CO2排出量の計算はエクセルでできる?見える化のメリット・デメリット

2050年カーボンニュートラルを達成するためには、企業がCO2やGHG(温室効果ガス)の排出量を算出することが急務となっています。

しかし、実際にCO2排出量を見える化するにはどのように取り組めば良いのでしょうか?エクセルでの表計算を利用して算出することは可能なのでしょうか?また、エクセルを使用することのメリットとデメリットは何でしょうか?これらの疑問に対してお答えします。

目次

  1. CO2排出量の計算はなぜ必要?

  2. CO2排出量の計算方法は?

  3. CO2排出量はエクセルで計算できる?

  4. エクセルでCO2排出量を計算するメリット、デメリットは?

  5. まとめ 効率的で正確にCO2排出量を計算するためのツールとは?

1. CO2排出量の計算はなぜ必要?

カーボンニュートラルへの不可逆的な動きの中で、企業にとってCO2排出量の計算及びその見える化への取り組みは急務となっています。企業は自身の商品やサービスによるCO2排出量を削減することが必要であり、その第一歩として、サプライチェーン内の各企業や製品ラインごとにCO2排出量の可視化を実施することが求められます。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に対応するため、国際的な基準であるGHGプロトコルイニシアティブに従い、「サプライチェーン排出量」の公開が要求されています。

実際に脱炭素化に向けた取り組みを進める企業は急増しており、JETRO(日本貿易振興機構)の調査によると、国内の中小企業で「すでに取り組んでいる」と回答した企業は38.5%に上り、これは1年前に比べて8.8%の増加を示しています。これは、脱炭素化に着手する企業が大幅に増えたことを意味します。

また、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業を合わせると、約7割の中小企業が脱炭素経営に向けた計画を進めていることが明らかになります。

脱炭素経営にこれほど多くの企業が取り組む理由は、事業活動を通じて排出されるCO2量を把握し、その削減に努める責任が企業にあるからです。さらに、省エネ法によるエネルギー使用状況の報告義務や温室効果ガス排出量の報告が義務付けられている温対法の存在も、企業がCO2排出量の計算に取り組む背景にあります。これらのさまざまな要因から、CO2排出量の見える化に取り組まなければ、企業価値を高めることができない時代に突入しているのです。

出典:日本企業の海外事業展開に関する アンケート調査

出典:省エネ法の概要 | 事業者向け省エネ関連情報

出典:地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画 | 環境省

2. CO2排出量の計算方法は?

では、実際にCO2排出量を計算するにはどのようにすればいいのでしょうか?その計算方法を詳しく見てみましょう。

CO2の排出量は経済統計などで用いられる「活動量(ガソリン・ガス・電気など)」に「排出係数」をかけて算出します。これはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によりガイドラインが定められており、「排出係数」の標準値も示されていますが、日本では排出実態にあった係数が試算されています。これは環境省のサイトで提示され、CO2の排出量の算定・報告はこの排出係数を用いて行われます。

「CO2排出量=活動量(生産量・使用量・焼却量など)×排出係数」

CO2排出係数とは、「電力会社が電力を作り出す際に、どれだけのCO2を排出したかを指し示す数値」となります。本来は様々な事業活動での単位生産量・消費量等あたりの二酸化炭素の排出量を表す数値ですが、一般的には電力面に限った数値として使われることが多くなっています。これは利用する電力会社により差があり、企業にとってはCO2排出量の削減に大きな影響のある部分となるでしょう。

各電力会社の排出係数は、

「排出係数(kg-co2/kwh)=CO2排出量÷販売電力量」

となります。電力会社はこの排出係数を抑えるために、再生可能エネルギー発電の利用や、再生可能エネルギー発電による電力の固定価格買取制度(FIT)をすすめているのです。

また、環境省では自社での排出量算出・削減の他に、「サプライチェーン=原料調達、製造、物流、販売、廃棄」という全体の流れでみたCO2排出量の削減にも取り組んでいます。これは燃料、電力の使用による自社のCO2排出をScope1(直接排出)、Scope2(間接排出)とし、これ以外の排出を「サプライチェーンによる排出」と位置づけ、削減に取り組むというものです。

サプライチェーン排出量の算定はScope1、Scope2の排出量にScope3の排出量を合計して算定します。

「サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量」

Scope3の排出量は各カテゴリーごとに計算し、合計して算定します。ここでの「活動量」は、カテゴリー内の電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量などになり、これに「排出原単位」(電気1kwh使用あたりのCO2排出量、輸送1トンキロあたりのCO2排出量、廃棄1トンあたりのCO2排出量)をかけて算定となります。

「Scope3排出量=活動量×排出原単位」

出典:環境省_算定方法・排出係数一覧

3.CO2排出量はエクセルで計算できる?


CO2排出量の計算は、日常的に使用する表計算ソフト「Excel」で実施することが可能です。実際に、経済産業省の「エネルギー起源二酸化炭素排出量等計算ツール」や環境省の「二酸化炭素削減効果算出様式」など、公的機関や地方自治体から無料で提供されているExcel形式のCO2排出量計算ツールが存在します。これらのツールは、計算に必要な係数をあらかじめ式として設定してあり、ユーザーは必要なデータを入力するだけでCO2排出量を計算できるようになっています。

さらに、表計算ソフトでの計算式の入力方法を理解していれば、独自にExcelでCO2排出量計算用のデータシートを作成することも可能です。実際にCO2排出量の開示を行っている企業の中には、自社専用のExcelシートを作成・管理し、そのデータを基に情報開示を行っている例もあります。

一方で、CO2排出量の「見える化」を目指した専用計算システムやクラウドサービスも多く存在します。「CO2排出量」「見える化」などのキーワードで検索すれば、これらのサービスの存在が確認できます。Excelベースの計算ツールではなく、これらの専用サービスを利用する理由としては、Excelによる計算やデータ管理が持つメリットとデメリットの両面が挙げられます。

出典:エネルギー起源二酸化炭素排出量等計算ツール

出典:二酸化炭素削減効果算出様式

4. エクセルでCO2排出量を計算するメリット、デメリットは?

まずはメリットからご説明します。

メリット①:無料で計算ができる

会社で使用しているパソコンでExcelが利用できる場合、無料でCO2排出量を計算することが可能です。Excelシートを更新し続けることで、長年にわたって無料で計算を継続できます。

メリット②:入力・操作方法が分かりやすい

Excelを使った計算では、一度計算式を設定し、レイアウトを整えてしまえば、データの入力だけでCO2排出量を半永久的に算定できるようになります。日常業務で使用に慣れているツールであるため、新たなシステムを導入するよりも手軽にCO2排出量を計算することができます。

メリット③追加料金がかからない

ExcelでCO2排出量を計算する際に、計算式の追加やシートの変更、フォーマットの調整が必要になったとしても、追加料金は発生しません。コストを掛けずに、自社の状況に合わせてカスタマイズし、見やすく理解しやすいフォーマットを整えることができます。

このように考えると、Excelを使用したCO2排出量の計算は多くのメリットがあるように思えますが、デメリットは存在するのでしょうか?

デメリット①初期の計算式の設定などに手間がかかる

エクセルでCO2排出量を計算するためには、はじめに計算式をエクセルに組み込む作業が必要です。様々な排出係数を適切に使用し、正確な計算式を含んだエクセルシートを完成させるには、相当な労力が必要です。

CO2排出量を計算するための準備として、自社の状況に応じてカスタマイズし、見やすく理解しやすいフォーマットを整える工程では、多くの時間と手間がかかります。

さらに、この工程で誤りが生じると、後のCO2排出量計算データに影響が出てしまいます。このため、非常に慎重に作業を進めることが求められます。

デメリット②データの手入力に手間がかかる

エクセルを使用してCO2排出量を計算する際、基になるデータを手動で入力する必要があります。そのため、CO2排出量を可視化するシステムを利用して計算する場合と比較すると、どうしてもより多くの時間が必要になります。

また、入力作業は人の手に依存するため、ミスを完全に防ぐことは不可能です。このため、確認作業にも多くの時間と労力を割く必要があります。

算定データを信頼性の高いものにするためには、想定以上の手間と時間、労力が必要となるでしょう。

デメリット③ルール改正に合わせて、エクセルの更新が必要になる

脱炭素分野では、技術の進歩と共に様々なルールや規制が絶えず更新されています。エクセルを使用してCO2排出量を計算している場合、これらのルールの改正のたびに、エクセルシートに組み込まれた計算式を更新する必要が生じます。

特に、排出係数の変更があった場合は、計算式の修正が避けられません。

デメリット④条件の複数組み合わせる場合の手間

計算やデータ管理を行う中で、複数の条件(年度別、拠点別、燃料別など)を組み合わせてCO2排出量を見える化したい場合、エクセルでは関数を追加で組むことなく可視化することはできません。脱炭素活動が進むにつれて、削減策を検討する段階で、様々なデータを比較・検討する必要があり、その都度、関数を再設定する必要があり、これは手間がかかります。

つまり、エクセルはコストをかけずに、日常的に使用しているツールでCO2排出量を計算できる利点がありますが、より正確で迅速なデータの算出を求める場合には不向きであると言えます。また、手間がかかるため、担当者の労力や負担も増加すると言えるでしょう。

5.まとめ 効率的で正確にCO2排出量を計算するためのツールとは?

投資家やサプライチェーンからの要求で、自社のホームページや統合報告書に正確なCO2排出量の掲載が必要になった場合、CO2排出量の計算担当者が限られているため、できる限り手間や工数を削減したいと考えるのは自然です。特に、複数の拠点からのデータ入力にエクセルを使用すると、大きな労力と時間が必要になります。このような悩みを持つ方々にとって、コストは抑えられるかもしれませんが、エクセルを使ったCO2排出量の計算は不向きかもしれません。その場合、CO2排出量を自動で計算してくれるサービスの利用が一つの選択肢となります。

CO2排出量のみえる化サービスのメリットは、電気料金やガソリン代の請求書などをアップロードするだけで、CO2排出量を自動で計算できる点にあります。これにより、エクセルで数値を入力する手間が省け、業務効率が向上します。さらに、排出係数の細かい変更やルール改正があった場合でも、システムが自動で更新を行うため、導入企業側で修正や更新作業をする必要がありません。

ただし、デメリットとしてはサービス利用料金が発生することが挙げられますが、正確性と作業効率を考慮すると、自社にとってエクセルとCO2排出量の可視化サービスのどちらを利用する方がメリットが大きいかを検討することを推奨します。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説