エシカルの意味と実践:持続可能な社会への倫理的なビジネスの役割

この記事では「エシカル」という言葉の意味について、企業が理解しておくべき内容や実践事例を合わせてご紹介します。

近年、環境に配慮した行動が注目され、企業も消費者のエコや省エネ意識に合わせた経営が求められています。その中で「エシカル」という言葉も聞かれるようになりました。

これからの企業が取り組むべき「エシカル」とはどのようなものなのか、また実践している企業の取り組み内容についてしっかり理解しておきましょう。

目次

  1. エシカルの意味

  2. エシカルの現状

  3. エシカルを推進するアパレル業界の取組とは

  4. エシカルを実践する企業事例

  5. まとめ:エシカルを推進し、持続可能な社会に適応した企業経営を!

1. エシカルの意味

環境問題に取り組む中で様々な専門用語が登場しますが、「エシカル」について適切に理解している人は少ないと思います。ここでは「エシカル」がどのような意味で使われているのか詳しく解説します。

エシカルの概要と基本的な原則

「エシカル」は直訳すると「倫理的」「道徳的」という意味になります。環境問題で使われる際は「エシカル消費」として使われることが多く、エシカル消費とは「地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動」のことを指します。

商品を購入したり、サービスを受けたりする際に「倫理的」に考えて正しいと思うことを基準とすることで、「価格(安い)」や「便利」という点だけで選ぶのではなく、誰がどこでどのような行程で作り、どうやってお店に運ばれているのかという点を購入の選択肢として入れるということです。

エシカルの具体的な考え方として次の3つがあげられます。

  • 人・社会への配慮

私たちの身の周りにある食品や製品は手元に届くまでにたくさんの人が関わっています。その中には商品の原価を下げるため、安い賃金で働く開発途上国の人や学校に通えず労働者として働く子どもがいる場合もあるのです。

フェアトレード認証商品や、売上の一部が寄付につながる商品など、人や社会に配慮された商品を選ぶことで多くの人が豊かな生活を送れるようになるでしょう。

※フェアトレードとは開発途上国から適正な価格で原料や製品を継続的に購入することで生産者の生活改善や自立を目指す貿易の仕組みです。

  • 地域への配慮

現在はインターネットにより遠方で生産された商品が簡単に手に入るようになっています。しかし、日本は豊かな自然や多様な気候・地形によりその土地特有の産物が作られています。

地元の食材や産物を選ぶことは地域産業の発展や地域振興につながり、地元を応援することになるのです。

  • 環境への配慮

大量生産・大量消費・大量廃棄により地球温暖化や海洋汚染が発生していることが問題となっています。これにより生態系の破壊やエネルギー資源の減少、また異常気象による農作物への被害も深刻化しています。

買い物の際の「マイバッグ」や「マイボトル」の使用、食品ロスの低減やゴミ分別の徹底など環境に配慮した買い物でより良い未来をつくることができるでしょう。

出典:環境省「SDGsライフのヒント エシカル消費」

出典:消費者庁「エシカル消費とは」

エシカルな行動とビジネスの関係性

近年では企業も消費者の信頼を得るため、社会や環境に配慮した行動をとることの重要性が高まっており、経団連が1991年に制定した「企業行動憲章」では、「環境問題への取り組みは人類共通の課題であり、企業の存在と活動に必須の要件として主体的に行動する」とされています。

このような消費者のエシカル消費に応えていくことは、社会的な問題の他に次のようなメリットもあげられます。

  • 供給工程の管理と透明性の向上

原料調達から生産・運搬・販売・宣伝などの流通の工程において、社会・環境に配慮した行動は供給工程を包括的に管理でき、その透明性も向上させることができます。これにより法的なリスクや評判リスクを低減することが可能となります。

  • 競争力の向上による技術革新

消費者が倫理的な商品を選択する方向へ移行することで、エシカルを意識した企業は商品の調達・生産過程で環境負荷を低減しながら費用対効果を高める努力をします。

また、消費者の声の分析から自社の商品・サービスでどのような対応が最適か、消費者がどのような期待を持っているのかを把握することで新しい技術革新が生まれ、市場に新しい競争力を生むことにつながるのです。

  • 企業価値の向上

エシカル消費に向き合う企業は、消費者や取引先などからの信頼感を高めることができ、企業のイメージアップを図ることができます。これは従業員の働きがいの向上にもつながるうえ、資本市場でも評価されることで資金運用の面でも有利に働くことが期待できます。

出典:消費者庁倫理的消費調査研究会「倫理的消費調査研究会取りまとめ」(2017/4)(p12)

2. エシカルの現状

では、実際にエシカル消費は日本でどのように浸透し、進められているのでしょうか。ここでは消費者の視点と行政の視点で現状を整理してみます。

消費者の視点でみたエシカル

現状ではエシカルという用語の認知度は低く、調査では言葉の意味を「理解している」「知っている」「聞いたことがある」という人は全体の1割強となっており、まだ一般的に浸透しているとは言い難い状況です。

しかし、内閣府の「消費者行政の推進に関する世論調査(2015/9)」では、「日頃、環境・食品ロス削減・地産地消・被災地の復興・開発途上国の労働者の生活改善など社会的課題につながることを意識して商品、サービスを選択しようと思っている」と答えた人は64.3%にのぼり、消費者庁「消費者意識基本調査(2015/11)」では「環境に配慮した商品やサービスを選択」することを心がけていると答えた人は5割を超えています。

このようにエシカル消費についての消費者の意識は高く、今後エシカル消費という言葉と概念が結びつき理解されれば、エシカル消費は加速的に普及していくと考えられます。

出典:消費者庁倫理的消費調査研究会「倫理的消費調査研究会取りまとめ(2017/4)(p9~10)

行政の視点でみたエシカル

行政としては、フェアトレードタウンなどの人権や環境に配慮したまちづくり、地産地消などの取り組みを行っており、そのための消費者教育、取り組み成果の共有などを進めています。

行政はエシカル消費を進めることで経済の活性化につながると考え、グローバル化や東京一極集中・人口減少・少子高齢化などで疲弊する地域経済の未来を切り開くための重要なポイントと位置付けています。

出典:消費者庁倫理的消費調査研究会「倫理的消費調査研究会取りまとめ(2017/4)(p13~p14)

出典:経済産業省「サステナブルな価値創造を行う企業行動に向けて」

3. エシカルを推進するアパレル業界の取組とは

環境省では消費者のエシカル消費促進のため様々な取り組みを行っています。その中のひとつでもあるアパレル業界での「サステナブルファッション」についての取り組みをご紹介します。

サステナブルファッション推進への取り組み

ファッション産業は、大量生産・大量消費・大量廃棄という資源・エネルギー使用の増加やライフサイクルの短命化による環境負荷の増大が指摘されています。

このことから、衣類の生産から着用、廃棄までの環境負荷を考慮したサステナブルファッションへの取り組みが拡がっています。環境省では2020年度から「ファッションと環境に関する調査」を実施してこの取り組みを推進しています。

出典:環境省「サステナブルファッション」

ファッション産業の生産や消費についての現状

現在日本で販売されている衣料品の約98%が海外からの輸入となっており、原材料の調達から製造の段階で排出される環境負荷の量は年間でCO2排出量が約90,000kt、水の消費量が約83億m3、端材排出量が45,000tです。

また、1人あたりの年間消費は購入枚数が約18枚なのに対して着用されない服が35着となっています。これは生産コストを下げるために大量生産・大量消費・大量廃棄が行われていることを意味します。

さらに廃棄される衣料品のうち、リサイクル・リユースされるものは34%でその他の66%は焼却・埋め立て処分されています。

出典:環境省「サステナブルファッション」

企業のサステナブルファッションへの取り組み

企業では「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニア型から「適量生産・適量購入・循環利用」のサーキュラー型(循環型)への取り組みを始めています。

  • 生産工程で廃棄される繊維の縮小

  • 長期間の着用を可能にする色落ちしにくい染色技術

  • リサイクルを想定した再利用しやすい素材選び

  • モノマテリアル(単一素材)での商品開発

このように消費者の考えを反映させ、生産時の環境負荷の削減や、長期使用やリサイクル利用による消費量の削減などの取り組みが急速に進められています。

出典:環境省「サステナブルファッション」

4. エシカルを実践する企業事例

ファッション産業以外にもエシカル消費を推進する企業は増加しています。ここではエシカル消費を実践している企業の活動事例についてご紹介します。

日本マクドナルド株式会社

マクドナルドはハンバーガーレストランチェーンを全国に約2900店舗展開しており、従業員数約17万人、毎年の利用者は延べ13億人という大企業です。

マクドナルドではエシカル消費への取り組みとして、

  • 食品廃棄を可能な限り削減

  • 注文を受けてから調理するメイド・フォー・ユーシステム(MFYシステム)

  • 廃食油を配合飼料としてのリサイクル

を進めてきました。これにより完成品商品の廃棄は半分以下、廃食油はほぼ100%リサイクル利用が実現しています。

また、今後の取り組みとして、厳しい調達基準を設けた持続可能な原料調達を推進しています。これは「過剰漁獲の抑制」「生産者の人権保護」「児童労働の禁止」などの他、各種認証を受けた紙製容器包装類、食材、コーヒー豆、オイルの使用などにも取り組んでいます。

出典:消費者庁「マイエシカル消費 日本マクドナルド株式会社」

グリーンカルチャー株式会社

グリーンカルチャーは植物肉の開発、製造、販売を行っています。現在は13年目を迎え、独自の研究開発データを利用し「畜肉よりおいしくて健康的」な植物肉の開発・製造に取り組んでいます。

もともとベジタリアン・ヴィーガンの食べ物として認知されていた「プラントベース(植物素材の食品)」の健康価値や環境負荷軽減価値をより多くの人に伝えるため、「おいしさ・お手軽価格・健康価値」の訴求に取り組んでいます。

2023年1月には「100%植物性」「ヴィーガン対応」でありながら濃厚で豊かな味わいの「Greenデリ」シリーズを発売し、より幅広い人に向けてラインナップを充実させています。

出典:消費者庁「マイエシカル消費 グリーンカルチャー株式会社」

株式会社磐城高箸

磐城高箸は福島県いわき市の山間部の廃校となった小学校を改修し、様々な木製品の製造・販売を行っています。

利用する原料は周囲の山林から産出する間伐材のみを使用し、製造中に発生するオガ粉は畜産農家へ敷き藁として、端材などは薪ボイラーで燃焼し製品の乾燥を行っており、乾燥行程での石油系燃料の不使用など徹底した環境負荷の低減に取り組んでいます。

出典:消費者庁「マイエシカル消費 株式会社磐城高箸」

NPO法人Mブリッジエシカル推進チーム

Mブリッジは、三重県松阪市を拠点として地域活性化に取り組んでいるNPO法人です。「三重県」「エシカル」を組み合わせ「ミエシカル」を合言葉としたエシカル推進チームを2012年に発足し、「三重県の豊かな自然を後世に残し日常生活でのアクションを消費者に伝える」ことを目的としています。

県内に隠れているエシカルな商品・スポットを紹介するガイドブック「Miethical ミエシカル」を発行している他、エシカルオンライン講座、オンライン商品レビュー会、食品ロス削減を目指す商品開発などに取り組んでいます。

出典:消費者庁「マイエシカル消費 NPO法人Mブリッジエシカル推進チーム」

5. まとめ:エシカルを推進し、持続可能な社会に適応した企業経営を!

環境問題が注目される現在、エシカルという言葉の意味はまだまだ浸透しているとは言えませんが、消費者の意識は確実にエシカル消費へ移行しています。企業はこのような消費者心理を考慮し、エシカルな商品・サービスの開発・製造・販売が必要となるでしょう。

これは、持続可能な環境への配慮の他、企業価値の向上や開発力の強化、コスト削減など今後の企業としての成長に大きなメリットも生まれてきます。今回ご紹介した企業の取り組みを参考に、自社でもエシカルについてどのようなことができるのか検討してみてはいかがでしょうか。

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