森林クレジットとは?気候変動への貢献と生物多様性の保護

森林クレジットとはどういうものか、わかりやすく解説します!森林クレジットは、森林によるCO2の吸収量を環境価値として評価したものです。国の認証制度である「J-クレジット制度」における森林分野が日本における公的な森林クレジットであり、その認証量は年々拡大しています。

気候変動への対応や生物多様性の保護に役立つ森林クレジットについて、その基本的な仕組みや活用するスタートアップ企業、将来展望と課題などについて説明します。

目次

  1. 森林クレジットの概要

  2. 森林クレジットの意義

  3. 森林クレジットに関する各種事例

  4. 森林クレジットの課題と今後の創出拡大

  5. まとめ:森林クレジットを活用してカーボンニュートラルを実現し、環境を保全しよう!

1. 森林クレジットの概要

森林クレジットは、森林によるCO2の吸収量を環境価値として評価したものです。森林クレジットの活用によって、森林保全の促進などが期待できます。森林クレジットの概要について解説します。

森林クレジットとは

森林クレジットとは、森林において間伐など適切な管理(施業)を行うことで確保した、樹木によるCO2の吸収量をクレジットとして国が認証したもので、森林由来クレジットとも呼ばれます。森林クレジットを活用することで、排出したCO2と同量のCO2を吸収する「カーボン・オフセット」を実現するだけでなく、森林の適正な管理を支援することにもつながります。

出典:J-クレジット制度事務局「森林クレジットを活用した森林保全応援スキーム」

J-クレジットについて

日本における森林クレジットを理解するためには、「J-クレジット」についても知っておく必要があります。J-クレジットは省エネルギー設備の導入や森林経営などによって得られた、CO2の排出削減量または吸収量を「クレジット」として国が認証する制度で、環境省・経済産業省・農林水産省によって運営されています。

CO2排出事業者は排出量に相当するJ-クレジットを購入することで、地球環境全体に対してカーボン・オフセットをすることができます。またJ-クレジットの創出者は、クレジット販売によって得られた資金で、CO2削減や吸収につながる取り組みを維持・拡大することが可能となります。森林分野のJ-クレジットが、日本における森林クレジットです。

出典: 林野庁 「J-クレジット制度」

2. 森林クレジットの意義

森林クレジットには、CO2の排出削減をはじめとするさまざまな効果があります。森林クレジットの意義について解説します。

気候変動対策への貢献

森林クレジットの最大の意義は、地球温暖化による気候変動対策への貢献です。温室効果ガスの中でも最大量を占めるCO2の吸収を促進することで、地球温暖化を防ぐことにつながります。

たとえば林齢50年生のスギ人工林1haを主伐(木材として収穫すること)した場合の吸収量(クレジット量)は、12tにもなります(※原木出荷量315m^3、うち製材用丸太出荷量131m^3、合板用丸太出荷量を45m^3とした場合)。

出典:J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度について~森林管理プロジェクトを中心に~」p22(2022/11)

森林保全によるその他の効果

森林クレジットの活用を通じて森林の保全が進むことによって、気候変動対策以外にもさまざまな効果が期待できます。たとえば生物多様性の維持や国土保全、森林空間による健康増進、森林サービス業やキノコ採集といった雇用創出や地方創生などにおいて、森林保全に伴う多くのプラス効果が考えられます。このように森林クレジットには、カーボンオフセット以外の付加価値が含まれています。

出典:林野庁「森林クレジット創出拡⼤に向けた森林管理プロジェクトの⾒直しについて」p51(2022/11/29)

3. 森林クレジットに関する各種事例

森林クレジットを活用した取り組みは、日本国内でも徐々に広まっています。中には、森林の施業とは直接関係のない企業が、クレジット創出側となるケースもあります。森林クレジットに関連した各種の事例をご紹介します。

(1)【販売事例】北海道中標津町

北海道の東部に位置する中標津町の町有林は、生活道路を守る防風林であると同時に、都市部と農村部の緩衝帯としての役割も果たしています。この中標津町有林はJ-クレジット制度の中でも全国初となる森林クレジットとして認証されており、2024年4月1日現在の販売可能クレジットは2343t-CO2、1t-CO2あたりの販売希望単価は10000円(消費税別)です。

適切な間伐の実施による健全な森林の育成で森林のCO2吸収量を高め、地球温暖化防止に貢献するのみならず、ヒグマやシマフクロウなど稀少野生生物の生息環境を守り、生物多様性の維持にもつなげることを森林クレジット販売の目的としています。

出典:中標津町「J-クレジット プロジェクト」

(2)【排出事業者によるプロジェクト参画事例】北海道ガスと南富良野町

北海道ガス株式会社は2021年6月11日に北海道・空知郡の南富良野町と連携協定を締結しました。南富良野町では、南富良野町が創出した森林クレジットを「道の駅南ふらの」の指定管理業者である南富良野町振興公社が購入し、道の駅南ふらのでカーボンオフセット証明付きのカプセルトイを来訪者へ販売し、気軽に環境保全に参加してもらうという取り組みを行っています。

この取り組みに北海道ガスが参画しており、町内森林の一部を北海道ガスが保有し長期にわたり適切に管理することで、森林の環境保全を企図しています。

出典:北海道ガス株式会社、南富良野町「全国初、「カーボンオフセット カプセルトイ」の設置について」p2-4(2023/6/5)

(3)【施設からのCO2排出オフセット事例】道の駅にちなん日野川の郷

鳥取県にある「道の駅にちなん日野川の郷」では、運営によって生じるCO2を日南町有林の森林クレジット購入によってカーボンオフセットしている、全国初のCO2排出量実質0の道の駅です。

さらに販売する全ての商品に1品1円のクレジットを上乗せしており、来訪客が町の森林保全活動に貢献できる仕組みにしています。森林クレジット購入によるCO2の無効化量は137t-CO2です。

出典:林野庁「道の駅のお買い物で1品1円をオフセット!」

4. 森林クレジットの課題と今後の創出拡大

CO2削減による気候変動対策への貢献に加え、生物多様性の保護にもつながる森林クレジットですが、まだ十分に活用されているとは言えません。森林クレジットの課題および今後の創出拡大について解説します。

森林クレジットの課題

認証されたJ-クレジット全体の中で、森林クレジットの認証量の割合は1.3%にとどまっています。また認証された森林クレジットの中で実際に購入されカーボンオフセットに活用された割合も、認証量の38%と低い水準です。

省エネ・再エネなどによるJ-クレジットの単価が2000円程度なのに対し、森林クレジットは森林地権者との調整・吸収量算定に必要な調査・書類作成などの労力がかかるため、クレジット単価が7000~15000円と高くなってしまう傾向があり、活用が立ち遅れている原因となっています。

出典:中部経済産業局『森林クレジットの現状と今後の展望』p1(2022/3/24)

森林クレジットの今後の創出拡大

森林クレジットはCO2吸収だけではなく、生物多様性保全や生活環境向上にも資することから、国際的に注目が高まっています。木が成長するまでの期間の評価方法や生産された木材のトレーサビリティ(流通履歴確認)の確保、天然林の算定対象化などについて、制度の改善やルールの整備が進み、森林クレジットの創出がさらに拡大することに期待が集まっています。

出典:中部経済産業局『森林クレジットの現状と今後の展望』p2(2022/3/24)

5. まとめ:森林クレジットを活用してカーボンニュートラルを実現し、森林環境を保全しよう!

森林クレジットは、管理された森林のCO2吸収量を金銭価値へ置き換えたもので、日本ではJ-クレジット制度の一環として認証されています。必要な量の森林クレジットを購入することで、購入者は自らが排出したCO2をオフセット(プラスマイナスゼロ)することができます。

森林クレジットでは、クレジット売却費用を森林管理のコストに充て、森林による永続的なCO2吸収を維持し地球温暖化防止に貢献するという意義があります。さらに森林の管理・保全を通じた生物多様性の維持などへの寄与も期待できます。

森林クレジットの活用事例は増えてきていますが、J-クレジット全体の中ではまだ大きな改善の余地が残されています。各事業者においてもぜひ森林クレジットを活用してカーボンニュートラルを実現し、森林環境を保全しましょう!

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