廃棄物焼却で発生するNOxとSOxとは?影響と削減対策について解説

この記事ではNOxとSOxとは何か、環境にどのような影響を与える可能性があるのか、またどのような排出削減対策が行われているのかについて詳しく解説します。

現在世界で廃棄物の焼却時に発生する大気汚染物質が問題となっています。特に「NOx」や「SOx」という元素記号の物質について耳にすることが多いのではないでしょうか。

温室効果ガスの排出による気候変動や大気汚染への取組みは、企業にとっても大きな課題の一つと言えます。今後の経営課題としてしっかり理解しておきましょう。

目次

  1. 廃棄物焼却施設から発生するNOx・SOxとは

  2. NOxとSOxが環境に与える影響とは

  3. NOx・SOxの削減に向けた焼却廃棄物の削減対策

  4. まとめ:廃棄物の排出を抑え大気汚染の原因となるNOx・SOxの発生を防ごう!

1. 廃棄物焼却施設から発生するNOx・SOxとは

廃棄物の焼却によって発生するNOx、SOxという物質は、人体に悪影響を与えると言われ、排出については環境基準が設けられています。

ここではNOx、SOxがどのような物質であるか、また国による排出規制の基準について解説します。

NOxとは

NOxとは「窒素酸化物」のことで、物が高温で燃えた時に空気中の窒素(N)と酸素(O2)が結合することにより発生する、一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2)などを指します。NにOがいくつか(x個)結びつくものの総称であるために、NOxと表します。

特に二酸化窒素(NO2)は高濃度になると、喉や気管、  肺などの人の呼吸器に悪影響を与えます。また、窒素酸化物は光化学スモッグや酸性雨の原因でもあります。

窒素酸化物は物の焼却から排出されるため、工場や火力発電所など様々な場所から発生しますが、都市部では自動車からの排出が全体の半分を占めています。工場などは施設の種類ごとに排出基準が設けられ、特定地域では総量規制も行われています。

※「総量規制」とは排出される汚染物質の総量を規制すること

出典:環境再生保全機構「排出物質:窒素酸化物」

SOxとは

SOxとは「硫黄酸化物」のことで、石油や石炭などの硫黄分が含まれる化石燃料が燃焼する際に発生する二酸化硫黄(SO2)などを指します。S(硫黄)にO(酸素)がいくつか(x個)結びつくものの総称であるために、SOxと表します。

日本の昭和30年から40年代の高度経済成長時代で急激に濃度が上昇したことで、様々な規制や対策が取られ現在の硫黄酸化物の濃度は減少していますが、まだ排出自体は行われています。

硫黄酸化物の排出を減らす技術としては、燃料に含まれる硫黄分を焼却前に取り除く「燃料脱硫」や、燃焼後に燃焼ガスから硫黄酸化物を取り除く「排煙脱硫」などがあります。

出典:環境再生保全機構「排出物質:硫黄酸化物」

国による排出規制の概要

NOxやSOxはその他の大気汚染物質と合わせ、排出には規制がかけられています。

物質名

主な発生源

規制値の概要

窒素酸化物(NOx)

ボイラーや廃棄物焼却炉での燃焼、合成、分解など

(1)施設・規模ごとで60〜950ppm。

(2)総量削減計画に基づき、地域・工場ごとに総量規制を設定します。

硫黄酸化物(SOx)

ボイラーや廃棄物焼却炉での燃料の焼却や鉱石の燃焼

(1)排出口の高さ(He)及び地域ごとに定める定数Kの値に応じて規制値を設定します。

(許容排出量=K×10​​​​^-3 × He^2

(2)燃料中の硫黄分を地域ごとに設定し、それに応じて季節による燃料使用基準を定めます。

(硫黄含有率0.5〜1.2%以下)

(3)総量削減計画に基づき、地域・工場ごとに総量規制を設定します。

都道府県は条例で、この基準より厳しい上乗せ基準を設定することができるので、地域によって規定値は変わってきます。

出典:環境省「工場及び事業場から排出される大気汚染物質に対する規制方式とその概要」

2. NOxとSOxが環境に与える影響とは

NOx、SOxは環境に悪影響をもたらす物質と言われていますが、実際にはどのような影響が生まれるのでしょうか。

ここではNOx、SOxが環境に与える影響や、現在の排出状況について解説します。

光化学オキシダントや酸性雨の原因に

焼却廃棄物から出る窒素酸化物(NOx)や炭化水素(HC)は、太陽からの紫外線により光化学反応を起こし「光化学オキシダント(Ox)」と呼ばれる物質を生成します。光化学オキシダントは光化学スモッグの原因となります。光化学スモッグが発生すると「目がチカチカする」「喉が痛む」「頭痛」などの症状が現れます。

また、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)は大気中で強い酸(硫酸・硝酸)に変化することもあり、これが酸性雨の原因にもなっています。酸性雨は地表の水や土壌の性質を変化させ、森林の衰退や魚類の減少などの自然環境への影響の他、コンクリートの溶解や金属の腐食など、様々な悪影響が起こります。

出典:環境省「大気汚染でどんな害が起こる?」

出典:環境省「揮発性有機化合物について」(p2)

出典:環境省「酸性雨 環境白書」

NOx・SOx排出量の算出方法

NOx、SOxの排出量は、燃料の使用量や成分の割合、焼却施設の稼働時間などから算出されます。算出方法については以下のような計算式で行われます。

窒素酸化物(NOx)の排出量

  • =NOx濃度(ppm)×10^-6 ×乾き排出ガス(水分を除いたガス)量(Nm^3/h)×施設の年間稼働時間(h)×46/22.4×10

  • =時間当たりのNOxの量(Nm^3/h)×施設の年間稼働時間(h)×46/22.4×10

硫黄酸化物(SOx)の排出量

  • =燃料使用量(L)×燃料の密度(g/㎝^3)×燃料中の硫黄分の成分割合(重量%)/100×(1-脱硫効率(%)/100)×64/32×10^-3

  • =燃料使用量(kg)×燃料中の硫黄分の成分割合(重量%)×(1-脱硫効率(%)/100)×64/32×10^-3

  • =燃料使用量(Nm3)×燃料中の硫黄分の成分割合(容量%)×(1-脱硫効率(%)/100)×64/22.4×10^-3

日本では大気汚染防止法やダイオキシン類対策特別措置法により報告が定められており、使用した排出係数の情報源や基準、方法、計算方法などを明示する必要があります。

出典:環境省「汚染予防」(p10〜p11)

世界各国のNOx・SOx排出量の推移

世界での排出量を見ると、NOx、SOxのいずれも最大排出国はアメリカです。先進国の排出は減少傾向にありますが、増加している国も見受けられます。

日本は2005年時点ではSOxが世界8位、NOxが世界4位となっています。

出典:環境省「統計から見る環境問題と経済社会」

出典:環境省「統計から見る環境問題と経済社会」

3. NOx・SOx削減に向けた焼却廃棄物の削減対策

NOx、SOxの排出削減が必要であることは間違いないことで、日本でも様々な削減対策が行われています。特に焼却物(ゴミ)の排出を抑制することが重要となります。

ここでは日本でのゴミの排出について、現状やこれから行っていくべき施策について解説します。

ゴミの排出及び処理の現状

環境省は2023年3月に2021年度の全国一般廃棄物の排出及び処理状況の調査結果を公表しています。

ゴミ総排出量

4,095万トン

前年4,167万トン(1.7%減)

1人1日当たりの排出量

890グラム

前年901グラム(1.2%減)

最終処分量

342万トン

前年364万トン(5.9%減)

減量処理率

99.1%

前年99.1%

直接埋立率

0.9%

前年0.9%

総資源化量

816万トン

前年833万トン(2.0%減)

リサイクル率

19.9%

前年20.0%

出典:環境省「一般廃棄物の排出及び勝利状況等(令和3年度)について」(2023/3/30)

日本全国でのゴミの総排出量である4,095万トンは、東京ドーム約110杯分にあたります。1人1日当たりの排出量や最終処分量など、全ての項目について前年度より削減されていますが、ゴミの排出量は他の国と比較すると依然として多い状況ですので、更なる削減が必要と言えるでしょう。またリサイクル率は前年度と変わらず、20%前後と低いために、資源の有効活用が十分になされているとは言えません。

ゴミの排出を抑制するための施策とは

ゴミの排出削減は大気汚染の抑制につながり、地球温暖化に影響のある温室効果ガスの排出削減にもなります。環境省では、焼却廃棄物の削減に向け、3R+Renewableを呼びかけ、ゴミの排出削減に取り組んでいます。

※3R+Renewableとは、「Reduce(リデュース:発生を減らす)」「Reuse(リユース:繰り返し使う)」「Recycle(リサイクル:資源として再利用)」の3つに「Renewable(リニューアブル:再生可能な資源に替える)」を足したもの。

3R+Renewableのイメージ案

出典:環境省「廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ」(2021/8/5)(p16)

4. まとめ:廃棄物の排出を抑え大気汚染の原因となるNOx・SOxの発生を防ごう!

廃棄物の焼却は様々な大気汚染物質の発生が起こり、特にNOx、SOxは光化学スモッグや酸性雨の原因と言われています。政府はこの問題を重要視し、様々な取り組みを行っていますが、問題の解決には実際に製造や廃棄に携わっている生産者側からの取り組みが必要です。

企業活動に3R+Renewableの視点を取り入れ、ゴミの排出を抑えることが重要です。大気汚染の問題は世界全体で取り組む問題となり、これから持続可能な経済活動を維持する上で重要な課題と言えます。まずは意識を変えて生産活動を見直すことから始まり、それが大きな発展につながっていくのではないでしょうか。

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