欧州電池規則とは?新たに追加された項目と今後導入のバッテリーパスポートについて解説
- 2024年10月28日
- SDGs・ESG
欧州電池規則とは、EU域内の電池使用に関する取り決めのことです。世界では、持続可能な社会への移行が促進され、電気自動車や再生可能エネルギーの導入などによって、電池は今後、急激に需要が大きくなると考えられています。
この規則は、電池のライフサイクル全体の情報を可視化することで、持続可能な社会を構築する有効な手立てとなる期待があります。ここでは、欧州電池規則の基礎知識や新たに追加された項目、電池の情報を提供するバッテリーパスポートについてご紹介します。
目次
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欧州電池規則について
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欧州電池規則の概要
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欧州電池規則に追加された3つの課題と対応
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バッテリーの情報開示「バッテリーパスポート」の導入
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欧州電池規則の発表による変化
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まとめ:欧州電池規則の知識を深め世界を視野に入れた取り組みを目指そう!
1. 欧州電池規則について
欧州電池規則は、持続可能な社会を構築する上で重要となる規則となります。ここでは、欧州電池規則の基礎知識をご紹介します。
欧州電池規則とは
欧州電池規則とは、電池を使用する製品(=バッテリー製品)の原材料調達から設計、生産プロセス、再利用、リサイクルまでのライフサイクル全体に対する取り決めのことです。
カーボンフットプリントやリサイクル材の利用率、廃棄バッテリーの回収率の申告義務が課せられており、電池の安全性やライフサイクル全体の温室効果ガス排出量の規制、リサイクル材利用による持続可能性の確保が目的となっています。
この規則は欧州の成長戦略のひとつである「欧州グリーン・ディール」の促進も兼ねており、2024年から順次適用開始される予定です。
出典:経済産業省『GX市場創出に向けた考え方の整理』p,26.(2023/11/13)
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『電池のライフサイクル全体を規定するバッテリー規則施行(EU) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース』(2023/08/21)
欧州電池規則が作られた背景
EUでは、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「欧州グリーンディール」を掲げています。その目標達成に向けて導入が加速する電気自動車にはバッテリーが不可欠であり、今後、バッテリーの需要が急速に拡大すると見込まれています。そのため、安定したバッテリーの供給が不可欠であり、同時に、バッテリーの廃棄の問題にも対処する必要があります。
バッテリーの安定した生産には、リサイクル材の利用やバッテリーの再利用など、持続可能な方法での製造が必要です。また、バッテリーの廃棄では、電池に含まれるカドミウムや水銀、鉛などがひとや環境に悪い影響を及ぼす懸念があり、バッテリーの安全性が求められます。そこで考えられたのが欧州電池規則欧州で、グリーンディールの一環として環境に配慮したバッテリーを推進しています。
2. 欧州電池規則の概要
欧州電池規則は、バッテリーに特化した規則であり、バッテリーに関わる幅広い事業者に関係のあるものとなっています。ここでは、欧州電池規則の対象となるものや、責任を担う事業者についてご紹介します。
欧州電池規則の対象となるもの
EU域内で使用される全ての種類のバッテリーが欧州電池規則の対象となります。具体的には、電気自動車用バッテリー、小型トラックやバンなどの軽量輸送手段用バッテリー、自動車などの車両に電源を供給するための始動・照明・点火用バッテリーなど、多くの車両に使われるバッテリーが対象となります。
その他にも、産業用バッテリーや、家庭用蓄電池や災害時の非常用電源としても使用されるポータブルバッテリーなども対象に含まれます。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EUバッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き』p,6.(2023/11/27)
欧州電池規則に関わるEUの事業者
欧州電池規則は、全てのバッテリーを対象としているため、バッテリーを取り扱うさまざまな事業者に関係があるものとなります。その事業者とは、生産者を始め製造業、販売者、リサイクル業者、輸入業者などで、EU域内で使用されるバッテリーのサプライチェーンに関わる全ての事業者を指します。
そしてこの中には、製造業者から委託を受けた認定代理人も含まれています。これらの事業者は、規則に定められた責任を明確にし、どの事業者も平等で偏りなく実行することが求められています。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EUバッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き』p,14.p,15.p,16.(2023/11/27)
欧州電池規則に伴う事業者の責任
欧州電池規則では、関わる事業者に、使用済みバッテリーの回収率や原材料の再資源化率について目標を定めることや、一部の回収バッテリーからの原材料を一定の割合で再利用することを義務付けています。
バッテリーの回収率では、ポータブルバッテリーを2030年末までに73%、LMT用バッテリーを2031年度末までに61%回収することを義務付けています。また、再資源化においては、2031年度末までにリチウムでは80%、コバルト・ニッケル・銅・鉛では95%の再資源化達成を、リサイクルにおいては、2025年度末までにニッケル・カドミウム電池では80%、その他の電池では50%のリサイクル達成が求められています。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EU バッテリー規則とドイツを中心 としたバッテリー生産・リサイクル の動き』p,5.p,8.(2023/11/27)
3. 欧州電池規則に追加された3つの課題と対応
欧州電池規則には、新たに追加された3つの課題があり、その課題に対して適切な対応が求められています。ここでは、規則に追加された課題について取り上げます。
持続可能なバッテリーへの投資
現行の規則では、投資家のバッテリー市場への投資意識を高めるための情報提供が乏しく、持続可能なバッテリーへの移行には力不足だと考えられています。その原因として、EU域内の国ごとの規則の違いが、持続可能なバッテリーの生産拡大のための投資促進の妨げになっているという指摘があります。
この課題をクリアにするためには、EU域内の規則を統一することで、信頼できる情報を投資家に提供し、バッテリー市場の投資を促すことが必要だとされています。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EU バッテリー規則とドイツを中心 としたバッテリー生産・リサイクル の動き』p,9.(2023/11/27)
クローズドループリサイクルの促進
持続可能性を構築する有効な手立てとして、クローズドループリサイクルという手法があります。これは、製造時に発生した廃棄物や回収した使用済み製品を、もとの製品と同じレベルの材料として生まれ変わらせ、新たな製品の部品として使う方法です。
クオリティが高い製品を維持できることから、クローズドループリサイクルは、持続可能性に優れた手法となっています。しかし、現在のEUの規則は、リサイクルに関する内容が十分に明確でなくつり合いが取れていないことや、リサイクル技術やそれに伴う資金が足りていないことから、安定したバッテリー原材料の調達に不十分なものとなっています。クローズドループリサイクルを目指すためにも、リサイクル市場の発展を意識した新しい技術への投資拡大が必要となります。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EU バッテリー規則とドイツを中心 としたバッテリー生産・リサイクル の動き』p,9.(2023/11/27)
社会・環境へのリスクの対応
欧州電池規則では、温室効果ガス排出削減や持続可能性の他に、バッテリーの安全性も重要視されています。しかし、現在のEUでの環境法では、社会や環境へのリスクがカバーされていないという指摘があります。
バッテリーには、水銀やカドミウムなど、人の健康や環境に有害な影響を与える物質が使用されているものもあり、規則ではこのような有害な物質の使用が認められている状況から、バッテリー内の有害物質使用に制限を設けるべきだとしています。このような有害物質に適切な対処を施し、安心して利用し続けられるバッテリーを確保することが必要です。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構『EU バッテリー規則とドイツを中心 としたバッテリー生産・リサイクル の動き』p,9.(2023/11/27)
4. バッテリーの情報開示「バッテリーパスポート」の導入
バッテリーパスポートとは
欧州電池規則では、バッテリーパスポートの実装が義務付けられています。バッテリーパスポートとは、バッテリーに使用する材料調達から使用後のリサイクルまでの、ライフサイクル全てに関わる情報を記録するもので、バッテリーの透明な情報開示が目的となっています。
その内容は、バッテリーの製造プロセスでのカーボンフットプリントの情報や材料の原産地、再生可能な材料の有無、有害物質の有無、使用後の回収方法などが挙げられます。これらの情報はQRコードで製品にラベル付けすることが義務付けられており、利用者はバッテリーパスポートを見ることで、そのバッテリーの情報や扱い方がわかるものとなっています。
バッテリーパスポート導入の目的
規則の目的でもあるバッテリーの持続可能性を実現させるには、バッテリーの持続可能性に関する情報を利用者に提供する必要があります。そこで、誰もが簡単にバッテリーの情報を見ることができるバッテリーパスポートが導入されました。持続可能なバッテリーの製造には、バッテリーの材料の安全性が重要となり、社会的責任を定めた厳しいデューデリジェンスルールが設けられています。
これは、バッテリーの材料の原産国となる労働者の労働環境や健康被害、環境汚染を守るためのものです。このデューデリジェンスルールを含めた、バッテリーのライフサイクル全体の情報を提供することが、持続可能なバッテリーの透明性を確保する手立てとなります。
バッテリーパスポート導入で期待できる効果
バッテリーパスポートは、バッテリーを利用する人たちが、バッテリーの品質や性能、安全性などを評価し、信頼性のあるバッテリーを選ぶ手立てとなります。また、バッテリー利用後の再生可能性を判断することができ、リサイクルや廃棄を効果的に行うことができます。
そして、バッテリーのライフサイクル全体の透明性が確保されれば、投資家のバッテリー市場への投資が促進され、さらなる市場の拡大にも繋がります。このように、バッテリーパスポートは持続可能なバッテリーの発展に大きな効果が得られると言えます。
6.欧州電池規則の発表による変化
欧州電池規則の発表にともない、関連する業界団体等にもさまざまな動向が生じています。欧州電池規則の発表による変化について解説します。
日本における動向
欧州電池規則の発効を翌年に控えた2022年に、経済産業省は「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」を発足させました。第1回研究会の中では欧州電気規則(バッテリー規則)について詳細に取り上げられ、日本蓄電池産業にとっての脅威として資源等の供給混乱や値上げに対する脆弱性・海外の競合による略奪的価格設定・技術や人材の流出・グリーン社会やデジタル社会基盤の他国異存などが挙げられています。さらに今後の取り組みとして、蓄電池のスケール化を通じた低価格化・鉱物資源の確保・研究開発や技術実証・蓄電池のリユースやリサイクルの促進・蓄電池のライフサイクルCO2排出量の算定などに関するルール整備や標準化などが必要と考えられています。
出典:経済産業省「第1回蓄電池のサステナビリティに関する研究会を開催します」(2022/1/21)
出典:経済産業省「蓄電池産業の現状と課題について」p24-25,p33,37(2021/11/18)
欧州各団体の見解
欧州電池規則案の発表を受けた欧州各団体は、それぞれの見解を示しています。たとえば非鉄金属業界団体(EUROMETAUX)は、使用済みバッテリーに含まれる一部金属の再資源化率と新製品における再生材の使用率についておいていくつかの目標が設定されたことなどから、同規則に歓迎の意向を表明しました。また産業用バッテリーメーカー団体(EUROBAT)も、使用済みバッテリーの管理に関する
明確な目標が設定されたことで、リサイクル能力への投資が促進されることを歓迎しています。
出典:独立行政法人日本貿易振興機構「EU バッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き」p11-(2023/11)
警戒する中国
中国ではEV(電気自動車)や蓄電システムに組み込まれるリチウムイオン電池の生産能力が過剰となっているため、中国の電池メーカーは海外市場への進出を求めています。そんな中発表・発効された欧州電池規則は、中国のメーカーにとって参入障壁になりかねないと警戒されています。そのため中国の電池関連産業は、脱炭素や環境への配慮、カーボンフットプリントなどへ早期に対応する必要があると考えられています。
出典:東洋経済オンライン「中国電池メーカーが身構える欧州『脱炭素の障壁』」(2023/11/20)
5.まとめ:欧州電池規則の知識を深め世界を視野に入れた取り組みを目指そう!
欧州電池規則とは、電池を使用する全ての製品のライフサイクル全体に関わる取り決めのことで、電池による環境リスクを減らすことが目的となっています。この環境リスクには、カーボンフットプリントの状況や再生可能性などが含まれており、持続可能性を求めるものとなっています。
また、環境リスクに加えて社会的リスクにも配慮するデューデリジェンスも重要視され、これらの情報をバッテリーパスポートによって提供しています。バッテリーパスポートは、バッテリーのライフサイクル全体の透明性を確保する有効な手立てとなり、投資家の市場参入への大きな期待が得られます。ぜひ、欧州電池規則についての理解を深め、今後のバッテリー市場の変化に注目し、世界の持続可能性の考え方と足並みを揃えた取り組みを目指しましょう。
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