人的資本とは?企業の取り組み事例も紹介

企業が事業活動を行う上で最重要となる人的資本とはなにか、分かりやすく解説します!ESG投資などの広がりによって、企業の人的資本に注目が集まっています。従業員の能力や育成状況は、簡単には可視化できないことから、企業としてしっかりした対応が求められる時代です。

人的資本について十分な検討や体制整備が行われていない企業は、持続的に発展していくことが難しいと言えるでしょう。人的資本経営やその事例についてもご紹介します。

目次

  1. 人的資本とは

  2. 人的資本に関する取り組みのポイント

  3. 日本の人的資本投資における課題

  4. 人的資本経営の事例

  5. まとめ:人的資本について理解し、人的資本経営へ取り組もう!

1. 人的資本とは

人的資本はESG経営を行う上で、企業が必ず押さえておく必要がある要素です。企業の持続的な成長には、今や欠かせない視点とも言えるでしょう。まずは人的資本とは何かについて、基本的な考え方を押さえておきましょう。

投資によって価値が増す人的資本

「人的資本」とは、企業において人材を「資本」として捉えようという考え方です。人材は使えばなくなる「資源」ではなく、適切な環境を整備・提供することによって、その価値が増していく「資本」であると考えられます。よって企業が持続的に成長していくためには、「人的資本」へ投資しその価値を高めていかなければなりません。

出典:経済産業省「人的資本経営コンソーシアム好事例集」p3-5

経済産業省が推進する「人的資本経営」

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を、人的資本経営と言います。企業が持続的に企業価値を高めていくためには、経営戦略と連携した人材戦略が重要となります。そのため、経済産業省では人的資本経営を推進しています。

出典:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」

2. 人的資本可視化に関する取り組みのポイント

ESGの観点から、人的資本の可視化は重要な取り組みです。人的資本の可視化には、経営戦略との連携やPDCA的な取り組みが求められます。人的資本可視化のポイントを解説します。

明確な認識やビジョン

人的資本を可視化する前提として、人的資本への投資についての明確な認識やビジョンが必要です。人的資本の可視化には以下のようなプロセスが求められます。

1.経営戦略の明確化

2.経営戦略に合致する人材像の特定

3.そうした人材を獲得し育成する方策の実施

4.成果をモニタリングする指標や目標の設定

こうした人材戦略が、取締役会など経営層レベルで議論・コミットされ、かつ従業員の共感を得て社内に浸透しているかが、企業にとっても投資家にとっても重要となります。

出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P2

循環的な取組

「人材戦略に関する経営層の議論とコミットメント」および「従業員との対話」に加え、「投資家からのフィードバック」によって人材戦略や人的資本への投資を更にブラッシュアップするという、循環的な取組の一環として人的資本の可視化に取り組むことが重要です。単に人的資本に関連する非財務情報を可視化しただけでは、人的資本可視化の本来の目的である競争力強化や企業価値向上にはつながりません。

人的資本の可視化に関する循環的な取り組み

出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.2

3. 日本の人的資本投資における課題

人的資本への注目が集まる一方で、国内では人的資本投資に関する課題も指摘されています。課題は企業側・労働者側双方に見られるものです。日本の人的資本投資における課題について見てみましょう。

企業の育成投資が低い

企業側の人的資本投資に関する課題は、労働者に対する育成投資が低い点です。先進各国のGDPに占める人材育成投資の比率は、2001年以降1.41~1.84%であるのに対し、日本の比率は0.23%と低い水準にとどまっています。

GDPに占める人材育成投資比率の国際比較

出典:経済産業省「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」(2017/3)P.29

日本では、人的資本への投資の「企業間競争における優位につながる」という効果がまだ十分理解されていない可能性があります。現代は転職機会の増加など人材の流動性が高まりつつあるため、今後は人的資本投資について積極的に開示し、企業間で育成投資競争が起きるような環境になることも考えられます。

出典:経済産業省「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」(2017/3)p2,27

労働者の自己研鑽投資が低い

労働者側の人的資本投資に関する課題は、社外での自己の成長を目的とした活動への投資が低い点です。パーソル総合研究所がアジア太平洋地域の14か国・地域を対象に行った意識調査では、社外での自主的な学習や自己啓発活動について、「とくに何もおこなっていない」と回答した人の割合が日本では50%近くであり、アジア圏の他の国と比べ非常に高くなっています。

自己の成長を目的として行っている学習や自己啓発活動 各国比較

出典:厚生労働省「人的資本投資を増やすために」(2023/4/7)P.2

このような日本人の自己研鑽意欲が低い背景としては、「やりたい仕事ができていない」「キャリア志望を立てにくい」といった理由が考えられます。

出典:厚生労働省「人的資本投資を増やすために」(2023/4/7)P2,14-18

出典:パーソル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」

4. 人的資本経営の事例

人的資本経営によって、ダイバーシティの推進や多様な働き方への変革、柔軟な人事制度などを実現している企業が出てきています。実際に人的資本経営を行っている企業の事例をご紹介します。

アステラス製薬

アステラス製薬株式会社では、全社を通して組織健全性に関する目標を設定し、人事データの分析・経営陣への提示や、事業リーダーの開発支援を通じて、人事が「経営層や事業部門と共に戦略を実現する」体制へ着実に移行しています。

特に人事に関するデータをダッシュボードにまとめ、経営層の意思決定や課題解決に活用したり、分析をより高度化させるため、ピープルアナリティクスのスキルを持つ社員を増やしたりするなど、「データドリブン(データに基づいて判断や意思決定をする仕事の進め方)なHR(human resorces、人事または人事部門)を目指しています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P10-13

荏原製作所

株式会社荏原製作所では、外部研究機関との共同研究や学術分野からの専門家の招聘、退職者とのネットワーク形成など、社外人材の専門性を事業運営に活かし、知・経験のダイバーシティを向上させています。

また中期経営計画では、「グローバルでの持続的成長を実現するための基盤整備」「競争し挑戦する企業風土への変革」に向けた施策を掲げ、役割等級制度や評価制度のグローバル化に向けた範囲拡大割合や、海外事業所のグローバルキーポジション現地社員比率の向上など、各施策の目標をKPI(業績評価指標)として設定し、過去の成果と共に開示しています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P18-21

花王

花王株式会社ではKPIに基づいた目標管理・評価制度を改め、「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」として独自制度であるOKR(Objectives & Key Results)を導入しました。

OKRではまず社員一人ひとりが目指す中長期的な理想の姿を描き、そこからバックキャスティング(望ましい将来像から現時点の目標を定めること)した目標を設定することとしています。これは、主体的に掲げる大きな目標への挑戦を通じて社員一人一人が成長し、結果的に会社全体の成長や社会に貢献することを企図しています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P26-29

サイバーエージェント

株式会社サイバーエージェントでは、成長事業分野の社長ポジションへの若手社員の登用や、抜擢された若手社員の経営チーム参加、社外人材も活用した組織的リスキル(再教育)で、継続的な事業拡大(メディア・ゲーム・テレビ)を実現しています。

また社内転職制度を設け、各事業・部門の仕事内容を社内に発信することで、社員の希望による異動を促しており、エンゲージメント(組織への愛着)が高まる社内異動も行っています。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P38-41

5. まとめ:人的資本について理解し、人的資本経営へ取り組もう!

人的資本とは、社員個人の能力や資質を企業の資本であると考えた概念です。ESG経営の広がりとともに、非財務情報として人的資本の可視化が重要なテーマになっています。人的資本の可視化には、経営戦略との連携などが欠かせません。一方で日本ではまだ人的資本投資が十分ではない場合も多く見られます。

経済産業省が推進する「人的資本経営」では、さまざまな企業が革新的な取り組みを進めています。人的資本について理解し、人的資本の可視化によって人材戦略や人的資本への投資を常にブラッシュアップしながら、企業の持続的成長に資する人的資本経営へ取り組みましょう。

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