BECCSとは?低炭素・脱炭素に向けた世界各国の企業の取り組み

地球温暖化抑止のために低炭素・脱炭素に向けたあらゆる取り組みが実施されている中で、新たなゼロカーボン・エネルギー技術であるBECCS(Bioenergy with  Carbon Capture and Storage)に注目が集まっています。BECCSとはいったいどのような技術であり、どのように二酸化炭素の削減に貢献するのでしょうか。

この記事では、BECCSをはじめとするCCSの概要、BECCSにおける今後の課題、企業のBECCS実用化に向けた取り組みなどについてまとめています。

目次

  1. BECCSとは?

  2. BECCSの現状と今後の課題

  3. 海外企業のBECCS利用に向けた取り組み

  4. まとめ:BECCSの実用化に注目しよう!

1. BECCSとは?

BECCSの概要と、同じくゼロカーボン・エネルギー技術であるDACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)との違いについて解説しています。

(1)BECCSの概要

BECCSとは、バイオマス発電と二酸化炭素の回収・貯留技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)を組み合わせた技術のことです。

CCSとは、大気中に存在する二酸化炭素や、発電や産業で排出された二酸化炭素を回収し、それを地中に貯留しておく技術のことです。

バイオマス発電とは、バイオマス(生物資源)を燃料とする発電方法です。バイオマス発電では、燃焼過程において二酸化炭素が排出されますが、これは植物が成長する際に光合成によって大気中から吸収するものと相殺されるとされています。

つまり、CCSとバイオマス発電を組み合わせたBECCSでは、バイオマス発電で発電時における大気中の二酸化炭素増加量を実質ゼロにするとともに、燃焼時に発生する二酸化炭素を回収・貯留することで、発電時に発生する二酸化炭素排出量を実質ゼロ以下にすることができるため、低炭素化や脱炭素化に向けて注目されています。

出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ『CO2有効利用(CCU)の国内外の動向』

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構『バイオマス混焼発電を用いた BECCS による 炭素排出量削減のライフサイクル評価』(2022年5月)

(2)BECCSとDACCSの違いとは

BECCSのほかに、低炭素化や脱炭素化に向けた取り組みとして、DACCSという技術にも注目が集まっています。バイオマス発電から発生する二酸化炭素を回収・貯留するBECCSに対して、DACCSは大気から直接二酸化炭素を分離・吸収し、地中に貯留することで、大気中の二酸化炭素を減らします。

主要国の温暖化対策の計画では、温室効果ガス排出抑制やカーボンニュートラルの達成に向けて、BECCSとDACCSが大きな役割を果たすことが期待されています。

実際、イギリスではBECCSとDACCSによって2050年に、2020年の温室効果ガス総排出量の12%にあたる二酸化炭素を除去する計画があり、ドイツでは2045年に2020年に排出した温室効果ガスの9%を除去する目標を立てています。日本でもDACCSによって2050年までに、2015年の温室効果ガス総排出量の14%にあたる二酸化炭素を除去する方針です。

出典:読売新聞オンライン『技術革新がもたらす新しいゼロカーボン・エネルギー技術<2>BECCSとDACCSとは』(2021/12/14)

出典:経済産業省『ネガティブエミッション技術について』2023年3月29日

2. BECCSの現状と今後の課題

BECCSの現状とBECCS利用に向けた今後の課題について解説しています。

(1)BECCSの現状とは

現時点ではアメリカなど、トウモロコシからエタノールを製造するいくつかの施設が、100万トンの二酸化炭素回収能力・貯留規模を持つBECCSプロジェクトを進めていますが、それ以外は小規模なBECCSプロジェクトが少し存在するものの、あまり普及していません。

日本では2020年に福岡県の三川発電所で、バイオマス発電から排出される二酸化炭素を年間18万トン回収できる三川CO2分離回収設備が運転を始めています。

出典:読売新聞オンライン『技術革新がもたらす新しいゼロカーボン・エネルギー技術<2>BECCSとDACCSとは』(2021/12/14)

(2)BECCSの利用に向けた今後の課題とは

コストへの対応

BECCSにおける二酸化炭素の除去コストは、1トンあたり100〜200ドル(およそ15000円〜30000円)かかると見込まれています。植樹による二酸化炭素の除去コストが1トンあたり5〜50ドル(およそ750円〜7500円)であるため、BECCSの実用化に際して、いかにコストがかかるかということが見て取れます。BECCSプラントの建設や技術の向上に向けて、コストの削減や政府による支援が重要です。

持続可能性への懸念

BECCSの活用には、プラントの建設や二酸化炭素の貯留における土地の確保が必要不可欠です。二酸化炭素の貯留地として耕地・永年作物栽培地の25〜46%が必要になるというデータもあり、食料生産との兼ね合いなど、持続可能性に対する懸念点を解決しなければなりません。

土地の確保によって農村部の生活や生物多様性などにも悪影響を及ぼす可能性があるため、BECCSの実用化に際しては慎重に検討していく必要があります。

出典:読売新聞オンライン『技術革新がもたらす新しいゼロカーボン・エネルギー技術<2>BECCSとDACCSとは』(2021/12/14)

3. 海外企業のBECCS利用に向けた取り組み

海外企業であるDrax(ドラックス)社とStockholm Exeri(ストックホルム・エクセルギ)社のBECCS利用に向けた取り組みについて解説しています。

(1)Drax(ドラックス)社の取り組み

イギリスのバイオマス発電企業であるドラックス社は、2021年にBECCSの技術をイギリス国内に取り入れる計画を始めました。2027年までにはドラックス社初のBECCSプラントが運転を開始すると予想されており、このプロジェクトによって毎年数百万トンの二酸化炭素が大気中から除去されると見込まれています。

出典:Carbon Capture Journal「Drax applies to build BECCS power station」2021年3月1日

(2)Stockholm Exeri(ストックホルム・エクセルギ)社の取り組み

スウェーデンのエネルギー企業であるストックホルム・エクセルギ社は、2019年からヴェルタン地域にあるバイオ燃料火力発電プラントにBECCSプラントを建設する計画を進めています。ストックホルム・エクセルギ社の計算によれば、BECCSプラントの運用で年間80万トンの二酸化炭素を除去できる見込みで、これを他の企業の運用と組み合わせれば、年間200万トンの二酸化炭素を除去することも可能だとしています。

出典:Stockholm Exergi『BECCS - Negative emissions』

4. まとめ:BECCSの実用化に注目しよう!

この記事で述べたように、BECCSはバイオマス発電における二酸化炭素の排出量を実質ゼロ以下にする技術であり、世界中の企業で実用化に向けた研究や開発が行われています。この記事では海外の動向を中心にご紹介しましたが、日本でもBECCSを取り入れる企業がすでにあり、今後もさらに増えていくと予想されます。

コストや持続可能性への懸念といった課題はまだ解決していませんが、日本企業が今後これらの課題にどう立ち向かっていけばよいか、注目して考えてみましょう。

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