世界各国における水素戦略の内容とは?あらゆる分野での水素の活用

脱炭素社会の実現を目指す中で、水素技術の進化とその活用が急速に進行しています。特に、世界各国の水素戦略には多くの注目が集まっており、その背景には水素の持つ多大な潜在能力があります。

この記事では、そうした水素の利用動向を中心に、各国の水素活用に関する最新の動向を詳しく解説していきます。さらに、最近発表されたオマーンとシンガポールの国家水素戦略についても触れていきたいと思います。これらの国々がどのような方針を採って、水素エネルギーの普及を進めているのか、その詳細についても深く掘り下げていきます。

目次

  1. 水素戦略の概要

  2. 各国の水素活用に関する動向

  3. オマーンとシンガポールにおける国家水素戦略

  4. 日本の水素戦略

  5. まとめ:日本の水素戦略にも注目してみよう!

1. 水素戦略の概要

水素戦略の概要と水素の種類について解説しています。

(1)水素戦略と水素エネルギーとは?

使用しても二酸化炭素を排出しない次世代のエネルギーとして水素が期待されています。その水素を自動車の動力源や発電のエネルギー源として、あらゆる分野で利用する社会が「水素社会」です。各国は水素社会の実現に向けて様々な目標(水素戦略)を掲げています。

水素エネルギーの特徴

水素は、酸素と結びつけることで発電や燃焼させて熱エネルギーとして利用することができる上、CO2を排出しない物質であるため、注目を集めています。水素は環境にやさしく、輸入の依存度が高い化石燃料に比べエネルギー安全保障にも役立ちます。日本は多くのエネルギーを海外から輸入しているため、水素を利用することでエネルギーの多角化や自給率の向上が期待されます。

燃料電池自動車や燃料電池バス、家庭用燃料電池「エネファーム」など、さまざまな分野での利用が進められています。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?』(2021/10/12)

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『水素エネルギー」は何がどのようにすごいのか?』(2018/1/23)

(2)水素にも種類がある?

水素は多様な資源からつくることができるという特徴があります。

その中で、化石燃料から生成される水素を「グレー水素」と呼び、化石燃料から生成される過程で発生する二酸化炭素を回収したり、利用したりして二酸化炭素の排出を削減した水素を「ブルー水素」と呼びます。

また、最近注目を集めているのが再生可能エネルギーなどを使うことで、製造工程において二酸化炭素を排出せずにつくられた「グリーン水素」です。

グリーン水素は水の電気分解を通して製造することができます。

出典:経済産業省 資源エネルギー庁『次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?』(2021/10/12)

2. 各国の水素活用に関する動向

水素の利用に特に積極的なアメリカ、中国、ドイツ、フランスの4か国における水素戦略について解説しています。

(1)アメリカの動向

アメリカでは新車販売の一定数を、排出ガスが発生しないゼロエミッション車とする規制の下、カリフォルニア州を中心に、燃料電池自動車の導入が進んでいます。2024年からは商用車においてもゼロエミッション車の規制適用が開始される予定です。

ユタ州ではグリーン水素を活用した大型水素発電プロジェクトを計画しており、2045年までにグリーン水素のみでの運転を目指しています。

また、ロサンゼルス港ではゼロエミッション化に向けて、大型輸送船での水素利用も検討されています。

これを受けて政府は、2022年2月に地域クリーン水素ハブや、クリーン水電解プログラムなどに総額約100億ドルを拠出することを発表しました。

出典:経済産業省『水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について』p7

(2)中国の動向

中国ではEV車両における取り組みが活発的で、商用車を中心に燃料電池自動車がおよそ9000台導入されており、水素ステーションの数も2022年時点で約180箇所と世界最大の数を誇っています。

さらに、燃料電池自動車などの技術開発や普及状況に応じて奨励金を与える政策も進行中です。

出典:経済産業省『水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について』p7

(3)フランスの動向

フランスは2020年9月に国家水素戦略を改定し、2030年までに電解装置による水素製造能力を6.5GWに引き上げる方針です。水素の生産にかかる電力は再生可能エネルギーや原子力発電で賄う予定で、水素の活用先としては燃料電池トラックの普及などを優先的に実施する意向を示しています。

出典:経済産業省『水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について』p7

(4)ドイツの動向

ドイツは2020年6月に国家水素戦略を策定し、国内の再生可能エネルギーによる水素製造能力を2030年までに5GWにするなどの目標を設定しました。

また、水素利用技術の開発に対して補助金を支給する意向であり、水素技術の市場創出に70億ユーロ(およそ1兆1000億円)、国際パートナーシップ構築に20億ユーロ(およそ3000億円)を助成する方針です。

出典:経済産業省『水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について』p7

3. オマーンとシンガポールにおける国家水素戦略

最近、国家水素戦略を発表したオマーンとシンガポールの、具体的な戦略の内容について解説しています。

(1)オマーンの国家水素戦略

オマーンの国家水素戦略とは

オマーンは2022年10月に2050年カーボンニュートラル目標を宣言するとともにグリーン水素戦略を公表しました。

このグリーン水素戦略では、およそ1400億ドル(およそ20兆円)のグリーン水素事業への投資によって、2030年までにグリーン水素を100〜125万トン生産するという目標が表明されました。その後2040年には325〜375万トン、2050年には750〜850万トンとグリーン水素の生産量を増加させる方針です。

グリーン水素事業では、鉄鉱業・石油化学工業に対して脱炭素化の機会を提供する意向です。鉄鋼業や石油化学工業といった重化学工業は化石燃料を原材料として利用しており、脱炭素化が困難な産業分野でした。

そこで注目されたのが水素の活用です。例えば鉄鋼業では鉄鉱石の還元を石炭コークスでなく水素を用いて行うことで、二酸化炭素の排出を削減することが期待できます。

国家水素戦略の背景

オマーンがグリーン水素事業を進める背景には、石油や天然ガスなどの化石燃料から脱却しなければならない事情があります。オマーンの国家収入は石油・ガス収入が一貫して70%程度以上を占めていますが、他のアラブ諸国と比べて収入が低く、今後の採取できる年数も短いと見込まれています。

オマーン政府はその事実を受け、早い段階でグリーン水素事業に舵を切りました。

COP27を通して、このオマーンの水素戦略は世界から注目されています。

出典:エネルギー・金属鉱物資源機構『「グリーン水素ハブ」を目指すエジプト・オマーン―背景・事業動向・開発ビジョン―』(2022/12/28)

(2)シンガポールの国家水素戦略

シンガポールの国家水素戦略

シンガポールは2020年10月に、水素を主力電源に転換することを柱とする国家水素戦略を打ち出しました。2050年までのカーボンニュートラル達成を目指している中での発表であり、技術革新が進めば2050年までに電力需要の最大半分を水素で賄えると表明しています。

また、新設や更新をする火力発電所について、燃料の30%以上まで水素を混ぜて焼却できる設備を義務付ける規制案を提示し、いずれは水素への全面切り替えを求める方針です。

国家水素戦略の背景

シンガポールが水素戦略に乗り出す背景には、天然ガスへの過度な依存があります。

シンガポールはエネルギーの大半を輸入に頼ることから電力供給におけるリスクが大きく、最近は市況変動の影響が直撃したため、電気料金が2021年初めから1年半でおよそ45%も上昇しました。

出典:日本経済新聞『シンガポールが水素発電にカジ 2050年5割、企業呼ぶ』

4. 日本の水素戦略

政府は次世代の脱炭素燃料としての水素の供給を増やすための新しい基本戦略を策定しました。この戦略では、今後15年間で官民合わせて15兆円の投資を行い、水素の供給網、すなわちサプライチェーンを整備することが予定されています。

さらに、2040年までには水素の供給量を現状の6倍の約1200万トンに増やすことを目標としています。この「水素基本戦略」の改定は、2017年に初めて策定されて以来のもので、政府は再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議を通じてこれを了承しました。この情報は日本経済新聞の記事に基づいており、政府の水素に関する取り組みの強化が伺えます。

出典:日本経済新聞『水素供給量、40年までに6倍に 政府が基本戦略改定』(2023/6/6)

5. まとめ:日本の水素戦略にも注目してみよう!

この記事で述べたように、世界各国で脱炭素社会に向けた水素戦略が実施されています。さらに、上述に記載したように、日本でも水素発電による再生エネルギーの利用、水素を利用した燃料電池自動車の開発など、水素の有効利用に向けてあらゆる分野で研究が進められ、導入が推進されています。

今後、日本が水素に関してどのような取り組みを行っていくのかということに注目してみましょう。

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