人権デュー・デリジェンスとは?意味や企業の取り組みを解説!

人権デュー・デリジェンスとはどのようなものか、わかりやすく解説します!国際的に人権配慮への機運が高まっており、企業にも人権尊重の取り組みが強く求められるようになっています。

人権デュー・デリジェンスとは企業が人権に関する取り組みを進める際の重要なステップです。自社だけでなく取引先などにも関係するテーマであり、人権デュー・デリジェンスについて正しく理解することは、現代の企業にとって必須事項です。この記事では、人権デュー・デリジェンスの意味や意義・企業が取り組むべき具体的な方法や課題などについてご紹介します。

目次

  1. 人権デュー・デリジェンスの概要

  2. 企業別:人権デュー・デリジェンスの取り組み

  3. 人権デュー・デリジェンスの課題

  4. まとめ:人権デュー・デリジェンスについて理解し、人権リスクの排除へ取り組もう!

1.人権デュー・デリジェンスの概要

近年、企業が自社のビジネスを進めるにあたっては、人権リスクについて調査・対応することが求められています。人権デュー・デリジェンスの概要について解説します。

人権デュー・デリジェンスとは?

人権デュー・デリジェンスとは、自社のビジネスにおける人権に関するリスクの有無を調べ、必要に応じリスクを抑えることを言います。人権に関するリスクとしては、一般的には以下のようなものが挙げられます。

  • 不当な労働条件

  • 強制労働

  • 児童労働

  • 長時間労働

  • 各種の差別

このようなリスクが、自社内およびグループ会社や取引先なども含めて存在していないか点検し、もし存在が認められた場合にはただちに是正する必要があります。

出典:日経ESG『人権デューデリジェンス』(2022年8月31日)

人権デュー・デリジェンスはなぜ必要?

1970年代以降、企業活動が社会にもたらす負の影響について国際的に関心が高まり、グローバル企業に対して責任ある行動が強く求められるようになりました。事業活動における人権尊重への関心も高まり、2011年には「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で合意されました。

さらに近年では企業の非財務情報に関する投資家の関心が高まり、人権への取り組みも投資判断に影響するようになっています。こうした動向を受け、2020年日本政府は「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定しました。この中では人権デュー・デリジェンスの必要性にも触れられています。現在日本では各業界団体なども人権に関する取り組みを推進しています。

出典:経済産業省『ビジネスと人権』(2023年6月19日)

出典:経済産業省『「ビジネスと人権」に関する行動計画(概要)』(2020/10)p1

2. 人権デュー・デリジェンスの取り組み

国連の指導原則は、その規模や業種にかかわらず、あらゆる企業に人権の尊重を求めています。ここでは、人権デュー・デリジェンスへの取組を実施している企業の事例を紹介します。

(1)味の素株式会社

味の素株式会社では、2014年に事業全体の潜在的なリスク分析を実施、2018 年には海外コンサルタント会社のデータを活用してリスク評価を行い、その結果高リスクと認識された地域で人権デュー・デリジェンスを行いました。当初は現地の業界団体やパートナー―企業から警戒されましたが、2019年公表の報告書の内容については信頼を得ることができました。

出典:外務省『ビジネスと人権に関する取り組み事例集』(2023年7月12日)p12-13

(2)花王株式会社

花王株式会社では人権デュー・デリジェンスとして、国際NPOの情報プラットフォームで一次サプライヤーのリスク評価を行い、総合評価がA未満のサプライヤーには改善を求めました。また人権リスクが高いと認識したパーム油産業に関しては、小規模農園の生産性向上を支援しています。さらにウェブサイト上に相談窓口を設け、一般消費者からの通報も受け付けています。

出典:外務省『ビジネスと人権に関する取り組み事例集』(2023年7月12日)p16-17

(3)キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社では、人権デュー・デリジェンスにおいて高リスクと判明した国・地域の現地事業会社に対し、本社担当者が直接訪問して評価・行動計画を作成しています。これらの計画は現地で主導され、本社はモニタリングと進捗確認を行い、国別の影響評価報告書を公表しています。また、二次サプライヤーへの対応は一次サプライヤーを通じて行われ、M&Aや投資などの新規事業においても人権を重視する方針を取り入れています。

出典:外務省『ビジネスと人権に関する取り組み事例集』(2023年7月12日)p18-19

(4)ANAホールディングス株式会社

ANAホールディングス株式会社では人権デュー・デリジェンスとして、当初社内のESGプロモーションリーダーに人権チェックリストを配布し回答を求めましたが、「ビジネスと人権」に関する理解不足により十分な回答が得られなかったため、外部専門家を加えてリスク評価とインタビューを通じてリスク特定を進めました。また、英国現代奴隷法に基づく人身取引防止の取組みも公開しています。

出典:外務省『ビジネスと人権に関する取り組み事例集』(2023年7月12日)p14-15

(5)ソニーグループ株式会社

ソニーグループ株式会社では、NPOを第三者として参加させ人権デューデリジェンスを行っています。世界人権宣言やILO国際労働基準などから人権課題リストを作成し、ビジネスモデルとステークホルダーの接点を考慮してリスクをマッピングした結果、特に電子機器製品のサプライチェーンにおける人権リスクが高いことを確認しました。

これに基づき、RBA行動規範に沿ったサプライチェーン行動規範を策定し、リスクに応じたサプライヤーアセスメントを実施、高リスクサプライヤーには訪問監査を行っています。

出典:外務省『ビジネスと人権に関する取り組み事例集』(2023年7月12日)p28-29

3. 人権デュー・デリジェンスの課題

各社で取り組みが進んでいる人権デューデリジェンスですが、実際の運用においてはさまざまな課題に直面することがあります。人権デュー・デリジェンスの課題について解説します。

人権デュー・デリジェンスの課題点

人権デュー・デリジェンスの実施においては、いくつかの課題が伴います。日本弁護士連合の『人権デュー・デリジェンスのためのガイダンス』によれば、主な課題は、リスクの識別と評価・リソースの制約・関係者とのコミュニケーションです。特に、グローバルなサプライチェーンを持つ企業では、人権リスクを特定し評価することが困難です。

また、中小企業においては、人権デュー・デリジェンスに必要な時間、人材、財務のリソースが限られていることが課題となっています。さらに、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーション確立は、多くの企業にとって難しい点です。これらの課題への対処が、人権デュー・デリジェンスの成功には不可欠です。

出典:日本弁護士連合『人権デュー・デリジェンスのためのガイダンス』(2015年1月)p11

課題点への取り組み

課題に対処するためには、リスク管理のためのツールとシステムの導入、多様なステークホルダーとの対話、従業員への継続的な教育と訓練が有効です。これにより、リスクの特定と評価が容易になり、関係者とのコミュニケーションが改善され、従業員の人権に対する意識と対応力が高まることが期待されます。

出典:日本弁護士連合『人権デュー・デリジェンスのためのガイダンス』(2015年1月)p11

4. まとめ:人権デュー・デリジェンスについて理解し、人権リスクの排除へ取り組もう!

人権デュー・デリジェンスは、国際社会において企業が社会的責任を果たし、持続可能なビジネスを実現するためには重要となるプロセスです。この取り組みを通じて企業は人権リスクを管理し、社会的信用を築くことができます。しかし、その実施には様々な課題が伴います。

これらの課題に対処し、効果的に人権デュー・デリジェンスを進めるためには、リスク識別の強化・ステークホルダーとのコミュニケーションの改善・教育と訓練の継続が鍵となります。人権デュー・デリジェンスについて理解し、人権リスクの排除へ取り組みましょう。

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