クリティカルミネラルとは?企業におけるクリティカルミネラルの重要性を解説

クリティカルミネラルとは、今、脱炭素経営の実現に期待され注目されている資源です。しかし、期待の裏では懸念があることも事実であり、どのように活用していくかが課題となります。

ここでは、企業経営にも大きく関係してくるクリティカルミネラルの基礎知識や、脱炭素経営との関係性、活用することで懸念される課題などを企業のクリティカルミネラル導入の取り組み事例と共にご紹介します。

目次

  1. クリティカルミネラルとは何か?

  2. クリティカルミネラルが注目されたきっかけ

  3. 今、クリティカルミネラルの影響が懸念される背景とは

  4. クリティカルミネラルと脱炭素経営との関係

  5. クリティカルミネラルにおける企業の取り組み事例

  6. まとめ:クリティカルミネラルを理解して、次世代の脱炭素経営企業を目指そう!

1. クリティカルミネラルとは何か?

クリティカルミネラルとひと言で表しても、その種類は実にさまざまです。ここでは、クリティカルミネラルの基礎知識をご紹介します。

クリティカルミネラルとは

クリティカルミネラルとは、「重要鉱物」のことで、人間にとって役に立つ鉱物資源を指します。その代表とも言えるのが「レアメタル」であり、レアメタルは今や産業を支える重要な役割を果たしています。

また、使い古した家電やスマートフォンにも鉱物資源が含まれており、これらを「都市鉱山」などと呼んでいます。世界は、カーボンニュートラル実現を目指し再生可能エネルギー拡大に力を注いでおり、クリティカルミネラルは、カーボンニュートラル実現に不可欠な資源となります。

出典:日本貿易振興機構『AZEC閣僚会合を踏まえて(2)重要鉱物の生産拡大と持続可能性との両立 | 地域・分析レポート』(2023/08/03)

出典:資源エネルギー庁『世界の産業を支える鉱物資源について知ろう』(2018/03/22)

クリティカルミネラルの種類

クリティカルミネラルにはさまざまな種類があり、俗にいうレアメタルとは、生産量が少ない、採掘が難しいなど希少な鉱物資源のことを指します。レアメタルには、チタンやニッケル、コバルト、グラファイト、マンガンなどが含まれ、太陽光発電や風力発電の設備、EV(電気自動車)などの蓄電池などに活用されます。

また、レアメタルの中の17元素はレアアースと呼ばれ、風力発電機器の強力な永久磁石やEVの製造に使われています。その他に、生産量・埋蔵量が多く精錬しやすい鉄、銅、アルミ(=ベースメタル)や、貴金属の金や銀などもクリティカルミネラルの仲間となります。

日本では、領海・排他的経済水域(EEZ)にクリティカルミネラルが存在していると言われており、その中には、コバルト、ニッケル、銅、白金、マンガンなどを含み、海底の岩石を覆うマンガン酸化物「コバルトリッチクラスト」や、海底下で粘土状に堆積したレアアース泥(重希土を含む)」などがあり、新たな供給源として期待されています。

海洋鉱物資源の4つのフィールド

海底熱水鉱床②コバルトリッチクラスト③マンガン団塊④レアアース泥

出典:資源エネルギー庁『世界の産業を支える鉱物資源について知ろう』(2018/03/22)

出典:経済産業省『重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針 』p,3.(2023/01/19) 

出典:日本貿易振興機構『AZEC閣僚会合を踏まえて(2)重要鉱物の生産拡大と持続可能性との両立 | 地域・分析レポート』(2023/08/03)

2. クリティカルミネラルが注目されたきっかけ

2050年までのカーボンニュートラルに向け、CO2排出量を削減するには、再生可能エネルギーへの転換が必要です。そして、天候などに左右される再生可能エネルギー由来の電力を安定的に供給するためには、蓄電池及びその原料であるクリティカルミネラルが欠かせません。

また、クリティカルミネラルは蓄電池の他、モーター等の製造にも不可欠であり、多目的EV自動運転車などの高性能機能技術や、家庭用EVや航空機の省エネ化などにも必要なものとなります。クリティカルミネラルは、カーボンニュートラル実現のためには欠かせない資源であり、今後ますます需要が拡大すると見られます。

出典:内閣官房『2022年11月』p,11.p,15.(2022/11/17)

出典:資源エネルギー庁『EV普及のカギをにぎるレアメタル』(2018/04/20)

3. 今、クリティカルミネラルの影響が懸念される背景とは

カーボンニュートラル実現に、重要な役割を担っているクリティカルミネラルですが、急速な需要増大による懸念もあります。ここでは、クリティカルミネラルの影響が懸念される背景をご紹介します。

クリティカルミネラルの需要増大による資源枯渇の懸念

まず、クリティカルミネラルで懸念されているのが、需要増大による資源の枯渇です。特に、金・銀の貴金属や鉄・鉛などのベースメタルは、2050年までの累積需要量が実際の埋蔵量に比べて約2倍と、大幅にオーバーしている状況です。

EVの需要は2022年には1.6倍に増加し、販売台数が1000万台を突破しています。太陽光発電や風力発電の設備も急速に拡大し、2017年から2022年の間で、エネルギー部門におけるリチウムの需要が3倍、ニッケルは1.4倍、コバルトは1.7倍と急増しています。

今後さらに需要が増大していくだろうこれらのクリティカルミネラルは、このまま同じようなペースで使い続けると、将来は資源が枯渇してしまうと予想されています。

出典:経済産業省『成長志向型の資源自律経済戦略』p,8.(2023/03/31)

出典:国際エネルギー機関(IEA)『主な市場動向』(2023/7/10)

日本のクリティカルミネラルの自給率

もうひとつの懸念は、日本のクリティカルミネラルの自給率の低さです。

日本は、クリティカルミネラルの埋蔵量が少ない上に、環境問題などから生産コストが見合わないといった理由で、日本で使用するクリティカルミネラルのほとんどを海外から輸入しています。

クリティカルミネラルの産出国には偏りがあり、その産出国には中南米やアフリカなど政治的リスクがある国も含まれているため、日本は世界情勢によるクリティカルミネラル供給ストップなどの可能性が常に懸念されています。

輸入に頼る鉱物資源

出典:資源エネルギー庁『世界の産業を支える鉱物資源について知ろう』(2018/03/22)

出典:経済産業省『循環経済ビジョン 2020』p,14.(2020/5/22)

4. クリティカルミネラルと脱炭素経営との関係

2050年カーボンニュートラル宣言実現のためには、企業の脱炭素経営が不可欠となります。クリティカルミネラルは、脱炭素経営に大きな効果があり、積極的な導入が望まれます。ここでは、クリティカルミネラルと脱炭素経営の関係性をご紹介します。

脱炭素経営とは?

脱炭素経営とは、気候変動対策を取り入れた企業経営のことで、気候変動対策とは主にCO2排出量削減に向けた取り組みのことを指します。

気候変動対策は世界規模で課題となっており、近年では気候変動対策は企業経営においても重要課題であると捉えられるようになったために、企業全体で脱炭素経営に取り組む企業が増えています。

出典:環境省『脱炭素経営とは - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 』(2023/03/21)

クリティカルミネラルの用途

クリティカルミネラルの用途は、それぞれ種類によって異なります。例えば、レアアースは、「高性能モーター用レアアース磁石」「コンデンサー・センサー等の電子製品」「金属合金」などに使用されます。

また、リチウム、ニッケル、コバルト、グラファイト、マンガンなどは、「蓄電池」「自動車や船舶等向けの構造用合金鋼」「ハードディスクドライブ等の原材料」「耐熱ガラス用添加剤」などに使用されます。使用用途にそれぞれ違いがあっても、カーボンニュートラル実現に不可欠な資源という共通点があります。

出典:経済産業省『重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針 』p,4.(2023/01/19) 

クリティカルミネラルにおける脱炭素経営への影響

自社においてクリティカルミネラルの導入が直接関係しなくても、間接的に影響を受ける可能性があります。例えば、脱炭素経営によるEVの導入がそのひとつです。

EVの製造には、蓄電池に用いられるリチウムやモーターに用いられるレアアースなど、さまざまなクリティカルミネラルが関与しています。また、脱炭素経営に欠かせない省エネ家電の導入やAIの普及なども、最先端技術を用いるためにクリティカルミネラルと大きく関係しています。

クリティカルミネラルの需要が拡大することで、クリティカルミネラルの価値が上昇し市場価格も高騰する懸念もあり、企業の脱炭素経営にも大きな影響があると言えます。

出典:経済産業省『重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針 』p,4.p,5.(2023/01/19)

5. クリティカルミネラルにおける企業の取り組み事例

最後に、クリティカルミネラルにおける事業の取り組み事例をご紹介します。

 Tesla, Inc.(テスラ)

自動車メーカーの「 Tesla, Inc.(以下テスラ社)」は、2030年時点でのEV製造によるニッケル需要量が、2019年度の全世界生産量の30%を超えるとして、2020年に鉱業各社にニッケルの生産拡大を求めました。

またテスラ社は、EVの蓄電池に用いられるリチウムに関して、北米でのリチウムイオン電池正極材工場建設計画と、米ネバダ州のリチウム床の権益確保を発表しました。

また、米探鉱ジュニアと最大10年間のリチウム鉱石調達契約を締結し、米ノースカロライナ州の鉱床から、年間生産量の約1/3の、約5万tのリシア鉱石(リチウムとアルミニウムを含む鉱石)精鉱供給を受けるとされています。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』p,18.(2021/3/10)

積水化学工業株式会社

大手樹脂加工メーカーの「積水化学工業株式会社」は、グリーンイノベーション基金のもと、30cm幅のロール・ツー・ロール製造プロセス(ロールに巻いた基盤に回路を印刷し、再度ロールに巻きとる製造方法)を構築し、耐久性10年相当、発電効率15%のペロブスカイト太陽電池の製造に成功しました。

ペロブスカイト太陽電池は、柔軟性と軽さを持ち合わせており、設置が柔軟に行える、社会で取り入れやすい次世代電池として期待されていますが、その原料にはクリティカルミネラルではないヨウ素が使用されています。

日本のヨウ素の生産量は世界で第2位であるために、クリティカルミネラルに代わる、自国で供給できる資源を原料として、CO2排出量削減に貢献できる次世代電池である、ペロブスカイト太陽電池の製造を行えると期待されています。

出典:経済産業省『今後の産業技術環境政策について』p,63.(2023/08/02)

6. まとめ:クリティカルミネラルを理解して、次世代の脱炭素経営企業を目指そう!

クリティカルミネラルの基礎知識や脱炭素との関係をご紹介しました。クリティカルミネラルは、カーボンニュートラル実現に不可欠な資源であると共に、その需要が急速に拡大しています。

しかし、クリティカルミネラルは有限な資源であることから将来は枯渇する懸念もあります。企業における待ったなしの脱炭素経営に、クリティカルミネラルの需要は今後も大きく影響してきます。クリティカルミネラルの重要性を理解して、幅広い視野を持った脱炭素経営を目指しましょう。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説