森林破壊の背景と森林保護に向けたEUの森林減少フリー規則について

森林破壊が深刻化し、それによる生態系の破壊や気候変動のさらなる悪化などの影響が危惧される中、EUでは森林保護に向けた取り組みとして、「森林減少フリー規則」を制定しました。

森林減少フリー規則とはどのようなもので、今後どんな効果が期待できるのでしょうか。EU市場に輸出入を行う際は、どのようなことに気を付けなければいけないのでしょうか。

この記事では、森林破壊の現状と原因、それにより引き起こされる影響、さらにEUの森林減少フリー規則についてわかりやすく解説しています。

目次

  1. 森林破壊の現状

  2. 森林破壊の原因と及ぼされる影響

  3. EUの森林保護に向けた取り組み(森林減少フリー規則)

  4. まとめ:森林破壊の現状を踏まえたうえで、森林保護に配慮した経営を検討しよう!

1. 森林破壊の現状

森林破壊の現状と森林が持つ役割について解説しています。

(1)森林破壊の現状とは

世界の森林面積は約40億ヘクタールで、全陸地面積の約30%を占めています。しかし、世界の森林はどんどん減少しており、毎年約330万ヘクタールが減少しています。

南アメリカやアフリカでは大幅に減少しており、特にブラジルやインドネシア、ミャンマーなど、熱帯雨林が多く分布している国では、著しく森林破壊が進行しているのが現状です。

出典:環境省『世界の森林を守るために 世界の森林の現状』

(2)森林が持つ役割とは

生物多様性の保全

森林には、多くの植物が生育しているほか、その植物をエサとしたり森や土の中などをすみかにしたりしている動物がたくさん生息しています。これらの動植物は、森林の中で複雑に食物連鎖等の関係性を築いているため、例え森林が維持されたとしても、伐採や分断が起き空間が変化すると大きな影響を受けます。このように、森林は動植物の生存には欠かせない場所です。

安定した気候の保全

樹木は光合成を通じて二酸化炭素を吸収し、酸素を放出しています。また、落ち葉等の樹木から発生する有機堆積物は、動物や微生物によってゆっくりと分解されるために、炭素をしばらくの間地表に保っておくことができ、二酸化炭素の急激な放出を防いでいます。

このように森林は、大気中の二酸化炭素の量を減少させることができ、安定した気候を保っています。

出典:環境省『世界の森林を守るために 森林の持つ大切や役割』

2. 森林破壊の原因と及ぼされる影響

森林破壊の原因と森林破壊によって及ぼされる影響について解説しています。

(1)森林破壊の原因とは

土地利用や自然災害による森林減少

人口の増加や食糧不足の影響により、森林を切り拓いて家や施設の建設、農地への開拓をすることで森林が減少しています。

また、昨今の気候変動による気温上昇の影響で、大規模な森林火災や台風が発生することが増えており、それも森林減少の原因のひとつです。

違法伐採

木材や木材製品を利用するために樹木の伐採が日々行われていますが、最近では正当な伐採をした際にかかる植林費や管理費、人件費などのコストを削減するために違法に伐採をする、違法伐採が増加しています。

違法伐採によって採取された木材の貿易額は世界で63億ドル(およそ9000億円)です。違法伐採による木材は比較的安価で取引されるため、この先違法伐採は増えると予測されており、それによる森林の減少や地域住民への影響が危惧されます。

出典:環境省『世界の森林を守るために 森林減少・劣化の原因』

(2)森林破壊によって及ぼされる影響とは

生態系への影響

森林が減少すれば、そこに生息する生物への影響は計り知れません。実際、熱帯雨林に存在する動植物は、毎日100種が消失していると言われています。

森林の減少や地球温暖化の影響により、生態系のバランスは崩れ、絶滅危惧種の数は今後さらに増加するでしょう。

気候変動の悪化

気候変動に関する政府間パネルによると、世界の温室効果ガス排出量の約10%は、森林の減少によるものとされています。今よりさらに森林が減少すれば、樹木による二酸化炭素の吸収量が減り、より温室効果ガスが増加することで、気候変動に悪影響を及ぼすでしょう。

出典:環境省『世界の森林を守るために 森林の持つ大切や役割』

出典:農林水産省『森林破壊(しんりんはかい)が進むと、地球はどんな影響(えいきょう)を受けることになるのですか。』

3. EUの森林保護に向けた取り組み(森林減少フリー規則)

EUの森林保護に向けた取り組み「森林減少フリー規則」について解説しています。

(1)森林減少フリー規則

EUは不適切な森林保護対策をしている地域から、食品や木材の輸入を事実上禁止できる制度である、森林減少フリー規則を制定しました。これはアマゾンの熱帯雨林の保護に力を入れていないブラジルなどに対処していくための規則です。

この森林減少フリー規則では、EU加盟国が他国に廃棄物を輸出することも規制しており、EU内外の両面から環境対策を行っています。

欧州委員会のティメルマンス上級副委員長は「気候変動、生物多様性の危機と戦うために森林を守る必要がある」と各国に訴えました。

出典:日本経済新聞『EU、森林破壊放置国に対抗策 農産品の輸入停止』(2021/11/18)

(2)森林減少フリー規則の具体的な内容

不適切な森林保護対策をしている地域からの輸入規制について

まずEUが森林破壊のリスクが高い国を分類します。それらの国からEUに対象品目を輸入する場合では、輸入企業は相手国の法律に基づいて生産された製品であることを証明する書類を提出しなければなりません。これはさらに輸入だけでなく、EU市場からの輸出も規制の対象としています。

この森林減少フリー規則に違反した場合は、EU内における売上高の最大4%に相当する罰金が科せられる可能性があります。

対象品目は木材や牛・牛肉、ココア、コーヒー、オイルパーム、大豆などであり、今後さらに品目を拡大していく方針です。

森林破壊のリスクの分析には、森林伐採だけでなく農地開拓による森林破壊も対象になります。欧州委員会によると、この規制によって森林破壊を防ぐことができるほか、年間3200万トンの二酸化炭素の排出削減と、年間32億ユーロ(およそ4200億円)の節約も期待できます。

EU加盟国における他国への廃棄物の輸出規制について

EUは2020年におよそ3300万トンの廃棄物を他国に輸出しています。輸出先はトルコやインドなどのEU非加盟国であり、EUが廃棄物を国外に持ち出しているとの批判を避けるために、この規則を制定させ、循環型社会への移行を目指しています。

具体的な内容としては、EU加盟国が経済協力開発機構(OECD)非加盟国に廃棄物を輸出する場合、廃棄物を受ける非加盟国が欧州委員会に対して、環境に配慮した方法で廃棄物を処理する計画についての書類を事前に提出するというものです。

非加盟国でない国へ廃棄物を輸出する場合は、欧州委員会が適宜監視します。

出典:日本経済新聞『EU、森林破壊放置国に対抗策 農産品の輸入停止』(2021/11/18)

出典:ロイター『EU、森林破壊に関係した商品の販売防止へ新法で合意』(2022/12/6)

出典:林野庁『違法伐採対策に関する各国の動向』p2~3.7

4. まとめ:森林破壊の現状を踏まえたうえで、森林保護に配慮した経営を検討しよう!

この記事で述べたように、特に南アメリカやアフリカで森林破壊が深刻化している中で、生態系の破壊や気候変動への悪影響を鑑み、EUは森林保護に向けた「森林減少フリー規則」を制定しました。

この規則では木材や牛・牛肉、オイルパームなど、食品や農産物を中心に、製品が製造されてから消費者に届くまでの一連の流れを通して、森林保護に配慮された製造過程となっているかを確認され、森林破壊のみならず二酸化炭素の排出も防ぐことができると考えられています。

森林が豊富にある国のひとつ、日本の企業として、世界の環境保全をリードするEUの動向をチェックし、森林保護、さらには環境に配慮した経営を心がけましょう。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説