世界の再生可能エネルギーおよび原子力発電量の将来的な目標は?

世界中で脱炭素が進むなか、日本でも経済産業省が、2030年度における電源構成の割合を、再生可能エネルギー36〜38%、原子力発電20~22%に引き上げる「エネルギー基本計画見直しの素案」を取りまとめました。この素案をもとに議論が行われ、2021年10月に閣議決定される見通しです。なぜ今日本は再生可能エネルギーと原子力発電の将来戦略を大幅に変更しようとしているのでしょうか。

この記事では、今後の日本のエネルギー戦略について法人の皆さまが知っておくべき基本的な知識についてご紹介します。日本が新たに掲げるエネルギー戦略を理解し、企業での取り組みにつなげましょう!

目次

  1. 野心的な目標?2030年の再エネ割合の目標値は

  2. それぞれの再生可能エネルギーの現状

  3. 現状から大幅アップ。原子力発電の計画見直し

  4. 火力発電メインは少数派!世界各国の電源構成

  5. まとめ:日本の新たな目標を理解し、再生可能エネルギーの取り組みについて考えよう!

1. 野心的な目標?2030年の再エネ割合の目標値は

世界各国がカーボンニュートラル社会の実現を目指し、目標や計画を策定しています。日本では2002年に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、翌年2003年に第1次エネルギー基本計画が策定され3年ごとに内容が見直され、2018年に第5次エネルギー基本計画(以下、第5次)を発表。2021年度に第6次エネルギー基本計画(以下、第6次)が策定される見通しです。

出典:経済産業省『新しいエネルギー基本計画が閣議決定されました』(2018/7/3)

第6次の素案における大幅な変更点の1つに、再生可能エネルギー割合があります。素案が閣議決定されれば、再生可能エネルギー割合は22〜24%から36〜38%に大幅に引き上げられます。

再生可能エネルギー割合を引き上げる理由は、CO2を排出しない環境にやさしいな電源であるためです。2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減し、2050年度までにカーボンニュートラル社会を実現させるためには、再生可能エネルギーの割合を大幅に増加させることは欠かせません。代表的な再生可能エネルギーの種類には、太陽光発電・風力発電・水力発電・バイオマス発電などがあります。

         各種発電技術のライフサイクルCO2排出量

出典:資源エネルギー庁『「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点』(2019/6/27)

出典:資源エネルギー庁『再生可能エネルギーとは』

2. それぞれの再生可能エネルギーの現状

第6次の素案により、日本は2050年度のカーボンニュートラルを実現させるために、再生可能エネルギーの割合を大幅に引き上げる見込みです。具体的な内訳は、太陽光が約15%、水力が約10%、風力が約6%、バイオマスが約5%、地熱が約1%です。

出典:資源エネルギー庁『エネルギー基本計画(素案の概要)』(2021/7/21)(p.18.19)

一方で現状の数値は、2019年度の速報値によると全体で18.0%、内訳は水力が7.7%、太陽光が6.7%、風力が0.7%、バイオマスが2.6%、地熱が0.3%です。

日本がこの目標を達成するのは難しいと国内から声が上がっていますが、これは日本が再生可能エネルギーを普及する上で課題を抱えているためです。日本の発電コストは欧州と比較すると約2倍と諸外国と比べると高く、発電コストの高さは国民負担に直結します。この他にも長期の安定した発電を支える環境が整っていないことや、洋上風力など立地制約があることなどが課題です。

出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』(2021/3/1)(p.19)

出典:資源エネルギー庁『再エネの主力電源化を実現するために』(2018/5/15)

3. 現状から大幅アップ。原子力発電の計画見直し

第6次の中で、再生可能エネルギー割合は大幅に引き上げられましたが、2030年度における原子力発電割合の目標に関しては20〜22%と据え置かれました。第5次における目標と同じですが、2019年度の速報値では日本の原子力発電割合は6%のため、国が掲げる目標とは大きな開きがあります。

これから原子力発電割合を増加させていく上での課題となっているのが安全確保に必要なコストの高さです。日本は原子力発電の導入に関して安全を最優先する方針を固めており、原子力発電所を稼働させるためには、世界最高水準の厳しい基準をクリアし、多額の費用を投じる必要があります。経済産業省の発表によると、原子力の発電コストの試算は11円台後半と、2015年時と比較すると1円以上も高い価格になっています。

出典:経済産業省『発電コスト検証に関するこれまでの議論について』(2021/7/12)(p.4)

このようにコストが高く、東日本大震災によるトラブルがあったにもかかわらず、日本が原子力発電割合を増加させる方向に舵を切った背景にあるのは、日本のエネルギー事情です。

資源が乏しく、海外からの化石燃料の輸入に依存している日本が、エネルギーの安定供給と温室効果ガス排出量削減という課題を解決するために、原子力発電所が必要なだと判断されたことが伺えます。

出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(後編)』(2020/12/10)

4. 火力発電メインは少数派!世界各国の電源構成

世界各国の最新情報となる電源構成は以下のようになっています。

[1]ドイツ

ドイツは再生可能エネルギー割合を2030年度までに65%、2050年度までに80%にする方針です。2018年度のドイツの電源構成は、割合が多い順に火力が49.1%、再生可能エネルギーが35.0%、原子力が11.8%です。

[2]フランス

フランスは再生可能エネルギー割合を2030年度までに40%にする方針です。2050年度における目標は未定としています。2018年度のフランスにおける電源構成は、割合が多い順に原子力が71.6%、再生可能エネルギーが21.3%、火力が7.1%です。

[3]中国

中国の2017年度における再生可能エネルギー割合は24.9%で、発電導入量は世界第1位です。電源構成は、割合が多い順に石炭が68.6%、再生可能エネルギーが24.9%、原子力が3.5%、天然ガスが2.8%、石油その他が0.4%です。

[4]アメリカ

アメリカの2017年度における再生可能エネルギー割合は17.0%で、発電導入量は中国に次ぐ第2位です。電源構成は、割合が多い順に石炭が31.1%、天然ガスが31.0%、原子力が19.8%、再生可能エネルギーが17.0%、石油その他が1.1%です。

出典:一般社団法人 海外電力調査会『欧州電気事業の最近の動向〜カーボン・ニュートラル社会実現に向けた取り組み』(2020/5/26)(p.15)

出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー2019 エネルギーの今を知る 10の質問』(p.13)

5. まとめ:日本の新たな目標を理解し、企業に求められる取り組みについて考えよう!

今回お伝えしたように、日本が2030年度までの再生可能エネルギー割合目標を36〜38%に引き上げたことで、再生可能エネルギー普及を促進させるための様々な政策を打ち出していくことが予想されます。

これらの政策の変化は、市場動向や企業の事業活動に影響を与えるものもあります。今後もエネルギー事情と政策の大局観を更新し、再生可能エネルギーの導入など、企業として取り組むべき活動を定期的に検討されてみてはいかがでしょうか。

 

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