グリーンスチールの実用化に向けた金属加工会社とメルセデス・ベンツの取り組み

世界共通の課題である「カーボンニュートラル」の実現に向け、各業界で気候変動対策が進められています。製造業の中でも二酸化炭素排出量の割合が高い鉄鋼業では、脱炭素化への取り組みが求められています。

製造時に二酸化炭素の排出を削減できる、グリーンスチールという金属に注目が集まっています。脱炭素社会に向けて期待できる材質ですが、現段階であまり知名度は高くありません。

グリーンスチールは脱炭素という目的に対して、どのように貢献するのでしょうか。また、グリーンスチールに対して企業はどのような働きかけをしているのでしょうか。

この記事ではグリーンスチールの概要と、実用化に向けた海外企業の取り組み、メルセデス・ベンツのグリーンスチールの利用に向けた取り組みについてまとめています。

目次

  1. 鉄鋼業と脱炭素化

  2. グリーンスチールとは

  3. メルセデス・ベンツのグリーンスチール利用に向けた取り組み

  4. 自動車業界の実用化に向けた企業の取り組み

  5. まとめ:日本企業のグリーンスチールへの取り組みにも注目しよう!

1. 鉄鋼業と脱炭素化

鉄鋼業における脱炭素化の重要性について解説します。

(1)鉄鋼業の二酸化炭素排出量の現状

製造業はCO2排出量が大きく、日本国内の総排出量の三分の一以上を占めています。製造業の中でも鉄鋼業が排出するCO2量は産業部門全体の約35%、社会全体で見ても約14%と非常に高い排出量になっています。したがって、鉄鋼業の脱炭素化は非常に重要であることがわかります。

出典:経済産業省『「トランジションファイナンス」に関する 鉄鋼分野における技術ロードマップ』p.15-18

        経済産業省 資源エネルギー庁「鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~「グリーンスチール」とは何か?」

(2)鉄鋼業の脱炭素化への取り組み

鉄鋼業界では、脱炭素化に向けた取り組みが着実に進んでいます。鉄鋼は、インフラ分野や自動車産業など、カーボンニュートラル社会においても不可欠な素材であり、製造時のCO2排出量を従来の鉄鋼より大幅に削減した「グリーンスチール」の需要が増加すると予想されています。そのため、鉄鋼メーカーは低炭素化を進めるとともに、水素還元製鉄などの革新技術の開発に取り組んでいます。

これに伴い、国内外の鉄鋼メーカーもカーボンニュートラルに向けた計画を策定し、グリーンスチール市場の獲得に向けた競争が活発化しています。日本を含む各国の大手鉄鋼メーカーも、グリーンスチールの供給に関する発表を行っており、欧米でも同様の動きが見られます。

出典:経済産業省『「トランジションファイナンス」に関する 鉄鋼分野における技術ロードマップ』p.15-18

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~「グリーンスチール」とは何か?」

2. グリーンスチールとは

グリーンスチールの概要について解説します。

(1)グリーンスチールの定義

グリーンスチールとは、製造時の二酸化炭素排出量を大幅に削減した鉄鋼材料を言います。ゼロエミッションスチール、ゼロカーボンスチール等とも呼ばれます。産業の脱炭素化を目指し開始された、G7発祥のイニシアチブである産業脱炭素化アジェンダ(IEA)が提案した「ニア・ゼロ・エミッション素材」定義では、鉄鋼の原材料によって二酸化炭素の基準量が決定されます。鉄鉱石を還元して作る鉄とリサイクルによって再利用される鉄の使用比率によって二酸化炭素排出量の閾値が異なります。

例えば、鉄鉱石100%から製造する鉄の場合は1トンあたりの二酸化炭素排出量が400kg、リサイクル100%から製造する鉄の場合は1トンあたりの二酸化炭素排出量が50kgを下回れば「ニア・ゼロ・エミッション」とみなされます。

出典:i経済産業省 資源エネルギー庁『鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~「グリーンスチール」とは何か?』

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング『グリーンスチール』

(2)グリーンスチールの製法 ~水素還元製鉄とは~

鉄の製造には原料の採掘、高炉、転炉、連鋳、圧延などの工程がありますが、CO2の大半は高炉における鉄鉱石の還元工程で発生します。したがって、高炉の工程を見直すことで効率的にCO2発生量を減らすことができます。

高炉法では、コークス(石炭)を用いて酸化鉄を還元する際に二酸化炭素が発生します。鉄を1トン製造する際には約2トンの二酸化炭素が発生します。水素還元製鉄では、炭素ではなく水素で鉄鉱石を還元するため、還元反応によって水が発生し、二酸化炭素が発生しません。

2013年から日本で開始された試験では、水素還元製鉄によって還元工程での二酸化炭素排出量の10%減少が可能であることが世界で初めて検証されました。現在更なる削減を目指した技術開発が進められています。

出典:経済産業省『「トランジションファイナンス」に関する 鉄鋼分野における技術ロードマップ』p.15-18

(3)グリーンスチールの普及と利用によるメリット

グリーンスチールの利用は国内外で広まっています。IEAは、グリーンスチールの市場規模は2050年には約5億トンに拡大し、2070年には生産される銑鉄のほぼ全てが実質排出ゼロの製造方法となると予測しています。

また、グリーンスチール導入の取り組みは国のロードマップが策定されている他、金融機関の投資判断にトランジション・ファイナンスの観点ができました。グリーンスチールの導入に向けた取り組みはエネルギートランジションの一環として評価され、新規事業への投資・融資が受けやすくなっています。

出典:武田信之 鎌田実. 機械設計ハンドブック :  JIS対応. 東京, 共立出版, 2014, ISBN4-320-95014-3.

出典:日経クロステック「炭素鋼の硬軟と焼入れ効果、含有炭素の量に応じて異なる」

2. メルセデス・ベンツのグリーンスチールに対する取り組み

2023年6月7日、メルセデス・ベンツはスウェーデンの新興企業H2グリーンスチール(H2GS)とヨーロッパのプレスショップ向けに年間約50,000トンのほぼCO₂フリー鋼の供給契約を締結しました。サプライチェーンの脱炭素化に向けた広範な取り組みの一環として、メルセデス・ベンツとH2GSは、地元のメルセデス・ベンツ製造工場向けに北米で生産されるグリーンスチールのサプライチェーンの確立を目指すことで合意しました。

従来の高炉を使用して製造された鉄鋼は、1 トンあたり平均 2 トンを超える CO₂ を排出していた一方で、新しい製造プロセスである水素還元製鉄ではH2GS 生産サイトでの鉄鋼の生産はほぼ CO₂ フリーになります。鉄鋼生産においてコークス炭の代わりに、100%再生可能エネルギー源からの水素と電力が使用されます。コークス炭の使用とは異なり、CO₂ は発生せず、水蒸気が発生します。H2GS は、供給開始時に鋼材 1 トンあたり 0.4 トンの CO₂ の排出量を達成することを目指しています。

出典:Mercedes-Benz Group『Mercedes-Benz and H2 Green Steel secure supply deal.』(2023/5/9)

3. 自動車業界での実用化に向けた企業の取り組み

グリーンスチールの利用を促進するためには、まず炭素鋼に含まれている炭素の量を少しずつ減らしていったり、製造時における二酸化炭素の排出量を削減したりする取り組みが重要です。

ここではアメリカのフォード社、日本の日産自動車株式会社での炭素鋼を用いた自動車開発に関する取り組みについて解説しています。

(1)フォード社の取り組み

アメリカの大手自動車製造会社であるフォード社は、ドイツとオランダに拠点を置く3社と覚書を結び、協力してグリーンスチールの開発を行うことを発表しました。精製の過程で使うエネルギーをグリーン水素と再生可能エネルギーでまかなうことによって、生産の際に使われるCO2 排出量の削減を目標としています。

フォード社はアメリカのみならず世界の産業界に大きな影響を持っており、今後は他の鉄鋼会社とも連携してグリーンスチールの使用量を高める計画を進めています。最終的な目標としてはカーボンニュートラルに配慮した自動車の生産プロセスのうち約10%をこのグリーンスチールを使用したものにする予定です。

産業界に強い基盤をもつフォード社が中心となって取り組みを進めることによって、世界全体でもグリーンスチールの利用が進んでいくことでしょう。

出典:日本経済新聞『日経クロステック フォード、欧州鉄鋼3社とEV用グリーンスチールの調達で覚書』(2022年10月31日)

(2)日産自動車の取り組み

日産自動車は神戸製鉄所と提携し、同製鉄所が開発したグリーンスチールとアルミニウムを使用した新型自動車の開発を行うことを発表しました。グリーンスチールを使用した車の開発は国内企業では日産自動車が初であり、今後、日本の自動車産業の海外展開においてさらに影響力を増すと考えられています。

日産自動車では社会貢献と財務上インパクトの観点から、気候変動への対策を長く行ってきました。グリーンスチールを利用した自動車の生産に加えバッテリーやエネルギーの開発といった自動車の製造工程すべてにおいて2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを進めています。

出典:日本経済新聞『日経クロステック 日産が新型セレナなどに低炭素材料を採用、神戸製鋼から調達』(2022年12月19日)

出典:日産自動車『カーボンニュートラル』

4. まとめ:グリーンスチールを用いる取り組みに注目しよう!

グリーンスチールは、製造時の二酸化炭素排出量を大幅に削減した鉄鋼材料であり、脱炭素社会への貢献が期待されています。この技術を活用することで、自動車産業などの製造業における二酸化炭素排出量の削減が可能となります。特に、自動車メーカーの中でも、メルセデス・ベンツや日産自動車などがグリーンスチールの導入に積極的に取り組んでいます。

グリーンスチールの活用や、導入企業の取り組みを知ることによって製造業での脱炭素経営に役立てましょう。

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