気候変動に対するシンガポールの取り組みと、そこから得られた効果とは

近年、世界中では深刻化している地球温暖化が深刻な課題とされています。そこで、シンガポールは温室効果ガスの排出量ゼロに向けて、気候変動対策に関する取り組みを進めています。しかし、そこにはシンガポールならではの課題や障壁が存在します。シンガポールではどのような取り組みを実施し、どんな効果を得られたのでしょうか。

この記事では、シンガポールが抱える課題や気候変動に対する具体的な取り組み、そこから得られた効果についてまとめています。

目次

  1. シンガポールの現状と地球温暖化に対する目標

  2. シンガポールの地球温暖化対策に対する取り組み

  3. まとめ:シンガポールの取り組みを参考にしたうえで、今後の動向にも注目しよう!

1. シンガポールの現状と地球温暖化に対する目標

シンガポールの気候変動における現状と立ちはだかる課題について解説しています。

(1)シンガポールの歴史

シンガポールは、トーマス・スタンフォード・ラッフルズ卿の尽力やさまざまな政策、交易によって、19世紀に建国されました。

シンガポールの発展の裏側には、地元の支配者と条約を結び、自国を交易拠点としたことがあり、これにより、シンガポールは中継貿易の拠点として急成長し、多くの移住者が訪れました。

その後、シンガポールは貿易拠点としての発展を続け、銀行や商業協会、商工会議所が設立され、1924年にはシンガポールとマレーシアのジョホール・バルを結ぶ「コーズウェイ」が開通したことで、現在のシンガポールへと発展しました。

出典:シンガポール政府観光局『シンガポールについて』

(2)シンガポールの地球温暖化への目標

シンガポール・グリーンプラン2030(以下、グリーンプラン)は、シンガポールの持続可能な開発に関する取り組みを定めています。ここでは今後10年間での野心的かつ具体的な目標を設定し、2050年までの長期的なネットゼロ排出目標の達成を目指すことを表明しています。実際に定められている目標を以下に記載します。

具体的な目標

  • 100万本以上の木を植える

  • 2025年までに太陽エネルギーの導入を4倍に増やす

  • 2030年までに埋立地への廃棄物を30%削減する

  • 2030年までに少なくとも20%の学校がカーボンニュートラルになる

  • 2030年から新しく登録される車はクリーンエネルギーモデルとする

出典:Singapore Green Plan 2030『A City of Green Possibilities』

2. シンガポールの地球温暖化対策に対する取り組み

シンガポールが気候変動対策に向けて取り組んでいる具体的な施策について解説します。

(1)地域冷房の概要と効果

シンガポールの主要地区で導入されている地域冷房は、エネルギー効率と環境への配慮を両立させる取り組みとして注目されています。

地域冷房とは、冷却設備を地区ごとに一カ所に集中させ、そこで冷却された水を地下のパイプラインを通して、複数の建物に供給するシステムです。このシステムにより、各建物ごとに冷房装置を設置する必要がなくなり、冷却水も需要に応じた量が供給される仕組みであるため、エネルギーや建物スペースの節約が期待できます。

地域冷房に関する具体的な効果は以下の通りです。

  • エネルギー効率の向上

地域冷房は冷却設備を中央に集中させ、一つの冷却プラントで多くの建物を冷却することができるため、個別の冷房設備を複数の建物で設置する場合に比べて、効率的にエネルギーの消費が行われます。実際に地域冷房のシステムを導入した場合、従来の設備に比べてエネルギー使用量が40%も減少したというデータもあります。

  • 都市や建物の省スペース化

地域冷房は、個別の冷却設備を建物ごとに設置する必要がないため、都市や建物内のスペースを効率的に活用することができます。
それにより空いたスペースを他の目的に利用できるほか、都市部の景観改善にもつながります。

出典:NNA ASIA「地域冷房システムの導入加速」(2022/5/12)

出典:一般社団法人 都市環境エネルギー協会『地域冷暖房とは』


(2)沖合での太陽光発電とは?

シンガポールの限られた陸地と高い人口密度を考慮して、沖合に浮動式の太陽光パネルを建設する試みを実施しています。海上なので国土面積に関係なく、再生可能エネルギーを導入することができ、他国に頼ることなく電力供給を増やすことができます。現在はジョホール海峡沖合に、太陽光パネルが設置されていますが、今後さらに多くの場所で太陽光パネルが設置されることが予想できます。

沖合での太陽光発電に関する具体的な効果は以下の通りです。

  • エネルギー効率の向上

太陽光パネルは過度な熱が加えられると発電効率が悪くなる特徴があります。しかし、海面に太陽光パネルを設置することで、太陽光パネルが冷却されるため、発電効率を安定させることができ、より効率的なエネルギー生成が可能になるでしょう。

  • 温室効果ガスの削減

太陽光発電は温室効果ガスを排出せずに、発電することができます。国内の電力量を増やすとともに、気候変動対策に向けてもプラスの効果があります。

出典:NNA ASIA「最大級の洋上太陽光発電、国境海峡に設置」(2021/3/24)
出典:AFP BB News『水上に浮かぶ太陽光パネル、小さな島国シンガポールの再エネ発電』(2021/4/16)

(3)海水の淡水化の概要と効果

シンガポールはかつてほとんどの水をマレーシアからの供給に頼っていましたが、その依存度は年々下がっており、現在では必要な水の量の半分程度にまで減少しています。残りの水は貯水や下水の再生などによってまかなわれていますが、最近では海水を淡水に変換する取り組みが拡大しています。

シンガポールでは2025年までに海水を淡水にするためのエネルギー使用量を1000リットルあたり2 kWhに削減する目標を掲げていますが、この目標を達成するためにはまだまだ技術の改善が必要です。

海水の淡水化に関する具体的な効果は以下の通りです。

持続可能な水供給の確保

長年シンガポールは水資源が不足しており、他国への依存度が高い状況でしたが、海水を淡水に変換することによって自国内で持続可能な水資源を確保することが可能になりました。

水価格の安定と品質向上

海水を淡水化するシステムにより、国内で水を生産できるようになるため、水価格の安定が期待できます。また、品質の向上も期待できるため飲み水の安全性や健康への影響が改善されるでしょう。

出典:日本経済新聞「世界の技術を先導 シンガポール、水ビジネス大国に」(2015/2/17)

(4)浮体式の太陽光発電所

シンガポールは土地と屋根のスペースが限られているため、浮体式の太陽光発電所を建設しています。テンゲー貯水池に設置されたこの発電所は、122,000枚の太陽光パネルで構成され、45ヘクタールの面積を持ち、60メガワットピークの発電能力を有しています。センブコープ・インダストリーズによって設置されたこの施設は、シンガポールが2025年までに太陽光発電の能力を4倍に増やすという目標の一環です。

シンガポールは一人当たりの二酸化炭素排出量が非常に大きいため、再生可能エネルギーの導入が急務とされています。この浮体式太陽光発電所の導入により、年間約350,000世帯に電力を供給することが可能となり、シンガポールの持続可能なエネルギー供給に貢献しています。

出典:euronews.green『One of the world's largest floating solar farms opens in Singapore』(2021/8/26)

(5)シンガポールの気候変動対策

マリーナ・バラージはシンガポール15番目の貯水池であり、10,000ヘクタールの集水域を持っています。このダムは、豪雨時に洪水を防ぐために9つの水門を開けて過剰な雨水を海に放出する役割を果たしています。また、満潮時には巨大なポンプを使って雨水を海に排出し、シンガポール島の一部低平地を洪水から守っています

また、穏やかな水面はカヤックやドラゴンボートレースなどのウォータースポーツに最適で、屋上の芝生空間では凧揚げやピクニックが楽しめます。マリーナ・バラージはまた、シンガポール最大規模のソーラーパネルを設置し、緑化政策の一環としても機能しています。

出典:Singapore Tourism Board『マリーナ・バラージ』

3. まとめ:シンガポール・グリーンプランの植林や太陽エネルギーの情報を参考にカーボンオフセットに取り組もう!

シンガポールは、シンガポール・グリーンプラン2030により、2050年までのネットゼロ排出目標を設定しており、100万本以上の木の植樹、太陽エネルギーの導入増加、地域冷房、沖合での太陽光発電などの取り組みを行っています。

カーボンオフセットに関連する植樹や太陽光発電(太陽光パネルの設置)等は各企業単位でも可能な取り組みですので、二酸化炭素の排出量を見直すと共に、カーボンオフセットの取り組みについて検討してみましょう。

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