エルニーニョ現象とは何か?2023年の状況と世界に与える影響

 

ペルー沖の海面水温が上昇した状態が続くエルニーニョ現象。2023年は特に長く、かつ強く続くとの見込みもあり、「スーパーエルニーニョ現象」が起こり世界に大きな影響を与えるのはほぼ確実であるとも言われています。しかし、ペルー沖という遠い地域で起きた現象がなぜ日本や世界に対して大きな影響を与えるのでしょうか。

この記事では、エルニーニョ現象についての知識や現在の状況、また今後世界や日本に対して与える影響についてまとめていきます。

目次

  1. エルニーニョ現象とは

  2. 世界に与えた影響

  3. 日本に与えた影響

  4. まとめ:事業を進める時には気候にも注目してみよう

1. エルニーニョ現象とは? 

基礎知識と、今年のエルニーニョ現象について解説します。

(1)基本の知識 エルニーニョ現象とその影響

エルニーニョ現象とは、赤道近くの熱帯太平洋の東側(南米のペルー沖辺り)の海域で平年よりも海面水温が高くなった状態が半年からそれ以上続くことをいいます。短期的な海面水温の上昇はペルー周辺での降水量増加などの影響しか与えませんが、長期的にこれが続くことによって海流の流れや雲の発生位置のずれが生じ、世界的に影響を与えます。

特に日本においては春から夏にかけての低温多雨や秋から冬の高温少雨を引き起こす原因になっており、冷夏による農作物の不作や雪不足によるスキーなどのウインタースポーツ市場の運営困難などの経済的な影響も大きなものとなっています。

出典:気象庁『エルニーニョ現象発生時の世界の天候の特徴』

(2)2023年のエルニーニョ現象

気象庁の観測データによると、2023年は6月ごろからエルニーニョ現象が継続しており、9月のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値からの差は+2.2℃と過去3番目の高さになっています。例年に比べ海面水温が高い状態で維持されていることから、エルニーニョ現象は来年の4月になっても約90%の確率で継続するとの見通しがたてられています。

また、今回のような強いエルニーニョ現象が経済に与える影響にも注目が集まっています。かつてこのような現象が起きた1982-83年と1997-98年ではおおよそ5兆円の経済的損失がでており、今回は気候変動への問題意識も相まってより大きな影響がでるのではないか、との見解も出されています。

出典:気象庁『エルニーニョ監視速報(No.373) 2023年9月の実況と2023年10月〜2024年4月の見通し』(2023年10月11日)

出典:毎日新聞『エルニーニョ現象、7年ぶり発生 世界で433兆円損失の予測も』(2023年7月7日)

出典:Science『Persistent effect of El Niño on global economic growth』p.4-6(2023年6月9日)

2. エルニーニョ現象の与えた影響例

(1)アジアへの影響

アジアではエルニーニョ現象により、高温少雨の傾向が強まります。これによって台風やサイクロンの発生量が抑えらえれるというよい影響がある一方、農業や水力発電の分野においては充分な水量が確保できないことによる悪影響も存在しています。

日本総研は、農業生産の減少や水力発電の困難による電力不足が経済的に大きなダメージを与えるとの見通しを発表しており、対策として農業用水の整備や水力・火力以外の発電方法の導入などを挙げています。

実際に、インドでは水力発電量の不足を補うために化石燃料での火力発電が12.4%増加しており、経済と環境の双方に大きな影響を与えています。

出典:日本総合研究所『エルニーニョ現象とアジア新興国経済』(2023年5月26日)

出典:ロイター『アジアで水力発電量急減、化石燃料依存が拡大 異常気象などで』(2023年9月22日)

(2)北米・南米への影響

アメリカではエルニーニョ現象による極端な高気温が問題となりました。7月にはNWS(アメリカ国立気象局)がオレゴン州西部、ニューメキシコ州中部、テキサス州、フロリダ州、サウスおよびノースカロライナ州沿岸部という多くの人が住む地域に対して高温注意報を発令しており、実際に100人以上の死者が出ています。

また、ペルーを含めた南米地域でも影響が懸念されています。短期間の海面水温の上昇は降雨をもたらし農業を始めとする生活によい影響を与えるとされています。しかし、今回のような強いエルニーニョ現象では長期的な大雨による洪水や土砂崩れなどの災害、日照不足による産業への悪影響が考えられます。

また南米大陸の東側では逆に降水量の不足が懸念されており、干ばつによる生活への影響はもちろん、熱帯雨林の生態系にも影響を与えると考えられています。

出典:ESTA online center『太平洋赤道でエルニーニョ現象が発生 アメリカ各地は猛暑が続き3,000万人に影響』(2023年7月8日)

出典:Science『Persistent effect of El Niño on global economic growth』p.2-3(2023年6月9日)

(3)オーストラリアへの影響

オーストラリア気象局はエルニーニョ現象の発生を重く受け止めており、2023年6月にはすでにエルニーニョ警報を出し、9月以降の気温の上昇と少雨を予想していました。前回のエルニーニョ現象から予想される影響としては干ばつによる小麦の収穫量の減少や水不足、山火事の発生率上昇などがあります。

オーストラリアはエルニーニョ現象をはじめとする太平洋の気候変動や環境の変化を受けやすく、現在多くの収益をあげているのが天候に影響を受けやすい穀物分野であることもあり、上水道の利用制限や外出時間の規制といった国民生活を制限する政策も含めて検討が進められています。

出典:Australian Government 『The Bureau of Meteorology issues an El Nino ALERT』(2023年6月6日)

3. 日本に与える影響

日本の気温は高温少雨の傾向になります。また、日本にやってくる台風の発生場所はエルニーニョ現象の影響を受けやすい赤道付近の海上であるため、その発生戸数も影響を受けます。

気象庁の観測データでは2023年の台風の発生数は7〜10月で13個であり、これは前年2022年の同じ期間が21個であることを考えると、かなり少ない個数となっています。気温にも影響が出ています。地球温暖化で気温の上昇が起きていることに加え、10月は平年に比べ+ 0.6℃と高い水準となっています。

また、前の章で全世界的に起こる農業への大きな影響について述べましたが、日本でも、1997年の大規模なエルニーニョ現象が起こった際に、異常気象による農作物の生産低下や、エネルギー価格の変動、海水温の変化による特定の魚の漁獲量の低下が見られました。価格の高騰によって経済全体にも変動をもたらす可能性があります。

出典:気象庁『台風の発生数[協定世界時基準](2022年までの確定値と2023年の速報値)』(2023年10月31日閲覧)

出典:ウェザーニュース『10月の日本の平均気温は過去5番目の高さか 9か月連続で平年を上回る』(2023年10月30日)

出典:日本農業新聞『[論説]スーパーエルニーニョ 自然災害多発に厳戒を』(2023年7月11日)

4. まとめ:事業を検討する時には色々な場所の気候にも注目してみよう!

エルニーニョ現象は全世界の気候や経済活動に対して大きな影響力を持ちます。気候変動に関心が集まっているなか、エルニーニョ現象への対策は今後さらに注目されるものになるでしょう。

現在は海外との取引の機会もあることを考えると、遠くの地域の現象であってもそれらを起因とした事業に影響が出る可能性もあるため、遠い地域の気候状況も意識する必要があるでしょう。 

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説