ISSBとは?IFRSサステナビリティ開示基準の概要と今後の動向を詳しく解説!

ISSBとは、簡潔にはサステナビリティ開示における国際的に一貫性のある基準策定のための組織です。

このISSBがどのような組織で、IFRSが提言するサステナビリティの情報開示基準とはどのようなものなのかを詳しく解説していきます。

目次

  1. ISSBとは

  2. ISSBが公表したIFRSサステナビリティ開示基準とは

  3. ISSBが策定するIFRSサステナビリティ開示基準の今後の動向とは

  4. まとめ:ISSBの策定するIFRSサステナビリティ開示基準から情報開示システムのグローバルスタンダードを理解しよう!

1. ISSBとは

気候変動への取り組みが国際的に加速し、パリ協定の下で各国が温室効果ガスの排出削減目標を掲げる中、国際的な組織であるISBB(International Sustainable Business Bureau)が設立されました。その背景と目的について以下で詳しく説明します。

ISBB設立の背景と目的

2015年にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約締約会議(COP21)で、196ヶ国全てが参加した気候変動枠組条約となる「パリ協定」以降、地球温暖化への取り組みが世界で加速しています。

各国が温室効果ガスの排出削減目標を掲げ、日本も2050年に温室効果ガスの排出実質ゼロとする目標(カーボンニュートラル)を宣言しています。

世界の脱炭素への潮流出典:環境省「シナリオ分析の実施ステップと最新事例」(p4)

これにより企業へも脱炭素経営が求められており、投資家によるESG投資が高まりをみせ、2021年にはESG運用資産額は世界全体で121兆ドルを超えています。

※ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮し、投資対象を選別する投資方法です。

ESG運用資産額(世界全体)出典:環境省「シナリオ分析の実施ステップと最新事例」(p9)

このような状況の中、金融安定理事会(FSB)は気候変動が金融システムの安定を損なう恐れがあるとして「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」を設立し、国際的な情報開示ルールを策定しました。

IFRS財団(国際会計基準の策定を担う民間の非営利組織)はTCFDの提言を受け、サステナビリティ開示における国際的に一貫性のある基準策定のためISSB(国際サステナビリティ基準審議会)を組織し、2022年3月に基準案を発表し、2023年には最終化する見通しとなっています。

出典:環境省「シナリオ分析の実施ステップと最新事例」

ISBBの組織構成とそれぞれの役割

IFRS財団は3層のガバナンス構造により、世界中の理事(IFRS財団理事)によって管理、監督されています。

IFRSの組織体制

出典:環境省「シナリオ分析の実施ステップと最新事例」(p21)

  • IFRS財団監視委員会

監視委員会は資本市場当局のグループで、IFRS財団の公的説明責任の強化のため、管理委員会と公的当局のつなぎ役となる委員会です。

  • IFRS財団評議員

IFRS財団の評議員はIASBとISSBのガバナンス管理や、規約、基準策定の適正な手続きについての責任を負います。

  • IASB(国際会計基準審議会)

ISSBと同じく、IFRS財団の独立した会計基準設定を行う機関です。

  • ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)

企業のサステナビリティ開示の一貫性と比較可能性の向上を目的とした気候変動リスク等のESG情報開示の国際基準策定を行う機関

ISSBのメンバーはダノンの元CEOであるエマニュエル・ファーバー氏を議長とし、アジア開発銀行の元副財務局長の京東華氏とオーストラリア会計基準委員会の元委員であるスー・ロイド氏を副会長を合わせ14名で構成されています。

ISSBには日本人の理事も在籍し、アジア・オセアニアのオフィスが日本政府の誘致により東京にあることも日本企業にとっては大きな意味を持っています。

出典:IFRS「ISSB」

2. ISSBが公表したIFRSサステナビリティ開示基準とは

ISSBでは、サステナビリティに関する情報の開示基準を一般的なサステナビリティと変化の大きい気候に関する事項に分けて考えています。

ISSB基準策定の目標として、

  • サステナビリティ開示の世界的なベースラインの基準の開発

  • 投資家の情報ニーズを満たす

  • 企業が包括的な持続可能性情報を世界の資本市場に提供できる

  • 管轄区域固有の開示及び広範な利害関係者グループを対象とした開示との相互運用性の促進

を掲げ、大きく以下2つの開示基準の策定を行っています。

IFRS (S1)/一般サステナビリティ開示事項

IFRS(S1)の目的は企業がリソースの提供に関する意思決定を行う際に、汎用財務報告書の利用者に役立つサステナビリティ関連の情報開示を企業に要求することです。

S1は企業に対して、企業のキャッシュフロー、財務、短期・中期・長期での資本コストなどの開示基準の他、企業がサステナビリティ関連の財務開示をどのように作成し、報告するかを規定しています。これは開示された情報が役に立つものであるように開示と表示に関する一般的な要件を定めるものです。

主な項目としては

  • 企業がサステナビリティ関連のリスクと機会を監視、管理、監督するために使用するガバナンスのプロセスや手順。

  • サステナビリティ関連のリスクと機会を管理するための企業の戦略

  • 企業がサステナビリティ関連のリスクを特定し、評価や優先順位の決定、監視するためのプロセス

  • サステナビリティ関連のリスクと機会に関する企業のパフォーマンスや設定目標と、目標に対する進捗状況

などとなっています。

出典:自然エネルギー財団「企業の気候変動情報開示の新国際基準発表」(2023/7/3)

出典:IFRS「IFRSS1サステナビリティ関連の財務情報の開示に関する一般要件」

IFRS (S2)/気候関連開示事項

S2では企業に対し、企業のキャッシュフロー、財務、短期・中期・長期での資本コストなどに影響を与えることが予想される気候変動のリスクに関する情報の開示を要求するものです。

S2は企業の気候関連のリスク(物理的リスクや移行に関するリスクなど)に関する情報開示の要件を定め、次のような項目があげられています。

  • 企業が気候関連のリスクと機会を監視、管理、監督するために使用するガバナンスのプロセスや手順。

  • 気候関連のリスクと機会を管理するための企業戦略

  • 企業が気候関連のリスクと機会を特定し、評価や優先順位の決定、監視するためのプロセス。

  • 気候関連のリスクと機会に関する企業の実績及び、気候関連目標と進捗状況

出典:IFRS「IFRSS2気候関連の開示」

出典:自然エネルギー財団「企業の気候変動情報開示の新国際基準発表」(2023/7/3)

3. ISSBが策定するIFRSサステナビリティ開示基準の今後の動向とは

ISSBが策定したサステナビリティの開示基準はグローバルでの活用が期待されており、日本でも金融庁をはじめ各省庁がこの情報開示基準を元に様々な動きをみせています。

ここでは、このISSBのIFRSサステナビリティ開示基準が日本にどのような影響を与えているのか、日本政府の動きについて解説します。

金融庁の対応

金融庁ではIFRSが国際的なサステナビリティ基準の策定のためにISSBを設置したことについて、2021年11月に鈴木財務大臣がIFRS財団評議員会議長宛にレターを送付しています。

ここで大臣はISSBの活動を歓迎し、日本として積極的に貢献したいと伝えています。また、日本政府としてISSBに対して約1億1千万円の資金拠出を予定していることも表明しています。

出典:金融庁「国際サステナビリティ基準審議会に関するIFRS財団評議員会議長へのレター発出について」(2021/12/27)

また、2022年6月に金融審議会において、有価証券報告書への「サステナビリティ情報の記載欄の新設」が提言されています。その他、ISSBの基準に沿って、サステナビリティ開示の充実に向け様々な取り組みが進められています。

我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ

出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説」(p9)

日本でのサステナビリティ情報開示の状況

日本では2020年10月に政府として2050年でのカーボンニュートラルを目指すことが宣言され、サステナビリティに関する取り組みが企業経営において重要度が増し、それに伴いサステナビリティ情報の開示の基準策定や、活用への動きが加速しています。

公益財団法人財務会計基準機構(FASF)は、2021年12月にサステナビリティ開示に関する国際的な意見発信等を行う目的のため「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」の設置を公表しました。

SSBJには

  • 国内の開示義務や投資家の期待、意見を集約し、国際的な意見発信の中心となること

  • ISSBにおけるサステナビリティ開示基準の策定動向を踏まえつつ、日本における具体的開示内容について実務面も含めた検討を行うこと

などの役割が期待されています。

出典:金融審議会ディスクロージャーワーキンググループ報告「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」(2022/6/13)

今後の課題と対策

  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割の明確化

SSBJにはサステナビリティ開示の具体的な内容の検討成果を踏まえ、その役割を積極的に果たせるようにしていく必要性があります。

公正・透明な組織運営や独立性が確保されているか、具体的開示内容の検討に適切なデュープロセスがとられているかなどの問題が今後の課題としてあります。

  • サステナビリティ情報に対する信頼性確保

日本ではサステナビリティ情報の信頼性確保の観点から、企業が監査法人等から任意で保証を受ける動きもみられています。

これは欧州で2023年度から開始されるCSRDに基づく報告への限定的保証、アメリカでのSECによるGHG排出量の限定的保証などが行われることにつながっています。

サステナビリティ情報の保証については、保証の前提となる開示基準が国際的なものである必要があり、今後も議論が進められていくでしょう。

  • IFRS財団アジア・オセアニアオフィスのサポート

ISSBはアジア・オセアニアでの活動拠点として東京にオフィスを設置しています。地域関係者へのアウトリーチの実施、地域の課題の把握などISSBの活動に対して日本の関係者が、積極的に参画、貢献する必要があるのでしょう。

出典:金融審議会ディスクロージャーワーキンググループ報告「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」(2022/6/13)

4. まとめ:ISSBの策定するIFRSサステナビリティ開示基準から情報開示システムのグローバルスタンダードを理解しよう!

今後も気候変動に対する企業からの取り組みは、消費者の他投資家などからも注目されることになり、企業の継続にも大きな影響があります。これは実際の活動などだけでなく、これからの目標や現在の進捗などの情報開示も重要な指標になっていくでしょう。ISSBの今後の活動にも注目し、国際的なサステナビリティ開示基準について理解を深めましょう。

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