考えられています。DACCSの合計は、2021年の時点で1.7万トンとなっています。

出典:経済産業省『ネガティブエミッション技術について (DACCS/BECCS)』p,4.p,8.( 2023/03/28)

出典:経済産業省『CDR検討会』p,5.(2023/04/19)

4. DAC技術を導入している企業の取り組み事例

最後に、DAC技術を導入している企業の取り組み事例をご紹介します。

川崎重工業株式会社

川崎重工業株式会社では、40年前から宇宙船や潜水艦などの閉鎖空間での二酸化炭素分離回収技術の開発に着手しており、省エネルギーな固体吸収剤の開発に成功している他、従来有効とされない100度以下の排熱を利用可能にした結果、純度95%の二酸化炭素を1日に5kg回収することに成功しています。

出典:経済産業省『空気からのCO2分離回収(DAC)技術 (DAC:Direct Air Capture)』p,3~7.(2022/01/21)

東ソー株式会社

東ソー株式会社は、火力発電から排出される低濃度・低品質の二酸化炭素を回収し、そのままポリウレタン原料に直接変換する技術を開発しました。ポリウレタン原料は産業界でもニーズが高く、ポリウレタンの製造をすべてこの技術で賄うことができれば、2050年には年間で500万トンの二酸化炭素を固定することができます。

出典:資源エネルギー庁『カーボンリサイクル技術事例集』p,35.(2019/12/18)

住友商事株式会社

住友商事株式会社は、DAC技術を持つ米国のグローバル・サーモスタットに出資し、共同で二酸化炭素の回収・利用・貯留技術(CCUS)の開発を行なっています。グローバル・サーモスタットは、年間1000トン以上の二酸化炭素を回収することに成功しており、今後の世界展開に期待があります。また、DACの早期実用化を目指すと共に、世界の幅広い地域でDACCSなどによるカーボンクレジットの創出にも力を入れています。

出典:独立行政法人日本貿易振興機構『住友商事、DAC技術有する米グローバル・サーモスタットに出資しCCUS分野で共同事業開発へ(アジア、日本』(2023/05/31)

5. まとめ:DACによる二酸化炭素を有効活用し環境に寄り添った企業を目指そう!

世界で導入が加速しているDACについてご紹介しました。DACとは大気中にある二酸化炭素を回収する技術のことで、貯留(CCS)や利用(CCU)と組み合わせて取り組むことで、ネガティブエミッション技術としての価値が生まれます。ネットゼロを実現させるためにはDAC技術が不可欠であり、今後の導入に期待が高まります。

しかし、そのためには設備の建設場所や導入コストの確保などの課題をクリアする必要があり、安定した実用化には時間がかかるものとされます。それでも、世界ではさまざまな企業が独自で開発を進めるなどし、DACの稼働に前向きな姿勢を示しています。ぜひ、DACの知識を深め、今後生み出されるDAC由来の燃料や原料を有効活用し、環境に寄り添った企業を目指しましょう。

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