人的資本開示義務化とは?対応方法や注意点を解説

最近注目を集めている人的資本開示義務化について、わかりやすく解説します!人的資本が企業の付加価値を高めるものとして重要視されるようになるとともに、企業に対する人的資本開示の要求も高まっています。

 

これは国際的な動向でもありますが、日本においても人的資本に関する情報を開示することが、上場会社に対して義務付けられることとなりました。本記事では人的資本開示義務化の背景や事例についてもご紹介します。

目次

  1. 人的資本開示義務化の概要

  2. 人的資本開示方法について

  3. 企業の人的資本開示事例

  4. まとめ:人的資本開示義務化に対応し、IRにおけるサステナビリティ情報を充実させよう!

1. 人的資本開示義務化の概要

サステナビリティなど企業の非財務情報へ注目が集まる中、各企業の人的資本情報にも投資家などからの関心が寄せられています。そのような状況において、人的資本情報の人的資本開示義務化とはどのようなことなのでしょうか。

人的資本開示義務とは

人的資本とは、企業の人材は投資によって価値が高まる「資本」であるという考え方です。そして人的資本開示義務とは、令和5年1月31日付で公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の内容です。

この中ではサステナビリティに関する企業の取組を有価証券報告書などに記載することが求められています。その一環として「人的資本、多様性に関する開示」も挙げられており、必須記載事項として「人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等」が指定されています。

出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」(2023年5月1日)

人的資本開示義務化に至った背景

有価証券報告書などでの人的資本開示が義務化されたのは、政府の方針として非財務情報の充実が掲げられていたことによります。それまでは企業の気候変動や人的資本などのサステナビリティ開示は、あくまで任意のものでした。

しかし多くの投資家がサステナビリティ経営の観点から、人的資本への戦略的な投資が重要であると認識するようになり、各企業が自社の人材戦略を資本市場に対して分かりやすく伝えていく「人的資本の可視化」が不可欠なものとなったのです。

出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」(2023年5月)p2出典:内閣府(非財務情報可視化研究会)「人的資本可視化指針」p1

2. 人的資本開示方法について

人的資本を開示すると言っても、唯一の方法が確立しているわけではありません。各行政機関では人的資本開示にあたってガイドラインを示していますので、それを参考に人的資本開示方法について解説します。

有価証券報告書における人的資本情報の記載方法

金融庁が2023年5月に発表した「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」では、有価証券報告書に新設された「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目のうち「戦略」へ人材育成方針・社内環境整備方針について、「指標及び目標」へ測定可能な指標(インプット/アウトカム)目標及び進捗状況について記載するよう求められています。

また従来からあった「企業の概況」の中の「従業員の状況等」において、従来の記載事項(従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与)に加えて、女性管理職比率 ・男性育休取得率 ・男女間賃金格差を記載し、必要に応じステナビリティ関連項目と相互参照させることなどを指定しています。

出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」(2023年5月)p6-7

開示事項検討のポイント

内閣府の「非財務情報可視化研究会」が出している「人的資本可視化検討指針」では、人的資本情報の具体的な開示事項を検討する際の留意点として、独自性と比較可能性のバランスを掲げています。

国際的な開示基準などは企業間比較を意識したものとなる傾向があります。一方各企業は、自社の戦略や取り組みを示す、独自の開示事項も検討しなければなりません。企業によってビジネスモデルや求める人材像は異なるため、各社固有の戦略と結びついた人的資本情報を開示するよう工夫が必要です。

出典:内閣府(非財務情報可視化研究会)「人的資本可視化指針」p26-27

開示項目の選択

人的資本に関する情報には大きく分けて、価値向上に関して開示するものと、リスクに関して開示するものがあります。たとえばリーダーシップ・スキルと経験など育成に関する情報は、主に価値向上に関連する事項です。

一方コンプライアンスや労働組合との関係・福利厚生・賃金の公正性など労働慣行に関する情報は、主としてリスクに関する事項と言えるでしょう。ダイバーシティや健康経営に関する事項は、価値向上とリスクそれぞれに関連している中間的な情報となります。各企業は投資家などのニーズに応じた開示項目を選択することが必要です。

出典:内閣府(非財務情報可視化研究会)「人的資本可視化指針」p28

3. 企業の人的資本開示事例

人的資本情報の開示への気運が高まる中、日本国内企業においても人的資本の開示事例が増加しています。日本企業の人的資本開示事例についてご紹介します。

株式会社丸井グループ

株式会社丸井グループの2022年3月期有価証券報告書では、「人的資本経営の取り組み」という項目が設けられ、「人の成長=企業の成長」という経営理念に基づき、働く理由や会社に入って成し遂げたいことなどを対話の場を設けて話し合う取り組みなどについて取り上げられています。

出典:金融庁「有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示 2.『社会(人的資本、多様性 等)』の開示例」(2023年1月31日)p2-1~2-3

中外製薬株式会社

中外製薬株式会社では人的資本について、価値創造プロセスにおける位置づけを明確に示しています。例えばデジタル戦略と関連付け、社員のデジタル・スキルに応じた教育プログラムを体系化しています。また人的資本に関する開示情報として、社員一人当たり教育研修費などを選定しています。

出典:内閣官房「人的資本:開示事例集」p89-91

伊藤忠株式会社

伊藤忠株式会社は、企業理念「三方よし」に基づく人材戦略における重要指標の開示を行っています。具体的には人材戦略は「世間よし」に結びつけられており、有価証券報告書では、創業地訪問参加者数や人材育成投資額などの指標を開示しています。

出典:経済産業省「人的資本経営コンソーシアム 好事例集」(2023年5月) p15

カゴメ株式会社

カゴメ株式会社では2021年12月期の有価証券報告書において、経営戦略のひとつであるD&I(ダイバー・アンド・インクルージョン)について紹介しています。具体的な取り組みとして「管理職のマインド・スキル向上」「ダイバーシティ委員会によるボトムアップ活動」などを開示し、D&Iについて経営戦略上の位置付けや取組みが具体的に記載されている点が評価されています。

出典:金融庁「有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示 2.『社会(人的資本、多様性 等)』の開示例」(2023年1月31日)p2-8~2-11

4. まとめ:人的資本開示義務化に対応し、IRにおけるサステナビリティ情報を充実させよう!

人的資本開示義務は2023年1月に公布・施行された内閣府令による、有価証券報告書などへのサステナビリティ情報に関する記載事項の改正内容です。これにより各企業は、人的資本情報についての有価証券報告書への記載が必須となっています。ただし開示項目については、経営戦略や投資家のニーズなどを勘案し各企業で工夫する必要があります。

人的資本開示義務化に対応し、IRにおけるサステナビリティ情報を充実させましょう。

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