航空業界の脱炭素化の現状は!?進捗状況とANAの取り組みを解説!

目次

  1. 航空業界の脱炭素化への取り組み

  2. 持続可能な航空燃料に投資する企業増加

  3. 本気で取り組むANAの戦略とは

  4. まとめ:航空業界の脱炭素化は難しい課題ではない!

1. 航空業界の脱炭素化への取り組み

航空業界が公表する基本方針を理解するために必要な知識の解説と、国土交通省(国交省)など、日本の行政機関が公表する航空業界の脱炭素化への取り組みを解説します。

(1)カーボンニュートラルと脱炭素化の違い

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとることです。政府は2050年までに温室効果ガスの排出量から、森林管理等による吸収量を引いて、実質的にゼロにする目標を掲げました。

同じくよく耳にする「脱炭素」と、カーボンニュートラルは基本的に同義です。カーボンニュートラルと脱炭素を区別する場合、脱炭素は温室効果ガスのなかでも二酸化炭素(以下、CO2)を中心に解説しているときに使用といわれています。

以上のことから、今回のタイトルである航空業界の脱炭素化への取り組みは、主にCO2排出量の削減に関する内容を解説していきます。

出典:環境省『カーボンニュートラルとは』(2021/7)

(2)航空業界の脱炭素化に関する行政機関の基本方針

航空業界の脱炭素化は世界的な課題とされています。国際民間航空機関(ICAO)は、2020年以降のCO2排出量増加制限の目標を設定し、2050年までのカーボンニュートラルを長期目標として採択しています。日本でも、令和4年6月に「航空法等の一部を改正する法律」が成立し、航空会社や空港が主体的・計画的に取り組むための制度的枠組みが導入されました。

具体的な取り組みとしては、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進、管制の高度化による運航の改善、機材・装備品等への環境新技術導入、空港施設・空港車両のCO2排出削減等が進められています。これらの取り組みは、学識経験者、航空会社、関係省庁等からなる検討会で議論され、官民連携で推進されています。

出典:国土交通省『航空の脱炭素化の取り組み~空のカーボンニュートラル~』

(3)航空業界の二酸化炭素排出量

以下の資料は、国土交通省が公開している「運輸部門における二酸化炭素排出量の推移」に関するデータです。運輸部門は日本におけるCO2排出量の18.5%にも及んでいることが分かります。また、その中でも国内航空は5.0%を占めており、環境問題への影響が大きいことが分かります。

運輸部門における二酸化炭素排出量の推移

出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」(2021/4)

出典:国土交通省『航空の脱炭素化の取り組み~空のカーボンニュートラル~』(2021/4)p.3

2. 可能な航空燃料に投資する企業増加

気候変動にやさしい航空業界を目指すべく、各企業がこれまで以上に脱炭素化に向けて動き出しているようです。ここでは脱炭素化に向けて動き出した背景や、国際航空運送協会(IATA)の取り組みについて解説します。

(1)国際航空運送協会(IATA)の取り組み

国際航空運送協会とは世界中の航空企業で構成された団体です。多くは国際線を定期運航する企業が加盟しています。

国際航空運送協会の会議では、気候変動のみならず、機内で使用するプラスチック製品などの使い捨てゴミについても議論されました。

特に飛行機ならではの施策として、持続可能な航空燃料の活用が航空業界全体の脱炭素化に向けた選択肢と考えています。持続可能な航空燃料とは、再生可能もしくは廃棄物が原料の燃料のことで、エコな燃料であるためCO2排出量削減が期待されています。

出典:JAPAN AIRLINES『環境問題に関する社外との連携』
出典:環境省環境再生・資源循環局『持続可能な航空燃料(SAF)について』(2022/6/27)p.2

(2)航空機メーカーの取り組み

イスラエルの航空機メーカーであるエビエーション・エアクラフト社は、CO2排出量の削減に大きく貢献できる電動飛行機の初飛行を2022年9月に行ないました。この電動飛行機は「アリス」と名付けられ、今後は量産型の機体でテスト飛行を目標に掲げています。

エビエーション・エアクラフトは、今後、さらにテストフライトを重ねて機体性能を検証し、2025年に量産型プロトタイプ機体でのテスト実施を目標としています。

出典:Eviation Aircraft『Eviation’s Alice Achieves Milestone with First Flight of All-Electric Aircraft』

3. 脱炭素化に取り組むANAの戦略とは

日本の代表的航空会社である全日本空輸株式会社(以下、ANA)は、2030年度の脱炭素化に向けた目標・戦略を見直しました。2030年度までに、CO2排出量の実質10%以上削減を目指します。これは国内線・国際線どちらもあわせた目標です。

目標達成のためにANAは、持続可能な航空燃料の活用を軸とする4つの戦略を立てました。

  • 運航上の改善、および航空機などの技術革新

  • 持続可能な航空燃料の活用による低炭素化

  • 排出権取引制度の活用

  • ネガティブエミッション技術の活用

消費燃料のうち10%以上を持続可能な航空燃料に置き換えることも目標に掲げています。

(1)運航上の改善、および航空機などの技術革新

ANAでは、エンジンコンプレッサー部分の洗浄を定期的に行ない、エンジンの性能回復に努めています。

また、航空機への給水量や搭載品の適正化を実施、ほかにも脱炭素化に向けた飛行計画・飛行経路の見直し、客室シートの軽量化も行なっています。

(2)持続可能な航空燃料活用による低炭素化

ANAの脱炭素化実現は、持続可能な航空燃料の活用が中核を担うといっても過言ではありません。2019年から、SAFの製造を手掛ける米国 LanzaTech社と契約し、持続可能な航空燃料の使用のフライトを実施しました。

(3)排出権取引制度の活用

運航上の改善や技術革新、持続可能な航空燃料の活用を実施してもCO2排出量を削減しきれない場合、排出権取引制度を活用して脱炭素化、カーボンニュートラルの実現を目指しています。

(4)ネガティブエミッション技術の活用

運航上の改善や技術革新、持続可能な航空燃料の活用を実施してもCO2排出量を削減しきれない場合、排出権取引制度を活用して脱炭素化、カーボンニュートラルの実現を目指します。

ネガティブエミッションとは、大気中の温室効果ガスを回収・吸収し、固定化する技術の総称。脱炭素化・カーボンニュートラル実現のために有効な方法といわれています。

出典:ANA『航空機の運航における取り組み』

4. まとめ:航空業界の取り組みをきっかけに、他業界の取り組みも調べてみよう!

この記事で解説しました通り、航空業界はコロナ回復をきっかけに脱炭素化に向けた取り組みをより一層強化しました。

日本の航空分野は行政や各企業が脱炭素化実現のための施策をとっていますが、課題はまだ多く残っている状況です。今後は持続可能な航空燃料活用だけでなく、水素や電気による動力源の使用や、機内の電子化、軽量化が増えていくことでしょう。

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